二回り前で御座流
もう、行ったか…?
ここには誰もいないな…?
俺は動いていいんだな…?
「う、ううう」
俺は目を開け、立ち上がる。そのとき背中に刺さっていた刀は地面に残った。
仕方がないだろう。こういうときには“死んだフリ”が一番だ。
「…どうやら喉仏は治ったようだな。左腕はっと…」
筋肉は繋がっていたが骨がまだ全回復じゃなかった。
「家が近かったのは助かった…」
俺は一旦家に帰り、制服を脱ぐ。ボロッボロだ。確かうちの学校は指定ジャージだったらOKだったよな。
制服は血まみれだった。こりゃあもう捨てるしかないのかな?
まぁこれはベッドの下にでも隠しておこう。
…学校、間に合うかな…?
学校には間に合った。朝食を食べなかったのもあるが、だいたいはプロパーの脚力である。
「おおぉ、間に合った…」
「うおっしょー、候ー」
「どわぁ!!って悟か、なんだその『うおっしょー』って」
「え?挨拶だろ。昨日話したろ?」
どうやらふんどしは次元に飛んだらしい。
「ん?そのお前が持ってるやつは…パチンコ?」
悟の右手にはパチンコが握られている。
「おおーそうそう、今日すんげーことがあったんだ!!」
「なんだ?」
「今日の朝七時くらいに学校の屋上で双眼鏡を使って天体観測してたらなぁ」
「ちょいストップ」
ツッコミどころを二つ発見。
天体観測て!なぜに双眼鏡!?つーか朝七時って星の時間じゃねぇよ!!
心の中でバシバシとツッコミを入れる。
「…もういいよ、で?続きは?」
「そんときになぁ、鳥人間を見つけたんだよ!!」
「…」
ザ・冷や汗。
「まさか悟、それで…」
「うん、撃ち落とした!」
おおおおお!!!!
「…で、そのあとは?」
「なんか落ちてったからそこまで行ったんだけど、もういなかった。いやぁ鳥人間って本当にいるんだなぁ、げははははは」
冷や汗増大。
「ん?どうした?候?顔真っ青だぜ」
「え?ああ何でもない何でもない大丈夫だ」
全然大丈夫じゃない。
「そうか、げはははははは!」
…『げはは』って、そうだった…コイツは一日ごとに笑い方を変えるんだった。今日は『げはははは』の日なのか。
「おおっと。もうチャイムなっちまうぞ。急ごう」
俺は少し急いで教室へ入る。入った瞬間にチャイムが鳴った。危ない危ない。
俺が席に着くと担任の教師が教室に入ってくる。
「はい皆さんおはようございます。今日は出席をとる前に転校生を紹介します」
出た。ライトノベルあるある。
ガラララと教室のドアが開く。
アリンスだった。額には絆創膏が貼られている。
「はいーこんにちゃー。じゃないなー、皆さんはじー鴉輪 蒭と言いますー。どうか仲良くしてくださいねー」
やっぱりー!!パチンコの餌食になったのお前じゃねぇか!!!つーかあんたもプロパーだろ!なんで絆創膏つけてんだよ!!すぐ回復すんだろ!!!
ああ、ちなみに左腕は完治だ。
クラスの男子がヒソヒソ話を始める。まぁ容姿はびっくりするくらい綺麗だからなぁ。
「めっちゃ可愛くね!?」
「俺、惚れたかも」
「一目惚れかよ、まぁ俺も惚れたけど」
「お前もか!?」
こんな感じの声が後ろから聞こえた。
つーか何で鴉輪 蒭なんてややこしい偽名を使った?いや、こっちのほうが本名なのかな?
