苦労で御座流
「あーほら、俺の部屋の扉もう弱ってんだよねー。ほら」
俺は自分の部屋の扉を前に押す。ベキン!!と鈍い音がして扉が砕けた。うーん、砕けたっていうのもなんか違う気がする。何て言うかこう、粉砕?みたいな感じである。
「んー変えたほうがいいよ。うん」
「え、と、まぁ握るだけでドアノブが潰れるわけないわよね」
た…助かった。しっかり握ったら潰れたんだけどな。
そのあと、なんか色々あったんだが、力が強すぎるっていうのはあまりにも不便だった。風呂場のドアは元々開いていたため、そのまま使う。ドアガン開きである。仕方が無いだろう。シャワーはどうしようか。ああ、一つ言っておかないとな。この小説にはここでアリンス登場みたいなラブコメ展開は存在しないぜ。うん、マジで。マジだから。
「現実逃避してる暇じゃねぇな。シャワーの使い道考えねぇと」
むやみに握ると、崩壊しちまうからな。小指と親指で摘むようにと優しく優しく。やべぇ、ヒビが割れそう。気をつけながら。
パキッと怪しい音がなったが、んん、大丈夫だろう。使いにくいな畜生。
「これ自分の頭洗ったりして俺頭砕けたりしねぇのかな?」
シャンプーのケースのあのプッシュする部分に触れた瞬間ぺしゃんこになった。クシャって!クシャって!!
勇気を振り絞って頭に触れる。おお?頭砕けなかったな。自分の力だったら大丈夫なのか。
しゃかしゃかと、さっきまでもどろっかしいことをやっていたため、なんか爽快だった。おぉ!なんだこの開放感。
風呂に入るのには別に苦労はしなかった。入るだけだからな。
ちょっと待て。なんで風呂に入るだけでこんなにきついんだ、プロパー強すぎるだろ。
おそらく俺が覚醒したのはあのトラックに轢かれかけたときである。鬼の件はさっぱりだが。あのとき轢かれていたら多分死んでいただろう。それは助かったんだけどなぁ。だからといってな、これはな。
風呂を出て、服を着る。服は砕けないからな。すこし伸ばしたら千切れちゃうけどな。
これで一安心…。
「…マジか」
よし!風呂場を抜けたら後はもう!なんて考えが甘かった。ベキン!!と箸が折れた。粉砕した。
「飯…どうしよう」
結果、食うのをやめた。一日くらいいいだろう。
そのあと俺はすぐに寝た。もう色々面倒なのでな。正直しんどい…。だってあれだよ!?触ったら砕けるんだよ!?嫌になるってそりゃあ!!
「どうしよう、これから…」
力量制御とか。
寝返って地面崩壊とかないかな。よく見るアニメのヒーローとかってこんな気持ちなのかな。いやちゃんと制御出来るんだろうな。
翌日
朝食、食べなかった。箸がへし折れるからである。腹減ったなぁ。
「いってきまーす」
俺は玄関のドアを小指で開けた。開けたというか倒した。ドバアァァァン!!とドアが外れる。これでも昨日よりかなり制御出来てるんだからな。だって昨日ドアノブ触ったらペシャンコだぜ?それよりはなんとかなったんじゃねえか?
「あーあ、やっぱ制御できてないねーまぁいきなりやれって言うのも無理な話かー」
ドアをつけ直し、後ろを向くと、アリンスが目の前に立っていた。
「うおおおお!!なんですか!?」
「せっかくめんどくさいのを我慢して来てやったのにーなんだよいきなりあしゃあが出現したみたいなー」
いきなり出現したんだよ。
「あ、でもちょうどいいや。あの、力量制御どうにかなんないんですかね。まともに生活出来ないんですが」
「大丈夫大丈夫ーあしゃあもその件で来たからー、これー」
アリンスはそう言って俺に紫色のミサンガを手渡した。?なんだこれは?
