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漆黒の六翼  作者: 鴇天ユキ


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11/12

遠征任務

ライズ「うっ……」


 身体中に鈍い痛みを感じながらもライズは目覚めた。


ライズ「あれ……?」


 まだ覚醒仕切っていないながらもライズはすぐ異変に気が付く。


 何故だがライズはベッドに居た。しかも裸で。


光帝「あら、起きた?」


ライズ「え?」


 初めて聞く声にライズはそちらに目を向ける。


 そこには聖母の如く美しい、白いローブ姿の女性の姿があった。


ライズ「え?……」


 再びライズは自分の体を確認する。なんど見ても自分は一糸纏わぬ姿。そして目の前には美女。


ライズ「え!? ええ!?」


光帝「ふふ……」


 艶かしく微笑む光帝がベットに膝をかけ、顔をライズに寄せる。


光帝「おはよう。昨日はどうだった?」


ライズ「え……昨日? 試験の後は何も、っていうか誰でしたっけ? 顔見知りでしたっけ!?」


光帝「ぷっ……」


 思わず、と言った様子で光帝はベッドから飛び退き、腹を抱えて笑い始めた。


光帝「あっははははははははは!! 君面白いわ、水帝が気に入る訳ね!」


ライズ「えっと……?」


光帝「ごめんなさい。私は光帝、水帝は急用で宮殿に戻ったから私は水帝の代わりなの。とはいえ、私は忙しかったりするから水帝のようにいつでも一緒に居れる訳ではないのだけど。体の具合はどう?」


ライズ「そういえば……なんともない」


 ライズの体の擦り傷や火傷は綺麗になくなっていた。


光帝「八帝の中でも水帝は回復魔法が得意だけど、そんな水帝よりも私の回復魔法は優れているのよ」


ライズ「そうなんだ」


光帝「ちょっとサービスもしてたりして」


ライズ「サービス?」


光帝「そのうち分かるわ。あと君そろそろ授業じゃない?」


ライズ「あ!」


 ハッとしてライズはベットから飛び出して支度を開始する。


光帝「それとごめんなさい。私実は任務の途中だったりするの。だからあなたが帰って来る頃には居ないかもしれないけど、気にしないでね」


ライズ「はい。その……ありがとうございました」


 支度を終えたライズは、そのまま慌てて部屋を後にした。


光帝「ふふ……ほんとに面白い子ね」



ガラ!!


 勢い良く扉を開くライズ。もう生徒達は集まっていた。


 生徒達の目が一斉にライズへと向く。


 その視線にライズはヒヤッとするが、そのままそろそろと自分の席へと着く。


ライズ(そっか……そういえば昨日あんな啖呵切ったばかりだった)


 昨日の自分の行動の後なのだから仕方ないのだろう。


 辺りではヒソヒソと陰口が聞こえて来る。更に、何時もより皆の目が鋭い。


ガラ


担任「皆さんおはようございます。早速ですが、本日のホームルームはありません。しばらくの間自習していてください。ライズさんとフレアさんは着いてきて下さい」


ライズ「え……?」


 疑問に思いつつもライズは先に部屋から出た担任に着いていく。



ライズ「えっと教官……話というのは?」


教官「ライズさん、フレアさん。あなた達二名には補習も兼ねて遠征任務に赴いてもらいます」


フレア「はあ!?」


 フレアが顔を歪めて怒りだす。


フレア「どういう事!? 私が補習!? しかも遠征任務ですって!? 納得行かないわ!!」


教官「ならば納得できる説明をしましょう。フレアさん、あなたは先日の試験でライズさんに負けました」


フレア「な!?」


教官「それどけでなく、試験終了後の不意打ちは目に余るものがあります。減点行為を繰り返したあなたには現在単位がないんです」


フレア「だからって──」


教官「これは決定事項です。この上更に命令違反の減点を受けたいのですか?」


フレア「!!……くっ!!!」


 フレアは激高した様子でドアを勢い良く開けて部屋から出て行った。


担任「はぁ……。お見苦しい所をお見せしました」


ライズ「いえ……。それより、遠征任務というのはなんですか?」


担任「遠征任務というのは……学生が魔族を撃退する実働任務です」


ライズ「え!?」


担任「この任務は、それまで帰還出来た者が居ないんです。……いいえ言葉を濁さずハッキリと伝えましょう。これは最終通告なんです。この学園から去るか、それとも死ぬかを選べという」


ライズ「そんな……じゃあ」


担任「すみません。実はライズさんに関しては完全に私の力不足なんです」


ライズ「え?」


担任「私がライズさんとフレアさんを戦わせたのは、ライズさんが成績優秀なフレアさんに匹敵すると上申したかったからなんです。けれど私の発言力ではどうにも出来なかった。本当はもう少し誤魔化して在籍させてあげるつもりだったんです。けれど、先日の一件で生徒達のライズへの敵意が更に強くなりました。加えて水帝様が不在の現状、私の手元にあなたを置いておけないんです……」


 最終には担任は涙を流し始める。


担任「本当に……本当にごめんなさい……」


ライズ「謝らないでください……」


 自分の今の立場は、沢山の人の努力の上にあったんだなと思い知る。多分今まで、水帝が居た事で丸く治まっていたのだろう。元々はかなり無理をしての入学なのだ、そういった事が起こらない訳がない。


ライズ(……どうしたら)


