「あれ、たしか、こんな感じだった気がする」
【おはなしにでてるひと】
瑞木 陽葵
“クローバーって、なぜか探したくなるときがある”派。
今日の放課後は、なんとなく蓮と寄り道したくて、歩幅を合わせて公園へ。
――小さい頃の記憶って曖昧だけど、“誰といたか”だけは、ちゃんと残ってる。
荻野目 蓮
「四葉のクローバー探そう」の誘いに即OKするあたり、
陽葵の空気感を読む力は相変わらず。
ふたりの記憶がちょっとズレてるのをからかいながら、
“いま”の時間を大事にしている。
――思い出って、すり合わせた先が一番心地いいと思ってる。
【こんかいのおはなし】
放課後、
ふたりで並んで歩いた公園は、
ちょうど夕陽が差し込んで、
クローバーの葉っぱが小さくきらめいてた。
「……四葉、探してみる?」
ふと、わたしがそう言ったとき、
蓮は一瞬だけ目を見開いて――
「それ、小3のときぶりだな」
「え、わたし的には……小2?」
「いやいや、あれは小3。だって、俺、その日カゼ気味でマスクしてたもん」
「うそー。マスクしてたの、遠足の日じゃなかった?」
「遠足のときはもう治ってた。だから公園のときが……」
ふたりでしゃがんで、草をかき分けながら、
お互いの“うろ覚え”をぶつけ合う。
でも、言葉が重なるたびに、
なぜか笑いがこみあげてくる。
「でもさ、探してたの、わたしじゃなくて、蓮だったよね?」
「え?逆じゃなかった?」
「や、絶対わたし!“四葉あげる!”って言ったもん」
「でも俺、“もらってない記憶”ある……!」
「じゃあ何その記憶!」
くすくす笑いながら、
指先を草の中にすべらせた、そのとき。
「あ」
ちいさく、でもはっきり、
“1本だけ”四葉がそこにあった。
「……ほんとに、見つけちゃった」
「マジか。すげーな今日」
ふたりの声が、少し小さくなった。
触れようとして、でも手は止まった。
「……ねえ、これ、摘まないでおこうか」
「うん。なんか、“そこにある幸せ”って感じするし」
蓮がスマホを取り出して、
画面越しにクローバーにピントを合わせる。
「はい、陽葵も入って」
「えっ、わたしも?」
「陽葵が見つけた記念だから。ほら、にこ」
パシャ。
夕陽と、クローバーと、ふたりの影が、
スマホの中でひとつの写真になった。
「……なんか、こういうの、忘れたくないね」
「忘れたら、また探しに来ようぜ」
「今度こそ、どっちが見つけたかはっきりさせよ」
「記憶のぶつかり合い、再戦決定か……」
笑いながら歩き出した帰り道、
ふたりの影は、夕暮れのアスファルトに寄り添って伸びてた。
【あとがき】
“記憶のすれ違い”は、
“いま”をちゃんと共有しているふたりだからこそ、
あたたかい笑いになるんですよね。
四葉のクローバーは“幸せの象徴”じゃなくて、
“幸せに気づけるふたりの象徴”として、静かに輝いていました。