エピローグ
『クィーン』消滅事件から数ヶ月が経った。
人類は『クィーン』に頼らない生き方をすることを余儀なくされたのである。
自ら考え、自ら行動する。人間にとって、これほど難しいことはないのだろう。
たとえるなら、答えのない問いを延々と解き続けることに似た苦しみがある。出した答えが本当に正解なのか、間違いなのか分からない。それでも出した答えに頷いて進むには勇気がいる。だからこそ人間は不安に陥る。
誰かの言う通りに動いていれば、楽に生きることが出来たはず。そんな考えの人間も中にはいただろう。
それでも、人類は自らの頭で考え、自らの足で歩いていくことを選んだ。
荒廃した世界を、大戦で疲弊した世界を立て直すべく、人類はまた一歩一歩歩いていく。
事件の後、紫電を見た者はいなかった。
『クィーン』との一騎打ちで死んだと考える者。今も生き延びてどこかで暗殺稼業をしていると考える者。様々な者が紫電のその後を追ったが、行方は遥として知れない。
唯一ジョーカーだけは紫電の最後を見ていた。
崩れ落ちた天井を一人で支え、仲間を助けた姿を。
マスターとグレンはジョーカーに紫電の行方を尋ねたが、ジョーカーは全くそれに答えず、去っていった。紫電を超えてみせるとだけ言い残して。
事件は風化せずに後世に語り継がれていった。
人類が人類の歴史を人類以外に委ねた未曾有の愚かな事件として。
事件を語る中で紫電の存在も語られ、彼は昔話と聖書に喩えられて『種蒔く者』と呼ばれるようになった。
『種蒔く者』は人類が再び自ら歩くための種を蒔いたのだ、と。
事件から一年後、ドイツに一人の青年が現れた。
黒の総髪、獣のように鋭い瞳。背中には忍者刀。そして、今は誰も知らない暗殺組織の蒼い忍び装束を纏った青年だった。
青年は『ギルド』と書かれた二階建ての建物に入る。そして、受付の娘に言った。
「ここで仕事があると聞いた。手っ取り早く話してもらいたい」
青年の額には大きな傷がある。両手にも。
青年は娘から名前を聞かれ、少し逡巡した後こう答えた。
「俺は……暁。ジャパニーズだ」
こんばんは、Jokerです。
これで第一部完結です。
皆様、お読みいただきありがとうございました。
第二部『影追う者』もよろしければ是非読んでください!
ネタバレなど諸々は活動報告にて。
ではまた次回作でお会いできることを祈りつつ……