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霧鳥村忌憚  作者: 睦未
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「ごちそうさまでした。」

 タマキが食事を終えて、霧木に言った。

「もう二人の方はどうしたんですか?」

 霧木は忙しく動きながら言う。

「えっ・・・と・・・」

 言葉に詰まるタマキ。そこへコトコが入って来た。

「霧木さん。忙しい所悪いんだけど、これから炊き出しの用意をしてくれない? 私も手伝うから。」

「炊き出しって・・・ 何かあったんですか?」

 タマキが驚いてコトコに聞く。

「タマキ君、身体の方はどう? 少しは楽になった?」

 コトコが逆に聞いてくる。少し顔色が良く無いように見えるが、先程よりは落ち着いてきたようである。どことなく力の無い笑顔をタマキに向けた。

「ありがとうございました。おかげさまで食事も頂いちゃって・・・ かなり楽になりました。」

 タマキはそう言うと、改めてコトコに聞いた。

「炊き出しって、これから何かやるんですか?」

「うん・・・ さっき高霧さんから連絡があって、これから霧原先生と村の何人かでウチに来るんだ。明後日のお祭のコトらしいんだけどね・・・ 多分、日程の変更とかの件なんだろうけど・・・」

 コトコは、目を伏せがちに言った。

「でも・・・ 人が亡くなったんですよね? なのにお祭ですか?」

 タマキは当然の疑問を投げ掛けた。

「うん・・・ そうなんだけどね・・・」

 コトコは、明らかに辛そうである。

「ごめんなさい・・・ あまり深く聞かないで・・・」

 コトコにそう言われて、タマキはそれ以上聞く事が出来なかった。

「そういえばショウゴ君とケイイチ君はもう食事終わったの?」

 コトコが思い出した様に言った。

「あ・・・ いえ、ケイイチはなんか食欲ないって・・・ ショウゴはまだ帰って来てないです。」

 タマキが答える。と、

「ただいまぁ」

 玄関からショウゴの声が聞こえてきた。

「あ、戻って来たみたい・・・ 霧木さん、食事の用意してあげてね?」

 コトコに言われ、霧木は黙って頷くと、食事の用意をし始めた。

「すみません・・・ 遅くなりました。」

 ショウゴが部屋に入って来た。バツが悪そうに頭をポリポリと掻いている。

「おそかっ・・・」

「遅いじゃないっ! あまり心配させないで・・・っ!」

 タマキが言うのを遮るように、コトコが強い口調で言った。ショウゴとタマキは、思わず驚いてコトコを見た。すると、コトコは『プッ』と吹き出し、

「驚いた? 冗談よ? でも心配してたのはホントなんだからね?」

と、いたずらっぽい笑みを浮かべた。

 「はあ、すみません・・・」

 ショウゴが素直に謝る。するとコトコは、

「うん。素直でよろしい。今、霧木さんが食事の用意をしてくれるから、ちゃんと食べてね? 私達はこれから炊き出しの準備をしなくちゃいけないから・・・ お風呂入るでしょ? テイコとネイコに準備させるからちゃんと入ってね? それから、寝室だけど、二階の奥の部屋に用意してあるからね。」