 ライズが思い悩むその時だった。


 ガラと扉を開く音がする。



 フレアが帰って来たのだろう。最初はそうライズは思った。だがドアを開けて入って来たのはいつか見た生徒だった。


ライズ「エメラルド?」


エメラルド「ライズ……さん?」


 エメラルドはライズの存在に戸惑っている様子だった。


担任「おや、二人ともお知り合いでしたか。なら紹介の手間が省けましたね」


エメラルド「えっと……それはどういう事ですか?」


担任「エメラルドさん。あなたには遠征任務に赴いてもらいます」


エメラルド「……そうですか」


 フレアと対照的にエメラルドは素直にそれを受け入れる。代わりに……


ライズ「え!?どういう事ですか? なんでエメラルドも」


担任「エメラルドさんも特待生ではあるのですが、授業の出席数や実戦訓練の実績が無いため単位がありません。だから彼女にも遠征任務に就いてもらいます」


エメラルド「覚悟は……していました」


 俯き告げるエメラルド。


担任「ライズさん」


ライズ「え?」


担任「この件は完全に私の実力不足が招いた結果です。ですが、私はこうも思っています。あなた達なら、遠征任務の初めての完遂者になれると」


ライズ「教官……」


担任「二人を頼みましたよ」


 最後には笑顔でそう告げて見せた担任。


 そんなやり取りを最後に、ライズとエメラルドは部屋を出て行った。



ライズ「知らなかった、エメラルドも特待生だったんだ」


エメラルド「私もライズさんが特待生だって初めて知りました……。私は授業に出ないから知らなかった。ライズさんが魔族だったって事も」


ライズ「ははは……あの時はそのお陰で助かったんだけどね。今更だけどあの時はありがとう、君に案内してもらったお陰で助かったよ」


エメラルド「……本当にそう思ってますか?」


 恐る恐るといった様子でエメラルドは尋ねる。


ライズ「? ああ、嘘じゃないよ」


エメラルド「あの時私が居たせいであなたはフレアに酷い事されてしまったのに?」


ライズ「ああ……そういえばそんなこともあったっけ」


 ライズはバツの悪い顔になる。


ライズ「確かにあれはちょっと応えたかも」


エメラルド「ですよね……」


ライズ「でも、エメラルドのせいじゃないよ。結局あれは僕が弱かったから招いた結果だし」


エメラルド「でも……」


ライズ「後、君だけなんだ。水帝以外で僕の事魔族だって知っててもこうやって普通に会話してくれるのは。それだけで凄く嬉しい」


エメラルド「あ……ありがとうございます///」


 若干頬を赤らめて告げるエメラルド。


ライズ「とはいっても、フレアの事は苦手なんだけどね」


 ははは、と乾いた笑いを漏らすライズ。そんなライズを見て、エメラルドも僅かに笑いを漏らす。


フレア「私がなんですって?」


 すると次の瞬間後ろから突然声がし、ライズは思わず肩を跳ね上げてしまう。



ライズ「フレア……?」


 恐る恐る振り返ると、そこには目付きを鋭く尖らせたフレアが居た。


フレア「あなた、またエメラルドにちょっかいだしてるの?」


ライズ「別にちょっかいなんか……ただ少し話していただけで」


フレア「なら話さないで。その子だって嫌々あなたに付き合ってるの。でしょエメラルド」


 しばらく押し黙っていたエメラルド。だがエメラルドはふるふると首を振って応える。


エメラルド「ライズさんとの会話は楽しいです。嫌だなんて思わない。それに……ライズさんは私と同じだから」


フレア「!!」


 フレアは呆気に取られた様子だった。だが次の瞬間いつも以上に険しい顔になってエメラルドの腕を掴む。


フレア「来なさい!」


 強引にエメラルドの腕を引く。これはまずいとライズは思い、フレアの手を振り払いながらエメラルドを後ろに下げる。


ライズ「なんで君はそんなにやり方が乱暴なんだ!」


 ふとライズは昨日の一件を思い出す。そのせいで、恐怖を上回るフレアへの憤りで溢れた。


フレア「あなたに何が分かるの」


 フレアはライズに手を翳す。対してライズも腰にした剣に手を掛けた。だが


エメラルド「やめて!!」


 エメラルドの声で二人は我に帰る。


エメラルド「お願いやめてお姉ちゃん……」


ライズ「え……?」


フレア「エメラルド……」


 フレアは表現を暗くして翳した手を降ろす。すると、そのまま背を向けてどこかへ行ってしまった。


ライズ「エメラルド……今のは」


エメラルド「……詳しく話します。部屋まで来てもらえますか?」



エメラルド「……えっと何から話しますか」


 部屋についてすぐエメラルドは本題に入る。だが話したい事が有りすぎて何から整理出来て居ない様子だった。


ライズ「えっと、エメラルドはフレアと姉妹だったの?」


 なのでライズから質問する。


エメラルド「正確には姉妹ではなく、従姉妹なんです。けれどフレアは養子として私達の家に迎えられて、周りから見れば姉妹に見えるようになった訳です。あんな風に見えますけれど、フレアはとても面倒見が良くて優しいんですよ?」


ライズ「とても信じられないな……」


エメラルド「彼女の取り巻きは覚えてますか?」


ライズ「ああ、あの二人か……」


 フレア同様、あの二人にもライズは良い印象を持っていない。


エメラルド「あの二人はスラム街の出身で親もなく、他の人から物を盗んで生きていたそうです。けれどそれを見かねたフレアが彼女達に新しい生き方を教えたんです。それであの二人は必死に勉強してこの学園に入学したんです。出自のこともあって特待生にはなれませんでしたけど、今もフレアを慕っているんです。因みに、フレアあまり化粧は好きではないんですけど、あの二人に付き合って化粧してあげてるんです」


ライズ「その割に君は彼女等に苛められてたように見えたけど?」


エメラルド「彼女達はああいったコミュニケーションしか取れないんです。私が特別な訳ではないんです。現に他の生徒にも同じ事をしているのを見た事があります。悪気が無いだけに、尚更困るんですけれどね……」


ライズ「まあ幼なじみ相手にあれならそうなるのか……」


エメラルド「それでも……彼女達はまだ良い方でした。昔はもっと……もっと酷い事をされてました」


ライズ「え?」


 楽しそうに話していたエメラルドの表情が曇る。


エメラルド「私は魔族と竜人族のハーフなんです」


ライズ「成る程、僕と同じってそういう事か……」


エメラルド「はい。……母は行商団を率いて行商をしていました。その道中、魔族に襲われたそうです。それで……産まれてしまったのが私で……」


 エメラルドの手が震えていた。


エメラルド「産まれも……血筋も、私は誰から見ても忌み嫌われる存在でした。だから私はずっと迫害を受け続けていました。出歩けば石を投げられ……家に居れば火を付けられた。家族の仇と家に乗り込んで来た人も居て……私は……私は……」


 エメラルドはその瞳に涙を浮かべていた。


エメラルド「!」


 しかしそんなエメラルドの震える手をライズが取る。


ライズ「ありがとう、話してくれて。けれど無理に話さなくていいよ」


エメラルド「ありがとうございます」


 エメラルドは涙を払う。


ライズ「感謝されるような事僕はしてないよ」


エメラルド「そんな事はありません。私の抱えてるものを知って貰えただけで、凄く救われました」


ライズ「それならいいけど……。でも僕が魔族だからってそんな事話して良かったの? エメラルドからしたら気分のいい話じゃなかったろ?」


エメラルド「良いんです。フレアの事、本当は優しい子なんだって知って欲しかったから。……何より」


 少し頬を赤らめてエメラルドは告げる。


エメラルド「私の事、もっと知って欲しかったから」


ライズ「うっ///」


 少し照れたようなエメラルドの表情にライズは思わず目を反らしてしまう。だが自分も何か応えねばと、ライズは咳払いをしてから切り出した。


ライズ「だったら、もっと親しく話そうよ」


エメラルド「と、言いますと?」


ライズ「もっと砕けた感じで話して欲しい。そうだな、まずライズさんじゃなくて、僕の事ライズって呼んでくれ」


 その言葉にエメラルドは笑顔になって勢い良く返した。


エメラルド「はい! よろしくお願いします、ライズ!」





---時を同じくして、宮殿。


侍女「水帝様、お待ちしていました」


水帝「ありがとう。炎帝の容態は?」


侍女「光帝様の回復魔法でかなり回復したようです。今は安定していて意識もハッキリしています」


 そう告げてから侍女は扉をノックする。


侍女「炎帝様、水帝様が参られました」


 告げてから一拍置いて侍女は扉を開けた。


 水帝はそのまま扉を抜けて部屋に入り、部屋の中心へと向かう。


 部屋の中心にあるベッドには全身を包帯に包まれた人物がいた。到底人相など確認出来ないその包帯にの向こうから、二つの目が水帝へと向けられる。


炎帝「……久しぶり」


 重傷であるにも関わらず、炎帝は笑って水帝に言ってみせた。


水帝「炎帝……炎帝……!」


 水帝は泣き崩れてベッドの縁にしがみつく。


水帝「良かった……! もう目覚めないと思ってた……!」


炎帝「はは……正直俺ももう駄目だと思ってた。でもな……」


 炎帝がそっと水帝の頭を撫でる。


炎帝「ずっと聞こえてたよ水帝の声。凄く頑張って回復魔法使ってたのも分かった。お陰で帰ってこれたよ」


水帝「私何の役にも立ててない……! 私の回復魔法じゃあなたの傷は一瞬しか治癒出来なかった。あなたが生きてるのは光帝の回復魔法があったから……。私何も出来なかった……!」


炎帝「だからって敵陣に一人で乗り込むなんて無茶は駄目だろ? レイア様が居たから無事に帰って来れたけど、下手したら帝クラスが二人居なくなる所だった」


水帝「……ごめんなさい」


炎帝「まあ君も懲りた事だし、もうこんな事しないだろ。今はとりあえず、ただいま水帝」


水帝「お帰り……炎帝」





--- そして次の日、ライズ達は学園の門の前に整列していた。


 これから遠征に入るため、担任が任務の概要を説明してくれるのをライズ達は待ってあたのだが……。


ライズ「……誰?」


 ライズのすぐ隣には、見たことの無い童顔の女の子が居た。聞いてなかったけど、遠征任務にもう一人参加したのかな? なんて思っていると。


エメラルド「……フレアですよ」


 こそっとエメラルドがライズに教える。


ライズ「……え?」


 ライズは再びフレアをまじまじと見る。いつもはアイラインを濃くして鋭い目付きなのだが、それがなくなった途端にパッチリの二重になっていた。若干つり目に見えるが、気が強そうには全く見えない。いつもの厚化粧からは想像出来ない程の幼い顔がそこにはあった。


フレア「なに」


 目をすがめて不気味そうな顔をフレアはライズへ向ける。といってもそれはライズには困り顔のように映ってしまう。


ライズ「ああ、本当にフレアだったんだ。声で確信持てたよ」


フレア「はぁ?」


ライズ「いつもと雰囲気全然違うから、何処の誰かと思ったよ。けどその顔だといつもより話し掛けやすい」


フレア「ああそう。じゃあもう話し掛けないで」 


 雰囲気が変わろうと中身がフレアである事に変わりはなかった。顔がいつものようにキツくないだけにいつも以上にダメージが重いとライズは思った。


担任「皆様お揃いですね」


 そこに担任がやって来た。


担任「皆様おはようございます。事前に通達した通り、あなた達にはこれより遠征任務に当たってもらいます。ではここからが任務の概要です」


 そう告げてから担任は地図を一枚ずつ三人に渡す。


 地図にはちょうど竜人族と魔族の国との国境が記されており、その地図のちょうど真ん中には赤い丸が記されていた。


ライズ(ここって!?)


