第十二話:暗殺
紫電たちの目論見どおり、雷電はジェノヴァに戻ってきた。
時間は夕刻。時折冷たい風が吹きぬける。太陽はオレンジ色に染まり、地平線のかなたに沈もうとしていた。
所々汚れ、擦り切れた黒装束を纏った雷電は教皇庁に入ろうとしている。
整った顔の頬は痩せて、いつも女性以上に艶やかな髪は荒れていた。
「待っていたぞ、雷電。『鍵』とやらを寄越せ」
紫電は勢い良く自らの得物を抜くと、構えた。ガレスも銃の照準を雷電に合わせている。
「誰かと思えば紫電か」
力なく呟いた。瞳はどんよりと曇っている。
「それとも俺たちと戦りあうか?」
生気のない瞳で雷電は紫電を見つめた。
「いいや」
雷電は壊れた刀を見せる。
「僕がこれでは負けてしまうからね。新しい武器を用意しておく。次こそは……君を、殺す」
雷電は静かに言い放った。
「ふん、決心したというわけか。『鍵』はどこだ?」
「『鍵』は僕自身だ」
「どういうことだ?」
「分からないなら考えるといい」
「そうだな。今日は見逃してやる。次に邪魔するならば貴様を殺す」
紫電は武器をしまうと、雷電に背を向けた。
「ついでに『元』戦友として言っておいてやる。貴様も考えるがいい、貴様自身のことを」
雷電は答えなかった。
「ガレス、今日のところは退くぞ」
「……ああ」
ガレスは唾を吐いた。
「紫電」
立ち去ろうとする紫電に雷電は声をかける。
「何だ?」
「小川は近々『クィーン』を倒しに来る」
「それがどうした?」
「君にも必要な情報だろう? 小川は今、北京民主共和国首席総長として指揮をとっている。世界をその手におさめるために」
「そうか」
紫電は腕組みし、目を閉じて返事を返す。風が髪を揺らす。
「小川は鳩川と決別したが、君も狙っている。僕は君に死んでほしくないんだ」
「俺を殺すのは貴様だといいたいのか?」
「ああ。君を殺すのは僕で、僕を殺すのは君であってほしい」
雷電の横顔は夕日を受けて紅く彩られている。
「安心しろ、俺はまだ死ぬわけにはいかない」
「どうして?」
「任務だからだ」
雷電は力無く笑った。
「あはは、君らしいね」
紫電は笑わない。
「それじゃあ、またね」
雷電はゆっくりと歩いて教皇庁に入っていった。
『クィーン』の前には千崎と雷電が並んで立っている。
「千崎、オ前ハコレカラシバラク北京民主共和国ニ行ッテモライマス。ソコデ私ノ計画ニ反対スルうぃーげる族ガイマスカラ、彼ラヲ始末シナサイ。ソレカラ、小川モ始末シナサイ。三日後ニ天安門広場デ演説ヲスルトイウ情報ガアリマス」
千崎は平身低頭して
「はい、仰せのままにいたしますわ」
と答えた。
「ソレカラ、雷電」
「はっ」
「新シイ武器ノ開発デスガ、私自身ガ設計シ製造シマショウ。三日ホドカカリマス」
「分かりました。お願いします」
雷電はそれからしばらく『クィーン』のもとから動くことはなくなった。
紫電とガレスは雷電からの『千崎が小川を追っている』との情報をもとに北京民主共和国へと単身向かっていった。千崎が時を同じくして入国した。
三日後、快晴の首都北京では、天安門広場で小川一郎国家主席総長のパレードが行われている。
「首席総長、キム様の遺志を継ぎ、この国による世界制覇を」
軍人たちが全員で声を張り上げる。
小川は豪奢な礼服に身を包み、広場に設けられた壇に上がった。太陽が小川の広い額を照らす。
「私はキム前首席総長からこの地位と責任を引き継いだ。まずは日本自治区の完全なる統合を行い、そして『クィーン』による世界支配に終止符を打つ! 我ら北京民族による世界統一実現のために諸君の力を貸してもらいたい」
裏切りの独裁者は吠える。
「北京民主共和国にすべてを!」
「北京民主共和国にすべてを!」
熱気に湧き上がる広場に千崎は数名の刺客を伴って入り込んでいた。全員、小型の拳銃を携帯している。
「いいかい、小川を狙撃するんだよ。失敗したら命はないからね」
千崎は刺客たちに言い放つと彼らをそれぞれ配置し、小川が壇上から降りるのを待つ。
小川はしばらく拍手喝さいを浴びると、壇から降り始めた。
その時を狙い、けたたましい銃声が幾重にも響き渡る。
そして、小川は倒れた。どすんと重い音がする。
「おいおい、困るな。俺を差し置いて、随分楽しそうじゃないか。そこのケバいオバサンよお!」
ジョーカーが壇の裏から現れた。そして、壇に上ると空に向けて銃弾を一発撃った。
こんばんは、Jokerです。
これも一部修正。
見直してみると修正するところがあちこちに出てきます。
というわけで
また次回お会いできることを祈りつつ……




