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誰も辞めない鉄道会社 〜理不尽には謝りません〜

作者: 舞茸 満
掲載日:2026/03/12

 365日、休むこと無く動き続ける鉄道を支えているのは、そこで働く社員である。しかしながら、駅や電車における鉄道会社社員、すなわち駅員への暴言や暴力行為は頻発している。


「理不尽な暴言や行動から、社員を守らなければならない」


 「首都鉄道」社長の石原は、大学生時代に駅売店のアルバイトから始め、入社後に一般社員として働き、社長まで登りつめた。現場の大変さは、自身も身をもって知っていた。多くの仲間が辞めていったことも、石原の社員を大切にしたいという想いを強くしていた。


会議室


「クレーム対応マニュアルを廃止する」


「社長、それは…」


「代わりに新しい社是だ」


石原はホワイトボードに書いた。


『理不尽には謝るな』


「言い返して良し。責任は全部俺が取る」


〜〜~~~~~~~~~~~~~~~~


「お〜い!なんで遅れてんだよ、さっさと走らせろよ」


「人身事故とアナウンスしましたよ」


「もたもたやってんじゃねぇよ」


「ならお前が手伝えよ」


「えっ……」


〜~~~~~~~~~~~~~~~~~


 発車ベルが鳴り、扉が閉まりかけた電車に飛び乗った客が居た。


『お〜い、テメェ飛び乗ってんじゃねぇよこの野郎。いい歳こいて余裕持って行動出来ねぇのか?』


 車掌のアナウンスが車内に流れる。飛び乗った客は、他の客から一斉に注目される。クスクス笑い声が聞こえ、親子連れが耳打ちしている。


「ああいう人になったらダメよ」


「うん!大人になって注意されるって、恥ずかしいね」

〜~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 車内での携帯電話の通話にも容赦しなかった。


「もしもし、今向かっていますので…」


『車内での通話はお止めください』


「はい、ですからあの〜」


『聞こえねぇのかこの野郎!誰もお前の話なんか聞きたくないんだよ、さっさと切れ!』


 一斉に乗客の視線を浴びた通話客は、次の駅で慌てて降車した。


〜~~~~~~~~~~~~~~~~~

 駅売店も例外ではない


「おばさん、タバコ、〇〇二つね」


 客はお金を投げた。


 タバコが二つ投げ返された。


「……」


〜~~~~~~~~~~~~~~~~~

 発車間際の電車に駆け込むも、間に合わず扉にぶつかった客


「何閉めてんだよ!ぶつかったじゃねえか!慰謝料出せ!」


「なぜぶつかったのですか?」


「駆け込んだからだろ!」


「駆け込まなきゃ良いだろ。ドアが壊れたらどうするんだ。修理代出せ」


「……」


〜~~~~~~~~~~~~~~~~


 泣き出した子供を抱いて、必死にあやす母親に対して暴言を吐いた客


「おいうるせぇよ、静かにさせろよガキ」


『おいうるせぇよ、静かにしろよ老害』


 冷たい視線が一気に向いた


〜~~~~~~~~~~~~~~~~~

 私立小学校へ通う低学年の生徒。帽子を被り、ランドセルを背負っている。駅で電車を待つ生徒の前に入り込んだ中年。 


「見てたぞおい!子供の前に入ったグレーのジャケット。並び直せ」 


 事務所で防犯カメラを見ていた駅員が、放送で注意する。


 とぼけて無視をしていると、数名の駅員が現れ、その男を抱えて駅の外へ放り出した。


「あんた、出禁な」 


〜~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ただ、駅員はサービス向上にも力を入れていた。ベビーカーを押す母親や高齢者、補助を必要とする人々には、丁寧に対応していた。子供と駅員や、車両との撮影も拒否しなかった。


 マスコミは「首都鉄道」を大々的に取り上げ、ネット上でも話題になった。


『理不尽を許さない駅員たち』


『カスハラが絶えない駅や鉄道において、画期的な取り組みがされています!』


『離職率が0.1%未満』


『ルールを守る人に優しい鉄道会社』


 アナウンサーが興奮気味に伝える。


ネット上では


『石原社長無双www』


『俺も勤めたい』


『うちの会社の社長になって!』


『口悪いのに大人気www』


 首都鉄道の対応は一部には批判的な声も上がっていたが、ほとんどは好意的に受け入れられ、大学生の就職志望先ランキングのベスト3に入っていた。


 首都鉄道の取り組みは、親子連れや、子どもの単独乗車、通勤に使う人々からも、好評だった。


『赤ちゃんがいても安心して乗れます』


『僕一人でも、駅員さんが守ってくれるから』


『酔っ払いがいなくなりました』


  首都鉄道の取り組みは、カスタマーハラスメントに苦しむ他業種にも採り入れられ始めていた。


 石原社長は外国の経済誌の表紙を飾り、人気俳優による映画化まで行われた。



社長定例会見


「離職率の低下や、利用者からの『首都鉄道推し』が顕著ですね」


 記者からは次々に質問が飛んだ。


「駅員や車掌はただ口が悪いわけではありません。理不尽な要求に対して毅然と立ち向かい、自らの尊厳を守ることにあります。貶されて良い人など居ません」


「同業他社からも、転勤したいという声が多いそうですが…」


「ありがたい事ですね。正当な指摘と理不尽な苦情は全く違います。それに対して臆することなく仕事をして欲しいのです」


 石原社長は記者を見据えて語り、さらに続けた。


「『お客様は神様』ではありません。『神様の様なお客様』となっていただけるよう、多くの善良な皆様に、安心して利用していただける鉄道会社でありたいのです!」


 定例会見のあと、専務がタブレット端末で、新卒採用のページを見せた。応募者が殺到し、回線がパンク気味だという。


「これで良いんだ。『誰も辞めない鉄道会社』、『誰もが乗りたい鉄道会社』が私の目標だ」






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