えー『鴉』は、たしか、『あ』とも読んだっけ?あと『輪』は『りん』つんて読むよな。…もうわかった…。
俺は『蒭』の別の読み方を知らないが、おそらく『す』とも読むのだろう。
『あ』『りん』『す』、つまり『アリンス』だ。
「えーじゃあ鴉輪さんは、御座流の隣にでも座ってください」
隣にでもって…。
アリンスは席に着く。俺の隣だ。
「ということでーはじー。よろー」
「そんな初めましてみたいに言わなくてもなぁ」
「わははー」
アリンスは笑った。ついでに完全にわかってはいるが、一応台本を読んで聞いてみる。
「その絆創膏はどうしたんだ?」
「ああこれ?これはねー登校中空飛んでたらいきなり額に何かぶつかって来たんだー」
空飛んでたこと認めちゃったしね。
「いやでも、すぐに回復するだろう?」
「海苔、ああ違うノリ」
一体どう間違えたら、言葉で漢字表記の言葉を間違えるんだ??てかノリって!
「いっやーあの時はビビったよー。バランス崩して落ちちゃったしー」
落ちた方が絶対に怪我するだろうに。
矛盾だらけである。
「…まぁいいわ。大体は予想付いてたし。そうだ、聞きたいことがあるんだが」
「よーしじゃあ出席とりますよー」
担任の声が聞こえて話すのをやめた。
授業の休憩時間の間はクラスのほぼ全員がアリンスの机に向かった。
授業終わり。現在昼休み。屋上にて。
「幼女氏?何それー」
「ああいや、ごめん。幼女。うん幼女だよ」
「幼女ってさー、なんかいやらしく聞こえるよねー」
知るか!!
「で、ええと、で、どうしたの?そんなめんどくさい戦いをしてー」
「死んだフリで凌いだよ。死にかけだったし」
「そうかー」
アリンスは少し考えてから、俺に言った。
「あのさーそーろー。最近になってなんか意味不に不安になったりしなかったー?」
「うん…まぁしたけど」
「そーかー…よしわかった」
また少し考えるようにしてからアリンスは言う。
「じゃあ話さないとねー。昔プロパーが滅びた理由を」
知っているのか。また『マッちゃん師匠』かな。
「昔プロパーはまー、よくある回想をすると、結構平和に暮らしていたんだ。そこに攻めてきた奴がいてー」
「誰だ、いやそもそも生き物だったのか?」
「プロパーだったー」
「へ?」
同族争いだったのか?
「前に話したよねー、プロパーっていうのは今ここにいる人類の一回り前の生物。先祖と言っても過言ではないねー」
「歴史は繰り返すと言うからな」
「そういうこと」
ん?
「今の人類に一回り前があったように、プロパーにも一回り前があったんだよー。人類の二回り前って感じかな」
それ一周しないか?
まぁ俺達が住んでる周期の一個前ってことだと思うんだけど。だから俺達が住んでる周期の二個前ってことか。
SFって感じがするな。
「そいつらのこともプロパーって呼んでんのか?」
「いやーちゃんとしっかりした名前があるんだと思うんだけどめんどくさかったから忘れちゃった」
おい。
「で、二個前のプロパーが襲い掛かって来きてー滅んじゃったんだー」
「はぁー」
「めんどくさいから簡単に言うとー、過去から来た奴に皆殺されちゃったんだってー」
「少しくらい生き残りはいないのか?」
「あーいたらしいよー。逃げたんだって、ここに」
「…?」
意味がわからない。
「要するにタイムスリップしてここに逃げ込んできたってことか…?」
「うむ」
「じゃあ…」
「そう、おそらくその幼女、幼女氏はその一人なんだと思うねー」
『氏ね』しか言わなかったのはこの世界に来て初めて知った言葉だからなのかな。ネットというのはどこにでもあるし。
「でもそれが殺人に繋がるとは思えねぇんだがなぁ」
「うん、それはあしゃあにもわからないなー」
「そうか…」
つまり俺はプロパーに“なった”者ではなく、“元々プロパーだった者”と戦ったのか。確かに子供のわりにはかなり自分の体を使いこなしていたな。
「とりあえずありがとな。気になっていたことは大体わかった」
「あーいやまだ話は終わってないんだ」
「え?もうわからないって言ったろ」
「いやー実はまだほのめかしていることがあるんだー。ついでに言っちゃおうかなー」
「なんだよ」
「あしゃあ達プロパーの目的だよ」
「!!」
伏線が削れる予感がした。