精鋭部隊
「あのブレイズ隊長の所の精鋭部隊が全滅したらしいぜ?」
「ああ、聴いた。なんでもあの炎帝にやられたんだろ?」
朝起きると、宮殿内はその話で持ちきりだった。
ライズ(ブレイズさんの所の隊が全滅?)
ライズもその話を聞いて落ち着いては居られなかった。
タッタッタ……
と、その時丁度目の前をブレイズが通りかかった。
ライズ「あの!」
ブレイズ「……?」
ライズ「あの、ブレイズさんの隊が全滅したって本当ですか!?」
ブレイズ「………………」
だがブレイズは答えずにそのまま歩いて行ってしまった。
と、そこへナイアがやって来た。
ナイア「彼、今ちょうどその事で開かれた会議に出席するところなのよ。あ鉈なんかに構ってられないわ」
ライズ「ブレイズさん……」
ライズは、羽が揺れるブレイズの背を見送った。
ナイア「それより、今はあなた」
ライズ「え?」
ナイア「あなた、この宮殿内は探索したかしら?」
ライズ「え、ええ」
ナイア「ならいいわ。じゃああとは街を案内すればいいのね」
ライズ「え?どういう意味ですか?」
ナイア「あなたのお守りをしろって、上に命令されたのよ。ま、だから今回は休暇が貰えたのだけど。ま、てまる所私がこの下の町を案内してあげるって事。お分かり?」
そして、ライズはナイアに導かれ、宮殿内のある場所へと連れていかれた。
そこは暗くて広い部屋で、魔法陣を描いた台が幾つもあった。
ナイア「ここが転移の間。台に描いた魔法陣と同じ魔法陣を描いた場所に行ける魔法よ」
ライズ「つまり、あの台に乗れば街に行けるんですか?」
ナイア「ええ。因みにこの宮殿は竜人族の国から一番離れた所にあるから、教われずに済むのよ」
ライズ「それは凄いですね」
ナイア「ええ。じゃあ行こうかしら?」
ライズとナイアは台の上に立った。
光に包まれ、次の瞬間見えた光景は沢山の人と沢山の建物だった。
ライズ「……わぁ」
初めてみるその光景にライズは息を呑んだ。
ナイア「ようこそ、帝国ナイチンゲールへ」
ラヴクラフト。その名をライズは耳にしていた。
なんでもこの世界で一番大きい都市なのだという。
ライズ「ここが……」
ライズは再び辺りを見回した。
ナイア「さ、そんな事より街を見て回りましょ」
そう言ってナイアは先に歩き出した。
ライズ「待ってくださいよ!」
その後ライズはナイアと共に街のあちこちを回った。
しかしライズはナイアの街案内に違和感を感じ始めていた。
それは、しばらくナイアの案内で三件目の店を出る事だった。
ライズ「あの、ナイアさん?」
ナイア「ん?」
ライズ「次も何か買うつもりですか?」
ナイア「ええ。後五件は回りたいわね」
ライズは、両手にナイアの買った荷物を持っていた。
ライズ「街案内じゃなかったんですか?」
ナイア「だから案内してるでしょ?」
ライズ「ナイアさんの買い物に付き合わされてるだけじゃないですか」
ナイア「当たり前じゃない。これは私の休暇を兼ねてるのよ?だから今の内に買いたい物は買っておきたいのよ。この先いつ休暇があるかわからないし、当分はまた立て続けにあちこち出回らなきゃならないだろうし」
ライズ「けど、なんで俺が荷物持ちなんか……」
ザッ……
ナイアが足を止める。
ナイア「あのね、またいつ緊急で任務が来るのか分からないのよ?それを、精鋭部隊2番隊隊長の私が、わざわざどこの誰かも知らない一般人の道案内をしてるの。それも、精鋭部隊の中でも主力の一番隊が全滅したこの忙しい中で!」
もの凄い表情でナイアはそういい、ライズは思わず一歩下がった。
