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竜人族


ライズ「ん……」




気が付くとライズは暗闇の中にいた。



ライズ「あれ……体の感覚がない。そっか、そういえば僕死んじゃったんだ」



???「いいや」



 暗闇の奥で声がする。声から察するに女性の声だ。



ライズ「誰?」



 ライズは意識だけを闇の向こうに向ける。すると闇の向こうに、うっすらと線の細い女性の姿が見える。しかし、暗すぎてその容姿を全て確認することが出来ない。



???「すまないが、私に名乗れる名前は無い」



ライズ「そう……ですか。あの、僕は?」



???「死に瀕していた。が、私の力でお前を生かした。お前は今眠りについている」



ライズ「そうか……良かった」



???「しかし、今までのようには生きられないだろうな」



ライズ「なんで?」



???「目覚めてしばらくしたら、嫌でも気付くことになるだろう。少し話し過ぎたな。疲れた、私は去るとしよう」



 そう言って女性は闇に消えていく。ライズの目の前には、再び暗闇のみが広がっていた。



ライズ「うっ……」



 暗闇の中に光を感じ、ライズはゆっくりと目を開く。すると目の前には見覚えのない天井があった。



レイア「あ、目が覚めたみたいね」



ライズ「えっと……」



レイア「あなた、3日も眠ったままだったのよ? まあ、あれだけの事があって生きてたのは奇跡に近いけれど」



ライズ「僕はあの時何があったんですか?」



レイア「瀕死の重症を追って死にかけたの、私を庇ってね。けど、ブレイズがあなたの命を繋いだ。何をどうやったのか分からないけど」



ライズ「そっか……またブレイズさんに助けられたんだ」



レイア「助けられたのは私も同じよ。欲しいものがあったら言って、私に用意出来るものならなんでも用意するから」



ライズ「あの、ここはどこですか?」



レイア「ここは竜人族の首都、エンパイアよ」



ライズ「竜人族の首都!? なんでそんな所に僕が!?」




レイア「言ったでしょ? 恩を返させてもらうって。それとブレイズにもあなたの面倒見るように頼まれたし」




ライズ「そんな……ブレイズさん。けど命を救われた手前文句も言えない」




レイア「そういうことよ。と、いう事であなたの身柄は私が預かるわ」



 そう告げてレイアは席を外す。



レイア「ごめんなさいね。もう少し面倒見ていたいけど、私も少しだけ忙しいの。給仕の者を置いて行くから、分からない事や何か欲しいようなら、彼に頼んで?」



「じゃーねー」とレイアは部屋から姿を消す。



ライズ「はぁ……。なんでこんな事に……」



 そうライズがため息をつくと、しばらくして扉を叩く男と共に燕尾服の男が入ってくる。



???「ライズ様ですね? 話はレイア様より伺っております。私の事はセバスチャンとお呼びください」



 そして次の日。ライズは城の中を歩いていた。竜人族の城は魔族の宮殿に負けず劣らずの豪華さで、その上町一つ分の大きさだ。なので場所を覚えようとしていた。



……のだが


ライズ「……やっぱりついて来てるな」



 散策するライズを追う影があった。最も竜人族の城に魔族が居るともなればその反応は正しいのだが、ライズを覗く影はどうやら見知った人物らしい。



水帝「じーー……」



 水帝が先程から影から見てくるのだが……



ライズ「えーっと……水帝?」



 声をかけると、水帝はスッとまた物陰に隠れてしまう。



ライズ(あれで気付かれてないつもりなのかな?)



 自分は何かしただろうかと考えるライズ。対して水帝は……。



水帝(何やってんだ私……。これじゃ不審人物じゃない……)



 そう思い、水帝はライズの前に出て行こうと思うのだが……。



ライズ【君は…………生きて】



 その時の事を思い出すだけで水帝の顔は真っ赤になり、ライズの前に出れずにいた。



水帝(私らしくない私らしくない私らしくない! これじゃ水帝の名が泣くわ!)



 そう水帝は動き出し、ライズを追おうとするが、



水帝「ッ!!!!!」




 角を出ようとした水帝の目の前にはライズの姿があった。



ライズ「えっと水帝、僕君に何かしたかな?」



 目の前に突如現れたライズに酷く動揺した水帝だったが、なんとか平静を取り繕おうとする。



水帝「(落ち着け。おちつくのよ私……。私は水帝、私は水帝!)何かしら?」




ライズ「(質問したの僕なんだけどな……)ずっと着いてきてるけど、どうかしたの?」




水帝「ずっとあなたを見てたわ」




ライズ「え?」



 水帝の言葉に動揺を隠せないライズは戸惑いを顔に出してしまう。それを見た水帝は




水帝(何言ってるの私!?)




