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そこは妙に薄暗い場所であった。小さなロウソクが一つ、床の上で頼り無気に火を揺らしている。真夏だというのにどこか肌寒い。頭が妙にズキズキと痛む。それで目が覚めた。
ショウゴは、痛む頭を押さえながらゆっくりと起き上がった。身体のあちこちに出来た擦り傷や切り傷がヒリヒリと痛むが、ふと見ると絆創膏が貼ってあり、先程転んだ時に出来た膝の怪我には包帯が捲かれていた。誰かが手当てをしてくれたようである。しかし、周囲には誰もいない。
「・・・ここはどこだ? 俺・・・ どうしたんだっけ・・・?」
この部屋には窓がないので、外の様子も分からない。ぼんやりした頭の中で色々考えた。
「・・・タマキと一緒にダム湖から帰る途中に・・・ 霧で迷子になって・・・ そうだっ! 包丁小憎が出たんだっ! それから・・・」
どうしても思い出せない。
ショウゴは思い出した様に腕時計を見た。暗くて良く見えない。ショウゴはロウソクの灯りで確認する。
十八時二十分
「六時半? そんなに寝てたのか? ・・・とにかく、ここからでなきゃな・・・」
ショウゴは、床に置かれていたロウソクを手に取り、周囲を照らしてみた。何も無い。ガラーンとして何も無い部屋である。
「なんだ? 何も無いな・・・」
ショウゴは、更に壁に向かってロウソクを照らしてみた。戸がある。昔ながらの引き戸だ。
ショウゴはロウソクを床に置き、引き戸に手を掛けた。鍵は掛かっていないが、立て付けが悪いのか、なかなか戸が開かない。
ギィィィ・・・ ガッ! ギィィ・・・
嫌な音がして、戸が開いた。通路に出た。ショウゴは周囲を警戒しながら、通路に足を出した。通路に面した壁に窓があり、そこからは太陽の陽射しが射し込んでいる。その明るさから判断すると、やはり夕方のようである。
ショウゴは窓から外を見た。霧は晴れていた。小さな鉄棒やブランコが見える。そして、目の前に見えるのは校庭であった。
「学校? あの学校かっ?」
ショウゴは思わず声をあげた。昼前にコトコに連れて来てもらった村の小学校に間違いなかった。
「ここからなら、コトコさんの家迄すぐだな・・・」
そこで思い出した。
「そう言えば、タマキはどうしたんだろ? もしかして、あいつもここにいるのか・・・?」
ショウゴは、もう一度部屋に入った。戸を開けたままにして、部屋の中を見回す。が、やはり誰もいない。
ショウゴは隣の部屋を開けた。中を見回す。小さな机や椅子が並んでいる。どうやら小学生の教室の様である。 壁には、いかにも子供が描いた絵が貼ってある。ショウゴはその教室を一回りしてみたが、やはり誰もいない。
その隣の部屋も入ってみる。中学生の教室だろうか? 少し高めにセットされた机と椅子が並んでいる。ショウゴは、
「タマキ? いるのか?」
と、声を掛けた。が、返事はない。ショウゴは教室を出た。
「ここにはいないのかな? もしかしたら、もうコトコさんちに戻ってるのかな・・・?」
ショウゴはそんな事を呟きながら、さらにもう一つの教室へ足を踏み入れた。
今迄の教室とは様子が違う。どうやら理科室のようである。自分達の学校でも見た事のある実験用の器具が見える。大きめのテーブルの上には、アルコールランプや、水の入ったビーカー。・・・そして、コンビニ弁当の空き箱や未開封のカップラーメンが数個置いてある。床には大きめのカバンと寝袋があり、まるで誰かが生活している感じがある。
あのサングラスの男・・・!
そうだ! コトコに案内された時、この校舎の一室であの男を見たのだ。
ショウゴは途端に不安になり、辺りを見回す。どこからかあの男がこちらの様子をうかがっていやしないか? あの戸の隙間とか、あの窓から覗いているんじゃないだろうか?
が、その様子はなさそうである。というか、人の気配が全くないといった感じである。
ショウゴは廊下に出て、もう一度周囲を確認した。やはり、誰かいる気配はない。それを確信して、再び理科室に戻った。そして、男のモノと思われるカバンのチャックを開けた。あの男が一体何者で、こんな場所で何をしているのかが気になって仕方が無いのだ。
カバンを開けてみると、男性用の着替えや日用品が入っている。更に奥を探ってみる。ノートが出てきた。パラパラとめくってみる。何やら色々と書いてあるが、内容はよく分からない。最後のページに古い写真が貼ってある。白黒のかなり古い写真である。人が六人写っているようだが、写真自体がボロボロで、個々の顔迄はハッキリと分からない。ただ、大人が二人と子供が三人。そしてそのうちの中学生くらいの女の子が抱いている赤ん坊が一人。まあ普通の家族写真のようである。
ショウゴはノートを床に置いて、更にカバンを調べてみた。
「なんだこれ?」
ショウゴは違和感のある塊を取り出した。桐箱であった。そのフタを開けてみて思わず、
「うわぁっ!」
と叫んで、その箱を落としてしまった。その拍子に中に収まっていたモノが転げ落ちた。
桐箱の中に大切そうに保管されていたのは、古い日本人形の頭であった。
「なんでこんなモノ持ってるんだ?」
ショウゴは人形の頭を拾い上げた。と、その時、外で音がした。ショウゴは窓際に駆け寄り、外の様子をうかがった。
「あの男だ・・・」
校門からこちらにやってくる人影が見える。夕暮れの陽射しに照らされていたのは、間違いなくあのサングラスの男であった。両手にビニール袋を持って、こちらに向かって歩いてくる。
「やばっ・・・ 早く逃げなきゃ・・・」
ショウゴは、慌ててカバンの中身を元に戻した。そして、裏口から外に出て、一目散に駆け出した。
「とにかく、コトコさんの家に行こう。タマキだって戻ってるかもしれないし・・・」
ショウゴはそう呟くと、コトコの家に向かって走った。
続く




