第二十三話:終結
そこには燃えるような髪を持つ青年がいた。手には得物の銃を持っている。
「ジョーカーか。何しに来た?」
紫電が低い声で言うと、それに答える。
「世界の変わる場面を見に来た、とでも言っておこうか」
「……邪魔だ。消えうせろ」
「そう言われて引き下がるとでも思うか?」
「くだらん」
紫電は受け取った五つのボタンを見た。
赤、青、緑、黒そして白の五つの色がボタンに塗られている。
「サア、ドレヲ選ビマスカ? 正解ハ一ツダケ。残リは核ノ起爆装置デス」
「急かさずとも選んでやる」
紫電は迷わず黒のボタンを押した。
しばらくの静寂が場を支配する。
「……偶然デショウカ。トリアエズ、地球消滅ダケハ回避シタヨウデスネ」
「とっくに調べはついていた。貴様はこの世界を憎んでいる。憎い人類を破滅させたいと考えているのだろう。それを逆手にとって、自らの嫌いな色を選ばないように仕組んだのだろうが。さて、そろそろ幕といこうか」
部屋の崩壊はまだ加速し続ける。無機質な地面が大きく揺れ始めた。
「地球ハ守ラレヨウトモ、アナタハ守レハシマセンヨ。紫電」
「構わん。俺は人を殺めすぎた。今更己の身など省みてはいない」
あくまで静かに、淡々と紫電は喋る。
「俺は俺の任務さえこなせればいい。そして、それが俺の願いだ」
「アナタノヨウニ、考エル『人類』ガコレカラ必要ナノカモシレマセンネ。今マデハ、てれびヤますこみニ思考ヲ預ケル人間バカリデシタカラ」
「喋りすぎたようだな」
「私ノ負ケデハアリマセン。引キ分ケデスネ」
「いや、アンタの負けだよ」
ジョーカーは瓦礫の間隙を縫って『クィーン』を的確に撃ち抜いた。
培養液がだらだらとこぼれ、機械化された脳みそが崩れ落ちていく。
「ガガガ……じょー……かーデシタカ。コンナコトヲシテモ無駄……無……」
「うるせえよ、脳みそが。人間様の意地を見せてやる!」
「私ノ……予測デ、ハ……脱出可能率……ぱー……んと」
「計算された可能性なんざ、いくらでも変えることが出来る。過去は変えられないけど、未来は変えられるんだぜ?」
「……ガガ……精々、アガイテ……ク……」
「ジョーカー。そろそろ脱出だ」
「分かってるよ」
部屋はもう原型をとどめていない。
紫電とジョーカーはもうすぐ動かなくなる『クィーン』に背を向けて走り出した。
「トリアエズ……我ガ……イ……達成……。コレデ……眠リ……ル」
二人は教皇庁入り口目指して全力で走り続けた。
途中の落下物でいくつか傷を負った。
「もうすぐだな」
「気を抜くな。貴様が死にたくなければな」
その間にもまだ轟音と倒壊は続く。
紫電とジョーカーが入り口の前にたどり着いた瞬間、天井が全て崩れ落ちてきた。
「やべえ」
ジョーカーは立ち止まり、目を瞑った。
「とっとと走れ」
落ちてきた天井を両手で支えている紫電がいる。手からは血を流し、顔からは脂汗が出ている。
「すまない」
「口を開くな。走れ」
「アンタはどうするんだ?」
「俺はこれでいい。目的も果たした」
「生き延びろよ! 死んで終わりなんて認めねえからな!」
「人の心配をしている暇があったら、とっとと貴様は走れ」
口調に力がない。
「……恩に着る」
ジョーカーは一瞬だけ振り向くと入り口に向かって駆け出した。
そして、ジョーカーが教皇庁から出た瞬間、建物は完全に倒壊した。
こんばんは、Jokerです。
今日は買い物に行って来ました。
これで第一部『種蒔く者』は完結です。
まだエピローグありますが。
長い話にお付き合いくださり、ありがとうございました。
ではエピローグにて。