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種蒔く者  作者: 星見流人
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番外編:罪詠む者

「クィーン博士、こちらへ」

 白衣を着た壮年の男が同じく白衣を着た老婆を呼ぶ。

 老婆は返事せずに壮年の男が指し示すカプセルに入った。

「これであなたの頭脳を永久に生存させます。頭脳自体は機械化されますが、思考能力には問題ありません。人類最高峰の頭脳が世界発展に寄与することを我々一同強く望みます」

 世界的頭脳を持つクィーン博士はこうして、『クィーン』となった。人類の繁栄のために。

 そもそもの始まりは世界最高の頭脳を半永久保存、活用する計画が持ち上がったことだった。そこで、すべての科学に長じた天才科学者クィーン=ウィスタリアが選ばれた。

 彼女はその時既に70を超えていたが、知能指数は常人の100倍という驚異的な数値を保っていた。

 彼女はプロジェクトチームたちの説得により計画に参加した。

 彼女が『クィーン』となってから数十年が過ぎた。

 彼女を知る者たちは次々とこの世を去っていく。それを彼女はただ見ているだけしか出来なかった。

「私ハ死ネナイ。世界ヲ救ワナケレバ」

 永久の命と共に、世界の指導者として『クィーン』は活動していった。

 やがて彼女を知る最後の人間が亡くなった。

「モウ私ヲ知ル者ハイナイ」

 誰もいない空間で静かに呟く。これで、『クィーン』をクィーンとしてみてくれる人間は誰一人としていなくなった。

「私ハ涙ヲ流セナイ。死ヌコトモ出来ナイ。神ヨ、何故私ハ存在シテイルノデスカ」

 答えは返ってこない。誰にも分からない問いだった。

 ある日、『クィーン』は国際連合長官と会談した。

 その時だった。

「私ハイツマデ生キルノデスカ?」

「我々人類と共に、いつまでもあなたは生きるのです。人類の平和のために」

「私ノ存在意義ハ?」

「人類の繁栄です」

「私ハ死ヌ権利スラアリマセンカ?」

「あなた様が死ぬことは人類の、世界の混乱を意味します。あなたがいて、世界が成り立っている。事実、発展途上国の経済や政治はこの数十年で飛躍的に発展しました。世界的な犯罪発生率も激減しました。あなたがいなくては世界は進歩の道を進めないのです」

 その日から『クィーン』はこのことについて誰かに話すことをやめた。

「私ハ天才ナドデハナク、普通ノ人間ニナリタカッタ」

 『クィーン』は毎日それを呟いた。誰にも話せない、話したとしても理解してもらえない。それは『クィーン』にしか分からない。

 『クィーン』は人々の希望となるために自らの絶望と共に存在してきた。

 クリスマスの夜に、ある記者が『クィーン』にインタビューするという企画をくみ上げた。

「今日はクリスマスですが、一番欲しいものはありますか?」

「人々ノ安寧ト繁栄デス」

 模範解答を話す。

「デモ、本当ハ……」

 弱い電子音が鳴った。

「私ハ安息ガ欲シイ。皆ト一緒ニ老イテ、皆ト一緒ニ死ニタイ。私ヲ私トシテ見テクレル人ガホシイ」

 その夜から『クィーン』は考え始めた。

 そして、出した答えが連邦大戦の再現だった。

「サア、人々ヨ。私ニ安息ト呪ワレタ永遠ノ生カラ解放ヲ与エテ下サイ。私ハ神デモ偉大ナル指導者デモナイ。タダ、くぃーんトイウ人間ナノデスカラ」

こんばんは、二話続けての投稿です。


これは一切修正せず。

『種蒔く者』の番外編では一番気に入っている話です。

モデルは『百万回死んだ猫』。


ではまた次回お会いできることを祈りつつ……

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