 ライズはその場所を一目見ただけで何処なのかが分かった。


 そこは過去、ライズ達が住んでいた場所なのだ。


担任「では任務の概要です。今回皆様にはこの地図に記された村を奪還して頂きます。この場所は既に廃村となっていますが依然として魔族が駐留しています。理由は不明ですが、これは我々の国土に侵略し不法占拠していることに他なりません。直ちにこの地から魔族を排除してください」



 ライズ達は地図から目を離して担任を向き直る。


担任「では皆様のご検討をお祈りします。どうかご無事で、必ず帰って来て下さい」



ライズ「この任務、二人はどう思う?」


 目的地へ向かう馬車の中、ライズはエメラルドとフレアに尋ねた。


エメラルド「……魔族との直接戦闘。それも占拠というからにはそれなりの戦力が備わっているのだと思います。更にはここは最前線……となると、相手は精鋭部隊である可能性も高いです」


フレア「……………………」


ライズ「フレアは?」


フレア「話し掛けないで」


エメラルド「お姉ちゃん」


フレア「はぁ……」


 ため息をついてから不機嫌そうにフレアは語り出す。


フレア「国境沿いに居るのなら、近々こちらに侵攻するための前哨地点でも築こうとしてると考えるのが自然ね。私達はそれを食い止める為に派遣されるのでしょうけれど、学生を宛にする辺り何処まで本気か分からないわね。考え得るのは、私達は本隊の準備を整えるまでの時間稼ぎか、相手への牽制といった所かしら」


ライズ「流石フレア」


フレア「ふん……」


 ライズが誉めるもフレアは鼻を鳴らすだけで依然として態度を改めない。流石にあからさま過ぎたかとライズは思うが。


エメラルド「ライズの意見は?」


 場の空気を流そうとエメラルドが切り出す。


ライズ「ああ。最初に僕から二人に打ち明けておきたいんだけど、この目的地僕の住んでいた所だったんだ」


エメラルド「え!?」


 驚いて見せるエメラルド。無関心を決めてそっぽを向いていたフレアも、思わずといった様子でライズの方へ目を向ける。


ライズ「だから、この任務自体にいくつか疑問を感じているんだ。最初にこの任務はこの村の奪還というけど、そもそもここは僕が住んでいた通り魔族の領土だったはずなんだ。それも攻めて来たのは竜人族の筈だ。それを再び奪い返すという事なら話は通るけど、どうもあの説明だと最初から竜人族のもののような扱いだった」


エメラルド「私達は……騙されて魔族の前線に送られているっていう事ですか?」


ライズ「かもしれない。でも、教官の素振りから僕達を騙しているようにも見えなかった。それと、魔族が竜人族を攻めるならもっと他に場所がある筈なんだ。それをわざわざこの場所で駐留している理由が分からない。……フレアはどう思う?」


フレア「……………………」


エメラルド「お姉ちゃん!」


フレア「分かる訳無いでしょ。戦略的な観点から見ても、この場所は一番近くに村や集落があっても都市や砦が有るわけじゃないから本当意図が分からない。仮に報復で村を襲うにしてもこの場所である必要も皆無。目的なんて皆目検討もつかない。大体無学なあなたには分からないでしょうけど、竜人族と魔族は長いこと絶縁関係だから向こうの地理なんて私達には分からないのよ。本当の所を聞きたいなら、その任務を依頼した人に聞いてみてみれば?」


 素っ気なくも丁寧な返しをするフレア。


ライズ「依頼主って?」


エメラルド「こういった軍やギルドを介した依頼は、全て全帝様が総括しているんです。なので、この学園への依頼も全帝様に認可されたものですから恐らく任務の全容を把握しています。あっ因みに全帝様は全八帝の統括者で、この国のナンバー2です」


フレア「……八帝」


 ボソリとフレアが呟くのをライズは聞き逃さなかった。そして同時に水帝の話をふと思い出すが、その時のフレアは到底質問など出来る雰囲気ではなかった。



 そして次の日の空け方、3人は馬車を降りて森に降り立った。


 魔族と竜人族に交流は無いため、当然両国を結ぶ道もない。なのでこの先は徒歩で国境を跨がなければならない訳である。


 嘶きと共に去る馬車を背に、ライズ達は漠然と広がる森を前に呆然とする。


ライズ「本当に辿り着けるのかな?」


フレア「まだ始まってもいないのに不穏な事言わないで」


 不気味なのを隠すつもりもなくフレアは言い放つと、そのまま森へと歩みを進めて行く。


ライズ「あ、待ってくれよ。エメラルド、足元に注意して」


エメラルド「は、はい!」


 全く整備されていない森は非常に歩き辛かった。そのため道中の荷物持ちはライズが引き受け、他二人は身軽なのだがエメラルドはそれでも初めての詮索に苦戦していた。


 この調子で魔族の国境まで山を五つ越えなければならないのだから過酷な道程になるとライズは思っていた。





 が、1日経つ頃にはエメラルドは山道にも慣れて来ていた。ライズ自身は以前の生活で何度も山で狩りをしていて慣れてはいたが、それでもエメラルドの上達を見ているとその要領の良さに驚いていた。


ライズ「山道にも大分慣れて来たね」


 連なる崖道をエメラルドと上がりながらライズは声をかける。


エメラルド「ライズさんの動きを参考にしてます。それに……」


 エメラルドは視線を上げる。その目の先には、遥か前に崖を登りきり、段差に腰かけてこちらを見下ろすフレアの姿があった。


 悪態を着くわけでも、見下す訳でもなく、ただ黙って二人が追い付くのを待っている様子だった。


エメラルド「フレアに負けてられませんから」


 そう口にするエメラルドは口元に笑みを浮かべてやる気に満ちていた。最初はどうなるものかと不安だったが、今のエメラルドは充実している様子で安心するライズ。そのまま再びフレアに視線を向ける。


 フレアはライズと目が合うなり眉間に皺を寄せて不機嫌な顔を見せてから視線を反らす。思わず苦笑いを浮かべてしまうライズだが、あれ程嫌われていたのだから仕方ないと少し納得もしていた。またライズもフレアにされて来た仕打ちの数々を忘れられずにいる。


 だが、その一方でエメラルドが言うようにフレアの優しさというのも見えて来てもいた。


 今のように先行して先で待っているのは、何も言わずとも斥候を引き受けているのだ。だから見えなくなるまで先には進まないし、こちらを急かすようなこともない。先に進んで状況を把握しつつ、こちらにも気を配っているのだ。最も、ライズと一緒に居たくないというのも少しあるのだろうが。


ライズ(もうちょっと素直だったらな……)


 胸の内でぼやきつつ、ライズも歩を進める。





 そして2日目の夜が来た。


 エメラルドの上達もあり、ライズ達は早くも山を一つ超えていた。目的地には一週間程で到達すると計算していたライズだったが、それよりも早く到達しそうだ。


 そんな事を考えながらライズは横に目を向ける。


 自分の横ではフレアが膝を抱えて焚き火を見ていた。その少し離れた所にハンモックが掛けてあり、エメラルドはそこで寝息を立てていた。


 三人は旅の荷物が増えないよう、ハンモックを寝床に選択していた。その上に雨よけの布を張ってシェルターを設け、焚き火の僅な煙で虫除けにもなるという寸法である。


 そして夜は三時間ごと見張りを交代しようと三人で相談して決めたのだが……


フレア「……………………………………………」


ライズ「……………………………………………」


 一日目もそうだったが、フレアはライズが起きている限り寝ないのだ。エメラルド曰くエメラルドの見張りの時間は寝ているそうだが、ライズはエメラルドが寝ている姿を一度も見ていなかった。


ライズ「……寝ないの?」


 沈黙に耐えきれずにライズが尋ねる。


フレア「………………………………………………」


 しかしフレアからの答えはない。余計に気まずくなりながら耐えきれないライズは更にフレアに尋ねる。


ライズ「……そんなに信用ない?」


フレア「………………………………………………」


 やはりフレアからの返事はない。どんな表情でいるのかとライズは目を向ける。


 そこで初めてライズは気付いた。フレアは膝を抱えるようにしながら顔を伏せて寝息を立てていた。


 当然と言えば当然だった。いくら荷物を持っていなくても、斥候を引き受けるのだから道中で体力を消費しない訳がない。おまけに全く寝ていないのだからいつ限界が来てもおかしくはなかったのだ。


