第十五話:帰還
「雷電、コレガ新シイ刀『正宗』デス」
『クィーン』は召使のAIロボットに刀を持たせ、雷電はその刀をロボットから受け取った。
刀は刃渡り一メートル程度と長い。柄はシンプルな造りだが特殊金属を使っており、頑丈で軽い。刀身は白銀に輝いており、切れ味の鋭さを表していた。
「ありがとうございます」
雷電は頭を下げて、それを黒い鞘に収める。
「ソレハ太陽光エネルギーヲ吸収スル機能ガアリマス。紫電の刀『羅刹』ニハえねるぎーヲ放出シ、目標物ヲ両断スル機能ガアリマスカラ、ソノ対策デス」
「偉大なる指導者よ、一体あなたは何を目指しているのですか?」
「ソウデスネ。アナタニハ教エテモイイデショウ。ぜろニ帰ロウトイウコトデス」
「ゼロに帰る、ですか」
「人ニハイツカ帰ル場所ガアリマス。私ハ、ソコヲ目指シテイルノデス」
『クィーン』はゆっくりと話し終わると、それから言葉を紡ぐのをやめた。
紫電がウィーゲルから去ろうとしているときに、住人たちから武器の設計書が落ちていると知らせを受けた。
千崎たちが落としたものだろう。設計図を懐にしまいこみ、紫電は再度礼を述べてジェノヴァに帰っていった。
小川は撃たれた怪我を回復させつつ、日本へ送る兵を取りまとめ、自ら指揮を取るための準備を行っている。
人民服を着込み、諸刃の剣を太い腰に差した。
鳩川は友愛教団本部を日本に置き、信者と軍備を拡張している。
それぞれがそれぞれの思惑を持って動いていた。
善か悪かは別として、それぞれの願いをかなえるために。
何が出来るか、何をしたいか、何をしようかとそれぞれが考えながら。
程なくして日本で大規模な戦闘が始まった。日本人は日本自治区から義勇軍を結成し、北京民主国軍に戦いを挑む。同時に日本にいた友愛教団も北海道で蜂起し、北から北京民主共和国に攻め入った。
ジェノヴァでは『クィーン』の機械兵たちとレジスタンスが全面抗争に入る。機械兵は1万体が動員された。
レジスタンスは機械兵の物量で圧され、徐々に追い詰められていった。
そんな時に紫電はジェノヴァに帰り着いた。
「グレン、帰ったぞ」
紫電はアジトに戻るなり、無愛想にそれだけ告げる。
「いい所に来た。今戦闘が始まっているんだ。手を貸してくれ」
「何だと?」
「機械兵どもが相手だ。紫電なら楽勝だろ」
「問題ない。殲滅する」
言葉通り、一日でいとも簡単に紫電は機械兵を全滅させた。漆黒の忍び装束はかすり傷ひとつついていない。しかし、刀は刃がぼろぼろに欠けていた。
戦いが終わると、既に夜も更けていた。紫電はウィーゲルで手に入れた設計書をアジトの奥でコーヒーを飲んでいるマスターに見せた。
「マスター。この設計書には未知の武器設計図が書かれている。これを製造できないか?」
「やってみよう」
戦いの連続と極度の緊張感のせいか、暖炉の炎に照らし出されたマスターには白髪が増えている。
「小川と鳩川は離別し、戦闘状態に入っている。機械兵さえ潰せば、『クィーン』も大規模な行動は出来ぬだろう」
「ああ。我々は今世界中に危機を呼びかける計画を進めている。全世界の人々がこの危機を知り、立ち上がれるように」
しゃがれた声で老けたマスターは言った。
「そうか」
「我々に何が欠けていたのか。何が過ちだったのか。それがようやく分かりかけてきたような気がするよ」
瞳は遠くを見ている。
「そうか」
「多分、我々は何かを恐れて『考えて』いなかったんだと思うよ。成功するか、失敗するかは別として考えること自体に意味がある。考えて考えて、失敗したとしても何故失敗したかを理解することが出来る。そして、それを成功へとつなげればいい」
「ところで、世界中に危機を呼びかけるとかいったが」
「ああ、ヴェネツィアにダイナスティというタワーがある。そこは全世界に電波を発信できるところなんだ。そこを占拠、確保して世界に呼びかける。もちろん、日本へも届く」
「タワー制圧の任、俺がやろう」
紫電は静かに少しやつれたマスターに宣言した。
「いいのかね? あそこはカンガンスが今北京民主共和国軍司令官として占拠しているのだが」
「俺の敵ではない」
いつものように簡単に言ってのける。
「では、武器開発よろしく頼む」
紫電はふらりとアジトから出て行った。夜の風が空気を切り裂く音が少しだけ漏れてきた。
こんばんは、Jokerです。
早く第二部を書きたいので急いで修正して載せます。
といってもあんまりこれは変わっていないのですが。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……