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三人が母屋に入った時、玄関のチャイムが鳴り響いた。三人は玄関へ向かい、柱の影から来客を見ていた。コトコと霧木が出迎えている。ドーナツ池で見た霧原という老医師とサヨコ、高霧の姿も見える。その背後には数人の村人が見える。
「どうしたの?」
「なにしてるの?」
突然、背後から声を掛けられた。三人が驚いて振り向くと、そこには不思議そうな顔をしたコトコとネイコが、三人を見上げている。思わずショウゴが『シィー』と、口に人指し指をあてがった。
「こちらへどうぞ。」
コトコが広間へ案内する。霧原をはじめ、サヨコ、高霧と三人の村人がゾロゾロと広間へ入って行く。六人とも、重苦しい雰囲気である。部屋のトビラが閉められ、中から声が聞こえてくる。しわがれた声、霧原の声だ。
「・・・の用意は出来たのかい? ・・・予定より一日早まったが、なんとかなりそうかい?」
トビラ越しの話し声なので、所々聞きづらい。が、あまり近くによると気付かれてしまいそうで、三人は遠巻きに聞き耳をたてていた。
「お兄ちゃん、遊ぼうよ。」
「お兄ちゃん、行こうよ。」
テイコとネイコがまとわりついてきた。三人は困った顔をして、もう一度『シィー』と人指し指をあてがった。が、二人は言う事を聞きそうに無い。
「じゃあ俺達とトランプでもしようか? なあケイイチ?」
タマキが言うと、二人はニッコリと笑ってケイイチの手を握ってきた。
ケイイチはタマキの考えを察して、
「ああ、じゃあ部屋に行こうか?」
と、ショウゴに目配せを送りながら言った。
「お兄ちゃんは?」
「行かないの?」
二人はショウゴを見上げて言う。と、タマキが助け舟を出す。
「ショウゴは、もう一回お風呂に入るんだろ? 湯冷めしたみたいだしな?」
「お前、ホントに風呂好きだよな?」
ケイイチも言う。
「ふうん、お風呂好きなの?」
「ふうん、また入るの?」
テイコとネイコは、いぶかし気な表情でショウゴを見上げる。
「さて、ゆっくり入って来ようかな?」
ショウゴがそう言って、タマキとケイイチに目配せをする。
「じゃあ、俺達も行こうか?」
タマキはそう言うと、二人の手を握ってケイイチと部屋に向かった。
ショウゴはそれを見送ると、
「さてと・・・」
と、改めてコトコ達の話に聞き耳をたてた。
「・・・は、出来てます。でも・・・・・・」
コトコの話声が聞こえる。が、内容がよく分からない。
「しかし・・・ あの少年の見たという男・・・ それが気になる・・・」
高霧の声だ。
「それについては、村の青年団が・・・・・・ている・・・」
知らない声だ。
「今日コウゾウが死んだのは・・・・・・が・・・・・・だろう?」
霧原の声だ。
「・・・っています・・・ あと一つ・・・です ・・・『カミズカ』があればこんなコト・・・のに・・・」
コトコの声だ。どこか寂しそうな感じがした。
『カミズカ・・・?』
聞いた事のない言葉が妙に頭に残る。
「・・・あれはもうダムの・・・・・・我々にはどうしようもない・・・ しかも、数が足りない・・・ あの一つは・・・だろう? どちらにしても見つからないさ・・・」
高霧の声だ。
『なんの話だ? ダムの・・・なんだ?』
「それで、今回は誰を選ぶ? ・・・で三人だろう? そろそろ私を選んでは頂けないか・・・? 私の家族は・・・なのだから・・・」
知らない声だ。
「・・・気持ちは分かるが・・・のは御主だけではないからの・・・ 全ては公平に決めねばならんのだ・・・」
霧原の声だ。妙に重々しい。しかし、肝心な所が聞き取れない。
「そうじゃ、コトコちゃんは・・・・・・じゃぞ? しかもテイコちゃんとネイコちゃんもじゃ・・・ わしはあの三人が不憫で仕方がない・・・」
知らない声だ。
「・・・私はいいんです・・・ でも、あの子達は・・・」
コトコの声だ。
「・・・少し考えさせて下さい・・・」
「とにかく・・・『マツリ』は明日・・・・・・かな?」
霧原の声だ。
『またマツリの話?』
ショウゴが怪訝に感じていると、突然玄関のチャイムがなった。心臓が止まる程に驚いた。そしてすかさず柱の影に隠れた。
「はーい。」
霧木がパタパタと玄関へ向かう。玄関を開けると、法被をまとった若い男が二人立っていた。話声は聞こえないが、男が手にしている寝袋を見て理解出来た。あの男を探しに、学校へ行った村の青年団である。
霧木が、コトコを呼びに広間へ入っていった。
ショウゴは、その隙にその場を離れ、タマキ達のいる部屋へ向かった。
続く