ライズ「……そこまで気を張らなくていいのに」


 思わず呟きながらライズは立ち上がる。


 そのままフレアの側に近付くと、自分の着ていた上着を脱いでフレアに羽織らせる。


 フレアが起きぬようゆっくりと上着を肩にかけるライズ。だが上着を着せた瞬間、ゆっくりとフレアが顔を持ち上げた。


ライズ「ごめん起こした?」


フレア「………」


 一瞬黙って自分の肩にかかるライズの上着を見ていたフレアだが次の瞬間……


ライズ「……!!!」


 あまりの衝撃に叫びそうになったライズだが、瞬時にエメラルドの事を思い出して叫び声を押し込め、代わりに駆け出した。


 寝起きだというのに自分の状況を瞬時に理解したフレアはライズが羽織らせた上着を焚き火に向かって放り投げた。


 寸前の所でライズは上着を掴み、薪としてくべられるのを防いだ。


ライズ「……なにするんだよ!」


 声を抑えながらもライズは語気を強くする。


フレア「気持ち悪いことしないで」


ライズ「ならこんな所でうたた寝してないで、素直に向こうで寝ればいいじゃないか」


フレア「寝てない」


ライズ「なら次に寝たら僕が添い寝する。どうだい気持ち悪いだろ?」


フレア「……気持ちわる」


 低いトーンで告げるフレアは本気でライズを気持ちわるがっていた。


 言っておいてそんな返しをされたライズも思わずダメージを受けてしまう。


フレア「その気持ち悪さでよく今まで水帝の側に居れたわね」


ライズ「水帝は君ほど意地が悪くないからね」


フレア「ふっ……」


 鼻で笑いながらフレアは告げる。


フレア「それもおかしな話だわ。私達のトップが魔族を庇っているだなんて」



ライズ「……………………」



 それに対してライズは何も答える事が出来ない。



フレア「私達も守る立場の人間が敵を守ってたら、私達は一体何を信じたら良いのかしら?」



 フレアのその問いはライズにではなく、目の前の焚き火に向けられていた。自分に尋ねたその問いに応えなど求めてはいなかったのだろうが、それでも思わずライズは言葉を発してしまう。



ライズ「彼女の事は信じて欲しい」



フレア「は?」


ライズ「僕の事はなんと言っても良い。けど竜人族である君たちは彼女は事を信じてくれ。彼女はとても優しいんだ。それこそ魔族である僕を庇ってくれるくらいに。それがどれだけ彼女の負担になるか僕じゃ想像も出来ないし、迷惑かけてるのは分かってる。けど……それでも水帝は信じてあげてくれ」



フレア「……なにそれ」


 フレアの視線が冷ややかなものへと変わる。



フレア「あなた水帝大好きじゃない。気持ちわる……」


ライズ「え!? いや違う!」


 手を激しく振って否定するライズ。対してフレアはすっと立ち上がって告げた。



フレア「気持ち悪いから近付かないで。私寝るから」



 そういってフレアはエメラルドの隣のハンモックで横になる。



ライズ「……え?」



 何故だか素直に寝てしまったフレアに対して困惑するライズだったが、とてつもない後味の悪さに襲われるのであった。



 そして翌日。フレアはいつもより寝てた為か足取りが軽かった。そしてエメラルドも山道に慣れきってしまい、初日からは想像もつかない程の速度で進んでいく。



フレア「休憩しましょう」



 いつもより早い足取りで余裕も出てきたある時、フレアが切り出した。



 森開けた場所を見つけたライズ達は、倒れる木の幹に腰かける。


 そして荷物を降ろしてからライズは中から干し肉を二人に渡す。



エメラルド「ありがとう」


フレア「……………………」


 それぞれの反応を見ながら、ライズも干し肉を口に入れる。



 噛み砕いた干し肉を水筒の水で流してからエメラルドが尋ねる。



エメラルド「食べ物は後どれくらいあるのですか?」



ライズ「うーん……三人で食べてあと二日分かな?」



エメラルド「そうですか……。少し心許ないですね」



ライズ「いや、そうでもないさ。僕らは戦いに行く訳だから、出来る限り現地で荷が少ない方が行動しやすいと思うんだ。ここまでは計算通りだよ」



フレア「へー……」



 無関心そうな返事だが、久しぶりに反応してきたなと思うライズ。だが当然口には出さない。代わりにフレアが続ける。 



フレア「なら足りない分はどう補うの? まさかただ荷物が重かったから減らしたかったなんて理由じゃないわよね」



ライズ「そんなまさか。辿り着く先は僕の住んでいた村だ。他に一番近い町があっても片道で5日かかる上に、辺境だったから行商も少なかった。だから村の人々は山で狩りをして育って来たんだ。もう少し先に進めば僕らが良く知る山に入れる。そうなれば帰りの分の食料も調達出来るさ」



フレア「ちゃんと考えていたのね。何故今まで話さなかったのかしら」



ライズ「聞いてくれなかっただろ。おまけに荷物も持ってくれなかった」



 目を眇めるライズ。対するフレアはふんと鼻を鳴らして威張った態度を取り、悪びれる様子もない。



エメラルド「すみません、私気が回らなくて……」



ライズ「え!? いや違うよエメラルドの事を言ったんじゃない。ただぴょんぴょん僕らの先を余裕そうに進むくらいなら少しくらい荷物を持って欲しいと思っただけだよ」



フレア「あなた奴隷でしょ? なら荷物持ちくらい文句言わずにやりなさいよ」



ライズ「だからあれは水帝が勝手に言ってるだけであって僕は奴隷じゃない!」



フレア「なら授業中も人目を気にせず椅子になってみせたりしてるのはあなたの趣味?」



エメラルド「え!?」



 信じられないと引き気味のエメラルド。対するライズは何も言い返せない。ああなったのには色々と事情があるのだが、複雑過ぎて到底説明出来なかった。


 すると口ごもるライズを見てフレアは良いことを思い付いたと言わんばかりに口元に笑みを浮かべた。嫌な予感を感じつつもライズはフレアの発言を許してしまう。



フレア「それとも、あなたが奴隷である事を否定し、あれもあなたの意思ではないというのなら、あの趣味は水帝のものかしら?」



ライズ「ぬぅ……」



 そう来るかとライズは唸る。正直ライズ自身、実は水帝の趣味なのではと疑ってしまう事が少なくなかったが、共に過ごして行くに連れて水帝は少々抜けている事を見抜いていた。つまりあれは趣味ではなく、他の手段が思い付かない水帝の最大限の配慮であり、天然なだけなのだ。


 しかし水帝のそんな提案を鵜呑みにしてしまうライズもまた頭が回る方ではなく、フレアにそれを弁明する話術を持ち合わせてはいなかった。なれば、とライズは覚悟を決めた。



ライズ「……あれは僕の趣味だ」



 意を決して告げるライズだが。



フレア「なに? 声が小さくて聞こえないわ?」



ライズ「僕の趣味だ! 僕は女の子に座られるのが好きなんだ!」



フレア「へぇ……」



 その言葉に口元を緩めるフレア。反面エメラルドは絶句して両手で口を覆っていた。



ライズ(終わった……)



 全ての終わりを悟ったライズ。この旅が終わったらきっともう元通りに生活出来ないだろうと全てを諦めていた。


 そしてその晩の事だった……



 その晩の事。



 ライズは見張りの交代でエメラルドを起こし、エメラルドが完全に覚醒するまで二人で焚き火を囲んでいた。因みに素直に寝るようになったフレアはハンモックで横になっている。



