番外編:レプリカ
「ねえ、紫電」
雷電は透き通った高い声でゆっくりと紫電に話しかけた。雷電は立って、ベッドに座る紫電をじっと見つめている。
場所は『羅生門』本部の特別医療室。最先端の医療器具が並べられており、紫電たちアサシンの治療をする場所でもある。白い壁に白いベッド。室内は白ばかりの物が並べられている。
「僕、『作られた』んだって」
紫電は返事を返さない。
「僕は『クィーン』がこの組織のために作り出した人間なんだって」
紫電は黙り続ける。
「僕は一体誰なんだろう? どこから来て、どこへ行くのだろう?」
答えは無い。
「僕はどうすればいいんだろう? 僕は何のために生まれてきたんだろう?」
いくつもの任務を共にし、死線を潜り抜けてきた戦友が語りかける声は震えている。
「僕は何を信じればいい? 僕は僕を信じることができない。この記憶もこの感情もこの力も全ては『クィーン』が作ったものだとしたら僕は一体何者なんだろう?」
「結局は……」
紫電は初めて口を開いた。
「貴様を救えるのは貴様しかいない。答えを出せるのは貴様しかいない」
雷電が今度は口を閉ざす。
「俺は俺であって、貴様ではない。貴様が本当に真理を求めるのなら貴様自身ですることだ。俺に助けを求めるな」
太陽の白い光が窓から差した。紫電は立ち上がって、カーテンを開ける。
「僕はおかしくなってしまうかもしれない」
「かまわん」
「その時は君が僕を始末してくれ。完全に僕が僕でなくなる前に」
「必要とあらば」
「ありがとう」
雷電は微笑んだ。長い髪がゆっくりと揺れる。
「貴様は貴様であって、貴様以外の何者でもない。現に今こうしているのは『クィーン』とやらの思惑の内か? そうじゃないだろう。それなら今ここにいるのが『貴様』なんだ。世界にたった一人しかいない貴様なんだ」
「うん、そうだね……」
言葉に力が無い。
「それにな、雷電」
紫電は穏やかな瞳で雷電を見た。
「俺も俺が何者かなんて分かっちゃいない。俺はどこでうまれたのかも分からないし、これからどこへ行くのかも分からない。そうやって多分誰もが自分が何者かを完全に理解できずに生きていくんだ」
一息ついた。
「それに……もし、俺が貴様と同じ立場で『作られた』人間なんだとしたら……」
最後は声が小さく、ほとんど聞こえなかった。
「そうか。僕は……人形なのかもしれないな。『クィーン』の手のひらの上で踊るのが僕の定めなのかもしれない」
「そうだな。たとえ、それが運命で定められたことだとしても」
紫電はまっすぐに雷電を見る。
「俺なら、その定めとかいうやつと戦う。俺はそんな決められた人生を生きるのは嫌だから」
「君はそうするんだね」
「雷電、貴様は何がほしい? 何を求める?」
雷電はしばらく逡巡した後に
「僕がこの世界に生きた証がほしい。僕が僕であり、この世界に存在していたという足跡を残したい」
濁った瞳のまま微笑んだ。
「なら、それをすればいい。それは俺には出来ん。『クィーン』にも出来ん。貴様にしか出来ないことだ」
「そうだね」
「さあ行くぞ。次の任務だ。雑念は捨てろ」
「ああ、行こう。紫電」
こんばんは、Jokerです。
読み返してみるとおかしなところがちらほら。
ちょっと修正しました(これもかよ)
タグ?で番外編はコメディとか書いておきながら暗い話ばっかりですね。
ではまたお会いできることを祈りつつ……