第二十一話:ゼロ
「どく気はないよ」
刀を地に突き立てて、杖代わりにしながら雷電は震える足で立ち上がった。
「……それもよかろう」
紫電は再度刀を構える。
「構えろ、雷電」
雷電も刀を構える。
「「いくぞ!」」
二人の声が同時に響いた。そして二人は獲物に向かって駆け出した。
激突の瞬間、一瞬緑色の光が煌く。それが消える頃には勝負はついていた。
「……終わりだ」
雷電は赤色に染まり、仰向けに倒れている。胴には深い傷が描かれていた。
「やっぱ、り……敵わないか」
口からおびただしい血を吐く。
「紫電、は……何故そこまで己を信じる、ことが、出来る? 僕は、これまで『クィーン』の、ためにしか動けなかった」
紫電は刀を納めて答えた。
「俺を救えるのは俺だけだ。俺の問いに答えられるのも俺だけだ。ただそれだけのこと」
「はは、だから僕は……負けたのか。零の技、も形無しだ」
紫電は必死に呼吸をする雷電に近づいた。
「だが、貴様が『考えて』技と信念を磨いていれば……俺は貴様に負けていたかもしれん。技のキレは貴様には及ばないだろう」
雷電は苦しそうに息を吐いた。
「ど、うかな」
「戦友が言うんだ、間違いない」
「さ、て。お別れ、だね」
息も絶え絶えになってきている。
「ああ。安らかに眠れ」
紫電は雷電から離れる。数秒間祈ると、背を向けて歩き出した。
「さ、よ……う……な……種蒔く……」
最期の言葉を吐くと、雷電は少しだけ微笑んで眠った。
庁外では鳩川が拘束されて、護送されていた。
「ぼぼぼぼ、ボクちんに何をするんだぁ! ボクは友愛帝国皇帝はとかわのりおだぞぉ!」
グレンはしかめ面している。
「マスター、何でこんなヤツが日本の首相してたんですかね」
「知らんよ。選んだ国民に聞いてくれ」
「ボクの愛を受け入れるんだ。そしたら友愛の世界へ旅立つことが出来るんだぞぉ!」
「うるさい。日本まで送ってやるから裁かれろ。後は知らん」
グレンとマスターは鳩川を空港まで送り、日本軍に引き渡した。
「ボクは無罪だぁ! 脱税も何もかも選んだ国民が悪いんだぁ! ボクは愛の伝道師はとかわのりお六十三歳だぞ! ママーー!!」
グレンとマスターは苦笑いしながら、泣き喚く六十三歳児を見送った。
「紫電の方もうまくいけばいいんですけどね」
「大丈夫。あの若者に心配はいらぬよ」
疲れた表情で二人は空港を後にした。空は快晴。争いが続く混迷の大地にいるとは思えない風景だった。
紫電は『クィーン』に向き合った。
「紫電、マサカココマデヤルトハ思イマセンデシタ」
「ゴタクは聞き飽きた。始末する」
脳みそしかなくなった天才科学者に向かって、紫電は歩いていく。
その手には『戒正』を握り締めていた。
「すべての元凶、とはいうまい。人類が選んだ道でもある。しかし、大戦を起こし、俺たちを滅ぼそうとしたことは許せん」
「サスガじゃぱにーずダケアリマスネ。アノ時滅ボシテオケバヨカッタノデショウカ」
「問答をするために来たわけではない。……俺は貴様を殺すためだけに来た」
感情が感じられない電子音声はなおも続く。
「紫電、疑問ニ思イマセンカ? 何故私ガ『のあ計画』ヲ行ッタノカ」
「……」
紫電は沈黙で答える。
「アノ計画ニハモウ一ツ隠サレタモノガアッタノデスカラ」
電子音声は続けた。
「紫電、ココニハ誰モイマセン。ダカラコソ、教エテアゲマショウ。我ガ計画ハぜろ二帰ルコトヲ目的トシテ当初カラ作ラレタモノダッタノデス」
「ゼロに帰る、だと?」
「最モ純粋デ最モ自然ナ形ハドンナ形ダト思イマスカ? ソレハぜろデス。私ハアナタガ鳩川ヤ雷電ヲ倒シ、ココマデ来ルコトヲ予見シ、ココニ最後ノ策ヲ入レマシタ」
『クィーン』が喋り終わると、轟音が鳴り響いた。
こんにちは、Jokerです。
今日で修正した三話分をアップする予定です。出来れば。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……