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03 美華「初めて見た」

「ご、ごめんなさい! その、邪魔する気はなかったんですっ」

 私は思わず頭を下げた。

「いいのよぉ。それより良かったら貴女も入らない?」

 優しそうな声に顔を上げてみると、上に乗っている白い先輩が妖しく笑いかけてきた。

「誤解を招くような言い方はやめろ琴美ィィ!」

「何言ってんのよアヤ。折角(せっかく)の新入部員なのよ?」

「あ、あのまだ入ると決めた訳じゃ……」

 正直怖い。あの白い先輩には、近付きがたくて、それでいて近くに寄ってみたくなるなるような危険な雰囲気がある。

「えー入んないのー? 楽しいのに」

「あの、私は真面目に剣道がやりたくて」

「あら、私たちすっごく真面目よ。ねぇアヤ?」

「あ、あぁ。今日はたまたまその、あんなことになってたが、普段は真面目に剣道をやっている。それは本当だ」

 まあ、あの黒い先輩はまともそうだし、そうなのかな。でもたまたまであんなことになるってどうよ? 何だかんだ私が入ったときから二人の体勢変わってないし。やっぱそっちの人たち?

「でも……」

「ふふふ、安心なさい。貴女みたいに可愛い子は、ここに入ったからには逃がさないから」

「へっ?」

 白い先輩は立ち上がり、私に近付いてくる。逃げなきゃと思ったときにはもう、彼女の手は私の制服を掴んでいた。

「まずはやっぱ着替えないとね。貴女胴着似合いそうだし」

 彼女はそう言って、ブレザーのボタンを一つ一つ外してくる。

「あの、私胴着持ってませんよ?」

「大丈夫よ。今着てるの貸してあげるから」

「今のって……ええぇ!?」

 そんな私の反応に気をよくしたのか、鼻唄を歌いながら制服のリボンをほどいて、ブラウスを脱がしにかかった。

「あら、貴女意外とあるじゃない」

「あるって、何がですか?」

「勿論、ここよ」

 先輩の手が半分脱がされたブレザーの隙間に入り、ブラジャー越しに私の胸を揉んだ。

「ひゃあっ。そ、そんなに大きくないですよ私!」

「んーん。私よりは大きいんじゃない? ほら」

 ほらって。いやいや、女子校とはいえここ武道場ですよ? こんなとこで胴着脱がないでくださいよ。っていうか何でブラジャー着けてないの!? 胸丸出しじゃん! 見てるこっちが恥ずかしいよ。

「ね、小さいでしょ」

「いや、別に、そんな言うほどでもないかと」

「んーどうしたの? 顔真っ赤だよ?」

 白い先輩の左手が、私の頬に触れた。

「ふふふ、あったかーい」

 何なのこの人。何なのこの状況。というかもう一人の黒い先輩は何やってんの? いかにも止めてくれそうな人だったじゃん! あっ、向こうの方で素振りしてる。綺麗な太刀筋……じゃなくて! もーなんで放置なのさ。一体全体どうやってこの状況から抜け出せばいいのん!?

「……えーっと、お邪魔だったかや?」

 聞き覚えのありすぎる声が武道場の入り口から響いた。その声に私や白い先輩だけでなく、素知らぬ顔で竹刀を振っていた黒い先輩までも勢いよく入り口に振り返った。声の持ち主は、これまた見覚えのある小柄な少女を連れて立ち(すく)んでいたーー。


「えーっと、つまり美華はこちらの石崎先輩に突然襲われただけであって、美華にそっちの()はないと?」

 恵美が白い先輩ーー石崎琴美(いしざきことみ)先輩と私を交互に見ながら、そう確認した。

「まあ大体そんなところねー。あと私のことは下の名前で呼んでいいよ。私もその方が嬉しいし。あっあと文香のことは気軽にアヤって呼んであげて。その方が(よろこ)ぶから」

 琴美先輩は黒い先輩ーー櫻木文香(さくらぎあやか)先輩の胴着の袖を引っ張った。

「文字じゃないと伝わらない微妙なボケはやめようか。あと悦びはしない」

「でも喜びはするんだ?」

「…………」

 アヤ先輩は腕を組んでそっぽを向いたが、赤く染まった頬から照れているのは誰の目にも明らかだった。

「何照れちゃってんのーアヤー?」

「バッ照れてなんか……というか女が女をーーだなんて有り得ないだろ普通!」

 それは私も同意。

「そうだよ! 女が女を好きになるなんて、やっぱおかしいですよ」

 直後、空気が凍てついた。まるで私が間違ったことを言ったみたいな。

「そーおー?」

「そんなことないよ」

 二ヶ所から異を唱える声が。琴美先輩はまあわかるとしても、もう一人はーー

「別におかしいことじゃないよ。だって女の子って可愛いじゃん。触れたくなるじゃん。その先までイッちゃいたくなるじゃん」

「わかるわかる! そうよねー」

 そこで乗る琴美先輩はひとまず置いとくとして……こんなに饒舌(じょうぜつ)な柏木さん、初めて見た。



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