第06話
監察医の調べで、遺体から微量のクロロフォルムが検出された。
被害者は眠らされてから滅多刺しにされたということである。
道警は現場の出入りを封鎖して捜索を行った。
遺体が見付かったトイレのゴミ箱からクロロフォルムの瓶が発見される。その瓶に指紋はない。
「刑事さん」
と、玲奈が道警の刑事に声をかける。
「何だい?」
「第一発見者の吉村さんの過去を洗ってくれる?」
「わかった」
道警の刑事が吉村の過去を洗い出し、彼が十三の時に北海道から東京へ転居してることがわかった。
また、吉村は二年前の十九の時に双子の妹を北海道旅行の最中、轢き逃げ事件で亡くしているという。その妹の名は優子。神代 功という北海道に住む男性との結婚が決まっていた。その男性は今、レストランでウェイターをしている。
「刑事さん、吉村さんと話をしたいんだけど」
道警の刑事は颯爽と吉村を呼びに行った。
「お兄ちゃん、例のアレ」
玲奈が俊の背後に回る。
道警の刑事が吉村を連れてくる。
「あれ? 玲奈ちゃんは?」
「今、玲奈の推理を聞きました」
と、玲奈が出す俊の声に合わせて口パクをする彼。
「吉村さん、あなた、二年前にここ……北海道に来ていますね?」
「ええ、来てますけど、それがどうしたんですか?」
「その時に妹の優子さんを亡くされている」
「だから何なんですか!?」
「吉村さん、あなたは二年前、優子さんを轢き逃げで失った。その事件を独自に調査し、犯人を突き止めた。その犯人が、被害者の沼田さんだった」
「だから?」
「あなたはそのことを、優子さんの婚約者に告げたんですね?」
「……っ!?」
「そうですよね? 騒ぎを聞きつけてやってきた、ウェイターの神代 功さん! 表で聴いてるんでしょ!?」
その言葉に応えて、先ほどの店員がトイレへ入ってくる。
「僕を疑ってらっしゃる?」
「はい。沼田さんを殺害したのは、あなたです」
「何で僕が? 証拠はあるの?」
そこへ、店の調理スタッフがやってくる。
「刑事さん、店で使ってる果物ナイフが無いんですが……」
「……っ!?」
「これが証拠です。あなたは沼田さんをトイレへ呼び出してクロロフォルムで眠らせ、事前にくすねた店の果物ナイフで滅多刺しにした。そうですよね?」
「そのナイフはどこにあるんだ?」
「店外を捜索すれば出てくるでしょうね。特に雪の下とか」
道警の刑事たちが一斉に店外へ出て行く。
捜索を行ったところ、店の裏口の前の雪の下から被害者の血痕が付着した果物ナイフが見つかった。
その場に崩れる神代。
「あいつが悪いんだ。僕の彼女を轢いておいて置き去りに! あんなことせずに通報してれば助かったかもしれないのに!」
「功、お前……!」
こんなこと……俺も優子も望んでねえよ!──と、吉村が神代の胸ぐらを掴んでその体を持ち上げて顔面を殴り飛ばした。
「後は、署で伺います」
道警の刑事が神代を警察署へ連行した。
「いやー、二人とも、世話になったね」
道警の刑事が警察署の前で玲奈たちに言う。
「もう帰京するのかい?」
「ええ」
「今度、東京へ遊びに行くよ」
それじゃ!──と、道警の刑事と別れる玲奈と俊。
二人は道警を後にした。