お茶会への招待
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※複数視点があります
「そもそも魔女ってどんな人なの?」
「は……?」
「ええと、そこからですか……?リサ様」
セシル君とチェンバーズさんが困惑したように顔を見合わせてる。
「私の魔女のイメージって毒リンゴとか糸車とかなんだよね」
「?」
舞踏会の夜から一週間ほど経った頃、王宮から招待状が届いた。第三王子のハーヴェイ殿下からのもので、秋の庭でのお茶会に招いてくださるそうだ。セシル君と私とチェンバーズさんは馬車に乗って森のお屋敷から王都を目指してる。そういえば暦も同じなんだよね、この世界。それに私はずっと日本語で話してると思うんだけど、これってどうなってるんだろう?たぶん考えても分からないから、とりあえずその辺の深い追及は今はしないことにしてる。
「毒……なんだって?」
「毒リンゴ……白雪姫のお話はやっぱりこっちにはないよね?」
「コホン。僭越ながら私がご説明いたします、リサ様。この世界には魔法が存在することはもうご存知でしょう?」
「はい」
私は馬車に揺られながらチェンバーズさんの説明を聞いた。
この世界での魔女っていうのはいわゆる魔力の強い女の人で、魔法を使って様々な研究をしてる人なんだって。それだけ聞くとただ研究熱心な人なだけなんだけど、問題なのはその研究のためには手段を選ばない人が多いってこと。それが良い方へ働けば世の中の役に立つこともあるし、悪く作用して迷惑を被ることもある。あんまりお近づきになりたくない人達みたい。ちなみに男の人で悪い魔法使いっていうのもいるんだって。
「ただ、女性の方が何かに対する執着が強い傾向がありますね」
チェンバーズさんの説明にちょっと差別入ってないかな?って思った。だけどここは異世界だし、そういうものなのかもしれないと思い直した。
「坊ちゃんを狙ったのは『時の魔女』と呼ばれる存在です」
「『時の魔女』……」
時間に関する魔法を研究してる魔女なのかな?
「魔女はあまり人前に姿を現しません。今回直接接触してきたのは坊ちゃんへの執着がかなり強かったからでしょう」
セシル君は無言で視線を窓の外へ向けた。馬車の窓の外は色づいた木々がハラハラと葉を落としてる。
何で今頃こんな話をしてるのかっていうと、実は今回のお茶会は私達がステラ学園に入学するにあたっての魔女対策を話し合うためのものだから。お茶会という名の作戦会議だよね。
「残念ながら今回失敗したことで簡単に諦めるとは思えませんね」
つまりその『時の魔女』はセシル君のことをかなり気に入ってて、さらに元々執着が強いからストーカーになる可能性が高いってことかぁ。うわぁ……。
「まあ、あの夜に随分と痛手を被ったでしょうから、しばらくはおとなしくしているでしょうけれどね」
チェンバーズさんは何だかとても楽しそうに笑った。同時にセシル君がふうっとため息をついて、肩から力が抜けたみたいに見えた。
今日はクロックフォードのお屋敷には寄らずに直接王宮へ向かうから、途中の街でお昼ごはんを食べるためにレストランに寄ったんだ。そこでデザートで出たパンと甘酸っぱいラズベリーみたいな果実を使ったプディングがすっごく美味しかった。なんかプディングって色んな種類があるみたい。ちょっとこの先この世界にある食べ物を色々食べるのが楽しみになってきちゃった。
ただちょっと心配なことがあって、一緒に食事をしててもセシル君は何を食べてもあまり表情が動かない。この美味しいプディングを食べても特に反応なし。クロックフォード侯爵家では楽しく話しながら食事してたから、マナー的なことではないと思うんだけど……。ちょっと不安になって聞いてみた。
「セシル君って甘いものとかって好きじゃない?」
「……食べ物に特に好き嫌いは無い。でも……そうだな、プティングはあのカスタードの方が好きだ」
「そうなんだ……」
良かった。前に作ったプリンを我慢して食べてくれてた訳じゃないんだ。ちょっとホッとした。
「坊ちゃまはもう少し感情を表に出された方がよろしいですよ」
チェンバーズさんはおかしそうに笑いながら食後のお茶を飲んだ。
馬車は順調に進んで夕方前には王城に入る事ができた。
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少し時が戻って舞踏会の夜
「え?呪いが解けた?魔女が撃退されちゃったの?」
桃佳は舞踏会のダンス終えて、第三王子であるルークから事の顛末を聞かされた。
「兄上は気絶してしまったそうだよ。大丈夫かな。それにしても僕も魔女を見てみたかったな。危険だから聖堂には近づくなと言われていたけどね」
「何よそれ……!それじゃ困るんだけど!」
「え?困るってなんで?」
「あ、いいえ、こっちのことよ。気にしないで」
そう言いながらも桃佳はイライラしながら美しく整えられた爪を噛んだ。
「どうしたの?花のかんばせが台無しだよ」
ルークは優しく微笑んで桃佳の頬に手を触れた。頬をほんのりと朱に染めた桃佳は機嫌を直したらしく、ルークに付き添われて王宮に用意された自室へ戻って行った。
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「これを壊してしまうとは……」
薄暗い部屋の中でローブを着た老人達が机に置かれたロッドを見て唸っていた。ロッドは無残にも真っ二つに折れていた。ただし元来の青白い光は失われてはいなかった。
「普通に壊れたのではない。瞬時に込められた魔力の大きさに耐えられなかったのだ」
「そんなことは分かっておる!これを物理で壊す少女が存在してたまるものかっ!」
「魔法道具は自身に魔力が宿っておるからのぉ。ちょっとやそっとじゃ折れたりしないわなぁ」
「今回の渡り人は楽しそうだ……」
「渡り人が二人。確かに楽しそうだ……」
笑い声が低く響き渡り、部屋の外、廊下を通りかかった制服の女子生徒達が気味悪そうに顔を見合わせた。
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