ナイア「分かったらさっさと着いて来なさい」
ライズ「……………………」
しぶしぶライズはナイアに着いて行った。
その頃、竜人族はというと…………
「炎帝がやられたってよ?聞いたか雷帝」
雷帝「聞いてるよ風帝。案外黒龍の力も大したものじゃなかったみたいだね」
風帝「ああ。まあ竜人族最強なんてのはあいつが勝手に決め付けただけだけどな」
雷帝「全くです。竜人族でレイア女王より強い人なんているはずないのに、勝手に戦うからあんな姿になるんですよ」
風帝「ちげぇねえ(笑)」
地帝「……………………」
風帝「んだ地帝?そんな目で見やがって、文句でもあるのか?」
地帝「……相手は魔族で最強。……生きて帰ってこれただけでも誉めてやったらどうだ」
風帝「ああ!?」
「そこまでだ」
風帝「光帝。それに氷帝。」
氷帝「炎帝がやられた中、仲違いをしている場合ではないだろ」
光帝「氷帝の言う通りです。今は私達で炎帝の分も力を補わなければならないのですから、喧嘩はやめましょ?」
地帝「……分かった」
風帝「ちっ……わあったよ」
氷帝「さて、全員揃った所で会議を始めようか」
雷帝「全員?闇帝と水帝が居ませんが?」
光帝「そうだ。今回問題なのは、水帝が居ない事だ。闇帝は……いつもの通りだ」
雷帝「またさぼりですか……。だから彼は気に入りません」
風帝「んな事より、水帝はなんで居ないんだよ?」
氷帝「それなんだがな……………………………………
水帝が単身ナイチンゲールに攻め込んだ」
ライズ「ナイアさん待ってくださいよ!歩くの早いです!」
ナイア「全く、荷物持ちも出来ないの?」
ライズ「荷物持ちって、前が見えない程山済みの荷物じゃそりゃ無理ですよ」
ナイア「仕方ないわね。少し持ってあげるわ」
ナイアはライズの荷物を両手に持った。
ライズ「ああ。やっと前が見えるようになった……」
ナイア「次からは目を瞑っても荷物を持てるようになりなさい」
ライズ「そんな無茶言わないでくださいよ……。?」
ナイア「どうしたの?」
ライズ「そういえば、帰る時ってどうするんですか?」
ナイア「歩いて帰るに決まってるじゃない」
ライズ「え!?嘘でしょ!?それこそ無茶ですよ!」
ナイア「つべこべ言わず、着いて来なさい」
ライズ「トホホ……」
そのまま十分歩いた。
と、突然ナイアが足を止める。
ナイア「はいお疲れ様。ここまでよく頑張ったわね」
ライズ「?」
気が付けばライズ達は路地裏に居た。
ナイア「終点よ。その辺りに荷物を置いて」
ライズはナイアの指差した先に荷物を置いた。
すると次の瞬間荷物が消えた。
ライズ「え!?」
ナイア「宮殿に転送したのよ。普通の人には見えないでしょうけど、ちょうどその辺りに転送魔法陣が書いてあるの」
ライズ「それじゃ、ここ通った人は宮殿に転送されるんじゃ?」
ナイア「ここはめったに、というより間違いなく人はこないわ。眩惑の魔法でこの道には来れないようになってるから。まあ、私達みたいな精鋭部隊の隊長クラスになれば、関係ないけど」
ライズ「なる程……」
ナイア「じゃあ帰りましょ?」
ライズ「はい」
と、その時だった。
「見つけた!」
その時、辺りに少女の声が響いた。
ライズは辺りを見渡すと、高いビルの上に青いローブを纏った少女がいた。
水帝「私は水帝!炎帝をやったのはお前か!?」
ナイア「違うわよ。まあ全く無関係って訳でもないけど」
水帝「ならお前わ!!」
ナイア「私は精鋭部隊四番隊隊長、ナイア・ガレドール」
水帝「ならお前も死ね!!」
バッ!
