第17話
客室。
「ねえ、お兄ちゃん。涼子さんと会う前の義隆さんの交友関係を調べたいんだけど」
「それじゃあ、警視庁で聞いてみるよ」
俊が携帯で警視庁に事情を話し、大急ぎで義隆の交友関係を洗い出した。
「玲奈、驚くなよ?」
「うん」
「義隆さん、雪菜さんと付き合ってたみたいだ」
「知ってる」
「気付いてたのか?」
「義隆さんの話をしてるときのメイドさんの様子を見てればね。おそらく、涼子さんを絞殺したのは雪菜さんだよ」
ガタン!
執事が飛び込んでくる。
「大変です! 雪菜さんが!」
「雪菜さんが?」
「とにかく来て下さい!」
玲奈と俊は執事に案内された雪菜の部屋で、雪菜が亡くなっているのを確認した。
「雪菜さん……」
玲奈は現場に入ると、雪菜の遺体を調べた。
死因は首を絞められたことによる窒息。
首元には吉川線が残っていた。
「みんな、聞いて」
現場の前に立つ毒島家の関係者が玲奈に注目する。
「本当は土砂が取り除かれて警察が来るの待つつもりだったけど、こうなったら全部話すね。公昭おじさん、涼子さんを殺したのは、メイドの雪菜さんだよ」
「なんだと? それじゃ、メイドは逃げられないと思って自殺を?」
「いいや、それは違うよ。この人もまた、何者かに殺されたんだ。そもそも、涼子さんと義隆さんを殺害したのが、同一人物だと思い込んだのが、今回の事件を複雑なものにしたのよ。義隆さんとメイドさんを殺した犯人は別にいるわ」
「なんだって!?」
驚く琢磨
玲奈は遺体を調べる。
死亡推定時刻は日付が今日に変わって、皆が寝静まった午前二時ごろだ。
「公義さん」
「なんだい?」
「今日の午前二時、どこにいました?」
「そんな時間、眠りに就いてるよ」
「それを証明することは?」
「いや、一人だったからな」
玲奈は公義から琢磨に顔を向け直す。
「琢磨さんは?」
「流石に僕も寝ていたよ」
玲奈は再び公義を見た。
「公義さん、雪菜さんを殺害したのは、あなたですね?」
「……! 何を言ってるんだ、お嬢ちゃん? 証拠はあるのかい?」
「証拠はそのベルトですよ」
玲奈は公義のズボンのベルトを指差した。
「このベルトで僕がメイドを?」
「雪菜さんの首についてる痕とベルトの形が一致してますよ」
「なっ……!? そ、それじゃあ、義隆くんを殺害したのは?」
「それもあなたですよ」
「ふん! バカバカしい。証拠があるわけでもなしに」
玲奈は陶器の破片を取り出した。
「それは?」
「義隆さんを殺害した凶器ですよ」
「そんな小さなもので頭なんて殴れないだろ?」
「いえ、これは凶器の破片なんです。本体は地下の物置部屋にありました。本体を調べれば、あなたの指紋が出ると思いますよ。それに、あなたは義隆さんの死体を見ていないのにも関わらず、撲殺だと言い当てた。それが何よりの証拠ですよ」
「くっ……!」
公義はその場に崩れた。
「こんなガキに全部見破られるなんて……」
「おじさんが?」
と、琢磨。
「ああ、そうだよ。雪菜が涼子ちゃんを殺してしまったって相談してきたときは驚いたよ。だけど、そこで思いついたのだよ。この屋敷を俺が乗っとるため、兄さんを犯人として警察に逮捕させる算段だったが、雪菜と仲間割れしちまってな。あとは君の想像通りさ」
公義が懐から拳銃を取り出す。
「じゃあな」
銃口をこめかみに当てようとする公義だが、俊が拳銃を奪い取った。
「これは預からせてもらいます」
俊は拳銃をしまうと、手錠を出して公義の手にかけた。
その後、雨が止み、道路の土砂が取り除かれ、警察が到着した。
警察は公義を殺人と銃刀法違反の容疑で署まで連行していくのだった。