舞踏会と再会
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「セシル様、その眼帯はどうなさったんですか?」
舞踏会に行くために支度を終えて、クロックフォード侯爵家のエントランスに下りて行った私はセシル君を見てとても驚いた。前に見た正装は変わらなかったけど左の瞳に黒い眼帯をしてるんだ。綺麗なアメジストの瞳が隠れちゃってる。
「せっかく綺麗な目なのにどうして……」
「綺麗?オッドアイはこの世界では不吉なんだ」
「え?そうなのですか?」
そういうものなんだ……。知らなかった。チェンバーズさんはそんなこと言わなかったけど、どうしてなんだろう?
「せっかく綺麗なのにもったいないですね……」
エントランスにはセシル君のご両親がいて、馬車に乗り込もうとしている所だった。
「……行こう」
セシル君の綺麗な手が私の手を取って馬車に乗せてくれた。馬車に乗り込んだ後もセシル君の手は離れずに、手袋越しに冷たく優しく握られた感触が続く。緊張してる?そうだよね。今夜は魔女の呪いの予言の日。私もつられて緊張して胸がドキドキする。
かすかに震えが伝わってくる。対策があるって言ってたけど、私だって黙って見てるつもりなはいよ、セシル君。私は思いを込めてセシル君の手を握り返した。窓の外を見ていたセシル君が驚いたように私に振り返った。大丈夫だよって言いたかったけど、安易に慰めることは憚られた。だから、私はただ笑ったんだ。
コスモス王国の王宮は夜にもかかわらず、まるで昼間のように明るかった。鏡のように磨き上げられた床にふんだんに使われた魔法灯や花をたくさん飾られた柱と壁、高い天井とどうやって描いたの?って思うほど細かい天井画。秋の終わり、冬の始まりを迎えた外気は冷えてきていたけど、城内は大勢の人達の熱気が溢れかえって少し暑さを感じるほどだった。チェンバーズさんによれば今夜の舞踏会は主に高位貴族達が招待される小規模なものらしいけど、たくさんの人がいて、とても小規模なものとは思えなかった。
セシル君と私が大広間に入場すると、入り口の近くにいた人達の話し声がピタッと止まった。そしてちらちらとこちらを見ながらひそひそと話を始めた。
「……なんか感じ悪い」
広間の奥、玉座に近い方へ歩みを進める程に嫌な空気は無くなっていったけど、視線だけは終始感じ続けてた。たしか、身分が高くなるにつれて王様に近い場所にいられるらしい。クロックフォード侯爵家は身分がかなり高い方だから、広間の奥まで進むことになる。ひそひそ話は無いものの鋭い視線は感じられる。
「やっぱり感じ悪い……」
「ごめん……」
腕を組んで歩いていたセシル君が何故か謝ってきた。
「どうしてセシル様が謝るのですか?」
「嫌な視線は僕のせいだ。君は何も気にしなくていい。僕のオッドアイと魔女の呪いのことは知られているから」
王様の挨拶の後、三人いる王子様達のダンスが始まった。広間にドレスの花が咲いたみたいでとても素敵だった。その後にセシル君と私も広間の端の方でダンスを踊った。うん。チェンバーズさんとの練習とセシル君のおかげでなんとか転んだりもせずに乗り切れた!集中すると緊張とかもしなくてすんでセシル君とのダンスは楽しかった。
「セシル君とダンスするの楽しい」
「そうか……それは良かった」
セシル君は微かに微笑んだ。
二曲ほど続けて踊った後、セシル君と私はやや広間の入り口に近い方へ来てしまっていた。休憩するために壁際に立っていたら、嫌な感じの囁き声が聞こえてきた。
「こんな場によくお出ましになられたこと……」
「恐ろしい……近くにいたら危険なのでは?」
「どうしてここへいらしたんだ?」
「森に引きこもっていてもらいたいものだな」
私は声の方を睨みつけた。
ちょっと!しっかり聞こえてるんだけど?!「誰」とは明言してないけどセシル君のことをディスってるのはわかってるんだからね?あいつらも拳でいってやろうかしら!でも物理だと強くないんだよね、私って。悔しいわ。それに人間に手なんか出したらセシル君に迷惑がかかってしまう。ああ、セシル君の顔がどんどん無表情になってく。私はセシル君の腕を握る手に力を込めた。
「ご一緒のご令嬢はどちらの方かしら?」
「きっとどこぞの未開の地から、野蛮な娘を見繕っていらしたのだろうな」
「確かに……。さすがにあんな厄介者では下級貴族の娘でも相手にはなってくれまいよ」
私はため息をついた。
今度は私?ほんと、暇なのね。ダンスを限界まで踊ってくればいいのに。そうすれば余計な噂話をしなくていいし、体力もつくし健康的でいいじゃない。ってあれ?手が離れて……?