 自分の言葉に後悔していた。




ライズ「えっと、つまり監視してたって事かな?」




 助け舟のようにライズは好意的な解釈を返す。




水帝「そ、そうなるわね」




 動揺しながらも返す水帝。そこからなんとか建て直しを図る。




水帝「セバスチャンに私から頼んだのよ、この宮殿の案内は私がすると。何かあっても私なら対応出きるし、これでもこの国の権力者の一人だから」





ライズ「そっか。水帝なら僕も知ってるし、安心だ」




水帝「そういう事よ。じゃあ、まず主要施設から案内するわ」



水帝「あれが食堂」



ライズ「へー。結構大きいんだね」



水帝「あっちが西の出口。裏山に出るわ」



ライズ「へー」



水帝「あっちが東の出口、町に繋がってるわ」




ライズ「へー」




水帝「さっきから生返事ね」




ライズ「そんな事ないよ。ただ、もう何度か通った場所だから大体知っちゃってるんだ」




水帝「そう……」




と、水帝は少し残念な顔をする。




ライズ「ねえ水帝、どうせだから街に出たいんだけど」




水帝「それは許可出来ないわ」




ライズ「なんで?」




水帝「あなた、自分がどんな状態だったか覚えてないの? 下半身が一度なくなったのよ? また何かあったらどうするの?」



ライズ「その時の為に水帝が着いてくれてるんじゃないの?」



水帝「あのねぇ……」




 水帝は頭を抱える。




ライズ「それに、僕はもっと竜人族の事を知りたい」



 真っ直ぐに水帝を見つめてライズは告げる。



ライズ「君のことも……」



水帝「…………!ッ」



 一瞬水帝は目を丸くして固まるが、我に戻ると口を開いた。



水帝「仕方ないわね……。ちょっとだけよ?」



ライズ「ありがとう」




二人はそのまま東口から街へと向かう。



 ライズと水帝は街に出る。竜人族の街は魔族の街と打って変わり、中世ヨーロッパのような見た目の街だった。



ライズ「へー。竜人族の国って独特だね」



水帝「私達からしたら魔族の街も充分に独特だよ」



ライズ「それにしても……」



 ライズは街行く人の目が自分たちに向いているのに気が付く。



水帝「しまった……」



 と水帝は頭を抱える。



水帝「着いて来て。このままだと街の散策なんて出来ないわ」




ライズ「どうしたの?」




水帝「私は曲がりなりにも水帝であり、それなりの立場の人間よ。それがその辺りを用もなく歩いていると、色々と面倒なのよ」




 そう言って水帝は街の路地裏へと入って行き、ライズもそれに着いていく。



 水帝「お待たせ」



 そこからしばらくして水帝が向かったのは洋服屋だった。



 竜人族の制服姿だった水帝が群青色のチュニックを着て、サングラスとニット帽を被り出てきた。



ライズ「ふふ」



 そんな水帝を見てライズは思わず笑いを漏らしてしまう。



水帝「な、なにか変!?」




ライズ「いいや、何も変じゃないよ。ただ制服と全然雰囲気が違うからそれがちょっと面白くて。大丈夫だよ、ちゃんと似合ってる」




水帝「そ、そう。当然でしょ?私は水帝なんだから」



 と、水帝は少し頬を赤らめて帽子を深く被る。



水帝「さ、早く街を回りましょ?」



 そう言って水帝はライズの手を引く。



ライズ「ちょ、ちょっと水帝?」



 引っ張られる形になりながらライズは水帝に手を引かれ、再び街に出た。



 水帝に手を引かれるライズ。人の通う通りを縫うように二人は駆けて行く。


 そのまま二人は大通りへと出る。大通りの両脇には露店があった。それを目にして水帝はライズから手を放す。すると水帝は手放した手を露店へと向けて指差す。


水帝「まず露店を見ましょう!」


 そう言って駆け出す水帝。それをライズは追う形になる。


 露店を見る水帝に並び見るライズ。


 今水帝が見ている露店は果物屋らしく、林檎や葡萄といった物が並んでいる。


 因みに林檎は一つで銅貨一枚と書いてあった。


水帝「何か欲しい物は?」


