第01話
東京は杉並区にある月臣小学校に黒崎 玲奈は通っている。
放課後、下校を始めた玲奈が校門を抜けると、校門の横に立っている高校を卒業したくらいの男に声をかけられた。
彼は警視庁捜査一課の黒崎 俊。玲奈の兄だ。
「玲奈、迎えに来たぞ」
「お兄ちゃん、どうしたの？」
「さっきこの辺で事件があってな。物騒だから迎えに来た」
「事件って殺人事件？」
「うん、まあ……」
「現場はどこなの？」
「こっち」
俊は歩き出した。
それに付いていく玲奈。
やって来たのは、小学校からほど近い公園の広場だ。
「被害者はここに倒れていた。死因は後頭部を殴打されたことによる脳挫傷。凶器は現場に落ちていた金属バット」
「被害者の身元は判明してるの？」
「小松 寿也、二十六歳。職業はフリーの事件記者だ」
「第一発見者は？」
「匿名での通報だったから分からない」
「交友関係は？」
「仲のいい同僚一人と、恋人が」
「その二人は何て証言してるの？」
「二人とも被害者に恨みを持つ者はいないと証言してたよ。アリバイについても訊ねてみたんだけど、二人とも犯行時刻……昨夜の十一時ごろは家にいたと言っていたよ。証明出来る人はいないけどね」
「凶器に指紋は？」
「検出はされたみたいだけど、二人のとは合致しなかったって」
「そう。恋人さんに会えないかな？」
「それならこれから行こうと思ってたから、一緒に行こうか」
「うん」
玲奈は俊と共に小松の恋人の家に向かった。
その恋人の家の表札には緑川と書かれている。
ピンポン──俊がインターホンを鳴らす。
すると中から女性が出て来た。
「どちら様ですか？」
俊が女性に警察手帳を見せる。
「警視庁の黒崎と申します。緑川 愛さんですね？ 小松さんのことで少しお話を伺えないでしょうか？」
「はい……」
「小松さんがお亡くなりになったことはご存知ですよね？」
「ええ、さっきニュースで……」
その時、玲奈が俊の声で訊ねた。
「失礼ですけど、旦那さんは？」
「え？」
俊は玲奈を見た。
「旦那は……」
「いるんですね？」
またもや玲奈。
「いや、今のは──」
「旦那さんは何時頃帰ってきますか？」
「今日は五時には帰ってくると思います」
「ではその頃、またお伺いします」
「まさか主人をお疑いに？」
「ええ、まあ……」
「ちょっと待ってて下さい」
緑川 愛が吸い殻を持ってくる。
「主人のタバコです。指紋採取でも何でもして身の潔白を証明して下さい」
「お預かりします」
俊はタバコの吸い殻をハンカチに包んだ。
ドアが閉められる。
俊は玲奈の方を向いた。
「玲奈、お前はもう家に帰ってなさい。お前の推理の裏はちゃんと取るからな」
俊は警視庁へと駆けていった。
残された玲奈は一人、家路へと就いた。
その後、鑑識でタバコの吸い殻から採られた指紋と凶器の金属バットについていた指紋が合致し、緑川の旦那は逮捕された。