ナイアはライズを掴み、後ろに下がらせた。
ナイア「危ないから私の前には出ないで」
水帝「ハッ!」
突如、水帝の後ろからビルよりも高い波が現れた。
その波はナイアへと向かう。
だがナイアが一歩前に進んだ瞬間、その波は凍り付いてしまう。
水帝「そんな……」
ナイア「まさか、今の全力?」
水帝の振り返った先にナイアは居た。
ナイアが水帝に触れた瞬間。
ピキーン!
水帝は氷付けになり、動かなくなった。
ナイア「全く最悪ね。せっかくの休日が台無し」
水帝を抱えながら、ナイアはビルから降りた。
ナイア「宮殿に戻るわよ」
そのままライズはナイアに宮殿へと帰った。
―――ナイチンゲール宮殿
ナイア「どういう事。休暇中、それも事件の重要参考人を連れている最中に敵に襲われるなんて」
ギルドマスター「済まないな。普段はブレイズの精鋭部隊の一角が街を警護していたのだが、先の件もあって宮殿は混乱状態にある。代わりの兵を街の警護に当てさせていたのだが、まさか配属されていきなり敵の幹部が来るとは思っていなかったのだろう。まだ慣れていない内の事だ。彼等を責めないでくれ」
ナイア「ならあなたを責めればいいのかしら? このままだと街は危険でしょ。一体どうする気なのよ」
ギルドマスター「……他の隊は他の任務で忙しい。ブレイズがレジスタンスを一度に一掃したとはいえ、最近竜人族の攻撃も強まっている。手を割ける者が居ないのだ。……だから」
ナイア「つまり私が街の警備に当たらなきゃいけないって事でしょ? なら最初からそう言いなさいよ」
そのまま怒り散らしてナイアは部屋を出て行った。
ギルドマスター「済まないな、見苦しい所を見せてしまった」
ギルドマスターはそうライズに告げる。
ライズ「いいえ。こちらこそ、こんな忙しい時にすみません」
ギルドマスター「いいや、むしろ謝るのはこちらの方だ。すまないな、君だって辛いのにこんな事に巻き込んでしまって」
ライズ「俺は守られている身です。文句は言えませんよ」
ギルドマスター「そう言って貰えると助かるよ。代わりと言っては何だが、君には捕虜にした敵の精鋭、水帝と一番最初に謁見する機会を与えよう。君の姉の情報も、竜人族の幹部である彼女なら知っているかもしれない」
ライズ「本当ですか!?」
ギルドマスター「ああ」
ライズは早速司令室を飛び出した。
その最中、入れ替わりでブレイズとすれ違うも、ライズは夢中になっていてブレイズの姿は目に入らなかった。
ブレイズ「今の話、聞いていた」
ギルドマスター「ああ。何か問題でも?」
ブレイズ「あいつは俺が担当している事件の重要参考人だ。お前の捨て駒じゃない。俺が保護する要人だ。言っている意味が分かるな?」
ギルドマスター「だから手厚く歓迎してやってるじゃないか。部屋も用意してやったし、この国最強の護衛もついてる。その上にさっきの特別待遇だ。何も問題あるまい?」
ブレイズ「…………………………」
ギルドマスター「まあいい。それよりこんな話の為にここに来た訳ではあるまい? 時間が惜しいんだ。早速本題に入ろう」
ブレイズ「……ああ」
ギルドマスター「お前の精鋭部隊、今すぐ国中から腕に自慢のある奴を集めるように招集をかけておいた。お前はその中から使えそうな奴を選び出せ」
ブレイズ「使える連中なんだろうな?」
ギルドマスター「それはお前次第だ。もっとも、お前の目に叶う奴が居ればだが」
ブレイズは舌打ちを打つ。
ブレイズ「ならさっさと集めてくれ」
そう言い残して、ブレイズは司令室から出て行った。