ライズ「え? いや悪いよ。それに別段空腹な訳じゃないし」


水帝「そう言わずに、一つどう?」



 と、水帝は引く様子を見せない。


ライズ「じゃあ……林檎を一つ」



 恐らくこの中で一番安価な林檎を注文するライズ。すると水帝は自信満々で懐を漁り、小さな袋を出す。すると、その小さな袋から水帝は光輝く金貨を取り出す。


 その硬貨は明らかに異様な雰囲気を醸し出しており、またライズはその金貨が現れた瞬間店主の表情が強ばるのを見逃さなかった。



ライズ「ちょ、ちょっといいかな!」


 とライズは水帝の手を引いて一時露店から離れる。



ライズ「ねえ水帝、それは何かな?」



水帝「純金貨よ? ああ、そういえばあなたはこの国の貨幣を知らなかったわね」


ライズ「うん、そうなんだけど。因みにその硬貨ってどれくらいの価値なの?」


水帝「金貨10枚くらいね。銀貨にすると10000枚くらいかしら」


ライズ「……因みに、銀貨は銅貨何枚分の価値なんだい?」


水帝「銅貨10枚分の価値よ」


 その言葉にライズは思わず頭を抱えてしまう。つまりあの硬化一枚で一生かけても食べきれない量の林檎を買える事になってしまう。



水帝「どうかしたの?」



ライズ「水帝、他に硬貨はない?」



水帝「ないわ。だってこれ一枚あれば事足りるでしょ?」


ライズ「水帝。僕にはあの店の店主がお釣に金貨を出せるようには見えないんだ」


水帝「それがどうかしたの? 銀貨があるじゃない」


ライズ「仮にお釣が銀貨だったとして、十万枚の硬貨を一体どうやって持ち歩くんだい?」


水帝「……あ」



ライズ「というか水帝。その服買った時お金はどうしたの?」



水帝「……あの格好だったから店主は私が水帝だと分かったみたい。それで金貨をお代に出そうとしたのだけど、また今度で良いと断られたわ。けど、そういう事だったのね……」


ライズ(ひょっとして、水帝って世間に疎いのかな……?)


 と、水帝の表情が雲っていってしまう。


ライズ「えっと、水帝。僕この街の広場とか見てみたいんだ。もっと人の居る所で、みんながどんな生活をしているのか見たい。それに、それだったらお金も必要無いだろうし」


水帝「そうね。ならまず街の中心に行きましょ」


ライズ「それと」



水帝「なに?」



ライズ「水帝じゃ、君の名前を呼べない。なんて呼んだら良いかな?」


水帝「そういえばそうね。えっと……」


 と、顔を若干赤らめながら水帝は告げた。


水帝「なら、エレオノールって呼んでもらってもいい?」



ライズ「うん。分かったよエレオノール」



 名を呼ぶと水帝が頬を赤くする。しかしそれを隠すように改まると、「こっちよ」と広場へ向かって歩き出した。



水帝「ここがこの街の中心よ」




ライズ「へーすごいや」



 通りを抜けた先には広く開けた空間があり、思わずライズは見渡してしまう。竜人族の町並みは魔族の物と違い、建物は二階建ての物が殆どであり、広場からはその町並みを通りから一望する事が出来た。魔族の方は建物が縦に聳えるのに対し、竜人族の町並みは横に広く、何処までも続いている。



ライズ「竜人族の人達も、沢山住んでるんだね」



水帝「当然でしょ、首都なんだから」



ライズ「そっか、そりゃそうだよね」



 はははと笑い飛ばすライズ。心なしか水帝も調子を取り戻したようで笑みを溢す。



 と、そこでライズは広場の中心にある噴水の脇にベンチがあるのを見付けた。



ライズ「久しぶりにこんなに歩いたからちょっと疲れたよ。ベンチで少し休もう」



水帝「そうね」



 二人はベンチに座る。



ライズ「こうやって見ると、竜人族も僕らと何も変わらないんだなって思うよ」




水帝「私も……私も今ならそう思うわ。魔族はその名の通り、悪魔のような存在だって教えられて来た。魔物と変わらず、理性なく私たちを殺す獣なんだとずっとそう思ってた。けど違う、魔族も私達と何も変わらない。ただそれぞれが、己の生を全うしているだけ。誰も殺したくて殺している訳じゃない。……けど」



