目的で御座流
ある日、地球温暖化は急に止まった。
なんの脈絡も無く、いきなりである。
専門家によると、「地球は異常度を超えると自動で制御することが出来る可能性があります。まぁ地球温暖化は止まったんです。良かったじゃないですか」と。
しかし俺は、そんなの専門家が全然わかんなかったから、適当に片付けたのだと思っていた。
俺にはそんな専門的な知識があるわけでもないし、調べようとも思わない。
ただ、テレビの中の専門家が明らかな冷や汗をかいていた。おそらく皆思っただろう。
その数週間後、なんかそれっぽい理由を付けられて、その事件は終わった。
それ以降、俺もたいして気にはしなかった…
ああ、安心してくれ。今までの伏線も、今の伏線も、この昼休みでかなり解決する。
「普通のヒーローなら世界の均衡を保つみたいなーことを言うんだと思うけど、あしゃあ達は違うんだー。均衡とか、めんどくさいし」
「あれか?なんか異世界から来た怪物を倒すみたいな」
「あー、そういうこともするねー」
そういうことも?
昼休みは二十分。現在十分経過。残り十分。
「あしゃあ達はね、“世界をこのまま保存するため”に誕生したんだ」
アリンスは少し空を見上げて真面目に言った。
「保存?」
「そう、今が一番世界が綺麗に回ってるんだよ。それを保つのがあしゃあ達プロパーなんだー」
「そうなのか」
「ほい、だからそーろーだって、幼女氏と理由もなく戦ったじゃん。この世界をこれ以上崩さないために」
そうか、確かに先に攻撃してきたからといって、人が死んでるからって戦う理由にも止める理由にもならないよな。
俺は刀を奪おうとも思わなかった。砕いたけど。
んー例えばねー、とアリンスは何か例を考えてくれているようだった。
「そうだ!あのさー今科学って進歩してる?」
「え?…いや…!!、まさか」
科学、それはある時をもって止まっていた。それが人類の限界だ、みたいなことをテレビの誰かが言っていたのを覚えている。
科学は止まっていた。
「それを…?」
「うん、プロパーが止めたんだー。これ以上進歩しちゃうと地球が壊れちゃうからねー。あとはー…」
一つ心当たりがあった。それは…。
「年をいつの間にか数えなくなったのも、プロパーがやったのか?」
年というのは、十二歳とか、そういうことじゃなく、一九五〇年とかそういう方である。
いつの間にか数えなくなっていた。
「あーあったねーそういうこともー。あれだよ、周りが変わらなすぎる異変に気づきにくくするためにねー」
「そんな洗脳みたいな、なんでもできるのかよ、プロパーは」
「うん出来るよー」
あっさり言った!?
「まぁなんでも出来るプロパーは“目覚めた方のプロパー”だけどねー」
ん?なんでだ?細胞が覚醒したんだから、同じじゃないのか?
「なんか『ん?なんでだ?細胞が覚醒したんだから、同じじゃないのか?』みたいな顔してるねー」
スゲェな!あんた!!
「えっとねー、昔猿が血を浴びたって言ったよね」
「言ったな」
「やっぱ学習するんだねープロパーも、『世界は保つべきである』みたいなことが刻まれてたんだと思うよーその細胞に、いや、多分そうだね」
細胞が学習するものなのか?まぁプロパーだし、なんでもアリなのかな。
「プロパーだって進化したんだよ。世界を保つために“なんでも出来る”ようにその細胞が独自に進化したんだー。その生き残ったのがー」
「俺達人類になったのか」
「そゆこと。だってあしゃあ、羽生やしてたじゃん」
そういえば、俺の部屋の窓から羽生やしてどっか飛んでったし、そもそも登校だって飛んでたじゃないか。つかなんで俺疑問に持たなかったんだろう。腹ブチ抜かれたし、感覚が麻痺したのかな?
「え?つまり俺も羽生やせるのか?」
俺は背中に思いっきり力を入れた。だが生えない。
「あははははー、無理だよ。いくらなんでも出来るからって“やり方がわからないと”ー」
「じゃあ教えてくれよ。どうやってやるんだ?」
「教えても無理だね。そのやり方は人それぞれ、いやプロパーそれぞれ違うから」
あしゃあは両腕を横に伸ばして『汝、今羽が生える時』って心の中で唱えるんだー、とアリンスは自慢げに言った。
試しにやってみる。
えっと、両腕を横に伸ばしてっと。―汝、今羽が生える時―!!
ニュッと
尻尾が生えて、ズボンから飛び出した。猫っぽい。なんで!?
「あははは!!それがそーろーの“尻尾の生え方”だったんだよー」
「むむむ」
やっぱ無理だったか…。
「プロパーは何でも出来る。皆やり方を知らないだけ。やれば何でも出来る。まーそれはプロパーじゃなくても言えることかなー」
「漫画とかでよく見る特殊能力みたいなものとは少し違うな。なんか当たり前に出来るが別にそれをやらなくても生きていけるような、まとめるとそんな感じか?」
「うん、そんな感じ、あしゃあはそれを『ショゥルド』って言ってるよ。英語で書くとこんな風かな」
アリンスはポケットからメモ張を取りだし、『SHOULD』と書いた。
すいません。これ『シュッド』って読みます…。確かに弱い義務だけど。
ん?これだと『鬼』の辻褄が合うな。でも完全にやり方がわからないからまだ『ショゥルド』として成立してないと思うけど。
「あれ?ちょっと待て。ショゥルドが使えるのは“目覚めた方のプロパー”だけなんだよな?」
ってことは、“もともとプロパーだった者”は使えないことになる。
「うん、そうだよー。幼女氏と戦うのに勝機はあるねー」
おおー。
「じゃあ俺は自分のショゥルドを見つけなきゃな」
「んー実は一つそーろーも取得してるよー」
それは『鬼』のことか?いや、アリンスはそのことを知らないはずだ。しゃあそれ以外であるのか?
「そーろー昨日なんか意味もわからず不安だったんだよねー」
「?ああ」
「それー」
「???」
「その不安はプロパーがもともと持ってるショゥルドなんだわー。アンテナみたいなものだよー」
「アンテナってどういう?」
「世界の保存が崩れかけるのを察知センサー?」
なんで疑問系?
「…助けの声を絶対に聞き逃さない耳的な?」
「的なー」
「なるほど」
納得納得。
じゃあ昨日の不安は幼女氏のことだったのだろうか?
「じゃあ俺が不安だったのは、 幼女氏の出現』だったのか?」
「うーんまだ断定出来ないなー。あしゃあも不安だったんだけどー。断定するのもめんどくさいなー」
そこはめんどくさがるなよ。
「でも何か大変なことが起こってるのは確かなんだな?」
「へいー」
「じゃあそれを止めるのもプロパーの仕事だな?」
「まぁ止めるっていうか元に戻すんだけどねー。めんどくさいしょー」
「めんどくさいな」
めんどくさすぎる。
でも俺はプロパーだ。それが俺のやるべきことなら仕方がない。
この世には仕方がないことがたくさんある。
「おしっまずは幼女氏を探すとこから初めないとなぁ」
「めんどくさいなー」
「よしっ!それじゃあ行くか!」
その瞬間に昼休みが終わるチャイムがなった。
「…ここが学校だってことすっぱ抜けてたでしょー…」
「…はい」
アリンスに突っ込まれた。
俺達は教室に戻る。
もう少しで幼女氏に勝てるだろう。
これで代々の設定は説明し終わりました。
長かったなぁ~ww