「これは一種の制御装置みたいなものでねー、あしゃあが力量制御がめんどくさくなった時に『マッちゃん師匠』がくれたものなんだー」
今なんかさらっと新キャラみたいなのが出て来た気がしたが、なんだろうこのさらっと新キャラを出して触れてはいけないオーラ?みたいなものを出す方法。
なんかその『マッちゃん師匠』のことは俺にとっても触れてはいけない気がしたので、聞くのは止めた。そのかわり…。
「これを着けたら普通の人間レベルにまで力は落とせるんですよね?」
一応念を押す。
「うーんいや、これは極端な力を抑えるためのものだからなー。これ着けてても本気を出せば学校の机くらいならパンチで砕けるんじゃないかなー」
それ…意味あんのか…?制御するための物だよな…。
「まぁ着けてみたらわかると思うよー」
んまぁ、後で着けてみるか。
「もしそのミサンガが千切れたらそれはもうそーろーが完全に自分で自分の力を制御出来るってことだからー」
「はい…ってあれ?制服?」
よく見れば、いやよく見なくてもアリンスはうちの学校指定の制服だった。勿論、俺も今から登校しようとしているので制服である。
「え?今気付いた?遅いなー。聞いてなーい?新しくめんどくさがり屋の転校生が来るってー」
仮にそう言ったとしてめんどくさがり屋とは言わねぇだろうよ。
「道案内、必要ですか?」
「いーや、必要ないよ。めんどくさいしょ?…というかさー、ホントに敬語とかいいよー。これからクラスメイトにもなるんだからー。この前も言ったよねー?あしゃあがめんとくさいよー」
そう言われてもねえ…。
「もしさー、あしゃあがクラスに馴染んだときにそーろーだけが敬語だったら変じゃーん」
そらぁそうなんだけどなぁ。
「じゃあ、アリ…ン…スさ……ん?」
「アリンスでいいってー」
コホン。
「…じゃあアリン…ス。まさか…だけど『羽』、使う気…無い…よな?」
なんで俺ちょっと怯えてんだ?ああそうか、腹をぶち抜かれたからだ。そりゃ怖いよ。うん。たぶん今まで敬語だったのもそのせいだ。よし!吹っ切れよう!!
「?羽使っちゃ駄目?」
「駄目」
え?まさかこの人学校まで飛ぶ気でいた?マジで?騒ぎとか気にしないのかな?
「だって歩くのめんどくさいじゃーん」
めんどくさがりが土を越えている。
「ねぇいいでしょ?」
「駄目」
「頼むからさぁ」
「駄目」
「多少騒ぎになるかもしんないけど…」
「駄目。っていうか騒ぎになっちゃヤベェだろう」
そういうのってその人自身が一番気を付けないといけないんじゃないか?ほら、未来から来たことがばれないようにとか。
「頼む!頼むから!」
「駄目」
「グホゥ!!!!」
吐血した!!何で!そんな!?そんなに歩きたくないのか!!??
「くっくそ!」
キャラ崩壊間近である。
「……し…仕方ない、歩いていくよー」
アリンスはとぼとぼと歩いていった。学校とは逆の方向に。そして角を曲がった瞬間、飛んでった。実際に見たわけではなく、アリンスが角を曲がって数秒後、上空に、これ絶対飛行機じゃねぇだろうみたいな物が、者が浮いていたからだ。騒ぎとか本当に気にしないんだな。
俺はため息をして、学校へと歩き始める。もちろんアリンスとは逆の方向である。
「別に後ででいいかな…」
俺は紫色のミサンガをポケットにしまう。
うむ、助かった。これが無かったら俺学校破壊させてたな。
角を一つ曲がる。
「!!!!」
そこには小さい幼女と筋骨隆々な男がいた。
幼女は血まみれで、男の手には、刀が握られていた。
地獄絵図だな。
そして
確実に片方は死んでいた。
ついにバトルフラグ立ちましたww