特訓で御座流
えーと、まずは、えいや!!
俺は授業中、両手の小指立て、クロス、そしてそれを前に突き出し、
『アロムメマカレテマヘブヂゼヲケアクエ!!』
心の中で叫ぶ。
メキャア
腹からおっさんが出てきた。
!!!!!!!
現在授業中。俺は授業中に試したことを全力で後悔した。
なんでアリンスはあんな中途半端な呪文もどきで羽生えたのに…。
なんだよ「汝、今羽が生える時」て。
汝も羽も生えねぇよ。しかも時ってなんだよ。
なんだか小学生が考えたような呪文である。
「おい、俺は無視か?今メシ食ってんのに」
え?このおっさんしゃべんの?
俺は小さな声でそのおっさんに尋ねる。
「呼び出しといてすんません。えっと、どうやったら戻ってくれますか?」
「ああ?そんなの呪文を逆さまに唱えりゃ解決だろ」
少し静かにしてください。授業中ッス。
「ううんと…、『エクアケヲゼヂブヘマテレカマメムロア』!!」
ノートの隅にメモっといて良かったぜ。これ暗記しろって言われたら何の嫌がらせなんだよってツッコミたくなるな。
「いいか?次変な時間に呼び出したらただじゃおかねぇからな」
パンチだパンチと言い残し、俺の中に沈んでいくおっさん。
変な時間って、今1時半何だけどなぁ…。
俺はプロパーの能力、『ショゥルド』の実験をしていた。
ショゥルドとは、ぶっちゃけ簡単に言うと、『何でもできる』能力らしい。
皆やり方を知らないだけ、アリンスはそんな感じのことを言ってたかな。
今回俺は『腹からおっさんを出す方法』を知ったってことになるのかな。
…嫌過ぎる…。
一生使い道の無いような口寄せ術を知ってしまった。
これで幼女氏を倒せるのだろうか?
ていうか、俺はそもそも何故幼女氏を倒そうとしているのだろうか?
人を殺したから?
違う。
あのときは刀を奪い、これ以上の殺人を防ごうと思った。
だが今はそういう気持ちとは違う。
アリンスはそれがあしゃあ達の義務だからみたいなことを言っていた。
きっとそうなのだろう。
しかしそれは俺の意思なのだろうか?
「俺は…一体何をしたいんだ…?」
俺には自分が何を望むかがわからなかった。
「とりあえずあれだよね。まず戦闘に使えるショゥルドが必要だよね~」
授業が終わり、学校は終わる。
悟と菜野田には先に帰ってもらった。
「そうだよな」
「じゃ、練習するかぁ」
「おう」
と俺は教室の扉から出ようとする。
するとドンと誰かにぶつかった。
「あっわりっ」
「あっれぇえぇ~候くん~何?転校生と付き合ってんのぉ?カスいくせにぃ?」
「…」
コイツは、覚えなくていい。俺には基本的には嫌いな人間は存在しないんだが、コイツだけは、コイツだけは嫌いなのだ。
どうやらソイツに俺は目をつけられてしまったようだ。
どうでもいい。
本当に、どうでもいい。
「え?何?やっぱできてんの?え?良いの?こんなオタッキーで?」
「…るせぇ」
俺はオタクじゃないが、オタクを下に見るような発言はどうしても許せない。
気持ち的には今フルボッコである。
「…ねぇ、どうすんの?…」
さすがにアリンスも戸惑っているようだ。そうだよな。コイツだって元々はただの『面倒くさがりの女子中学生』だったんだから。
「…ちょっと待っててくれ」
俺はアリンスにそう言い残し、ソイツの前に立つ。
「は?何?ちょっとキモいんだけど」
「…」
俺は黙っている。
「?何だよ、マジでうざいんだけど」
「…」
俺はさらに沈黙を続ける。
「え?まさか泣きそう?うわっ引くわぁ」
「…」
俺は何も言わない。
「ああ、もうめんどくさっ!こんな底辺に付き合ってる暇無かったわ、じゃあね、『えなし』」
「…ふぅ、今日は以外と“少なめ”だったなぁ」
後ろを見ると、アリンスは呆然として、いや漠然として俺を見ていた。
「ん?どうかしたか?」
「…はっ!いや、何でも無い何でも無い~」
いつも通りのアリンスだ。
「じゃ、まずは俺に一番可能性があるショゥルドだな」
「ん~それねぇ、いま見つけた」
「はぁ?」
アリンスは今現在俺がすべきことを把握したようだ。
「俺は…何をすべきなんだ?」
「それはねぇ、ここでは…」
「ああ、そうだな。とりあえず練習できる所を探さないとな」
「ああそれなら良い所があったんだ~。めんどくさいけどそこまでいくかぁ」
「頼む」
頼みます。
アリンスは、あの小学生レベルの呪文を唱え、空へと高く高く…、
っておい!俺はぁぁ!!
「あしゃあは先に行くからそーろーはこれ見て来てちょー」
アリンスは俺に小さなメモを渡し、ギュン!と飛んでいった。
「…」
俺はそのメモを見る。
聖徳太子が描かれていた。
「…あいつ…渡つメモを間違えやがったな…」
額に血管が浮いているのが自分でもわかった。
一つ言っておくが、この『聖徳太子』を『しょうとくたいし』とかの平仮名や『shoutokutaisi』とかローマ字にしても、そもそも暗号ではないのであしからず。
さて、俺はプロパーだから、紫のミサンガを着けていてもそれなりの視力はあって、飛んでいったアリンスは確認していた訳で、俺はその方向へ向かった。
向かった先は山、俺の住む町には一つ、小さな山がある。その山奥にアリンスは入っていった。
その山には、道が無い。文字通り完全に木に囲まれている。空中から入らないと確かに奥には行けないのだ。
幼稚園くらいの中途半端な知識で地球温暖化が止まった事を語らせると、「この山のおかげ!」とか言いかねない。
「ジャンプなら…」
俺は地面を足で思いっきり蹴り、空へ跳ぶ。
『飛ぶ』のではなく、『跳ぶ』。
ミサンガで力が制御されてても300mくらいなら跳べる気がする。
というのは間違いだった。
「ギャアアアアアアアアアァァ!!!!」
跳べた。
跳べるにゃ跳べた。
水平に。
ズドーンという効果音が似合いそうな音をたて、俺は山に頭突きした。
そのままどんどん上へ登りながら転がっていく。
木をギリギリでかわしながら進んでいく。
スパーン!クルクルクルクル…
根に顔面をつまずいた。
中心辺りへ来るとそこだけ木が無くなっていて、そこで俺は吹き飛んで回転しながらスッ転んだ。
「うおぅ!確かにちょっと面白い登場は期待してたけど、後がめんどくさいネタは求めてないよ?」
知るか。
ジャージがボロボロになっていて、あと少しで皆さんにはお見せできないところまでさらけだすとこだった。
この数日間で俺の服がどんどん消滅していくのは気のせいか?
「じゃあ練習、特訓を始めるかぁ」
すんませぬ。頭が地面に刺さって抜けません。
「そーろーにはねぇ、凄い素質が一つあるんだ~」
アリンスは無視して話を続けた。
「そーろーなね、“全てを受け入れる”ショゥルドが使えるかもしれないんだぁ、まぁめんどくさいと思うけど」
“全てを受け入れる”…?
頭が地面にザックリいってて少しもシリアスにならなかった。