と言って、霧木と炊き出しの準備を始めた。

 ショウゴは霧木が用意した夕食を食べながら、二人の様子を見ていた。バタバタと忙しそうに動き回っている。と、茶をすすっていたタマキが、不意に、

「お前さ・・・ それどうしたんだ?」

と、ショウゴを見て言った。

「ああ、このケガ? ダムから帰る時、お前とはぐれたろ? で、その時にケガしたみたいなんだ。」

 ショウゴが御飯をカッコミながら言う。

「て言うか、誰に治療してもらったんだよ?」

 タマキが言うと、ショウゴは箸も止めずに言った。

「ああ、後で話すよ。」

「そういえば、ケイイチはどうしたんだよ?」

 ショウゴは、最後の漬け物をバリバリと食べながら、タマキに言った。

「ああ、あいつは今部屋で休んでるよ。食欲がないんだと。」

 タマキが言う。

「ふーん・・・ ごちそうさまでした。」

 ショウゴは、調理場で炊き出しを作っている二人に声を掛けた。

「うん。そのままでいいから、早くお風呂に入って、休んでて・・・ これから人が来るから、早くお願いね?」

「と、あとこれ、ケイイチ君に渡してあげて。」

 コトコはそう言いながら、おにぎりを二つのった皿を持ってきた。

「ケイイチ君、夕食を食べてないから。」

「すみません。ありがとうございます。じゃあ、タマキ行こうか?」

 ショウゴは答えると、おにぎりを受け取り、タマキを促した。


 部屋に戻ると、ケイイチが疲れ切った様子で横になっていた。部屋に入ってきたショウゴとタマキに木が付くと、おもむろに起き上がり、

「なんで二人一緒なんだよ?」

と、不思議そうな顔をしながら言った。

「ああ、夕食食べてたら、ショウゴが帰って来たんだよ。」

 タマキが言う。ショウゴが、持っていた皿を出す。

「これ、コトコさんがお前に渡してくれだって。」

 ケイイチはうれしそうにそれを受け取った。

「お前、食欲無かったんじゃないのか?」

 タマキが言うと、ケイイチはとぼけた感じで言う。

「今はな。でも、後で腹減ったら食べるさ。コトコさんが握ってくれたんだろ? 食べなきゃバチがあたるよ。」

「へえへえ、好きにしろよ? それより、風呂行こうぜ? コトコさんが早く風呂に入ってくれって言ってたじゃん?」

 ショウゴが言うと、タマキも同調して言う。

「ああ、これから人が来るんだってさ。コトコさん達は、今炊き出しの準備をしてる。」

「そうか・・・ 大変だな・・・? 手伝いでも行くか。」

 ケイイチがそう言うと、タマキがそれを制止した。

「やめとけよ。なんか村の偉い人達の集まりみたいだ。コトコさんも、あまり触れて欲しくないって感じだったしな・・・ なっ? ショウゴ?」

「そうだな。かえって邪魔しても悪いし・・・ とにかく風呂の用意をしてくれてるんだから、早く入らないと迷惑だろ? ほら行くぞ?」

 ショウゴはそう言うと、さっさと廊下に出た。

「ふぅん・・・ そうか・・・」

 ケイイチはそう呟くと、気にしながらも素直にショウゴに従った。そして、

「お前はどうする? 具合が悪いなら入らない方がいいんじゃないのか?」

と、タマキに言った。

「薬飲んで、食事したら楽になったしな。軽く入る分には問題ないだろ?」

 タマキはそう言うと、ショウゴの後を追うように廊下に出た。

「おい、待てよ。」

 ケイイチも後を追って、風呂に向かった。


「おにいちゃん達、こっち、こっち。」

「ここがおふろばだよ。」

 テイコとネイコに導かれ、三人は風呂場に着いた。

「見てみろ。すごいぞっ!」

 ショウゴが思わず叫ぶのも無理はない。

「まるでどこかの温泉風呂みたいだな? すごく広いぞ。」

 タマキまでもがどこか興奮している。

「本当だっ! うちの風呂の十倍は広いんじゃないか?」

 ケイイチも感動を隠せないでいる。

 広い霧宮家。テイコとネイコに案内されて辿り着いたのは、離れにある大きな風呂場であった。

「個人宅の風呂って感じじゃないよな?」

 タマキが言う。

 十畳ほどあるその離れには、大きな檜風呂があり、お湯が波打っている。シャワーが三つ備えてあり、石鹸やシャンプー等、必要な物は全て揃っている。

「ここが脱衣所か?」

 ショウゴが、脇にある仕切られた小部屋を覗き込む。三人分のタオルや浴衣まで用意されている。

「なんか、至れり尽くせりって感じだな?」

 タマキも覗きみながら言う。

「とにかく、さっさと入ろうぜ?」

 ショウゴはそう言うと、脱衣所に入った。つづいて、タマキとケイイチも脱衣所に入った。

「じゃあね、おにいちゃん達。」

「じゃあね、おにいちゃん達。」

 脱衣所の外から、テイコとネイコの声が同時に聞こえた。

「ああ、ありがとう。」

 ショウゴが仕切り越しに言うと、『パタパタパタ・・・』と、二人の走り去る音が聞こえた。

