第04話
その朝、玲奈の通う小学校で、校長が遺体で発見された。
第一発見者は巡回をしていた警備員だ。
遺体は椅子に座り、机に伏していた。
鑑識の調べによると、被害者の死因は、机の上に置かれていたコーヒカップから検出された毒物によるもので、死後半日くらいが経っていた。
教職員は児童らの家に電話し、学校を休校とした。
だが、事件に興味を持った玲奈が、登校してきていた。
現場の様子を廊下から眺めている。
俊が同僚の刑事と共に現場である校長室内を調べている。
「ん?」
玲奈に気付いた俊が出てくる。
「何だ、来てたのか」
「中を見せては……くれないよね?」
「うーん……、室内の捜索が終わったら構わないけど……」
「黒崎」
俊の上司が出てくる。
「あ、倉沢警部」
「その女の子は?」
「僕の妹です」
「玲奈です。兄がお世話になってます」
「警部の倉沢だ。よろしくね」
「警部さん、事件の状況を教えて下さらない?」
「それは無理な相談だね」
「じゃあお兄ちゃんでいいや」
倉沢が俊を睨む。
顔に「言うなよ」と書かれている。
「玲奈、あっち行こうか」
俊は玲奈を連れて現場を離れると、彼女に事件の概要を説明した。
「毒物、か。他殺? 自殺?」
「遺書がないから殺人の線で動いてるよ」
「そう」
お仕事頑張ってね──玲奈はそう言って警備室へ移動した。
「警備員さん?」
「何だい?」
「遺体を発見した時の状況を説明して下さらない?」
「それならもう警察に話したよ。それに、危ないから子どもは関わらない方がいいよ」
玲奈は現場へ戻った。
「お兄ちゃん!」
俊が校長室から出てくる。
「警備員さんに話を聞きたいんだけど、教えてくれないの」
「わかった」
玲奈は俊を連れて再び警備員室を訪ねた。
「ああ、刑事さん」
「遺体発見時の状況を教えてくれますか?」
「あれは朝の見回りの時だった。いつもは閉まっている校長室の扉が半開きになっていて、気になって中を覗いてみたんだ。そしたら校長先生が……!」
「それで通報されたんですね?」
「はい……」
「そうですか。どうもありがとうございました」
玲奈は警備室を出る。
俊が玲奈を追うと、理科室に辿り着いた。
「玲奈、こんなところに何が?」
「毒物と言ったら科学実験室しかないじゃない」
理科準備室の扉をチェックする玲奈だが、しかし、鍵がかかっていた。
「お兄ちゃん、理科の米田先生を連れてきて」
「わかった」
俊は米田教諭を呼びに行き、一緒に連れて戻ってきた。
「先生、ここ開けて」
「いいよ」
米田教諭が準備室の鍵を開けた。
「米田先生、この中の劇薬などで減ってたり無くなってたりしてるものってある?」
「ちょっと待ってね」
米田教諭が棚を調べる。
「こ、これは!?」
「どうしたんですか?」
「青酸カリが減ってるんです!」
「毒物の入手ルートは割れたね」
「米田さん、届けを出して下さい」
「はい」
玲奈は現場に戻った。
俊もそれに続く。
現場に着くと、室内の捜索は終わっていた。
「お兄ちゃん、後で遺留品とかの写真、お願いね?」
「ああ」
校長室に入る玲奈。
現場は警察が採取したのか、髪毛の一本も落ちていなかった。
(そりゃそうよね)
玲奈は校長室を出た。
「ん?」
人の視線を感じた玲奈はその方向を見た。
逃げる人影。
「待って!」
玲奈と俊は咄嗟に追いかけた。
人影の正体は玲奈の同級生だった。
「東くん!?」
「黒崎さん……」
「玲奈」
俊が玲奈に赤い蓋のようなものを渡す。
(スポイトの蓋?)
玲奈は東を見る。
「東くん、探し物はこれ?」
「え? あ……、いや……?」
目が泳ぐ東。
「想像したくないんだけど、犯人は昨日、理科の授業で使った道具を準備室にしまう際に青酸カリをスポイトに入れ、蓋を閉めて校長室へ行き、校長先生のコーヒーカップに青酸カリを付着させたのよ。そうだよね?」
「何で僕に聞くの?」
「それはね、君が犯人だからだよ」
「なっ……!? な、何を証拠に?」
「東くん、習字のスポイトに蓋はある? ないんじゃない?」
「……………………」
無言で崩れる東。
「校長センセが悪いんだ。大好きだった香センセを辞めさせたから……」
「それってどういうこと?」
「校長センセは香センセが不祥事を起こしたとかで学校を辞めさせたんだ」
「違うよ、東くん。香先生は妊娠したから辞めたんだよ」
「え? でも、矢車センセが言ってたよ。香センセは不祥事を起こして校長センセに首にされたって」
「矢車先生は冗談で言ったのかもね」
「そ、そんな……、僕は……僕は罪もない校長センセを殺してしまったというのか……?」
「東くん……」
玲奈は俊を見る。
「これ、どこで見つけたの?」
「臨場した時に部屋の前で拾ったんだ」
「そうだったんだ」
東くん、どうなるの?──と、玲奈は俊に聞く。
「彼は家裁に送致することになると思うよ」
「……そっか」
玲奈は俊に蓋を渡して去っていった。