幼女氏で御座流
実際、俺は少し言い方を間違えた。
幼女が血まみれだったのは、返り血であり、男は刀を握っていたというか、握っていた手に刀が突き刺さっていた、という方が正しい。てか手前で握っていた右手と一緒に額に刀が突き刺さっている。
串刺し状態である。
明らかにその男は死んでいた。
幼女は黒髪の太ももの辺りまであるロングヘアーで、格好は、何処にでもある子供服だ。
!俺に気付いた!
「………しぃ…」
そうささやく様に言い、立てた人差し指を自分の口元に近づける。?静かにだって?
「…………ねぇ……」
「ん?なんだ?」
俺は幼女に近づく。そして
「氏ねぇぇぇぇぇ!!!!!」
男に突き刺さった刀を抜き、切りかかってきた。
「うわっと…!!!」
左指消失、切り落とされた。やべぇ、リアルだ。普通に痛いぞ。こりぁ激痛がはし…らない?これもプロパーの特性なのだろうか。痛くない訳ではないんだけど。
俺は瞬時に切りとんだ指を空中で集める。もちろん右手だ。集めた瞬間に切り口にくっつける。全て同じ向きで同じ角度である。こんくらいなら可能である。
「氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね!!」
やばい、コイツ、幼女とかなめなきゃよかった。刀とか普通に扱っている、乱暴にだけど。
もろに首を切りに来た。俺はリンボーダンスのようにギリギリでかわす。
「うお!?危な…ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
左腕を切り落とされた。プシュウウウウと血が吹き出したかと思うと、ドロッドロッとすぐにその勢いは死ぬ。さっきくっつけた指は少しだけだけどくっついていた。これ、腕とれても回復続くのかな?…続いているし…。
「氏ね!氏ね!」
幼女は乱暴に無差別に刀を振る。その内の一つがザックリと。右腕が三〇センチほど割れる。しかし幸い、深くは入っていないらしく、腕の太さの半分くらいしか、刀はめり込んでいなかった。いやでも骨見えてるし。
「くっくそ!!がぁぁ…っとうおおおおおおおお!!!!!!」
大丈夫、右腕は“切断されていないんだ”、まだ使える!
俺は幼女を思いっきり殴り跳ばそうと、右に拳を構える。
ーコイツは恐らく俺と同じ、『プロパー』だ。何やってんだよー
俺はこの幼女を『幼女氏』と名付け、呼ぶこととしよう。
戦闘プロフィールその1
名前 幼女氏
特徴 ・刀
・超かわい…おっとっと。
俺は幼女氏の頬をめがけて握った手を降り下ろす。
「う!ぐぅぁぁぁ…」
柄が腹にめり込む。グジャガシャァと体の中から変な音が鳴った。口から赤い物を吐く。血じゃない、なんだこの細長いもの。
「って…血管……おがじゃぁぁぁぁ!!」
血管を吐くって…、吐血ならぬ吐管だぜ…。俺の体の中…どうなってんだ…?つかあり得んのか…?
「うぐぅ…」
喉と繋がっていて口から垂れ下がった血管を引き契り、立ち上がろうとする。
途端に
右足の弁慶の泣き所、すなわち脛に刀が貫通する。それを握っているのはもちろん幼女氏。
「氏ね氏ね氏ね……………」
幼女氏は俺の脛をぶっ刺した刀を真上に上げる。グジャジャジャジャと右足の切れ目から肉が溢れ飛ぶ。
さっきも言ったように激痛がないだけで普通に痛いのだ。好都合主義でなない。
刀が太股に到達した。その刀を右手で挟むように握る。
「ぉぉぉぉ…」
このまま刀の刃の部分だけひっこ抜けないか?
「氏…………ね……!」
ガチャアアアアパァァァン!!と刃は抜けなかったが、砕けた。砕くのはお手のものである。まぁ元々二メートル以上あった刀だ。砕いたところで一メートルくらいになったところだ。
一メートルでも結構長い。
「くそっ!何か作戦がないと!!」
別に俺は戦いたいわけでも幼女氏を殺したいわけでもない。とにかく止めたいのだ。
明らかに筋骨隆々の男を殺したのはコイツだ。俺は転がっている男の死体を見る。よく見ると体中に傷、傷どころではない。穴があいている。そんな感じである。内蔵とか散乱してるしなぁ。
幼女氏は殺人鬼である。
「どうするか…」
作戦、そうだ。ギリギリで刀をかわして横から蹴り飛ばす!!これでいくぞ!!!
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!ヴァァァァァァ!!」
甘かった!!普通に腹ァ切られた!避けるとか、幼女氏速ぇぇ…
どうやら、まだ腹を突かれたときの傷が残っていたらしく、傷口からカニ味噌のような物が飛び散った。心臓はまだ死んでない。
「でもこれで…」
「氏ね!?」
刀を横に振ったんだ。戻るのには少し時間がかかるだろ。今だ!!
ガキィィィッィィン
「おい…マジかよ」
幼女氏はすぐに刀を戻す。そして後ろに反れた。結果俺は刀を蹴ることになった。側面だったため、足の裏を切られる心配はない。が、ビクともしない。刀ってそんな頑丈だったか?さっき俺砕いたぞ。
いや違う、受け流したんだ。ほんの少しだけ、スゲェのは刀じゃない。この幼女、すなわち幼女氏の握力と判断力だ。
ヤバイ、もう手がねぇ…。そうだ!回復!回復はどうなった!?
プロパーの特徴の一つ。それは爆発的な回復力だった。俺はアリンスに腹をブチ抜かれた。それでも数十秒後には全回復してたんだ。もう左腕も完全にくっついているだろう。
「ぐ…ぐぉぉぉぉぉ」
左腕は上がらなかった。感覚はある。神経はくっついたんだ。でもまだ骨と筋肉がしっかりくっついてないんだ。
「てか腹の中もまだ治ってないし…」
回復が遅い。どうしたんだ。
「ヴぁ!」
割れた刀は俺の首を貫いた。しかしこれはチャンスでもある。俺はもはや死にかけの右腕に全ての力を込めて幼女氏に殴りかかろうとする。
「ヴぁ…ヴぁぁぁぁ…」
声が出ない。喉仏が死んだか、てかコイツ“刀を捨てやがった”!!
幼女氏はすでに遠くにいた。
「あっ…あっ…あぁぁぁぁ」
どしゃっと仰向けに倒れる。う、立ち上がれない…。そりゃそうだわな、ほとんど全身死んでるもん。
今までの負傷状況
・左腕切断(現在回復中)
・左指切断(現在全回復)
・右腕切り傷
・右足切り傷
・腹部切り傷
・内蔵破裂
・喉仏損傷
…ボロボロじゃねぇか…
あ、力が出ない。どこに力を入れていいのかわからない。
「氏ね氏ね」
強すぎるだろ…。なんで通学中にこんなことになるんだよ…。
もう俺には何も出来ない。立ち上がれないし、後は漫画とかでよくある足首を掴むくらいしかできねぇ…。
これからコイツはどこに行くのかな。
ていうか何であの男を殺したんだろう。殺人鬼とか何とか言ったが…、いいや、刀持ってる時点で殺す気満々だ。
「ヴァッ!アァァァ…」
背中に刀を刺された。体を貫通して地面に突き刺さる。
串刺し状態である。
俺は徐々に目をつぶる。
幼女氏は血まみれのまま何処かへ行ってしまった。
「あぁぁ、くぞぉぉ…」
俺の目は完全に落ちる。
主人公が死ぬのには早すぎる。