「・・・『じゃあね』っておかしくないか?」

 タマキが服を脱ぎながら言う。

「まあ、子供だしな。大した意味なんかないだろ?」

 ケイイチが答える。

「大丈夫だよ。早く入ろうぜ? ・・・あれ?」

 ショウゴがズボンを脱ごうとした時、ポケットの膨らみに気が付いた。

「なんだ? 何か入れたっけ?」

 ショウゴがポケットに手を入れた。ゾワッとした。そして思い出した。

「どうしたんだよ? ショウゴ?」

 様子のおかしいショウゴに気が付いたタマキが声を掛ける。

「ポケットに何か入ってるのか?」

 ケイイチも気が付いた様である。ショウゴはポケットからソレを取り出した。それは、人形の頭であった。

「なんだよそれ? 気持ち悪いな。なんでそんなの持ってるんだ?」

 ケイイチが、露骨に嫌な顔をして言う。

「いや・・・ 実はさ、タマキとはぐれた後、俺、気を失っちゃって、気が付いたら学校にいたんだよ・・・」

 ショウゴは思い出しながら話だした。

「学校って、昼間行った学校か?」

 タマキが言う。続け様にケイイチが言う。

「あの学校って、あの変な男がいたよな? なんでそんな所にお前がいたんだよ?」

「取りあえず、風呂入ろうぜ? 寒いよ。」

 ショウゴがブルッと震えて言った。三人とも半分裸なのを忘れていたようである。夏とはいえ、田舎の夜風は意外と寒い。ショウゴは人形の頭をカゴに入れる。三人は急いで風呂に入った。

「んで、さっきの話だけど・・・ あの霧でお前とはぐれたろ? で、あの後、何かで頭を思い切りぶつけて、気を失っちゃったんだ。」

 ショウゴが言うと、タマキが、

「それは聞いた。それでどうしたんだよ?」

と、ショウゴを急かす。

「誰かが傷の手当てしてくれたみたいなんだけど、それは分からない。で、俺は、タマキもいるかもしれないと思って、あちこちの部屋をさがしてたらあれを見つけたんだよ。」

「なんでそんな所にあるんだ?」

 ケイイチが言う。

「俺だって知らないよ。ただ、あのサングラスの男いたろ? あいつの荷物かも・・・ あいつ、あそこで寝泊まりしてるみたいなんだよ。なんか、食べ物とか寝袋とか置いてあってさ・・・ で、カバンがあったから、何かあさってみたら、あれが出て来たんだよ。」

 ショウゴが答えると、

「あの男がいたのか?」

と、タマキが言う。

「会ってないけどな。でもあいつが学校に入って来るとこは見た。で、俺は慌てて逃げてきたってわけ。」

「お前、人のカバン勝手に開けて、悪いヤツだな?」

 ケイイチが言うと、ショウゴは少しむきになって言った。

「しょうがないだろ? 何か気になって仕方なかったんだ。お前だって、絶対やってるぜ?」

「そろそろ出ようぜ? のぼせちゃうよ。」

 タマキが切り出す。

「話の続きは部屋でしようぜ?」

 タマキはそう言うと、先に一人であがろうとした。

「あれ? お前それどうしたんだ?」

 タマキの後ろ姿を見て、ショウゴが言った。

「ん? なにが?」

「お前の首の所にアザみたいのがあるぞ。」

 ショウゴがタマキの首筋を指さして言った。三角形の妙なアザだ。

「? そうか? 裏山でケガしたのかな? まあ、痛くはないから大丈夫だろ?」

 タマキそう言うと、少し驚いた表情でケイイチに言った。

「ケイイチ・・・ お前にもあるぞ? どうしたんだ?」

「? うそぉ? 俺は別にぶつけた覚えはないけどな・・・?」

 ケイイチはそう言うと、タマキの指摘した部分に手をあててみた。

「なんか二人とも、同じような場所にあるな? 痛くないのか?」

 ショウゴは少し心配そうである。

「ああ、俺も痛くないや・・・ ショウゴには無いみたいだな?」

 ケイイチが、ショウゴの首筋を見ながら言った。

「湯冷めしちゃうぞ?」

 タマキがそう言って、脱衣所へ入った。

「俺達も戻ろうぜ?」

 ショウゴはそう言うと、ケイイチを促して脱衣所へ入った。


「あったまったなぁ・・・」

 ショウゴがそう言いながら、用意してあった浴衣に着替える。そして、自分の服を持ち帰ろうとした時、初めて気が付いた。

「あれ? 人形の頭・・・ どこいった?」

 確かにカゴの中に入れたはずの人形の頭が無いのである。

「お前ら、人形の頭、見なかった?」

 既に着替え終わっているタマキとケイイチに聞いてみる。が、二人とも知らないようである。三人で棚や床下を探してみたがどこにも無い。

「もしかしたら、テイコちゃんとネイコちゃんが持っていっちゃったのかもしれないぞ? 取りあえず聞いてみよう。」

 タマキがそう言うので、ショウゴとケイイチはそれに従い、三人は風呂場を後にした。


     続く

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