第二十二話:選択
派手な爆音が響き、轟音とともに教皇庁は崩れ始めていた。壁に大きな亀裂が走る。
「……自殺でもするつもりか」
「イイエ」
「俺を殺すためか?」
「イイエ」
「では何のために?」
「ぜろへ帰ルタメニ」
紫電にグレンから通信が入った。
『紫電、ノア計画が行われた地点の地下核兵器が作動しはじめた。全部が発動すれば地球ごと吹き飛ばしかねない!』
「これが貴様の計画とやらか」
「ソウデス。私ヲ必要トスル世界ナド消エテシマエバイイ」
「狂ったか?」
「イイエ。人類ヲ滅ボスノハ人類ダトイウ真理ニタドリ着イタダケデス。他ノ何デモナイ。人ヲ消スノハ人ノ定メナノデス」
紫電は目を細めた。
「そうかもしれん。確かに貴様の言うように人間は愚かで欺瞞に満ちていて、貪欲で……それこそ貴様からすれば救い様がないのかもしれん。だが、人間を辞めた貴様に人間として俺が言っておいてやる。たとえ、滅亡が定めだとしても、俺たちはその定めとかいうヤツにさえ逆らうだろう。それが人間の強さだ」
「ソレコソ欺瞞デス」
「どうだかな。それを示すのはこれからの人類の歴史だ。貴様ではない」
紫電は刀を振り上げた。
「おしゃべりはここまでだ。貴様を殺せば全て片付く」
「ソウデスカ。アナタノ仲間ガセッカク知ラセテクレタモノヲ無駄ニスルトイウノデスカ」
「何のことだ?」
「私ニコレ以上刃ヲ向ケレバ『のあ計画』デ配置シタ全テノ核兵器ヲ作動サセテ地球ヲ滅ボシマス。人質ハ人類全員」
紫電は刀を背中の鞘に収める。
唇は少し震えていた。
「ヨイ選択デス」
「ふん」
「折角デスカラ、アナタニモ勝機ヲアゲマショウ」
『クィーン』は五つのボタンを出した。
「コノ内、一ツダケ核兵器ヲトメラレルぼたんガアリマス。ソレヲ押セバアナタノ勝チデス」
「この圧倒的に有利な状況を投げ出すか?」
「……」
「まあいい。貴様の狙いが何であろうと、道は一つしかなさそうだ。ならば、その賭けにのってやる」
教皇庁の崩落はどんどん進む。
庭園から見える建物は半壊し、なおも加速して崩壊し続ける。
「アト、十分モスレバ完全ニ倒壊スルデショウ。時間ハソレマデデス」
「そんなに貴様は嬉しいか?」
「ハイ?」
「貴様は先ほどから嬉しそうだな。このままでは貴様の腐った脳みそごと潰れて死ぬ。そんなに死ぬのが嬉しいか?」
答えはなかった。
紫電と『クィーン』の間に巨大なコンクリートの塊が降ってきた。
さらに大小のコンクリートががらがらと落ちてくる。
紫電と『クィーン』の間の空間が埋まっていった。
「コレデ、斬撃を放ツコトハ出来マセンネ」
「ふん。それならそれで手はある」
紫電が手榴弾を取り出した。
「待てよ。俺を差し置いてるんじゃねえ」
予期せぬ来訪者が崩れ落ちる部屋に現れる。
今日二つ目です。
ではまた最終回にて。