ライズ「君はそれでもまだ魔族を恨んでいるのかい?」



水帝「私は魔族を完全には許せない。私だけじゃない。きっと竜人族の他の人も、魔族だって同じ。この連鎖は、誰に止められるものでもない。それに私は竜人族を守り、導く義務がある。私が私で在り続ける限り、私は魔族と戦い続けるわ」



ライズ「そっか……」



 思わずライズは顔を伏せてしまう。



水帝「ごめんなさい。あなたの気持ちも考えずに……」




ライズ「いや、いいんだ。君はそうやって僕のことも気遣ってくれる。それだけで、君は芯から僕らの事を嫌っている訳ではないって事が分かるから。ありがとう」




水帝「そ……そう。まあ、そういう事なら素直に感謝しなさい」




と、水帝は頬を赤くして顔を反らしてしまう。



ライズ「ああ。君には感謝してるよ。君のお陰で僕は今本当なら見れない光景を見れてる。ありがとう」




 笑顔で告げるライズに、水帝はジト目を向けて尋ねる。



水帝「あなた、そういうの無意識にやってるの?」



ライズ「? どういう意味だい?」



水帝「そういうのが卑怯って言ってるのよ……」




ライズ「???」



 理解出来ないライズに、もういいわ!と水帝は声を上げる。と、そのとき何処からか鐘の音が聞こえて来る。



 その音の先をライズは探ると、遠くの丘にある城ような建物から音がしていた。それこそレイアの居る王宮程ではないものの、それに次いでこの辺りでは巨大な建造物だ。



ライズ「あれは?」




水帝「あれは士官学校よ。軍の幹部を育成する為の施設で、昔は砦だったものを改築したらしいわ」



ライズ「らしいって事は水帝は行った事無いの? それこそ竜人族の最高戦力なのに」




水帝「私は偶然この地位を継承する立場だっただけだから、元々軍属を希望していた訳ではないの。私達八帝は皆そうだけど、国やレイア様の命に従うけど、あくまで国家の軍とは別の枠の地位を持ってるのよ。だから私達は彼処には行った事がないの」



ライズ「そっか……。ねぇ、この国の士官になれたら、もしかして竜人族の情報も入りやすいのかな?」




水帝「軍の幹部ともなれば、その見込みはあるでしょうね」




ライズ(なら……もしも竜人族の幹部になれたら姉さんの情報が!?……いや、でもそれは)




 それは魔族と戦う事を意味する事になる。同族と戦う事に……




水帝「さあ、そろそろ帰りましょう? あまり出歩いていると私がレイア様に叱られるわ」




ライズ「そうだね……そろそろ帰ろう。お腹も空いたし」




 そう笑い飛ばすライズ。しかし、その胸の内には水帝には明かせない葛藤があった。



 そして時が過ぎ、ライズは一人悩んだまま就寝しようとしていた。だがそこに……




レイア「こんばんわ。体の調子はどう?」




 レイアが部屋に現れた。




ライズ「お陰様でもう出歩けるまでになりました」




レイア「そう。でもあまり無理しちゃ駄目よ? 水帝が心配するから」




ライズ「ははは、今日もそう言って気を遣わせてしまいました。少しわがままを聞いてもらったので、しばらくは大人しくしています」





レイア「退屈させて申し訳ないわね。けど、あなたはこの国の要人だから出来る限りの事をしてあげるわ」




ライズ「……その事なのですが。レイア様、僕を士官学校に入学させてもらえませんか?」



 その言葉にレイアは顔色を変える。



レイア「それは、どういう意味か分かっているのかしら? あなたは同族と戦う事になるということよ?」




ライズ「分かってます。けど、それでも僕は姉さんに繋がる情報が欲しい」




レイア「それなら私が全力を尽くしてーー」




ライズ「それともう一つ。僕はこの戦争を終わらせたい」




 その言葉にレイアは言葉を失う。




ライズ「水帝を通して分かった。僕らの敵は竜人族じゃない。それを、竜人族の立場から僕が皆に伝えたいんです。誰も戦う必要は無いんだって、敵なんて何処にも居ないんだって!」




レイア「……約束だものね。いいわ。その願いは聞きましょう。私の権力を使ってあなたの士官学校入学を許可しましょう」





ライズ「……! ありがとうございます!!」




レイア「決して楽な道のりではないでしょう。けれど、あなたならその願いを叶えられると信じるわ」





 そう快くレイアはライズの願いを了承し、ライズは学園への入学が決定した。



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