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電車を降りたらそこは異世界でした  作者: ゆきあさ


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魔女の呪いと焼き芋

来ていただいてありがとうございます!




「あれ?もうカーテンを閉めちゃうんですか?」


舞踏会だの婚約だのと色々と混乱してる私をよそに、チェンバーズさんが居間の窓のカーテンを閉め始めた。今は午後三時過ぎで外はまだ明るいのに。チェンバーズさんは少しだけ微笑んで一礼すると居間を出て行ってしまった。薄暗くなった部屋にぼんやりと明かりが灯った。


セシル君と二人で残されたんだけど、すっっっごく気まずい……!こんな綺麗な男の子とダンスするとか将来けっこんとか!まるで小説の中とかみたいじゃない?この世界の男の子って何を話せばいいのかな?うちの弟妹達ならゲームとか学校とかテレビとか色々話せるのに。あ、そうだわ。話題、ひとつだけあった。でも聞いてもいいのかな?「昨夜(ゆうべ)のこと」なんて。


「僕は悪い魔女に呪われているんだ」

悩んで何も話し出せずにいたら、セシル君が驚きの一言を放った。

「まじょ……って魔女?呪われてるの?じゃあ、昨夜のあれって!」

「あれは魔女の使いだ。夜になると力を強めて窓や鏡を通って入ってくる」

ああ、だから窓やカーテンを開けるなって言われたんだ。そういえばドレッサーの鏡にも分厚い布がかかってたっけ。

「あいつらは僕の体力や心を削って、僕を恐れさせて諦めるのを待ってるんだ」

魔女がいるってことは魔法があるってこと?尋ねたらセシル君はあっさりと肯定してくれた。申し訳ないけど私はその事実にちょっとだけテンションが上がってしまった。魔法、私にも使えたりするのかな?


「魔女はセシル君を諦めさせてどうしようとしてるの?」

「僕を魔女のいる世界へ連れて行こうとしてる。僕の意思で行くように仕向けてる」

セシル君はそう言うと俯いてしまった。

「そんな!嫌がらせして言う事聞かせようなんて酷いわ!」

ストーカーや誘拐犯と変わらないじゃない!あ、だから悪い魔女なんだ。

「私がなんとかしてあげる!」

そういうのちょっとは慣れてるし、何よりこんなに小さな子を苛めるとかあり得ないわ!うちの弟たちがもしそんな目にあったらと思うとゾッとした。またアレがきたら今度は拳でいくわ!


「余計なことはするな!」

セシル君は顔を上げて立ち上がった。あまりの剣幕に驚いて私は何も言えなくなってしまう。

「君はただひと月半後の舞踏会に出席してくれるだけでいい。チェンバーズが言った婚約者のことは気にするな。渡り人は貴重だ。舞踏会が終わったら王宮に保護してもらえるように手配する」

「でも……!」

「それだけでいい。必要以上に僕に関わろうとするな!」

セシル君は一度も私の方を見ずに居間から出て行ってしまった。



そしてそれ以来セシル君は自分の部屋に閉じ籠って出て来なくなってしまった。







ドレス用の採寸、マナーの勉強、ダンスの練習、この国の歴史、王宮や王室のこと、クロックフォード侯爵家のこと、このお屋敷のことの勉強。スケジュールはぎちぎちだった。チェンバーズさんはその優し気な見た目とは裏腹にとっても厳しい先生だった……。

「まあ、なんとか様になりましたね。当日は私も付き添いますので、ダンス以外は助けて差し上げられるでしょうから、大丈夫ですよ。よく頑張られましたね」

そう言ってもらえた時は心底ホッとした。

「では明日は町へ行きましょう。好きなものを好きなだけ買い物してくださいね」

「え?町へですか?嬉しい!!」

チェンバーズさんから金貨を数枚渡された。この世界では結構な大金だと思う。

「え、こんなにいただいていいんですか?」

「頑張ってくださってるご褒美ですよ」

返そうとした私にチェンバーズさんはチャーミングにウインクした。


馬車で十五分くらいの所にある最寄りの町はとても賑わっていた。前に来た時にはあまり余裕が無くて気が付かなかったけど、あちこちにお花がたくさん植えられていて可愛らしい町だった。

「もうすぐ収穫祭があるんですよ」

チェンバーズさんが車窓から外を見て説明してくれた。荷車や店先には見たことがあるような野菜や見たことが無いような野菜をたくさん積まれてる。

「この時期は行商人が集まって来るので、買い物にちょうどいいんです」

「わぁ!そうなんですか!楽しみです」


「サツマイモだ……」

チェンバーズさんと数件のお店を巡ってから、噴水広場に帰って来た。この近くに馬車を停留する場所があるから、最後にここを見て帰ろうってことになってたんだ。行商する人達がお店を広げていて、この地方では普段見かけないものを色々と売ってるらしい。そこで私が見つけたのは山のように積まれた大きなサツマイモみたいな根菜だった。