「セシル様?!」
「っ」
セシル君が噂話をしてる貴族達に向かって行こうとしてる?!
「待って!」
私は慌ててセシル君を引き留めた。セシル君は被害者なのに酷いことを言われて怒るのは当たり前だけど、騒ぎを起こしたらたぶんセシル君の立場が悪くなっちゃう。やっぱりここは私が一発殴って……!
「おーやおやおや!この辺りは騒がしいうえに嫌な匂いがするね!」
「これは……!ハーヴェイ第二王子殿下!!」
燃えるような赤い髪、ヘイゼル色の瞳のかっこいい男の人が現れた!ええっと大丈夫。チェンバーズさんにちゃんと教えてもらってるから。この方はこのコスモス王国の第二王子様、ハーヴェイ殿下だわ。セシル君とは仲良しなんだよね。
ハーヴェイ殿下は周囲の貴族達には目もくれず、セシル君の元へ真っ直ぐ歩いて来た。
「やあ!セシル。久しぶりだね。息災で何よりだ」
「おかげさまで……」
「やあ!君が森で保護された渡り人だね!」
「わ、渡り人様……?」
「そんな……」
「他にもいらしたのか……」
「どうして黒令息とご一緒なのかしら?」
周りにいた貴族達が一斉にざわめいた。そんな、人を珍獣みたいに見ないで欲しいわ。そしてそれよりも!黒令息ってなによ?本当に失礼な人達!
「王子殿下におかれましてはご機嫌麗しく……」
挨拶……こうで良かったよね?ちゃんとできてるかな。セシル君に恥をかかせてないかな?周りは敵だらけみたいだし。
「そんなに堅苦しくしなくて大丈夫だよ。可愛らしいお嬢さん」
おお、聞いていた通りに気さくで優しい方みたい。それに精悍な顔立ちですっごい美形だ。セシル君とは正反対だけど、どちらかといえば私はセシル君派かな。
「セシルのパートナーになってくれてありがとう。さっきのダンス良かったよ!息ピッタリだった!」
ニコニコ笑って手をパチパチと叩いてくれた。良かった。付け焼刃だけど練習の成果を出せたみたい。
「さて。これ以降は僕達が君を保護しよう」
急に真面目な顔になってハーヴェイ王子殿下は私に手を差し、言い渡した。
「え……」
確かに王宮で保護をって言われてたけど、もう?私は隣のセシル君を見た。
「今夜はありがとう。楽しかったよ」
「セシル様、でも……」
「殿下と一緒に行くんだ」
セシル君の有無を言わせない雰囲気に私は二人に従うしかないと思った。今は。
ハーヴェイ王子殿下は私を従者の人に預けるとセシル君と一緒にどこかへ行ってしまった。私は控室のような部屋へ案内されて、そこで意外な人に再会した。
「あら、お久しぶりね」
突然かけられた声には聞き覚えがあった。え?誰?
「わからない?私よ」
眩いばかりのドレスに宝石、輝く金色の髪。たぶん第三王子様と一緒に踊ってたご令嬢だと思う。思うけど、この顔立ちって……!
「え?もしかして桃佳?ほんとに桃佳なの?」
遠目で見た時には分からなかったけど間違いない、目の前のピンクのドレスのお姫様のような女の子は桃佳だった。一体桃佳に何があったの?
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深紅 偽桃色




