表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
種蒔く者  作者: 星見流人
12/33

番外編:ルエビザ教団殲滅戦

 『羅生門』司令部に紫電の後輩である飛鳥あすかが任務に失敗し、捕まってしまったとの情報が入った。

「何……?」

 紫電はその情報を聞いた時に腰を上げた。青年とはいえ、元々人相のあまりよくない紫電がしかめっ面をするとまるで頭に「や」のつく自由業の人のように見える。

「仕方ない。助けてやるか」

 司令官からの説得でしぶしぶと紫電が動くことになった。組織にいる以上は上層部の決定に従わなくてはならない。それがたとえ暗殺組織であっても。

 紫電は得物を装備すると、ダークスーツを着て、九州北西部にある長崎県に乗り込んだ。ビジネスマンになりすまして潜入するのである。

情報によると、そこで教祖ルエビザ率いる怪しげな信仰宗教団体が急速に信者を増やし、戦争を起こそうとしているらしい。これは日本政府からの暗殺依頼であった。

 平和ボケした国にままあることである。

 長崎の空は蒼い。都会で見る空とはまた違う。

 工場の煙や排気ガス、人間で満たされた雑踏などがないせいか、純粋な青色をしているのである。

 ハウステンボスから少し離れたところに大きな教会があった。外装は白。屋根は鋭くとがった形になっており、色は黒。どこにでもある、質素なつくりをした教会に見える。

「ここか」

 紫電は呟くと、夕暮れになるのを待って侵入した。手には得物の忍者刀。

 とりあえず見つからぬよう、ぶら下がり用に使える万能鎌を天井にかけて、そこから様子を見ることにした。

「OH! 金づるDEATH! 金づるが脱走しましタ!」

 下手くそな日本語が響いた。発音が主に変だ。明らかに日本人ではない。

「金づる、ヒットらえて、信者にするのデース!」

 坊主頭に黒のローブを着た、信者と思しき連中がどかどかと教会内を暴れまわっている。その滑稽な光景はどこぞの漫才を髣髴とさせる。

「ルエビザ教教説第一条! 金が全て!」

 先ほどの変な発音の男が怒鳴っている。おそらくはこの声の主が教祖ルエビザだろう。

「ルエビザ教教説第二条! 愛して愛して愛しまくりMATH!」

 この謎の号令がかかると、信者らしき集団は教会の奥に走り去っていった。教祖様の台詞を聞くと、何かの宇宙病原菌に感染しているのかもしれない。

「任務開始」

 紫電はスーツを脱ぎ捨て、いつも着ている黒の忍び装束を纏った。首から上と手以外全身を包み込み、暗闇に溶けやすい色合いをして、さらに丈夫な麻で作られている。

 紫電は足音を立てぬように歩き、教会の奥へと進む。

 教会の道はレンガで造られており、その両脇には色とりどりの花が植えられている。ちょっとしたテーマパークのようである。窓にはステンドグラスがあり、様々な色が西欧風の神秘的な室内風景を作り出している。

 レンガの道はまっすぐ奥へと進んでいた。

 教会の一番奥に行き着くとそこには祭壇があった。木造りのものである。

 その裏には何やらスイッチのようなものがあり、紫電がそれを押すとレンガが崩れる音がして、地下への階段が現れた。

「ここか」

 紫電は刀の他に、手榴弾をいつでも使えるようにしながら、薄暗い石造りの階段を下りていった。

 階段の両側にはロウソクの火が灯されており、ほんのりと明るい。

 紫電はそこをゆっくりと歩いた。何があっても対処できるように。

 数分歩くと地階へ着いた。そこには広場があり、階段とは対照的に眩いくらいに電灯がつけられていた。壁はレンガではなく鉄筋コンクリートで作られている。その上には教祖らしき男の絵が飾られていた。

 頭の中央部分が禿頭になっており、青色の目であることから西洋人であることが分かる。さらに、ヒゲ面にうさんくさい顔と明らかにまともな宗教結社ではないと思われる。

「信者のミナサン! あの小娘をHITらえなサイ!」

 先ほど聞いた下手くそな日本語だ。

 その号令と同時にどたばたと信者たちが動き回る。それぞれの手には日本刀、金属バット、三味線、ハリセンとどう見ても武器に使うのにはふさわしくないものまで握られている。

