宦官長と贄
一人の宦官が暗い廊下を、灯りも持たずに歩く。肉眼だけで月明かりも入らない廊下を歩けるのは、長い間、この廃墟ともいえるような寮での生活を強いられていたからだ。どこが壁で曲がり角かを探るのは昼夜問わず屋内で生活しているこの宦官にとっては、困難なことではない。極力外に出たくないので、嫌でも身に着くのだ。
数回角を曲がると、突き当りに扉が現れる。そこの扉の付近にだけ、蝋燭で灯が灯されており、老朽化した石壁のひびや蜘蛛の巣がはっきりと確認できる。
装飾の乏しい、機能性だけを重視した金具のつく木製の扉の前に立つと、宦官は拱手の構えをとるため、膝を折ろうとした。
「構わないから、早くお入りなさい」
扉越しに聞こえた声に、宦官は硬直したが、その慈悲深い声に感嘆の声を漏らし、扉を開け部屋に入る。
部屋の中は廊下よりもほんのり暗い。部屋壁にかけられている燭台には灯が灯っておらず、高い天井にくり抜かれた天窓の月明かりだけで辺りは照らされていた。
「近頃調子はいかがですか?」
光を部屋の真ん中で丁度受ける位置に業務用の机があり、そこで一人の男が席についていた。
身にまとう白い簡素な袍から察するに、宦官である。月を模った銀細工を施す宦官帽がかぶられ、鉛色の髪は首が隠れる位置で切りそろえられて品良く手入れされている。やや白すぎる肌は屋内での生活が主であるからであろう。それでも他の宦官と比べると、幾分か顔色が悪い。
日常から湛えている笑みを、机に座す男はより深め、真夜中の来客を歓迎した。
「最近調子はどうですか?」
「ええ、おかげさまで。今日なんていつもよりも気分が良かったので、外に出てみようかなんて考えましたよ」
「それは珍しい」
ふふ、と含み笑いをして、座す宦官は姿勢を整えた。
「何かありましたか」
「今日、靇禄軍と諍いを起こした小童がおりまして――」
「あぁ、楊世仙とかいう新しい子ですね」
「はい。その者の行いのせいで、寮内にはあまりよくない空気が流れだし、困っているのです」
「……極力、目はつけられたくないものですからね」
困ったなぁ、とため息をつく宦官の表情はさほど困ってなさそうだ。変わらぬ笑顔が浮かんでいる。
「もしもの時は私が対処しますから、あなたたちは普段通りしていてください」
座す宦官の言葉に頷くと、部屋にやってきた宦官は踵を返し、扉を閉めて出ていった。途端、部屋に残された宦官から笑みが消える。
「楊、世仙ね……泣き虫の彪を懲らしめに来たのかな……」
天窓を仰ぎ見、宦官は不敵に笑んだ。
朝食の時間になると、食堂には寮中の宦官が全て姿を現すというわけではない。だいたいの宦官は腹が空かないだの部屋から出たくないだので生活の基本営みを放棄するそうだ。そうして病に伏す宦官もいる。
天窓からわずかな陽の光を浴びながら、世仙は例の如く、茶碗一杯の、味噌が一匙添えられた冷えた粥を豪快に呷って飲み込んだ。
「あんたね、お粥って飲み物じゃないのよ?」
碗を机に置き目前の席を見ると、蘭ちゃんが頬杖をしながらこちらをじと目で見ていた。喉を下って行ったはずの米粒が刹那、戻ってきそうになる。その光景に、世仙の隣で一緒になり食事をしていた祝がけらけら笑う。
「育ち盛りだから仕方ないよ蘭ちゃん」
「飲み込んだら余計にお腹空くわよ。それに育ち盛りって言っても宦官よ? 胃袋だって、男のそれとは比べられないくらい落ちてるでしょうに。あんた本当にとって(・・・)来たの?」
