第一話「適性ゼロの烙印」
第一話「適性ゼロの烙印」
死ぬ瞬間は、意外とあっけなかった。
信号が青に変わったその瞬間、世界が白く染まった。痛みはない。気づけば、見知らぬ空間に立っていた。
「黒川蒼介……君の魂は、私の手に負えない」
声だけが響く。温かくも冷たくもない、神の声だった。チートもスキルも、与えられない。異世界へ――ただそれだけ。
次に目を開けると、石造りの部屋。木のベッドに腰を下ろすと、隣に少女が飛びついてきた。
「アレク! 起きた! 良かった――!」
茶色い髪、緑の瞳。幼馴染だと直感した。名前はミラ。涙をためて震える手で、僕の腕を掴む。
「三日も熱でうなされてたんだから! もう死ぬかと思った!」
謝りながら、僕は今日がこの世界で最も重要な日――「魔法適性検定」の日だと整理した。十五歳になると、人生を左右する適性ランクが決まる。僕の番は最後。
村の広場には人だかりができ、先に検定を受けた三人が結果を喜んだり悔しがったりしている。戦士C、農夫D、魔法使いB。皆の目が僕に注がれる。
検定官が僕を見つめ、水晶球に手を置けと促す。指先が触れた瞬間――反応がない。色も光も、変わらない。
「…………」
広場がしんと静まり返る。官の眉がひそまる。もう一度手を置く。それでも何も変わらない。
「適性……ゼロ。前例なし」
その瞬間、笑い声が上がった。
「ゼロって何だよ」「Fランクより下だって?」
ミラが僕の腕をぎゅっと掴む。手が小刻みに震えている。
「大丈夫」
声を振り絞った。泣きたい気持ちを押し込めて、ミラの夢を考えた。彼女はBランクの魔法使いとして、広い世界で羽ばたきたい。僕は――足手まといになりたくない。
広場の端から声がした。
「お前が適性ゼロのやつか」
現れたのは、鎧を纏った若い男。勇者パーティの剣士長、レイン=バルクスだ。
「お前に冒険者の道は無理だ。田畑でも耕して生きろ」
仲間たちと共に去る背中を、僕は黙って見つめた。怒りより、妙な予感があった。この男とは、必ずどこかでまた会う――違う場で、違う立場で。
その夜、村を出る決意をした。
「適性ゼロ」は烙印でしかない。父は残れと言い、母は泣いた。でも、僕は進む。魔法は使えない。チートもない。だが、この体には――神でも手に負えない力が、確かに眠っている。
小さな荷物と、父から譲られた短剣を携えて、夜明け前の門をくぐる。三つの月が空に浮かび、星の数は数え切れないほど多い。
――歩き出すしかない。
どこへ行くかは分からない。ただ、前に進む。その先で、必ず何かが変わるはずだ。
第二話へつづく――




