呪いの行方
来ていただいてありがとうございます。
「あんたもこの世界に来てたのね。しかも黒令息の所へ導かれてたなんてカワイソ」
優雅に長椅子にもたれかかりながら、お茶を飲んでる桃佳はやっぱり私を馬鹿にするように話しかけてきた。私に気が付いてたんだ。しかもダンスしてるのも見てたんだね。
「黒令息なんて言わないで!セシル=ヴァン・クロックフォード様っていうお名前があるのよ?」
「魔女の手下なんだから黒令息でいいでしょ?」
「手下じゃないわ!呪いがかかっているだけだよ!」
「ハイハイそうよね。今はね」
「何が言いたいの?」
「本当にわからないの?ここがどこだか」
今、そんな話はしてないよね?桃佳ってば何を言ってるの?
問い質そうとした時、コンコンってドアがノックされた。
「リサ様!」
「チェンバーズさん!良かった!来てたんですね」
顔をのぞかせたのはチェンバーズさんだった。舞踏会の時に付き添ってくれるって言ってたのに姿が見えなかったから心配してたんだ。
「遅くなり申し訳ございません。これを探していたもので」
手渡されたのはシンプルな丸い大きな宝石が付いた柄の長いロッドだった。
「これを使ってください」
「え?青白く光っててなんかかっこいい!!」
「素手で魔女に立ち向かうのは危険ですから。それにこのロッドはリサ様の力を増幅してくれます」
なるほど。増幅系の魔道具ってやつなのね。でも私の力って?
「一緒に坊ちゃんを助けに行きましょう!!」
聞きたかったけど珍しくチェンバーズさんは焦ってるみたいだった。
「向かいながら説明します。今何が行われているのか」
「セシル様ですよね?わかりました」
私はチェンバーズさんに続いて部屋を後にした。部屋付きのメイドさんが困ってたけど、ごめんね、説明してる暇がなさそう。
「行っても無駄なのに」
後ろからかけられた桃佳の言葉は気になったけど、とにかく急いでセシル君の元へ向かった。
ハーヴェイ第二王子殿下の計画は、セシル君を助けるために王宮の一角に罠を仕掛けるというもの。コスモス王国の王城には東西南北に四つの聖堂がある。そのうちの一つの聖堂に結界や神官、聖魔法使い達を配置して、魔女を生け捕りまたは倒す算段らしい。つまりセシル君は「おとり」だよね。でもその計画を聞いて私は一安心だった。だって国の最高戦力で迎え撃つようなものじゃない?私、要らなくない?
「え?王宮を挙げての計画だったら大丈夫なんじゃないですか?」
チェンバーズさんにそう尋ねたら、苦い顔をしてる。
「だと良いのですが……」
「魔女ってそんなに強いんですか?」
「なんとも……。私は対峙したことがありませんので」
この世界には魔女が何人もいて、良い魔女もいるけど悪い魔女もいる。悪い魔女の中でも今回セシル君を狙ってるのがどの魔女なのかは今夜姿を現すまでわからないんだって。魔女は姿を現さずに手下を送って悪事を働くらしい。そして呪いをかけた日時にだけ自ら力を振るうそうだ。臆病なのか、重役出勤なのかよくわからないね。
「そしてその日が今夜。今日と明日の境目の時に魔女はセシル坊ちゃんを攫いに来ます」
「魔女の世界へ連れて行くんですね」
「ええ。そこで坊ちゃんを永遠に愛すると……」
「うぇぇ……」
魔女って何歳なの?私のイメージではおばあさんなんだけど。まあ、若ければセシル君の意志を無視してもいいってわけじゃないけどね。
「計画は秘密裡にされており、私にも知らされてはおりませんでした」
「きっとチェンバーズさんを巻き込みたくなかったんですね」
「坊ちゃんはお優しい方ですからね。やっと今夜の舞台が判明したのでお迎えに上がったのですよ」
「セシル君はどこに?」
「西の聖堂です!急ぎましょう!恐らくもう始まっています」
どこからか鐘の音が響いてくる。時計台でもあるんだろうか。
「セシル君、待っててね」
チェンバーズさんと私は夜のお城の庭を走った。
「坊ちゃん!」
「セシル君!」
施錠されてるかと思ったけど、西の聖堂の扉は簡単に開いた。
「うわぁ……」
西の聖堂は惨憺たる有様だった。
「せしるうつくしいひとみ」
白い神官服?魔導士の服のようなものを着ている人達がみんな倒れてる。聖堂の中央ではセシル君が黒い影に飲まれそうになってる。っていうか抱きしめられてる?シルエットは人の形……ドレスを着た女の人に見える。
「く……、セシル……」
王子様気絶しちゃったよ……。
「せしるわたしのもの」
魔女がセシル君に顔を近づけた。やだ……何するつもり?!
「やめてっ!嫌がってるじゃない!」
「うるさいじゃまするな」
私に向かって何かが飛んできた。チェンバーズさんがそれを弾き返してくれた。
「ありがとうございます、チェンバーズさん」
なんか今のって長く伸びた腕だったみたい。怖っ……!でもどうやって弾き返したんだろう?
「う……」
魔女から必死で顔を背けるセシル君。苦しそう……。
「セシル君!」
「坊ちゃん!!」
「来るな……逃げろ」
「今参ります!」
チェンバーズさん?その剣どこに持ってたの?チェンバーズさんは向かってきた魔女の腕をどこからか出した剣で切り伏せた。
「執事たるものこのくらいは出来ねば!」
チェンバーズさん、色々と不思議な人だけど、凄い!微笑みさえ浮かべながら魔女の腕を切っていく。この魔女って腕何本生えてくるの?私も自分の方へ飛んでくる数本の腕をロッドで叩きながら、攻防を見守るしかできない。あれ?魔女の動きが鈍くなってきたみたい。
「坊ちゃん!このまま諦めてしまわれるのですか?」
「セシル君!」
「せしるはわたしとくるの」
「……だ、嫌だ、嫌だ!!お前なんか大嫌いだ!お前なんかの言いなりにはならないっ!!!」
「え?」
睨みつけるセシル君と戸惑う魔女。魔女の抱擁が緩んだ?セシル君から離れた!
「今ですっ!リサ様っ!」
ドレスって走りづらいっ!でも私は全速力で走った。そして
「どっせぇぇぇい!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ………っ」
魔女をかっ飛ばした。場外ホームランかな?壁に穴が開いてそこから出て行っちゃった。
「あー、リサ様、ロッドはそのように使うものではないのですが……」
チェンバーズさんが何かを諦めたようにため息をついた。
「え?ああーっ!!折れちゃった……ご、ごめんなさい、チェンバーズさん」
もしかしてこのロッドかなり高価だったりするかな?どうしよう……壁の修理代も請求されるかな。
「まあ、いいでしょう。坊ちゃんがご無事でしたから」
「え?あ……」
セシル君が聖堂の床に茫然と座り込んでる。
「呪いの予言の時間はとうに過ぎています。坊ちゃんの勝ちですよ」
「信じられない……呪いが解けたのか……」
セシル君は自分の両てのひらを見つめて、顔を埋めてしまった。
「良かったね!セシル君!」
私はセシル君を抱き締めて頭を撫でた。
「僕は子供じゃないぞ」
呟いた声は涙声だったみたいだけど、見てないからわからない。
ちょうどその時、月明りが天窓から差し込んで聖堂の床に綺麗な光の花が咲いたようだった。
ここまでお読みいただいてありがとうございます!
鴨頭草
城外