蘭ちゃんの疑うような目線に、ビクリと肩を震わせ仰け反る。
「な……! とってあるわよ! 蘭ちゃん昨日触ったじゃん!」
「確かにツルツルだったわね」
ホホホ、と口に手をあて笑う蘭ちゃんに、内心羞恥で怒りが込みあがっていた世仙だが、面に出さないよう努める。別に隠すつもりもないのだが、ここで男でないことがばれるのは厄介だ。
宦官になるには、まず入隊前に去勢の手術を行い、生殖器を機能できないようにする必要があるそうだ。さらにそうすることにより、男性が本来よりもつ“本能”も衰え、体格、性格はもちろん『男らしい』威勢は消え『女らしい』匂い立つ本性が芽生えだすのだ、と世仙は昨晩友人から教えられた。
「まぁ、宦官になるっていうのは、男の中の男からすれば抵抗あることよね~」
あ、アタシは別だけど、と花香そうな甘く悩ましげなため息を吐いた蘭ちゃんを、口元引き攣らせ見る世仙。そうよね~、と適当に相槌をうつのは、そもそも女の世仙にとって去勢は不必要だ。とられる男の気持ちなど理解できない。
「祝は嫌だったでしょ? 宦官になるの」
「……まぁ、ね…………」
碗の粥を一匙すくい上げた祝は、それをまた戻す。見ると小さな器の中、汁気が多めの粥には食べられた形跡はない。
「宦官になりたくなかったのに宦官になったんですか?」
「祝は元々皇帝のお傍役だったのよ」
上ずった驚愕の声は食堂全体に響く。一瞬で周りの視線を集めた世仙は慌てて机に張り付き姿を隠した。
「宮官軍だったってことですか?」
「数年前までね。でも体を不自由にしてしまって、追い出されちゃったんだよ」
祝と初めて会った時を思い出し、あ、と声を上げる。挨拶に差し出された手が震えていた。
「宮中医者じゃ、原因がわからないから直せないって、追い出されちゃったんですって。若いころから努めてたのに禄もちゃんと渡されずに解雇よ? 今の将軍がついてからの宮中って、なんか嫌だわね~」
「仕方ないよ。皇帝はいるけど実質の権力者は珀将軍だから。宮中予算も、枢密院が管理できる状態にないんだよ」
皇帝近辺の情報に詳しい祝は世仙に、
「枢密院は皇帝に政などを助言したり祭事などの取り決めをしたりする機関だよ」
と教えてくれた。ありがたい。
「そもそも枢密院は各部署から優秀な人材を募って生まれた機関なのよ? それが今じゃ靇禄軍が全部持って行っちゃって、機能してないじゃない」
靇禄軍や宮官軍以外にも司法部や外交部隊など、宮中には軍隊を持つ持たない問わず、数多の部隊が存在していたそうだ。だが現将軍の助言により、靇禄軍以外の部隊は宮官軍と一括りにされた。
古来より存在する枢密院は宮官軍を筆頭に各部隊から代表者を募って結成した機関であった。それが今では、枢密院の存在など気にもかけず、政治祭事司法に至るまで、靇禄軍が全て管理しているのだ。
十六年前の大戦乱を皮切りに結成された靇禄軍は、今や宮中で最も発言力のある存在である。
「大戦乱?」
「現将軍が前将軍を打ち破るきっかけとなった戦よ。辺境生まれのあんたじゃ知らないのかもね」
「な、仕方ないじゃない! 私十六だもん! 生まれてないから知らないだけだもん」
ぷー、と頬を膨らませそっぽを向く世仙は未だに机に張り付くように前屈している。
「でも祝さん、体が悪いなら実家に帰るって選択肢はなかったんですか? わざわざ嫌々宦官になってまで宮中にこだわる必要なかったんじゃ?」
各部隊を一括りにし、宮官軍と改めたとしてもその中に宦官部隊はない。第三部隊として存在する。と言っても仕事はない。一日中息するだけが仕事のようだと世仙は思う。
