第十九話:決戦
紫電が日本に到着して数日。
小川の行方不明が北京民主共和国軍の動揺を誘い、日本軍は勝利を収めた。
そして、独立宣言を行った。ここに新しく日本は独立国として再び世界の表舞台に現れる。
日本軍はそのまま『クィーン』討伐へと矛先を変えた。
紫電は終戦を確認すると、日本軍が移動するより先にジェノヴァに戻る。鳩川たち友愛教団がジェノヴァで『クィーン』相手に戦争を仕掛けているというのである。
「マスター、グレン。緊急で俺は今から『クィーン』を直接倒しに行く。機械兵どもに押し切られぬよう防衛に努めてくれ」
紫電は携帯で連絡を取ると、すぐに教皇庁に入り込んだ。
「頼むぞ、『戒正』。倒れるときは一緒だ」
相棒に一声かける。
教皇庁の外庭では既に戦闘が始まっており、機械兵と鳩川軍の兵士たちが銃撃戦を繰り広げている。市民の憩いの場は踏み荒らされ、綺麗に植えられた花はぐしゃぐしゃに散らされている。
紫電はそれらを一切無視して、庁の内部に駆け込んだ。
行く手を遮る機械兵を一閃し、疾風のように走り抜ける。
数分走ると大きな扉にぶち当たった。扉は開いている。
「やあ、紫電。待っていたよ」
そこに雷電が立ちふさがる。
「貴様か。どけ」
「ああ。どくよ。ただ」
雷電は一呼吸置いた。
「これは偉大なる指導者の命だ。教皇庁最深部に来い」
「いいだろう。鳩川もそこにいるんだろう?」
「ああ、鳩川紀夫も通せとの命令だからな」
雷電は開け放たれた扉を指し示す。
「さあ、入るんだ」
雷電と紫電は扉をくぐった。扉は開け放たれたまま。
紫電は雷電に案内され、庁内にあるエレベーターに乗った。
最深部には鳩川たち友愛教団軍がいた。
最深部は広大な部屋だった。普通の家ならば五つは入りそうな空間である。天井は地面から十メートル以上離れている。
そして何より特徴的なのは地面以外の部屋自体が全て機械で作られていることだ。人間の臭いを一切感じさせない。その空間に『クィーン』は佇んでいた。周囲には機械兵は一体もいない。
「追い詰めたぞ、『クィーン』。ボクの愛の前に滅びるのだ」
鳩川は上等なスーツ姿で戦場に来ていた。五人の兵士たちはマシンガンを世界最高の電子頭脳に向けている。
「愚カナ……鳩川紀夫、後ロヲ見ナサイ」
鳩川の後ろにある扉から紫電と雷電が現れた。
「ほう、確かに鳩川がいるな。それに……」
紫電は二つの瞳で部屋の奥に佇む物体を見た。
人の頭大の大きさで、脳みその形をしている。それはフラスコの中で緑色の培養液に浸されており、一定の間隔で鼓動していた。フラスコには十本程度のコードが繋がれている。
「俺の獲物もいるようだ」
ありったけの殺意を込めて口を開く。
「俺は紫電。最後の任務だ。貴様をこれから殺す」
「ハジメマシテ、ジャパニーズ……『羅生門』ノ最後ノ生キ残リデスネ」
紫電は挨拶を済ませると、鳩川たちに目を向けた。
「だが『クィーン』を殺す前に貴様たちから斬るとしよう」
紫電は『戒正』を抜く。緑色に染まった刀身を相手に向けて構えた。
「雷電。邪魔ハシナイヨウニ」
電子頭脳は部下に指示を出す。
「はっ」
紫電は鳩川たちに詰め寄った。
「ぼ、ボクは地上を愛の楽園にするために立ち上がった友愛教団教祖鳩川紀夫だぞ」
「知らん」
わたわたと子どものように鳩川は慌てる。
「邪魔な人間どもを一掃して愛のある優しい人間だけの世界を築くんだ。ボクならそれが出来るんだ」
紫電はそれを聞いて嘲笑う。
「貴様はそんなことが出来るとでも本気で思っているのか?」
「ボクはお前にも勝てる最強の軍隊を作っている。鳩川友愛研究所でね。これを量産すればお前なんて幼稚園児以下なんだぁ!」
「それはアルティマティウムという物質だったな。体内に埋め込んだ人間の筋力や思考力、戦闘力を極限まで引き出すという」
「そうだ。これさえあればボクは人類を新しい愛の世界へと導いていける。愛だけの愛による愛の世界を」
「……貴様は人間全てが貴様の都合のいいようになるとでも思っているのか? 貴様の友愛とかいう下らん妄想のためにどれだけの命を、どれだけの未来を奪ってきた? どれだけ日本を潰し、民を虐げ……俺の戦友たちを殺してきた?」
「ボクの友愛革命のための生贄なんだ。犠牲が必要だったんだぁ!」
「なら、貴様が最初に死ねばいい。それほどまでに生贄が必要というのならばな!」
紫電は一瞬にして鳩川たち全員を切り伏せていた。声を上げる暇すらなく、狙われた者達は地に伏せる。
全員が倒れているのを確認すると、『クィーン』に再び目を向けた。
「茶番は終わりだ。次は貴様だ」
「さすがに雑魚では傷ひとつ与えられないか」
雷電は微笑んで太刀を抜いた。
「偉大なる指導者を倒したくば、僕から倒すんだな」
「いいだろう。裏切り者を生かしておく道理もない」
こんばんは、Jokerです。
最終決戦開始です。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……