 紫電は隠れるでもなく、その騒動を起こしている連中に近づいた。気付かれない、というよりも脱走者を捕まえるのに必死で気付かないのである。

「飛鳥か」

 紫電は呟いた。

 脱走している忍び装束を纏った少女の名前を呼んだ。

 若干16歳で『羅生門』入りをした日本人で漆黒のポニーテールが特徴である。何故か紫電と共に任務に当たることが多く、紫電はこの少女にまるで妹のように接している。

「飛鳥、助けに来たぞ」

「あ、先輩」

 飛鳥が壁を蹴って、空中を飛び回っている。追跡者を翻弄しながら、にこりとあどけない笑みを紫電に向けた。目鼻立ちがはっきりとしており、好奇心の強そうな大きな瞳が目立つ。美少女といっても差し支えない。その少女が満面の笑顔を紫電に向けた。

 素早く細身の身体をひねって、紫電の前に着地すると

「私のために助けに来てくれたんですね。飛鳥、感激です!」

 と紫電にしがみついた。

「……離れてくれ」

 紫電がべたべたとくっついてきた飛鳥を振り払う。

「女の子を邪険にするんですかあ?」

「バカ。目の前を見ろ」

 二人の目の前にはフライパン、土鍋、海老フライを武器として振り上げている集団が迫っていた。もはや、この集団は何をしたいのか分からない。もちろん、作者の私にも分からない。分かったら、ちょっと人間終わってる感じがする。

「アナタが金ヅルのサポーターデスか? こいつからも金を絞り上げて、教団の資金にするのDEATH!」

 教祖らしき男が現れた。信者と同じく黒のローブを纏い、両手には小さなバズーカ。どう見ても、宗教家ではない。テロリストといったほうがいいのかもしれない。

「ルエビザ様、彼らに『愛』をあげましょう!」

 信者の一人が叫んだ。

「OH! 愛が足りないネ! 愛をあげるヨ!」

 ルエビザ教祖はバズーカに弾を込める。ルエビザ教の愛とはバズーカらしい。

「飛鳥、逃げるぞ。こいつらといたら俺の頭はどうにかなりそうだ」

「はい。お姫様を助けに来てくれたんですもの。さっさと悪いハゲ宗教家からは逃げ出さないとね」

「ルエビザヘアーをバカにする者には神罰を与えMATH! バズーカでとっとと神の国への引導を渡してAGEるよ!」

 愛はどうしたとか突っ込んではいけない。

「司教キタカド、洗脳マシーンを持ってくるのデース! 洗脳しまくって、ルエビザ漬けにするNE」

 次は洗脳する気らしい。

「こんなのに洗脳されるくらいなら、宇宙人に拉致られて脳みそを改造されたほうがいい」

 ぼそりと紫電は呟いた。

「先輩、逃げましょうよ! 私こんなのの信者になりたくないです」

「ああ。その前に、教祖。貴様を滅ぼす」

 紫電は忍者刀の切っ先をルエビザに向けた。

「面白いDEATH! やってみなSAY!」

「ふん。貴様と遊んでいる暇はない。十秒だ」

 紫電は教祖と五メートルほど距離をとると、飛鳥を下がらせ、手榴弾をばら撒いた。

「神の祟りをご覧にいれまSHOW!」

 ルエビザは適当にバズーカをぶっ放す。砲弾が地下広場の壁に当たり、部屋が崩れていくのが分かる。

「神とやらに会ったら伝えておけ」

 紫電は瞬時に間合いをつめ、刀を横に薙いだ。赤い液体が教祖の体からあふれ出る。

「当分世話になるつもりはない、とな」

 ルエビザはどさりと地に伏した。

「目標は沈黙。任務完了」

 教祖がやられたことを信者たちが認識するや否や、彼らの大群が紫電のもとに押し寄せ、取り囲んだ。手には棍棒、伊勢海老、マタタビ、エロ本と色とりどりだ。まったくもって、何をしたいのか分からない。あの教祖にして、この信者ありということだろうか。