世仙の問いに、祝は何も答えず、悲しげに微笑むばかりだ。それを向かい席で見ていた蘭ちゃんがこれ見よがしに大きなため息をつく。
「あんた、本当に何も教えられてないのね、宮中の(・)こ(・)と(・)」
蘭ちゃんが何か語ろうと口を開いたが、背後に人影を感じて振り仰ぐ。数人の宦官が蘭ちゃんの後ろで、世仙に目を向け立っていた。
「楊、世仙だな……?」
一番前の宦官が、恐る恐る口を開く。表情には見るからに怯えが浮かんでいた。
「そうですけど」
歳の差は明らかに親子ほどあいている。なのに世仙の方が強気な態度で接するのは去勢による『匂い立つ効果』なのだろうか。
「楊世仙、頼みがあるんだ。頼むから、これからは目立つような真似はしないでくれないか? 特に靇禄軍の前では……」
先頭に立つ仲間を見かねて、もう一人の宦官が前に出る。そのいわれに、世仙は顔を顰めた。
「私が何したっていうんですか?」
「靇禄軍に喧嘩を売ったと……」
「あんなのは喧嘩にならないし、それに被害を被ったのは私の方ですが」
「だから、あまりしゃしゃり出ないでほしんだよ。でないと――」
「あら~? 何事ですかな~」
宦官が一人、言葉を詰まらせていると、廊下の方から声がかけられる。その場にいた全員が一斉にそちらを振り向けば、世仙と蘭ちゃん以外背筋を伸ばし、道を開けた。
「もめ事はよくありませんよ~? 何ですか?」
世仙に物言おうとやってきた宦官たちは、突如現れた人物に一礼すると、慌ててその場を去った。
世仙は人物の顔を見て首を捻る。
色白さといい、髪が微動でなびく様は相当な手入れをされているのだと痛感する。女子なら憧れるであろう肌のきめ細やかさ、髪の艶やかさだ。
(この人……男なの……?)
という考えが一瞬浮かぶほどであったが、人物が着る袍や帽を目の当たりにし、さらにここがどこであるかを飲み込むと、すんなり我に返る。
「月琰宦官長よ」
蘭ちゃんが、ポカンと口を張りながら、こちらに向かってくる人物を見ていた世仙に耳打ちする。宦官長、すっかり挨拶をするのを忘れていた世仙は慌てて席を立って指をそろえた手を額にあてた。
「宦官長! お初にお目にかかります楊世仙です!」
「お初にお目にかかります! 宦官長の月琰です!」
世仙を真似て名乗った宦官一の権力者に、世仙は唖然とし、蘭ちゃんや祝は失笑をこぼした。
「噂は聞いてるよ世仙。ちょっとお茶目な子なんだってね」
「お茶目じゃないです。私、間違ったことしたっていう自覚はありません。ただ靇禄軍の人たちとお話ししたかったんです」
表情を払拭し話す世仙の姿に、宦官長、月琰は腕組みをし、なるほどねぇ、と唸る。
「これは他の宦官たちが鬱陶しがるわけさ」
「もういろんな人が苦情言ってるの~?」
蘭ちゃんが首を傾げ月琰に問う。そのやり取りが一宦官とお偉いさんとはかけ離れたもので、目を疑ったが、月琰は気にするそぶりもなく頷く。月の銀細工が宦官帽の上で煌めいた。
「世仙。他の宦官たちは、君が靇禄軍に噛みつくことにより、自分たちにとばっちりが来るのをお恐れているんだよ。だからさっきの彼らも、それを怯えて君に忠告したんだ」
「でもそれって……」
「そう、靇禄軍が悪いんだから、自分たちが縮こまることはないよね。なんせこっちは被害者なんだよ。澄ました顔して突っ立ってられればいいんだけど、私たちはそういうわけにはいかないんだよ」
