崩れる平穏
教師「で、あるからして、魔族と竜人族には……」
教師は黒板を書いていたチョークを止めて振り返った。
そこでは金髪の少年が机に突っ伏していた。
金髪の少年に向け、教師はチョークを投げた。
教師「ライズ!またお前か!」
ライズはチョークではなく、その大声に目を覚ます。
ライズ「あ!すみません!」
慌てて起きたライズは立ち上がった衝撃で机を倒してしまう。
「ははははは!!」
周りからは笑いが上がる。
ライズは顔を伏せて唸る。
教師「もういい、お前は廊下に立ってろ!」
しぶしぶライズは廊下に出て行った。
ライズ「は~あまたか……」
ライズはため息をつく。
ライズは家が貧しいので稼ぎが少ない。
そのため学費も全部自分で稼がなければならない。
都市から遠いこの村ではロクな働き口もなく、近場の山での狩りでライズは生計を立てていた。
ライズ「あーあ」
ライズは伸びをする。
やっと眠いだけの学校から解放された。
実はライズは六年で済む教育課程を四回留年していて、皆から笑われていた。
落ちこぼれのライズ。
皆が口々にそう言っていた。
そのためライズには友達が居ない。
どちらにしても狩りが忙しい為、ライズは友達と遊ぶ事が出来ないのでどちらでもいいのだが。
ライズ「ただいま~」
ライズは帰宅した。
「お帰りなさい」
するとそこには、ストレートのブロンド色の髪をうなじまで伸ばした、青い瞳をした女性が、フライパンを片手に夕飯を作っていてくれた。
彼女はシャリー・イクシード。ライズの姉だ。
ライズ「ご馳走様でした」
シャリー「お粗末様でした」
シャリーは笑顔で食べ終わった皿を片付けて行く。
ライズ(……姉さん?)
ライズは思った。シャリーがいつもより口数が少ない。
それにいつもより表情がよくない。
ライズ「姉さんどうかした?」
シャリー「………………」
シャリーは答えてくれない。
ただ食べ終わった食器を洗うだけだ。
ライズ「姉さん?」
シャリー「…………………………ねぇ」
シャリーは悲しみに暮れた目で振り返る。
シャリー「ライズ……実は……」
ドォォォォォォン!!
その時、村の外で物音がした。
ライズ「なんだ!?」
ライズは慌てて家を飛び出した。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」
村は炎上し、村の人々は皆が慌てて、ごった返していた。
「竜人族だ!竜人族の奴らが攻めて来たぞ!」
逃げる男の一人がそう言いながら去って行った。
ライズ「竜人族!?」
ライズは燃え盛る炎の先に目をやる。
するとその先には、隊列を組んだ竜人族の部隊があった。
「フッハハハハ!!魔族共を皆殺しにしてしまえ!」
竜人族の一人が剣を振り上げて村人を襲う。
村人「ひぃ!?」
村人はなすすべもなく切り裂かれてしまう。
村人「逃げろぉぉぉ!」
そして村人は再び逃げ始めた。
ライズ「うわああ……」
それを見てしまったライズも、顔を青くして森に逃げ込んだ。
ライズ「ハァハァ……」
ライズは何とか森の中まで逃げ切る事が出来た。
遠くに燃え盛る村が見える。
だがそれを見てライズは気がついた。
ライズ「姉さん!?姉さんが居ない!!」
ライズは村にシャリーを置いて行ったしまったことを思い出してしまった。
ライズ「助けに行かなきゃ! ……でも」
先程の惨状を見てしまったライズは足が竦んでしまう。
ライズ「…………………………よし」
だがシャリーを助けなければならないという使命感を感じ、再び村へと走り出した。
ライズ「姉さぁぁぁぁん!!」
ライズは灼熱の焦土と化した村の中を駆けて行く。
その途中、後ろから斬りつけられ、燃えている死体をいくつも見た。
それを見る度に、ライズは不安になった。
ライズ(姉さん……どうか無事で居て)
と、その時だった。
ライズ「!!」
燃え盛る村の中心に、竜人族の部隊が集まっていた。
そしてその中には気を失って兵士に担がれて行くシャリーの姿が。
それを見たライズの頭に血が上がり、叫んだ。
ライズ「姉さんを返せ!!」
部隊長「迎え撃て!!」
ひとりだけ、他の兵と違った立派な鎧を纏った騎士が部下に指示を出す。
すると二十人いる内の五人の兵が一斉にこちらに向かって来た。
「ハァッ!!」
一人目が剣を振りかぶる。
だが動きはライズの方が早く、ライズは兵の腹にアッパーを入れる。
兵は砕ける鎧と共に吹き飛んで行った。
「死ねっ!」
続けざまに次の兵が剣を構えて来る。
ライズは先程の兵が手放した剣を掴み、それを振り抜いた。
「!!」
すると兵士の両手は落ちた。
「隙あり!」
更に続けて三人目。
ライズは両手が落ちた兵を引き寄せた。
「な!?」
三人目の兵士は剣を引こうとするがもう遅い。
盾にした腕の落ちた兵を、三人目の兵士が貫く。
三人目の兵士は怯えている。
その隙を突いて続けざまにその三人目の兵士も斬り伏せた。
部隊長「ほう……」
部隊長は声を上げた。
部隊長「なかなかやるじゃないか。面白い、俺が直々に相手をしてやろう」
そう言って部隊長は前に出て来た。
道を塞ぐように立っていた兵達が道を譲る。
ライズはその部隊長から溢れ出る魔力に汗が止まらなかった。
ライズは歩み寄る部隊長に恐怖し、後退りしてしまう。
部隊長「ふっ、恐れるのも無理はない。俺は竜人族でも上位の竜と契約してるからな。……いでよ深淵」
突如、部隊長の手に漆黒の剣が現れた。
部隊長「楽しませろ?小僧!」
ライズ「くっ!」
ライズは部隊長の攻撃を受け止める。
バキンッ!
だがその瞬間、ライズの持っていた剣が折れてしまう。
その破片がライズの肩に刺さり、鮮血が散った。
ライズ「ぐ……ぐはっ!」
その痛みに怯んだライズの腹に部隊長は蹴りを入れた。
ライズは数メートル吹き飛び、燃え盛る民家にぶつかり、落ちた。
部隊長「もう終わりか。つまらんな」
動かないライズに、部隊長は剣を振り上げる。
ライズ(もう駄目だ……!)
ライズは目を瞑り死を覚悟した。
だがその直後だった。
キンッ!
剣を防ぐ音が辺りに響いた。
ライズが目を開と、そこには六枚の黒い翼があった。
だがライズは痛みに耐えきれず、そのまま気を失った。