ライズ「じゃあ、そろそろ僕は寝るよ?」



エメラルド「あ、その……」



ライズ「?」



 見張りを交代しようとしたライズだったがエメラルドの様子がいつもと違っていた。



ライズ「どうかしたの?」



エメラルド「えっと……」



 焚き火に照らされたエメラルドの頬は紅潮していた。それが焚き火の色でないと分かる程に。そして……



エメラルド「あの……ライズさん。四つん這いになって貰えますか?」



ライズ「……え?」



 言葉の意図する所が分からないライズだったが、エメラルドが言うならと特に考えもせずその場に四つん這いになった。



 ……すると



ライズ「え……? え?!」



 四つん這いになったライズの背に腰掛けるエメラルド。



エメラルド「えっと……こんな感じで大丈夫ですか?」



ライズ「何が!?」



 思わず声をあげてしまうライズ。今までのエメラルドからは想像も出来ないその行為に動揺を隠せないが、ふと日中の出来事を思い出す。



エメラルド「やっぱり……私じゃ駄目ですか?」



ライズ「いや、そうじゃなくて……。昼間のあれは嘘だよ。僕は椅子にされて喜ぶ趣味はない」



エメラルド「え!?」


 慌ててエメラルドは立ち上がる。



エメラルド「す、すすすすすすみません!!」


ライズ「いや良いよ。元はと言われればフレアが僕にそう答えるよう誘導したのが悪いんだし、何より授業では本当に椅子になってるし……」


 その時クスクスと笑い声がするのをライズは聞き逃さなかった。



ライズ「しかも起きてるし」



エメラルド「お姉ちゃん!!」



フレア「分かったわ。そんなに怒らないで」



 そう言ってハンモックから上体を起こすフレア。



フレア「ちょっと彼を試したのよ。水帝様にどれだけの忠誠心があるのか」



エメラルド「なら謝って!」



 声を上げるエメラルド。一瞬フレアの顔が真顔になってライズに向けられる。ライズも僅かに身構えてしまうが、フレアはすぐに口元で微笑んで見せた。



フレア「悪かったわ。試したりして」



 告げてすぐフレアは再び横になる。



ライズ「え?」



 あまりに一瞬の事でライズは再び動揺する。それはエメラルドに座られた時よりも強烈なもので、ライズは一瞬頭が真っ白になってしまった。




 そして次の日。また少しだけ変化があった。


フレア「ほら、気を付けてエメラルド」



エメラルド「このぐらい大丈夫だから。今までだって問題なかったでしょう?」



 フレアがエメラルドの手を取りながら進む。それを少し進んだ所からライズは見ていた。因みに今はフレアが荷物を持っている。ライズは良いと断ったのだが、一度やると言い出したフレアは一切聞き入れてくれず荷物を横取りされてしまった。フレアはそろそろライズの知る森に入るのだから斥候を代われと言い出したのだが、それと荷物持ちは別である。


ライズ(なんで突然変わったんだろ……)


 なんとなくライズはフレアが以前程の当たりの強さが無いのを感じていた。認めてくれたのだろうかと思う反面、今までの事を考えると不安で仕方ないライズだった。


 しかしそんな不安とは裏腹に、山は何時しかライズが見知っているものへと変わって行った。


 半日程歩を進め、日が頭上に登る頃ライズ達は足を止める。


ライズ「ようやく僕が知る森に入った。ここから村までは1日歩けば着ける所まで来てる。ここが拠点にちょうど良いから、ゆっくりしよう」


 そうライズが二人に切り出すと二人は素直に了承していつも通りに設営を終えた。


 設営を終えてからライズは二人に告げる。


ライズ「二人共着いてきてくれ」


 そうライズは食糧などの設営で余った荷物を持って二人を手招きする。行き先を告げずに進むライズを二人は多少怪訝に思っていたが、行き着いた先で声をあげた。


エメラルド「うわぁ!」


フレア「これって……」


 三人の前には白い湯気の立つ泉があった。


ライズ「ああ。ここは温泉だ。村からも結構離れてるから、ここを知ってる人は少ないんだ」


フレア「けれど、見た所かなり高温のようだけど?」


ライズ「ああ。だからそこの……」


 ライズは泉の奥へと歩いて行く。そこにある岩を退かすと、そこから大量の水が溢れだす。だが流石に水の勢いが強すぎる為、ライズは少し小さい石で穴を塞ぎ、水が湧く量を調整した。


ライズ「これで入れる温度になかった筈だ」


エメラルド「それに水の確保も出来ます! すごいですよライズさん!」


ライズ「ははは……そこまで言われると照れるな」


フレア「ならその代価として私達の湯浴みを覗こうとか考えてるのかしら?」


 そのフレアの発言に一緒ドキッとするライズ。しかしフレアは口元で若干の笑みを浮かべている。冗談のようだ。


ライズ「ま、まさか。僕はちょっとやりたい事があるから二人は先にお風呂済ませてよ」


フレア「何? 怪しいわね。何するのか言って行きなさい」


ライズ「食糧の確保だよ。じゃあ邪魔しちゃ悪いから僕は失礼するよ!」


 そう言ってライズは二人の前に荷物を残してその場を後にする。



 最近やけに乗り気なフレアに戸惑いを隠せないライズ。これも関係が前進したのだろうと納得したいライズだが、やはり今までのこともあって素直に受け入れられない。何より急過ぎる。何がきっかけだったのだろうと思いながら、不安を払拭するように野草や木の実を採取するライズだがそこに……


 カサッ


ライズ「?」


 と、ふとした茂みの音にライズは耳を傾ける。そしてその音のした先を見てライズはすぐさま息を殺して姿勢を低くした。


ライズ(あれは……!)







エメラルド「お姉ちゃん、ライズの事認めてくれたの?」


フレア「珍しいわねあなたから話し出すなんて。どうしたの突然?」


 その頃、温泉に浸かっていた二人。しばらく無言で湯を浴びていた二人だったが、唐突に口を開いてエメラルドは訊ねた。


エメラルド「突然なのはお姉ちゃんだよ。ライズの事油断させて、また苛めるつもりじゃないの?」


フレア「心外ね。そんなつもりないわ。……まああなたにそう疑われているのだから、きっとあいつもそう思っているのでしょうけど」


エメラルド「本当? なんで急に優しくなったの?」


フレア「あいつは、私達が教えられて来た魔族じゃないって分かったからよ。って説明だけじゃ納得出来ない?」


エメラルド「うん」


フレア「……少し話したのよ、あいつと。それで私は言ったのよ、なんで水帝様はあんたなんかを庇うのかって。そしたらあいつ、自分の事は何と言っても構わないけど、水帝様の事は信じて欲しいって答えたのよ。あまりに必死だから少し気持ち悪いと思ったけど、それだけ本気何だって思ったのよ」


エメラルド「そうだったんだ……」



フレア「じゃあ私からも質問よ。何でそんな事が気になるのかしら?」


エメラルド「え?」


フレア「あいつと私が仲が良くなると何か不都合かしら?」


 悪戯っぽく微笑むフレア。対してエメラルドの顔が赤くなっていく。


エメラルド「えっと……えっと!」


フレア「それだけ慌ててたらあいつに気持ちバレちゃうわよ?」


エメラルド「うっ……。……いじわる」


フレア「意地が悪いのはあなたも同じでしょう? もし私があいつに気があるって言ったらどうしたのかしら?」


エメラルド「……わかんない」


フレア「きっとあなたなら、無意識にあいつの気を引こうとするでしょうね。水帝様や私の気持ちも考えずに」


エメラルド「………………」


フレア「ふふっ。けど安心して。あいつの事、考え直しても好きになる事は無いから。タイプじゃないし」


エメラルド「ホント?」


フレア「私があなたに嘘ついたことあった?」


エメラルド「うん」


 次の瞬間フレアは手の甲で水を弾いてエメラルドの顔に当てる。


エメラルド「ケホッケホッ! 本当の事言っただけなのに……!」


フレア「こういう時だけホントの事言うのは卑怯よ。自分の気持ちは素直に言わないくせに」


エメラルド「だって……」


フレア「そんなじゃ水帝に勝てないわよ?」


エメラルド「うう……」


フレア「それか私が横取りするかも」


エメラルド「むっ!」


フレア「なに、水帝様には申し訳ないのに私にあいつを取られるのは気に入らないのかしら?」


エメラルド「だってお姉ちゃん。ライズの事いじめるもん」


フレア「今はいじめてないわよ。あとあいつが気にならないのは本当だから安心して。あなたとそんな事で争いたくなんてないわ。仮に何かの間違いで好きになってもあなたに譲るわ」


エメラルド「……じゃあそれは信じる」


フレア「素直でよろしい。そろそろ上がりましょう?」


 そうフレアが告げた瞬間だった。


 ダダッ!


 何かが駆ける音が突如近づいて来る。


フレア「何!?」


 その正体を探ろうとフレアが耳を立てた瞬間だった。



???「ブオォォ!!」


 何かが声を上げながら、フレア達が背にしている崖上から飛び降りる。それは悲鳴に似た鳴き声を上げながら高所からの転落でバランスを崩し、岩場に倒れ伏した。


フレア「!?」


 その時フレアは自分の頬に何かが触れるのを感じた。フレアは自分の頬に触れる。指で伸びるそれは、赤い鮮血だった。


 二人の目の前に居たのは、鮮血を流す牡鹿だった。牡鹿は立ち上がろうとするが立ち上がれない。


 と、そこに……


 ザンッ!!!