理解しがたく、小首を傾げる世仙に、祝が困ったような笑みを浮かべる。あまり気にかけてなかったが、祝は笑むというより、いつも悲しげに微笑みかけてくる。
「殺されちゃうかもしれないからね」
「……殺される? でもそれは罪として処される行いじゃ――」
「君、初めて靇禄軍の人に会った時のこと思い出してみて? 撲殺なんてこと言われたの、覚えてない?」
は、とした世仙は自然と両手を握りしめた。
“宦官は道具”と世仙に祝は教えた。宮中では疫病神扱いされている宦官が一人や二人、非合理に裁かれたとしても誰も何も言わない。例え宮中の秩序に沿わない宦官がいても、連帯責任だといって無関係の宦官が処されることがこの宮中ではあり得ることだと月琰は言うのだ。
「理不尽だ……」
自分の常識だけで行動していた世仙。兄の訃報を知らせに来た靇禄軍の礼儀のない態度に腹を立てたりもしたが、宮中ではそれが正しく、世仙はじめ普通の人間の方が、この宮中では間違いであることが悔しくて、肩が震える。
「でも宦官長~? こんな子がいてもいいってアタシ思うんですけど?」
「蘭々は根っからの野蛮人だからね、世仙可愛がってるでしょ。でも、私も君みたいな子、嫌いではないよ?」
笑顔で首を傾けながら接する月琰に、背筋が伸びるのを感じながら世仙はから笑いする。好きだけどでしゃばるな、そんな圧力をかけられている気分だ。
はは、と宦官長の一面に触れすっかり暴れ出した心臓を宥めていると、食堂が突如騒がしくなる。月琰は瞬時に気を引き締め目線を巡らす。
「どうしました」
やや声音をひそめて動揺の色を隠さないでいる宦官を一人捕まえ訊く。
「靇禄軍が寮内に……」
言った宦官は月琰にお辞儀をすると、そそくさと自室へと向かう廊下に出た。
「……ああそうか。明日でしたね」
月琰は皮肉口元を歪めると、玄関に続く廊下まで歩みを進めた。が、先客は家主らの労いの言葉も待たず、すでに食堂に足を踏み入れていた。
廊下を進んでやってきた人数、およそ十人。皆靇禄軍特有の黒地に金糸の龍の戦袍をまとっている。
「これはこれは。靇禄軍の皆様。本日はよくお越しくださいましたね。勝手に入り込む何んてどうかしてますが」
「口を慎みなさい月琰宦官長。隊長の御前ですよ」
靇禄軍を率い先頭にいた青年の歩みを、自ら歩みかけ止める。対峙して早々に言ってのけた言葉を、青年の背後に控えていた小柄な少年が噛みつかんばかりに言い放つ。
「おや、小さくてどこにいるかわかりませんでしたよ。隊長子守の趙熊君」
目だけで見下ろし、笑いかけた月琰に少年、熊は下唇を噛む。歳は世仙よりも下だ。
世仙は突然やってきた靇禄軍の連中を睨みながらも、先頭に立つ男が昨晩出会った丞猇であることに気づくと、一瞬怯んだ。
(そういや……私、買収されたんだったな……)
昨晩、丞猇は宮中への不法侵入への咎を、宦官偵察要員になることにより免除してくれた。宦官の間で手に入れた情報を丞猇に提供すれば、世仙が女であることは隠し、さらに兄の情報収取も協力してくれるという。
(それって、不釣合いじゃないの? 私の方が得してる気分)
とは思ったが、ここでそれを言ってしまえば丞猇の気分が変わりかねないと、世仙は素直に礼を述べ、鼎柚を連れて寮へ戻った。
丞猇に提供できるような宦官の情報など、世仙に見つけられるのだろうか。靇禄軍隊長である丞猇が宦官のことを把握してないというのは考えられない。丞猇が知らない情報を、田舎育ちの無知な世仙が知ることなどまぁないだろう。
