秋の庭園のお茶会と学園見学
来ていただいてありがとうございます!
「やあ!よく来てくれたね!二人とも!」
コスモス王国第二王子のハーヴェイ殿下はにこやかに秋の庭園に現れた。
このお城には庭園が四か所ある。春夏秋冬それぞれの季節に一番美しく見られるように植物や東屋なんかが配置されていて、今日セシル君と私が招待されたのがこの秋の庭園だった。うーん、赤や黄色やオレンジ色に色づいた木々や草花の庭園に真っ赤な髪の王子様が来て秋が完成した感じ。
立ち上がって出迎えた私達に座るように促して、王子様はまずセシル君に気安く挨拶した。二人はお母さん同士が親戚同士で幼い頃から交流があったから仲が良い。セシル君も笑顔は見せないものの気を許してる感じが伝わってくる。
「それにしても酷いじゃないか、リサ嬢。黙って帰ってしまうなんて」
突然、王子様が私の方を向いて声をかけてきて何故か私の手をすくうように握った。テーブルに並べられた色とりどりのお菓子を美味しそうだなーなんてボーっと見ていた私は完全に油断してた。
「殿下……」
セシル君が睨んだのと私がそっと手を引いたのはほぼ同時。
「ああ、ごめん、セシル。今は君がリサ嬢の婚約者だったね」
「……」
王子様が不敵に笑い、セシル君の表情が一層険しくなった。んん?何だか空気がピリついてる?この二人、仲が良いんだよね?
「その節はセシル様を守ってくださってありがとうございました。おかげさまでセシル様はご無事で婚約者のわたくしといたしましても安心しております。王子殿下におかれましては、魔女の襲撃で気絶なさっておられたようですが、お怪我がなかったようで何よりですわ」
私は予め用意してあった挨拶の言葉を笑顔で言い切った。セシル君の後ろに控えてるチェンバーズさんをチラッと見ると笑顔で頷いてくれてる。そしてサムズアップ!良かった、ちゃんと言えた!
「……うっ。あ、あはは、丁寧にありがとう。心配してくれてたんだね」
その後も和やかにお茶会は進んだけど肝心の話は全然出てこない。おかしい。今日はセシル君を守るための作戦会議だと思ってたのに、何故か王子様からは私にばかり質問が飛んでくる。
「王宮に滞在してるもう一人の渡り人様、モカちゃんだっけ?知り合いなんだって?」
「えっと、はい。友達です。たぶん一緒にこの世界へ来たんだと思います。途中ではぐれちゃったんですけど」
「そっかぁ。モカちゃんはルークが見つけたんだよねぇ。狩りの途中でさ」
王子様はつまらなそうに頬杖をついた。狩りってことは森の中でってこと?やっぱりあの後桃佳も電車を降りたんだ。ルーク様ってあの舞踏会の時に桃佳と踊ってた第三王子様だよね。
その後もどんな所から来たのかとか、家族はいるの?とか、色々質問されたけどなんとなく詳しく答える気持ちにならず適当に濁したりしてた。セシル君やチェンバーズさんには自分から話したけど、あまりよく知らない人に根掘り葉掘り聞かれるのは気が重かった。
「あの、本日お招きいただいたのは……」
「それでリサ嬢は何歳なの?」
セシル君を魔女から守るための作戦を立てるためですよね?そう尋ねようとしたけど、また質問されてしまった。
「十六歳だ」
王子様の問いに何故かセシル君が答えた。
「リサ嬢に聞いてるのに。まあいいか。セシルの一学年上か。それなら僕と同じ学年になるね。きっとクラスも一緒だ。いやあ、楽しくなりそうだね!」
「え?でも……」
てっきり私はセシル君と同じ学年、クラスになるんだと思ってた。だってセシル君と離れちゃったらボディーガードの意味が無い。
「あの、私はセシル様と同じクラスに入りたいのですが!そうでないとセシル様のおそばにいられませんから」
私の学園入学の目的は勉強の為じゃない。セシル君を守るためだから。
「…………」
「…………」
え?なんだろう、この間。
しばらくの沈黙の間、セシル君は庭園を眺めるように顔を背けてしまい、王子様ははまた頬杖をついて苦虫をかみつぶしたような顔をしてた。そして……
「……善処しよう」
王子様は全然善処してくれなさそうに呟いたのだった。
「よし!じゃあ、気を取り直してステラ学園を見に行こう」
王子様が突然立ち上がった。え?今から?もう夕方になるのに?慌ててセシル君を見たけどセシル君は諦めたように首を振り、ため息をついただけだった。この王子様とセシル君はずっとこんな感じだったのかもしれない。
「城からステラ学園は近いんだよ」
王子様の言う通り、お城と学園の敷地はほぼ隣接してる。ただしお城も学園の敷地も広いから歩くとなると結構大変なはず。そう思ったけど、なんとお城の敷地の中には学園の裏に直接行ける道があって、本当に五分くらいで学園についてしまった。
レンガ造りのアンティークな校舎。同じくレンガ造りの時計台。ステラ学園はなかなか素敵でお気に入りになった。夕方に近い時間だからか生徒の姿はまばらだけど、男子はブラウン女子はアイボリーを基調とした制服を着てる。私もあの制服を着るのね。ボレロにワンピースにリボンがついてて可愛い感じの制服。うーん、私にはあんまり似合いそうにないかも。桃佳になら似合うんだろうな。
「学園は学業はさほど重要視してないんだ。貴族の子女たちの交流の場としてたくさんのイベントがあるんだよ」
王子様の説明によると、本当に学業はついでらしく普通に授業を受けていれば、テストは受けるだけで進級、卒業できるらしい。そしてイベントは本当に多かった。
月一回のダンスパーティー(多すぎない?)
三か月に一回の校外学習(つまり遠足)
週一回の高位貴族持ち回り主催のお茶会(多すぎるよね?)
学期ごとの宿泊交流会(年一の林間学校や修学旅行で十分でしょ?)
さらに季節ごとにこの土地を守る神様のためのお祭りなんかもあるらしい(ホントにいつ勉強してるのよ……)
とまあ、こんな感じ。何なの?この学園。特に勉強が好きなわけじゃないけど、これじゃあ遊びにくるみたいじゃないかな?隣で同じように話を聞いていたセシル君もうんざりしたような顔をしてる。
突然、ピリッとしたものを感じた。視線。刺すような。
気になった方を見ると時計台の方、大きな木の下に白っぽい髪をツインテールにしたちょっと幼い感じの女の子がいる。制服を着てるからこの学園の生徒なんだろうけど、それにしても幼いような……?
「ねえ、セシル君あの女の子なんだけど」
私はセシル君の服の袖をそっと引いた。説明しながらちょっと先を歩いてる王子様に私の声は届かない。
「女の子?」
「ほらあそこにいる子。セシル君の知り合いかな?こっちを見てるから……あれ?いない?」
おかしいな。さっきまであの木の根元に立ってこっちを睨むように見てたのに。
「誰もいないようだけど」
「うん、そうだね。ごめんね。見間違いだったかも」
おかしいなぁ……。確かにいたと思ったんだけど。私はうーんと首を捻った。
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