 斬撃と共に何かが降って来た。


ライズ「くそぉ……久しぶりだったから逃げられた」


 二人の目の前には剣を持ったライズが居た。牡鹿を追って来たライズが、そのまま崖から飛び降りて牡鹿の首を落としたのだった。


エメラルド「ライズ……?」


ライズ「え?」


 その時ライズはふと声に振り返る。するとライズの目の先には裸の二人の姿があった。


ライズ「うわっごめん! ごめんなさい!」


 慌てて目を両手で被うライズ。するとフレアがゆっくりと湯の中から立ち上がる。


 湯気でまだ見えなかった体が全て露になるが、フレアは構う事なくゆっくりとライズに歩み寄る。


フレア「……何をしているの?」


 低く、そして震える声でフレアは尋ねる。


ライズ「ひッ!?」


 堪らずライズは情けない悲鳴を上げてしまう。顔を伏せて歩み寄るフレアは翳すように手を前に出してライズへと近付いて行く。


 年を同じくする異性が目の前で全裸を晒していたが、フレアのその好かれるにライズは興奮する余裕など到底なかった。


 やがてフレアはライズの前まで歩み寄る。


 ここまでかと冷や汗が止まらないライズ。


フレア「なんで……」


 しかしフレアは、ライズの脇を通り過ぎて牡鹿の側に膝を着いた。


フレア「なんでこんな事……」


 フレアの声は震えていた。そこでライズは初めて気が付く。フレアは怒りに震えていたのではなく、涙を流していたのだと。


ライズ「フレア……?」


 しかし突然の事で状況を掴みかねるライズ。何より今までの事があり、更には裸を目撃したとあってはフレアは何をしてくるか分からないとライズは警戒心を解く事が出来ずにいた。


 しかし、振り返ってみるとそのにあったのは全身が血に塗れるのを厭わず、牡鹿の亡骸にすがり付いて泣くフレアの姿だ。


 エメラルド「お姉ちゃん……」


 エメラルドもそんなフレアの姿を見て、湯から上がってフレアに近付く。


 そしてフレアに寄り添ってからライズに告げた。


エメラルド「ライズ。フレアは任せてください」


ライズ「あ……うん」


エメラルド「お姉ちゃん。血を洗い流さないと」


 そうエメラルドに諭されると、フレアはゆっくりと牡鹿から離れる。そのまま二人は再び湯へと戻って行った。


ライズ「二人共ごめん」


 聞こえているかは分からないが、謝罪を告げてからライズは牡鹿を背負い、その場を後にした。



 そしてその夜。


フレア「……………………」


ライズ「……………………」



 いつかの夜のように、二人は火の前に居た。エメラルドは次の見張りまで休息を取る為に休んでいた。因みに捕った牡鹿はライズが解体し、今は燻して保存食に加工している。


ライズ「……………………」


フレア「……………………」


 しかしあの夜のようにずっと気まずい時間が続いていた。しかもフレアは生気が抜けたようにずっと火を見つめて動かない。


ライズ「……あの、フレア」


 さすがに耐えられずにライズは切り出す。


ライズ「昼間はごめん」


フレア「…………………………」


ライズ「怒ってる?」


フレア「…………………………」


 しかし返事は帰って来ない。また気まずい時間が過ぎていく……かと思えば。


フレア「……怒ってないわ」


 意外にも返って来た返事にライズは一旦安堵の息をつく。


フレア「情けない所を見せたわ……」


ライズ「ああ……いや、なんていうか……」


フレア「無理に取り繕わないで良いわよ」


ライズ「……うん。もしかしてフレアって動物が死んだのが悲しかったの?」


フレア「…………あなたは悲しくないの?」


ライズ「何も思わない訳ではないけど、今までずっと続けて来た事だから……。何より生きる為に仕方ないし、申し訳ない気持ちはあるけどそれで躊躇ったら死んじゃうのは僕らだからね。……何か言い訳みたいだ」


フレア「……そうね。けど、本当に言い訳してるのは私なのよ」


ライズ「え?」


フレア「私は何度もあなたを本気で殺そうとした」


ライズ「え?……え!?」


 思わず声を上げてしまうライズ。しかし淡々とフレアは続けて行く。


フレア「正直今も、本当はあなたを殺そうと悩んでる。けどエメラルドが居るから、本当は優しい魔族だから、そんな事を引き合いにしてあなたを殺さないでいる。けれどそれは私についてる嘘よ。本当は殺すのが怖いのよ。人を殺すのも、動物を殺すのも……何かの命を奪うのが怖くて仕方ない」


 震えてフレアは語る。その目からは涙が溢れているのをライズは見てしまう。そこに水帝の姿を重ねてしまい、ライズはやっと彼女の正体に気が付く事が出来た。


 最初の頃も、試験の際も、フレアは本当に自分を殺そうとしていたのだ。


 だから最初に会った時、瀕死の重症を負わされた。だが本来ならフレアはライズをバラバラに爆散出来たはずなのだ。


 そして試験の時も、いくらでも殺す機会はあった。なのにわざわざライズの得意な戦術に合わせたのも、手加減ではなく最初に会った時の攻撃が脳裏に過って魔法を使えなかったのだ。そして焦りを覚えて最後に不意打ちという形で魔法を使う羽目になり、きっとフレアはそれに強い負い目を感じていたのだろう。だがそれは全部……


ライズ「それは違うよ」


フレア「……は?」


ライズ「君が僕を殺せないのは君が優しいからだ。君は本当は誰も傷付けたくないんだ」


フレア「…………どうかしら。何にしても、それじゃ駄目なのよ」


 涙を払い、フレアは続けた。


フレア「この遠征任務、私達が試されてる事にあなたは気付いてる?」


ライズ「え?」


フレア「まあ、気付かないわよね。なら教えてあげる。エメラルドは彼女の魔法が戦闘で通用するのか試されてる。そしてあなたは、同族でも殺せるのかを試されてる」


ライズ「!」


フレア「そして私は、人を殺せるのかを試されてる。こんな事じゃ駄目なのよ……」


ライズ「でも、だとしても君は優しいままで良いじゃないか。無理に人を殺す必要なんてない。僕にやったように、ギリギリ殺さないようにすれば良いじゃないか」


フレア「それじゃ駄目なのよ。……いいえ、駄目だったのよ」


ライズ「そんな事は……」


フレア「あなた、“継承”って水帝から聞いた事ある?」



ライズ「“継承”? ああ確か、水帝が八帝は普通とは違う契約をするって言ってた」


フレア「そう。八帝は私達のように竜と契約するのとは違うやり方で力を得てる。それが“継承”よ」


ライズ「その契約と継承って何が違うの?」


フレア「通常、竜と契約する事で私達竜人族は力を得てる。そして、竜の契約とは新たに契約しなければその血縁者がその竜との契約を済ませた状態で産まれて来るの。つまり新たな契約が無ければ、その力は契約者の分だけ割かれる事になり、弱くなって行くのよ。だから私やエメラルドのような人間は、高位の竜と新たに契約する事によって割かれる前の力を使えるという訳よ」


ライズ「へー。じゃあ学校の生徒達も皆そうなの?」


フレア「ええ。それが学園への入学条件だったから。けれど、契約というのはあくまで力を貸し与えられるだけ。どれだけ高位だろうと、その力全てを使える訳ではない。けれど……」


ライズ「継承は違う?」


フレア「それだけじゃないわ。新たな契約は力が割かれないと言っても、過去の契約者にある程度力が残ってしまう事や、血縁者に力が分け与えられる事がある。だから高位の竜は人間と契約するのを嫌うのよ。けれど八帝は違う。各属性の頂点の力を、分かつことなく百パーセントの力で使う事が出来る。その気になれば一人でこの世界を滅ぼせる程の力を」


ライズ「え、そんな力どうやって得るの?」


フレア「血縁者を全員殺してから、継承する人間が前に能力を継承した人間を殺すのよ」


 その言葉にライズは言葉を失う。頭が真っ白になる中、ふとライズの脳裏に水帝の後ろ姿が映る。


ライズ「そんな……事許される訳が……」



フレア「八帝は、単に才能だけで選ばれている訳じゃない。同時にその覚悟を試され、それを越えた者のみが、八帝に成る事が出来る。……けど」



 フレアは踞る。



フレア「私には……出来なかった。母さんや、エメラルドを殺す事なんて……人を殺す事なんて私には出来ない」



 「おかしいでしょ?」とフレアは涙を流す目をライズへと向けた。


フレア「それを知ってて八帝を志したにも関わらず。今になっても、私は動物一つ殺す事が出来ないのよ。それどころか、一度殺める覚悟をしたエメラルドを守ろうだなんて思い上がって……。本当に私は……私は……」