となると、適当に耳にした他愛無い世間話を丞猇に流していればいいのだから、買収されたものの悪くはない儲け話だ。
運よく舞い込んできたうまい話に笑いを堪えていると、月琰と対峙した丞猇がチラと世仙を見る。その視線に鋭く射られ背筋が伸びた。
「明日の正午に正殿前の庭に贄六十三人を集めておくことを将軍より仕った。話は以上だ」
「……三人増えているのはどういうことでしょう」
「皇帝第一夫人、楓桂后様のもとに新しく宮女がやってくるというので、その祝いだそうだ」
では、と寸分の狂いもない動作で踵を返すと、丞猇を先頭、靇禄軍は食堂を出た。気づけば食堂内にいる宦官は世仙たちしかいない。
「っくそ、あの女狐め……!」
何の話かを問いかけようとした世仙だったが、突如月琰の口から洩れた悪態に動揺し、完璧に頃合いを失う。絶句する世仙など知らず、月琰はそのまま場を足早に去った。
「な、何事……」
「明日、月一度の祭儀の日なのよ」
目を泳がす世仙に蘭ちゃんはさも当たり前のように言ってのけた。伸びた爪が気になるようで頻りに弄っている。
「祝は明日出るの?」
蘭ちゃんの問いかけに、祝は力なく首を振った。
「僕は体調が良くないから、欠席することを月琰様に伝えているんだ」
「あらそうなの。なら世仙、明日はアタシと一緒に来なさい」
有無を言わせぬ蘭ちゃんの言葉に、世仙が反応する前に祝が顔を歪める。
「世仙はまだ出なくても――」
「いいえ、この子は出ておくべきよ。宮中のこと何も知らなさすぎだもの」
「明日何があるって言うの?」
世仙が首を傾げ蘭ちゃんに訊く。気づけば、どこか男らしさが抜けきらない蘭ちゃんにため口をきくようになっていた。それを蘭ちゃんが嫌だと注意することはない。
「行けばわかるわよ」
簡潔に言い、蘭ちゃんは深いため息をつく。それ以上聞いても何も語らないわよ、と言わんばかりに、口は一の字に噤まれた。
『私は兄が死んだ理由を知るために宮中に来たんです』
そのためなら、と宦官に成りすました少女は丞猇の要求を呑んだ。
この件は、丞猇にとっても大きな賭けだった。
(もし、奴が明日の祭儀の有様に耐えれなければ――)
宦官寮から自室に戻った丞猇は、いつものように窓から庭を眺めている。変わり映えのしない、青い芝生の上、所々に広葉樹の植えられた庭だ。色など殆どない。
祭儀が行われるのは宮中に入る門をくぐって一番初めに出迎えてくれる建物、正殿前だ。屋根上や柱に金の龍を絡ませた建物の前、宦官たちは整列し、狂気的に目を見開いた龍に睨まれ、屈辱で肩を震わす。その光景を見るのは皇族信仰者にとっては至福の時である。
宦官は龍を嫌う。靇禄軍が戦で猛る最強の神だと敬愛するからだ。靇禄軍の言うことなすことは宦官にとって良いものではない。
代わりに宦官は虎を愛する。前将軍が虎を戦友だと擬人し可愛がっていたのだ。
現将軍により迫害を受ける宦官は亡き前将軍の影に縋り付くよう、密かに虎というそこいらの山奥に住み着く動物を神格化し、崇拝し続けた。
宮中で居場所のない宦官が唯一の拠り所とする虎が、今回の祭儀に用いられるというのを聞いた丞猇は、流石に唖然とした。身体だけではなく、ついに上の人間は宦官の精神まで痛めつける手段をとったのだ。
(そう、賭けだ……俺の全部を賭けたんだ。アイツに――)
外は憎いくらいの晴天で、自身の靄がかった心とは不釣り合いで舌打ちが出る。ゆっくり目を閉じると、例の宦官少女の背が見えた