「あなたの実家に腐ったザリガニを送りますよ!」

「あなたの実家に臭う靴下を送りますよ!」

「あなたの実家に18禁の写真集を送りますよ!」

 紫電は苦笑いして

「最後のだけはもらおう」とだけ言い、身軽に跳躍すると、飛鳥を連れて地上へと続く階段へと走り去っていった。

 教会から出て街にもぐりこむと、紫電はため息をついた。夜空には星々が無数に輝いている。

「あんな変人をターゲットにしたのは初めてだ」

 その声からは若干疲れがにじみ出ている。

「お疲れ様でした。そして、ありがとうございました」

 飛鳥は先輩を労うように、優しい声で礼を述べた。特徴のポニーテールが夜風に揺られていた。

「構わん。これが仕事だ」

 そっけない返事が返ってきた。

「そういうところ、私は好きですけどね」

 小声で呟く。

「さて、帰りましょうか」

 その足で夜行列車を使い、紫電と飛鳥は本部への帰途に着いた。

 本部へ帰り着いたのは夜明け前だった。

 紫電はよろよろと身体を動かし、何とか基地内にある自室までたどり着くと、そこには大きな段ボール箱が一つ置かれていた。

「何だこれは?」

 差出人は『教祖R』。日付は昨日の夜となっている。おそらく、あの後信者どもが送りつけたのだろう。しかし、どうやって本部の住所を知ったのかが謎であるが。

 まさかと思い開けてみると、腐ったザリガニと18歳未満は見ることの出来ない本、ルエビザ教概説全100巻が詰められていた。

 紫電は無言でそれを焼き捨てようと思っていたが

「ちょっと待ってください。そのボタンエビは私が料理します」と飛鳥が制止した。

「これはだな、ボタンエビではなく……」

「ボタンエビです。料理して持っていってあげますから、休んでいてください」

 紫電の悲劇はここから始まった。腐ったザリガニの刺身を食べさせられ、三日三晩腹痛と下痢に悩まされた。

 それが回復する頃に、また紫電宛に段ボール箱が一つ届いた。差出人はまた『教祖R』。

「くだらん」

 紫電が焼き捨てようとするのを今度は雷電が制止する。

「待ってよ、その中身見てみたいな」

 紫電はしぶしぶ段ボール箱を開けると、そこには『ルエビザ愛の写真集』とやらが入っていた。

「俺にこの手の趣味はない。貴様にやる」

 紫電はそれを雷電に押し付けると、自室にこもった。久々に任務もない。一日ゆっくり惰眠を貪ろうとしていた。

 紫電の部屋はほとんど何も置かれていないがらんとした部屋である。最低限の食器とベッド、パソコン、キッチンくらいである。キッチンにはフライパンや鍋など一通りの道具は揃っている。そういう意味では持ち主の性格を表現したものなのかもしれない。もっとも、紫電は任務のために自室に戻ってくることが極端に少ないのだが。

 昼寝の最中に紫電の部屋のベルがなった。おそらく飛鳥か雷電が来たのだろうか。紫電の部屋を訪れる者は精々、この二人しかいない。

「なんだ、俺は今日は……」

 ドアを開けた紫電は言いかけて、絶句した。

「愛を届けにきまSHITA!」

 先日抹殺したはずの教祖が素っ裸でそこにいた。

 紫電は無言でドアを閉めると、司令部に電話した。

「変質者が侵入した。俺の部屋付近にいる。即時、掃討してくれ」

「愛が足りませんNE。紫電SAN、私アナタにAIを教えてAGEるYO」

 どこからか取り出したバズーカで紫電の部屋のドアが吹き飛んだ。こちらは丸腰である。勝てるはずもない。

「く、来るなぁ!」

 紫電の叫びが基地内に響き渡った。警報が鳴った。

「紫電の部屋付近を捜索。不審者はすぐに撃破」

 司令部から威勢のいい声でアナウンスが基地内に流れる。

 暗殺者たちがすぐに出動し、変態教祖は追い払われた。しかし、この後も一日に一個のペースで教祖から段ボール箱が届いたため、紫電は東京都内にマンションを借り、そこで生活するようになった。

 この事件の後、紫電は教祖の夢と腐った海老を飛鳥に食わされる夢に一ヶ月悩まされたという。

こんばんは、Jokerです。


これも一部修正。

改めて見返してみると色々とまずいところが見つかります。


ではではまた次回お会いできることを祈りつつ……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