 フレアから視線を焚き火に移しながらライズはそっと告げた。


ライズ「……君が自分をどう思っているかはわからないけど、君は人を殺めるべきじゃないんだ」


フレア「……それじゃ駄目なのよ。……この力も魔族と戦う為に得たものなのに……」


 それ以上続けられないのか、フレアは呻き声を時折上げながら俯いたままになる。


ライズ「何とか言うか……もっと強いと思ってた」


 ふとライズが呟く。


ライズ「君と最初に会った時、とんでもない実力者だと思った。しかもその実力を水帝が認める程に。知ってるかい? 水帝は力が制限されてる今の状態なら、君の方が実力が上だと言っていたんだ。納得行ったよ、八帝候補だったらからあんなに強かったんだって」


フレア「幻滅した……?」


ライズ「どうだろ……。正直言って君とはあんな出会い方をしたから、元からそんなに高く評価はしてないつもりだったよ。けど、この旅を経て君への評価は最初会った時とは全然違うよ」


フレア「……こんなに中途半端な人間だとは思わなかったでしょ?」


ライズ「そうだね……そうかもしれない。けど、君はそれでも僕達より強いじゃないか」


フレア「……強い? 私が?」


ライズ「強いよ。本気で君と戦ったら、どうやって勝ったら良いか未だに分からない」


フレア「買い被り過ぎよ」


ライズ「そんな事は無いよ。こんな事情を抜きにしても、僕は二度と戦いたく無い。何よりエメラルドもあの取り巻きの二人も、君の強さに引かれて着いて行ったんじゃないか」


フレア「でもそれも相手を殺せないんじゃ……」


ライズ「もう良いよ……」


 フレアから視線を焚き火に移しながらライズはそっと告げた。


ライズ「もう一人で抱えなくて良いよ……」


フレア「……けどそれじゃ駄目なのよ。私はこの手で、この力で守ると決めたのに、そんな半端な覚悟で良い訳がないのよ」


ライズ「この戦争で人を殺さないというのは難しい事だと思う。確かにもう命を奪い合わなければ立ち行かないという所まで来ている。そういう覚悟が無ければ守れないものも出てくると思う。けれど、だからといって人の命を奪う事が正しい事だとは僕は思わない」


フレア「甘過ぎるわあなた。そんな事でこの戦争を止めたいなんて夢のまた夢よ」


ライズ「どうかな。絶対相手を殺さなければならない。その存在は絶対間違ってる。その考え方は今までの考え方だよ。でも僕はこっちに来て知った。誰も間違ってないし、絶対に死ななくちゃいけない命なんてないんだって。ふふっ」


 思わず笑いをこぼしながらライズは続ける。


ライズ「甘い考えだと僕自身思ったこともあった。もしかしたら僕の考えは間違いだったんじゃないかって。けれど今のフレアの話を聞いて安心したんだ。あんなにも僕を憎んでいたフレアでも、命を奪う事にちゃんと抵抗を感じていたんだって。ちゃんとこっちにも僕と同じ考えの人が居るって思えて自信が持てたよ」


フレア「一緒にしないで」


ライズ「いいや。これだけは引き下がらないよ。人を殺したくないって気持ちは誰も違いはしないんだ。それは覚悟の違いなんかで覆っていいものなんかじゃない。君が半端だと思う気持ちは、誰もが持ち合わせていて簡単に手放していいものじゃないんだよ」


フレア「……そうだったら。本当にそうだったら良いのだけど」


ライズ「ああ。……僕もそれを今回の任務で確認したいんだ。戦わなくても済む方法があるって。誰もが人を殺したい訳じゃないんだって。……僕だって同族殺しなんかしたくない」


フレア「通じると良いわね、あなたの甘さが」


ライズ「君も、人を殺さずに任務が終わると良いね」


 そう互いに言葉を交わし合い、二人はそれ以上は何も言わなかった。



 そして、遂にその日はやって来た。


ライズ「遂に帰って来た……」


 昼下がり、ライズ達は森の中から村を一望していた。


 あれから初めて見たライズの村は酷い有り様で家木は全て炭化しており、一体その村に何が起こったのかを物語っていた。


 そんな中に真新しいテントが三つあり、それは正しく魔族のものである証だった。


エメラルド「一個師団程居ると思ったのですが……想像よりは数が少ないですね」


ライズ「ああ。僕も占領なんていうからてっきり大部隊だと思ってた」


 数キロ離れた位置から偵察するライズ達だが、村に居る魔族の部隊は数えた所十数名しか居なかった。


ライズ「フレアはどう思う?」


フレア「私達を誘き寄せる為にわざわざ少なく見せてる……なんて考えを一瞬したけどハズレね。そもそも数の利は向こうにあるのだから、わざわざ待ち伏せする必要も無いわ。第一、私達の存在を知っているのならこの時点で何の痕跡も無いなんてあり得ないし、それが出来るなら備えだってあっても良いはずだから」


ライズ「えっと……つまり待ち伏せは無いって事で良いのかな?」


フレア「違うわ。私が言いたいのはその先よ。待ち伏せをするつもりもない、かといって拠点を作るという様子でも無い。なら彼ら一体何故あんな場所に居るのかしら?」


エメラルド「確かに妙ですね。明らかに焼かれた後の村にわざわざ軍が駐留するなんて、利にかなっているとは思えません。ライズさんは何か心当たりは?」


ライズ「ごめん、何も思い付かない。……けど」


 話しながらライズはある物を目にして気が付いていた。


ライズ「分からない事なら聞けば良いんじゃないかな?」


エメラルド「え?」


フレア「は!?」


ライズ「だって僕魔族だし」


 それを告げた瞬間エメラルドは手で口を覆い、フレアは頭を抱える。


フレア「失念してたわ……。成る程、今回あなたがこの任務に抜擢されたのってこれなのね」


エメラルド「全然気づいてませんでした」


 ハハハ、と乾いた笑いを漏らしてしまうライズ。竜人族に魔族と認知されない自分もどうかと思ってしまう。


 だがそれ以上にふとライズは思ってしまう。


ライズ「え、二人は良いの?」


エメラルド「?」


フレア「それを尋ねるのはむしろこっちよ」


ライズ「え?」


フレア「あなた、私達二人をつき出せば魔族の側に戻れるかもしれないのよ? 何故それをしようとしないの?」


 その言葉に唖然とするライズ。そして、


ライズ「思い付かなかった」


フレア「はぁ……」


エメラルド「ふふふ……」


 それぞれが三者三様の様子を見せる中、フレアは改めて尋ねる。


フレア「それで、どうするの? 」


ライズ「変わらないよ、僕が話し合ってくる。この機に君たちを置いて僕だけ魔族に戻るなんて出来ないし、それじゃこの戦争は終わらない」


フレア「信じるわよ?」


 フレアの言葉に続くようにエメラルドも頷いて返す。


ライズ「信じてくれとしか言えないのが心苦しいよ」


 そう告げてライズは山を降りて行く。



 もしかしたら。もしかしたら誰も傷付く事なく話がつくかもしれない。淡い期待のようで確信に近いものをライズは持っていた。


 二人には言わなかったが、魔族の甲冑を着こんだ兵士のマントにはある刺繍がしてあった。


 赤いマントに刺繍されたそれは六枚の黒い翼。そうそこに居た部隊はあのブレイズの部隊なのだ。


ライズ「あの!」


 ふと目の前の兵士にライズは語りかける。


 すると三名程の兵士がそれに気が付き、急ぐ仕草も見せずに歩み寄る。


兵士「お前は何者だ。何故ここに居る」


 兵士の一人がそう切り出して来る。はやる気持ちを押さえ込み、落ち着きながらライズは言った。


ライズ「あの、僕はこの村の生き残りなんです。その……気が付いたら村がこんな事になっていて、何か知りませんか?」


 嘘は言っていないが、何故だか少し心苦しくライズは感じてしまう。


兵士「ここは竜人族に襲撃に遭った。知らなかったのか?」


ライズ「はい。村が火事になったのは分かっていました。けどその時僕は慌てて逃げ出して、事態を良く知らないんです。それで混乱しているうちに置いていかれて……もう何が何だか分からなくて」


