第18話
玲奈は学校にいた。
放課後を迎え、学校を出る。
校門を抜けると、俊が塀に寄りかかっていた。
「迎えにきたぞ」
「あ、お兄ちゃん!」
玲奈と俊は彼の車に乗り込んだ。
発進する車。
「寄り道していいか?」
「どこいくの?」
「姉さんのとこ」
そう言って俊が車を走らせたのは、千代田区の関東信越厚生局、つまり麻薬取締部だ。
厚生局の警備員が二人の入局を止める。
俊は警備員に警察手帳を提示した。
「失礼しました!」
警備員は二人を通した。
二人は洋子のいる部署に向かう。
洋子は、先日受けた国家公務員試験に合格し、厚生労働省の麻薬取締部に入省していた。
「姉さん」
デスクで作業をしていた洋子がこちらを向く。
「あ、俊に玲奈。待ってたよ」
「寄り道って、お姉ちゃんに呼ばれてたから?」
「ああ」
洋子がこちらへ歩み寄り、写真を俊に渡す。
「この男性、捜してくれないかしら」
「この人は?」
「私が神奈川にいる時に知り合った人なんだけど、突然連絡が取れなくなっちゃってね。ひょっとしたら、何か事件に巻き込まれたんじゃないかって思って」
「わかった。ちょっと調べてみるよ」
俊はそう言うと、玲奈を連れて麻薬取締部を後にした。
……。
…………。
………………。
神奈川県。
玲奈と俊は県警にやってきた。
受付で手帳を提示し、例の写真を見せる俊。
「この男性について何か情報はありますか?」
「確認します」
受付の女性職員がパソコンを操作した。
程なく、女性職員が口を開く。
「八重崎 康介さんですね」
「どちらにいるかわかりますか?」
「公安部に行ってみて下さい」
「八重崎さんは公安の方なんですか?」
「はい」
「ありがとう!」
俊と玲奈は公安部に向かう。
「なんだあんた?」
「八重崎さんは……?」
「八重崎?」
部屋の中を見回す。
「おい、八重崎!」
「はい!」
八重崎がやってきた。
「元神奈川県警事務職員の黒崎 洋子についてなんですが……」
「……はあ」
「あなたと連絡が取れなくなり、何かの事件に巻き込まれたのではないか、と心配していました」
「ちょっと仕事が忙しいので。それに僕、公安だから、警察関係の人と連絡取ったりして潜入先で身バレでもしたら厄介なことになるので」
「そういうことでしたか」
「それじゃ、僕はこれから今追ってる組織に潜入するので」
八重崎は警察手帳と手錠、警棒を外すと、保管庫から拳銃を持ち出す。
「潜入と言っても、丸腰では危ないのでね」
課長の方へ歩いていく八重崎。
「課長、いつも通り僕を警察から外して下さい」
「いいだろう」
課長がパソコンを操作して八重崎のデータがアクセス不可になる。
玲奈と俊は八重崎と同タイミングで県警を出る。
パン!——と、乾いた音と共に、八重崎の胸部に風穴が開く。
「ぐわ!」
八重崎は倒れた。
大量の血液が八重崎の体から流れ出す。
「八重崎さん!」
玲奈は弾丸が飛来した方向を確認する。
ビルの屋上で人影が動く。
「お兄ちゃん!」
玲奈はビルの屋上を凝視したままその先を指差した。
俊も玲奈の指差した先を見るが、すでに人影は消えていた。