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種蒔く者  作者: 星見流人
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番外編:幼き瞳は何を見る?

 俺は日本で生まれたごく普通の子どもだった。普通に笑い、普通に暮らし、普通に学校に通い、普通に友達を作った。あの時までは。

 日本は、というより俺の家族は『クィーン』の使いとかいう連中に殺された。あれは俺がまだ十歳の頃だったと思う。それから、俺は暗殺組織に入った。力が欲しかった。すべてを圧倒する力、すべてを守る力、誰にも屈さない力。その頃の俺は多分力に取り付かれていたんだろう。力さえあれば、といつもいつも思っていた。


 その日はいつもと変わらぬ蒼い空だった。いつものように人を狩り、血を浴びて、組織に戻る。そんな日の夕方だった。

「紫電、君は今日から『羅生門』特務部隊のつるぎ部隊への入隊が決まった」

 俺に忍者刀『羅刹』の使い方を教えてくれえたゼロ師匠が俺に告げた。師匠も俺と同じ日本人で甲賀卍谷衆忍者の末裔なのだそうだ。漆黒の肩までかかる長髪、漆黒の瞳、そして黒装束。全身を黒一色で固めた服装は師匠のトレードマークだ。年齢は三十四で既婚だとか言っていた。はじめは俺も変なオヤジだと思ったもんだ。

「はい」

「どうした? あまり嬉しそうじゃないな」

 優しい瞳を俺に向けて微笑む。

「いえ、あまり実感が湧きません。まだ俺は十代半ばのガキに過ぎませんから」

「しかし、そのガキが全科目トップなのだ。技術も精神力も、申し分ない」

「ありがとうございます」

「しかも、剣部隊の隊長は俺だったりするんだなこれが」

「はあ?」

 俺は訝った。

「師匠は特務部隊なんて柄じゃないと思いますが」

「何を言う? 俺こそが隠密中の隠密ではないか?」

 からからと笑う、その姿からは組織一の暗殺者の面影はない。まるでどこにでもいる父親のような感じだ。

「でも、今度の任務はかなり厄介なんですね」

「分かるか」

 一瞬だけ師匠の瞳が獰猛なものへと変わった。あれが俺たち『人を狩る者』の目。

「今度ウィーゲル地方への仕事が入ってな。要人暗殺なんだが、国家レベルで影響力をもつ政治家らしいのだ」

「それで師匠が抜擢された、と」

 俺は一抹の不安を感じていた。それは虫の知らせというやつかもしれない。

「ああ。それで、今『戒正かいせい』という新しい武器を開発しているのだが、その武器をお前に譲ろうと思ってな」

「組織が開発したものを俺みたいな新米に与えていいんですか?」

「もちろんだ。お前は俺の跡を継いで世界一の暗殺者になる男だからな」

 師匠の言葉は信頼できる。本当に思ったことしか口に出さないからだ。そう考えると、ちょっとは自分に自信を持ってもいいような気がしてきた。

「ありがとうございます。で、そのウィーゲル遠征は俺も行くんですか?」

「いや、お前は留守番。大事な後継者を危ないところへは行かせられんよ」

「はあ」

「不満か?」

「いえ、任務とあらば」

「不満というわけだな」

「正直に言えば、そうなります」

 師匠は少し考えている様子だった。言葉を選んでいるのかもしれない。

「紫電、お前にはただの暗殺者にはなってほしくないのだ」

「というと?」

「己の目で物を見、己の頭で考え、行動する人間になってほしい」

「何故ですか? 俺の思考力に問題があるとでも?」

「いや、そうじゃないんだ。俺たちは特に依頼者の意向に従う。だから、つい何も考えずに依頼をこなすことだけを考えるきらいがある。お前にはそんな人間になってほしくないんだよ」

 整った顔で師匠は俺に向かって、はっきりと言った。

「俺は、いや俺たち日本人は『考えなかった』が故に、独立国としての主権を失い、北京民主共和国の属国に成り下がっている。それはもちろん、鳩川や小川、カンガンスなどのせいでもあるだろうが、何よりの原因は国民一人一人が自分の頭で物を見て、考えなかったところが大きいと思うんだ」

「確かに、アカヒ新聞や毎朝新聞、各種テレビ局に誘導されていたこともありましたから」

「だから、これから先に生きていく上で俺たちに最も欠如しており、必要なものがこれかだから俺はここでお前に伝えておく」

「今生の別れみたいなこと言わないでください」

 師匠は夕焼け空を仰いだ。

「いや、こんな仕事だからいつ死ぬか分からない。死んでからではお前とは言葉を交わすこともできない。だから、言える時に言っておく」

 そしてまたにこりと顔をほころばせた。優しい父親が子どもを見守るように。

 突如、師匠の携帯が鳴る。

「はい、こちら零です。はい、これよりウィーゲルに移動します」

 作戦開始らしい。師匠の顔つきが変わる。いつもの優しい目つきから獲物を狩る猛獣の瞳へ。

「紫電、後を頼む」

「お引き受けできません」

 俺は子どもだったんだろう。何故か行かせたくなかった。

「お前は俺が認めた男だ。大丈夫、お前は充分強い」

 師匠は駆け出すと飛行場に停めてある飛行機に乗り込んだ。

 それから二週間後、師匠がウィーゲルで戦死したとの知らせが届いた。特務部隊はこれを機に解体、俺は一般暗殺部隊へ異動になった。

 『戒正』の設計図も同時になくなっており、組織では『戒正』の開発と量産を無期限停止とする措置を取ることになった。俺としては残念だが、仕方がない。何よりも、師匠がいない日々が俺に虚無感を与える。

 もう誰も俺と口を利かない。もともと無愛想なのは承知しているが。

 そんな時だった。

「やあ、君が紫電?」

 テノールボイスが休憩所の椅子に座って俯く俺にかけられた。

「貴様は誰だ」

 目の前には女性と見紛うくらいに整った顔の青年がいた。蒼い忍装束、首に白い防護用マフラーを巻いている。俺よりも年上か?

「はじめまして、僕は雷電。次の任務から君のパートナーをつとめることになったんだ」

 笑顔で自己紹介して、雷電は細長い太刀を見せる。

「それが貴様の得物か」

「うん」

 なんだか調子が狂うな。こいつは暗殺者に向いていなさそうだ。

「さ、行こうよ。今回の任務はアメリカ高官の抹殺とアメリカ特殊部隊の壊滅。楽しめそうだよ」

 俺はその時、ヤツの表情を見てぞくりとした。

 まるで人殺しを楽しむように、言ってのける。

 同時に整った顔は冷徹な殺人人形の顔になる。一切の感情が読み取れない。

「貴様、もしや……」

「そう、君の思った通りだよ」

 雷電はくすくすと子どものように笑う。

「さ、行こう? 僕たちがこれから戦うわけじゃないんだからさ」

「ああ」

「でも、僕たちが戦ったら、どっちが強いかな」

「さあな。興味がない」

「ま、楽しくやろうよ。ほら、スマイルスマイル」

「任務で笑えるか。行くぞ」

「ま、待ってよぉ」

「知らん」

 俺の師匠がいない日々はこうして始まった。

 いつか、こんな日々が壊れることをどこかで危惧しながら。

 いつか『クィーン』を倒すと心に秘めながら。

こんばんは、Jokerです。


今回は番外編をお送りしました。

少年時代の紫電のお話です。


これもまた第二部への伏線張ってあります。

どこか見抜けましたか?


ではまた次回お会いできることを祈りつつ……

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