 その時の気持ちを思い出してしまい、思わずライズは目元に涙が溢れるのを感じた。すると思い出す感情と共にある事もふいと口を突いて出てきた。


ライズ「姉さんは……僕の姉さんは見ませんでしたか?」


兵士「まさか……。まさかお前はライズ・エクシードか?」


ライズ「え?」


兵士「隊長から聞いた事がある。この村の唯一の生存者をここで保護したと」


ライズ「じゃあ、ブレイズさんは……」


 きっとこの状況を知っていて助けに来てくれるのだろう。そうライズは思う。


 だが……


兵士「そしてその生存者は竜人族に拉致されたと聞いた。我々はこの村にお前の痕跡を辿る為に来ていたのだ」


 ライズはそこでハッとするがもう遅い。


 気が付けば背後にも何人もの兵士が居る。ライズは囲まれていた。


兵士「お前に問いたい。竜人族の側から傷一つ無く帰って来たお前は何者だ」


 ザッと、兵士達がゆっくり歩み寄って来るのをライズは感じる。


ライズ「僕は本当にライズ・エクシードだ! 偽者なんかじゃ……」


兵士「ならば尚の事だ。お前は何の為にここに来た。いいや、お前は一体どっちの味方なのだ?」


ライズ「待ってくれ! 僕は確かに竜人族の側としてここに居る。けれどそれはあなた達と戦いたいからじゃない! “僕ら”はただ任務を受けただけだ、ここからあなた達が立ち退くだけで戦う必要なんか無いんだ!」


兵士「いいや、今のでハッキリした。そちら側に居るのなら、お前は違わず我々の敵だ。抜刀を許可する!」


 兵士が高らかに告げた瞬間、兵士達が腰にした剣を抜く。そして最初に動き出したのもやはり号令を出した兵士だった。


 速い。それもただの速さではない。契約剣を出した竜人族並みの速さで踏み込んで来る。


 抜刀すら出来ていないライズは、反応も遅れて動く事すらも出来ない。


ライズ(しまっ──)


 思考すらも間に合わない。


 だがその刹那。


 両者の目の前が突然爆発した。



 兵士は爆発を剣で受け、そして“それ”を何度も受けているライズも両腕を前に出しつつ体を丸めて衝撃と熱に備える。


 そして爆風によって両者は吹き飛ばされ、ライズはそのまま包囲を脱した。


 地面を三度程転がった所でライズは背中に柔らかい感触を受けたながら止まる。


 それが何かを既に察していたライズは受け身を解いて直ぐ様振り返って告げた。


ライズ「何で来たんだ!」


フレア「あなた本当に馬鹿ね! 一体どっちの味方なの!」


ライズ「僕は誰の敵でもない!」


 すぐ立ち上がりライズは再び兵士達へと向き合う。


ライズ「待ってくれ! 話を聞いてくれ! 僕達は敵じゃないんだ!」


兵士「砲撃用意!」


 吹き飛ばされた兵士が声をあげ、兵士達がライズ達へ手を翳す。


ライズ「聞いてくれ!!」


フレア「本当に馬鹿!」


 言いながらフレアはライズを押し退けて右手を兵士達に振り払う。


 すると先程、いや今でもライズが見た中で一番強烈な爆発が起き、兵士達が四方八方に吹き飛ばされる。


フレア「いい加減にして! 甘過ぎるのよあなた!」


ライズ「だけど……」


「その通りだ」


 爆煙の奥で声がする。


 そして次の瞬間煙を割って剣を振りかぶった兵士が斬りかかって来る。


 フレアはそれに反応出来ない。だが今度こそは反応して見せたライズが剣を抜き放ち、フレアの眼前でその一太刀を止めた。


 しかしそのまま一連の流れの様に兵士はがら空きのライズの腹部を蹴って吹き飛ばす。


ライズ「カハッ……」


兵士「お前は甘過ぎる。……いいや」


 ガン!


 ライズを見つめたまま、兵士は軽々とフレアの一撃を受け止めた。それこそライズの一撃にも劣らぬ鋭さのそれを。


フレア「くっ……」


兵士「お前も甘いな。何故止めを刺さなかった? お前はあれだけの規模の魔術を、誰も殺さない程度にコントロールして見せたな。今の一撃もだ。それだけの実力があれば、私に一撃入れる事も出来たはずだ。人を殺すのが怖いか?」


フレア「黙れ!」


 フレアは顔を歪め、両手で剣を押す。兵士もそれに呼応して鍔迫り合いに持ち込んだ。


ライズ「怖いに決まってる……。誰も人を殺したくなんかない。僕達は……戦争なんか望んでないんだ」


 どうにか立ち上がろうとあがきながらライズは呟く。しかし剣を杖にしても、ライズの足にはすぐには力は戻らない。


 と


兵士「私も同じだ」


ライズ「え……?」


 ライズの意表を突きながら兵士は続ける。


兵士「私も戦争を終わらせたかった。きっと竜人族も同じ事を思っていると思いながら戦い続けた。そして──」


 スッと兵士は力を抜く。そのままフレアは体勢を崩すかに思えたが、フレアはそれに反応して見せる。そこから両者剣を構えて振り抜いた。


 が


フレア「な……!?」


 兵士は剣はフレアを捉えずに降ろされる。動揺したフレアはそのまま兵士の首筋で剣を止めてしまった。


フレア「う……!?」


 すると次の瞬間、フレアは鈍い唸りを上げてその場に跪く。


 兵士は剣の柄でフレアの鳩尾に一撃を加えていた。


兵士「──そして、そんな思いを抱いた竜人族を何人も殺してきた」


 踞るフレアを尻目に、兵士は再びライズを見つめる。


兵士「今更平和を願って、殺すのを辞める事など出来ると思うか? 私は平和を願い、同じ想いを持つ人間を数えきれない程殺めて来た。教えてくれ、私は何と詫びれば戦いを辞められる? どう償えば私の殺めた命は還ってくる?」


 その言葉に、ライズは何も応えられない。


 フレアも立ち上がろうとするが、痛みが引かない様子だった。


 そんなフレアの首もとに、剣が突き付けられる。


兵士「お前達に教えてやろう。そして私を恨んでくれて構わない。甘さで戦争は解決出来ないんだ」


 兵士は剣を振り上げる。


ライズ「やめ……」


 漸くライズの体は動くようになるが、それは到底間に合わない。


兵士「もう進んだら。進み続けるしか無いんだ」


 そう口にして兵士の剣が振り下ろされる。


フレア「……!」


 それを眺めているしか出来なかったフレアだった。


 しかし、そんな二人の間に突如何者かが割って入る。


 両手を広げ割って入って来たのは、エメラルドだった。



 キンッ!


 甲高い金属音と共に、兵士が大きく仰け反る。


 フレアの前に立ち塞がるエメラルドには傷一つなかった。


エメラルド「ライズ……お姉ちゃん。私もう逃げない」


 兵士は再びエメラルドに斬りかかる。しかしまた弾き返されて大きく仰け反り、今度は背中から地面に倒れ込む。


エメラルド「みんな苦しんで、戦って、それでも前に進んで……。凄いよ。凄すぎて私には真似できないって思ってた。けど違う、私も分かった。あの人もライズもお姉ちゃんも、みんな戦いたくなくても戦ってるんだって。私も真似しなきゃいけないんだって、進まなきゃいけないんだって……!」


 エメラルドは大きく一歩前に踏み出す。


エメラルド「私も進むたい……。私も戦いたい!!」


ライズ(そうだ……きっとみんな同じなんだ。だから……だから僕も戦わなきゃいけないんだ! そこから逃げたら……そしたらまた守れない!)


 兵士はまた立ち上がり、エメラルドへと向かう。そして再び上段に剣を構えた。


 だがその剣が振り抜かれる事はなかった。


 長い、長い金属音が奏でられる。兵士の手から剣が流れ落ちる。


 その胸元にはライズが居た。そして震える手で握るライズの手には剣が握られていた。


 その剣の切っ先は兵士を貫き、その刀身を赤く染めている。


兵士「泣くな」


 そっと。剣を失って降ろされたその手は、そっとライズの頭を撫でた。


兵士「お前はお前のやるべき事をした。泣くな、悔いるな。……そして。そして私の願いもまた……お前に……託した」


 口から大量の血を吐き、兵士は倒れる。


 ライズは震えた手で剣を握り続けられずに手放してしまう。


 そして倒れ混む兵士の横で、倒れるように膝をついた。


ライズ「あ……ああ……!」


 自分の手をふと覗き込む。その手は、同じく平和を願う者の血によってまみれていた。


エメラルド「ライズさん……!」


 そんな尋常ではない様子のライズへエメラルドは駆け寄ろうとする。


 だが、その足は突如止まる事になる。


「強くなったな」


 聞き覚えのある声に、誘われるようにライズは顔を上げる。


ライズ「ブレイズ……さん」


 救いを求める様に仰ぐライズとは裏腹に、エメラルドとフレアはその顔面を蒼白に変え、そして震えに襲われた。


エメラルド「そんな……まさか……!」


 それは伝説の存在。或いは英雄、或いは死そのもの。


 根源的な恐怖にして全知全能なる万物の破壊神。


フレア「漆黒の六翼……!!」

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