第八話:銃士
紫電とガレスは国営鉄道大阪駅に降り立った。
無愛想な駅員に見送られ、大阪の街に入る。
「気を締めてかかれ」
紫電は短く、鋭くガレスに言った。
「おうよ」
数分も歩かないうちに街の惨状が目の前に現れた。地面は水でえぐられ、商店街は施設ごと破壊され、人気を感じない。
「ゴーストタウンかよ」
突如、銃声が響いた。紫電とガレスは音の方向に身体を向ける。
「ようこそ、世界の終点へ」
褐色の肌を持つ青年が壊れた店の中から現れた。
「この街は『クィーン』とかいう脳みその命令で潰される」
「貴様は何者だ?」
紫電は背中の刀に手をかけた。
「俺はジョーカー。お前の命を撃ち砕く男だ」
長い赤髪が風に揺れる。同時に巨大な銃を紫電に向けた。
「と思ったんだが、赤山のオヤジの思うがままに動かされるのは癪だ。今日は挨拶だけさ。次回からは隙あらば、コイツで狙撃するから精々用心するんだな」
ジョーカーは得物の銃をこんこんと叩いてみせる。
「赤山、というのはアカヒ新聞の総帥だったか?」
ガレスが二人の中に割って入った。
「ああ、そうだよ。鳩川紀夫と一緒に、この国を壊滅させたS級戦犯の一人さ。ま、今では小川とかと裏で結託して、北京民主共和国の広報新聞社に成り下がってるけどね」
からからとジョーカーは笑って答える。
「アンタは、ウィーゲル民族の生き残りだろ」
その言葉にジョーカーはわずかに身体を震わせた。
「どこで知った?」
「その褐色の肌さ」
「ふん、博識だな。それで?」
「北京民主共和国に滅ぼされた民族であるアンタが何故、そいつらの走狗のアカヒに味方するんだ?」
ジョーカーはそれを聞いて嘲笑う。高い声で。
「敵か味方か。そんなの関係ないね。俺は歴史に従順に生きるつもりは全くないし、誰かの思い通りに動くつもりも全くない!」
大きな声でジョーカーは言葉を紡ぎ続ける。
「数年前の日本では麻月とかいう有能な政治家がマスメディアによって、捏造報道され、無理やり退陣に追い込まれた。その結果出来上がったのが、鳩川とかいうスポンジ頭の世界史上稀にみる、お子様政権だった。それでも、メディアは金を貰っている所為もあるんだろうが、必死に持ち上げた。そして、国民を洗脳していった。気付けば、日本は壊滅し、北京民主共和国日本自治区になっていた」
一旦ここで呼吸を整えた。
「俺は歴史の流れを狂わせるために投じられた一石だ。だから、今の友愛バカを助けるつもりも、アカヒの赤山の指示通りに動くつもりもない」
紫電は静かに聞いた。
「貴様は復讐を考えたことはないのか?」
「ないね」
一秒もしないうちに答えが返ってきた。
「それは俺の願いじゃない。だが」
ジョーカーは愛銃を天に掲げ、引き金を引いた。鼓膜をつんざく銃声が誰もいない街に響き渡る。
「俺はお前を倒すために今はいる。それだけは忘れるな」
「貴様は人の思い通りに動くのが嫌いなのではなかったのか?」
「そうだ。正直、鳩川や小川では今のお前は抑えきれない。だから、俺がお前を倒すのさ。『クィーン』とかいうのもそう宣言してたしな、キムとかいうデブにだが」
「よかろう、いつでもかかってくるがいい」
紫電は口元に笑みを浮かべて告げる。
「ただし、相手を殺すというのなら、相手に殺される覚悟もしておけ。貴様が俺を殺すというのなら、俺は貴様を殺すつもりで動く」
鋭い視線をジョーカーに放った。
「いい殺気だ」
「ところで、貴様は『クィーン』に会ったことがあるのか?」
紫電は刀から完全に手を離した。
「ああ、あるよ。一年ほど前だけどな」
「詳しい話を聞きたい」
瞳は穏やかなものに戻っていた。そして、口調も。
「俺はキムとかいうブタ野郎の下で仕事をしていた時期があった。その頃、一度だけ護衛も兼ねてジェノヴァに行ったことがある。そこで会ったんだ」
「何故入れた? 『クィーン』のいる空間に入るには『鍵』が必要という話だが」
紫電は両目を瞑って、腕を組む。
「お前に似た黒装束の男が『鍵』だった」
紫電ははっと両目を開いた。
身体は震えた。歯はかちかちと音を立てている。両足は少し痙攣している。
「そうだったのか」
一筋の涙が頬から落ちた。そして、それは誰にも分からなかった。
こんばんは、Jokerです。
これも修正して再投稿します。
ジョーカーの口調が第二部と異なっていたので。
ではまたお会いできることを祈りつつ……