3話
改1(H24.2.10):「何処か磨りガラスを通したような」→「どこか薄い霧がかかったような」
あれから暫くしたが、私が助かったわけじゃないと言うことが良くわかった。
ぼやけた視界ばかりの日々が終わり、やっと目が見えるようになると、見知らぬ天井と、見知らぬ人。
そして、ぷっくりとした椛の様な小さな自身の手。
それまでにも色々と疑念は有ったが、やはり視覚ではっきりと確認したのは決定的だった。
(やっぱり! 赤ん坊になってる!?)
予想していたとはいえ、衝撃的な事実にしばらく呆然としたが、気を取り直して周囲を見てみる。
淡く緑がかった白を基調とした内装にソファーやテーブルなどが置かれた部屋。
その端っこに私が寝ている木の柵で囲われたベッド。
良くわからない物も色々あった。
(あの黒い光沢がある物は何だろうか?)
台の上に載せられ、平らな面がソファーに向けられている。
自分の記憶から近しいものを探し出そうとして、愕然とした。
(思い出せない!?)
過去の記憶があるのも解る。だから、見たことある物と無い物の区別もつく。
しかし、どこか薄い霧がかかったようなぼやけた記憶だ。
(そうか、子どもは前世の記憶を段々と忘れて、新しい生に適応していくのね)
何処か寂しく感じながらも、見たことも無い新しい物に溢れた室内をキョロキョロを見まわした。
「あら? 凛香ちゃん。起きたのね」
(この人がお母さんかな? 何を言ってるんだろう?)
「だー。あー」
(やっぱり、まだ喋られないか)
「私がママよ、ママ。 ふふふ、凜香ちゃんは可愛いなー」
お母さんらしき人物が木の柵の上から私を覗きこんでくる。
癖の無い長い黒髪がと大きな黒瞳がとても綺麗だ。
手元に垂れてきた黒髪はサラサラとした手触りでとても気持ちが良い。
「あーあー」
もっと触ろうと手を動かして見る。
引っ張らないように、引っかからないようにと注意して触ったが、後者の方は不要だったみたいだ。
手で髪を梳いてみるが全く引っかからない。
(羨ましい! ちゃんと手入れしてても前の私の髪は枝毛とか多くて引っかかったのに!)
しばらく、綺麗な黒髪の感触を楽しんだが、動き過ぎたせいか眠たくなってきた。
「あら? おねむ?」
そう言って、私の頭をその白魚のような手で優しく撫でてくれた。
(私もこの人みたいに美人で綺麗な黒髪に成れるかな?)
そう考えながら私は眠りについた。
昔に聞いた話ですが、赤ん坊はお腹の中にいる間から視覚を認識できるそうです。
ただし、視力は0.02以下で光を感じるくらいだそうです。
また、2~3ヶ月たつまで焦点とかを合わせられず、視界がぼやけているそうです。