「甘紫根ですね。ここより南の地方で穫れる根菜です。皮が分厚くて調理がやや面倒ですが、甘くて美味しいですよ」

チェンバーズさんがスラスラと説明してくれたから、お店のご主人も驚いてた。

「チェンバーズさんって博識なんですね!」

「いえいえ人より少しばかり長く生きてるだけですよ」

微笑んだチェンバーズさんは謙虚な人だぁ。


サツマイモ……。私はあることを思いついて大きな甘紫根をいくつか買い込んだ。

「リサ様は面白い方ですね。アクセサリーやドレスではなく野菜をお買い求めとは」

「えへへ、ちょっとやりたいことがあって」

ちなみにちょこっとアクセサリーも買ったよ。可愛いオパールみたいな石のついた髪飾りとかね。金貨で払おうとしたらびっくりされたけど。




森の中は針葉樹が多くて季節がわかりづらいけど、お屋敷の周りは別世界。赤や黄色に色を変えた木々がたくさんあって、お屋敷の周囲はかなり開けてる。私は箒を借りてきて落ち葉をかき集め始めた。

「秋といえばコレでしょ!」

そう!焼き芋だ!小さい頃田舎のおじいちゃんおばあちゃんの家で焼いてもらったお芋、美味しかったんだよねー。アルミホイルは無いけど、甘紫根は皮が分厚いって聞いたからいけると思うんだ。


「焚火の中に甘紫根を入れるんですか?」

どうやら焼き芋の文化はこの世界にはないらしく、チェンバーズさんは不思議そうな顔をしてた。火勢が治まってくるととてもいい匂いがしてくる。

「上手くいったかも!」

火傷に気を付けながら取り出して割ってみると、ほくほくした焼き芋になってた。皮は焼きナスみたいに真っ黒だったけど、中身は金蜜色でスイートポテトみたいに濃厚な甘さだった。


「これは……!蒸したり煮たりするよりも甘くなりましたね」

チェンバーズさんも一口食べて驚いていた。

「生のものを皮むきするより楽ですし、これは良いですね」

いつの間にか料理人のおじいさんや他の人も見に来ていたから、みんなに振舞ってみた。

「これは美味しいものですわね」

「まるでお菓子のようですわ」

おばあちゃんメイドさん達も喜んでくれた。


このお屋敷で働いているのは全部で五人。あと一人、雑用をしてくれてる少し若い男の人がいるはずだ。その人も呼んでこようとしたら、チェンバーズさんに止められた。

「彼はここをやめたんですよ」

「え?そうだったんですか?」

知らなかった。

「明日から別の者が参りますので、ご承知おきくださいね」

そう言ってチェンバーズさんは焼き芋を持って屋敷の中へ入って行った。


セシル君にも声をかけたんだけど下りてきてくれなかったんだ。ずっと閉じ籠ってばかりだと体に良くないと思うんだけどな……。お姉ちゃんはセシル君が心配だよ。セシル君の部屋を見上げると午後になったせいか、カーテンが固く閉じられていた。


ん?少しだけカーテンが揺れてるような……気のせい?





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セシルの部屋



「ご覧になっておられたのですか?坊ちゃん」

チェンバーズが部屋には行った時セシルは窓から離れたところだった。

「坊ちゃんはやめろ」

「私にとってはまだまだ坊ちゃんですよ。こちらをどうぞ」

チェンバーズはセシルの書斎の机のうえまだ温かい焼き芋の皿を置いた。

「なんだ?甘紫根か?町へ行ったのにそんなものを買って来たのか?」

普通の女性ならアクセサリーやドレスや甘い菓子を好むと思っていたセシルは訝し気に顔をしかめた。

「しかもご自分で料理をなさったんですよ。坊ちゃんもどうぞ」

セシルはテーブルに置かれた皿を見て更に眉をひそめた。

「料理?枯れ葉を集めて焚き火をしてただけだろう?」

「やはり気になってらしたのですね」

チェンバーズは楽しそうに笑っている。それが気に食わないセシルは皿の上の焼き芋に手を付けようとしなかった。

「とても美味しいですよ」

チェンバーズは素直じゃない主の為にそっと部屋を出て行った。



「すごく甘い……。それに何だか懐かしい味がする」

一人残された薄暗い部屋で、セシルは蜜色の光のかたまりのような甘紫根を口に運んだ。途端に何故かスッと肩から力が抜けて、不思議と安心したような気持ちになるのだった。もう一口もう一口と食べ進めていくうちにセシルは自然と微笑んでいたが、本人はそのことに気が付いてはいなかった。









ここまでお読みいただいてありがとうございます!



金蜜色

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