第5話 来たる叛逆者
次の瞬間。
訪れたのは静寂だった。
その異変に気づき周囲に目を凝らすと、その場に残っているのは俺と天塚さん、そしてクラスメイトのうち二名。
俺に、天塚さんと関わらないよう警告した男子と、確か『だわさ』なんて語尾の女子だ。
「な、何だわさこれ!?」
女子が慌てた声を出す。
と同時に俺は術を展開した。
相手――おそらく校庭にいるであろう存在が使ったであろう術式のアラの部分を修正し、この場から通常空間へ相手と俺以外の存在を飛ばす術を。
けれどダメだった。
いや術式の展開は成功した。
だけど天塚さんだけは飛ばせなかった。
それだけ相手は彼女――俺もまた、女神だと認識している存在への執着が強いのかもしれない。正直ここまでだと気持ち悪い。
なので、俺は天塚さんに「天塚さん、ここで待ってて。すぐに片付けてくるから安心してね」と言うしかなかった。
正直、彼女を守りきれるか不安だった。
彼女が正真正銘の女神であった場合はいいけれど、そうでなかった場合……この言葉で安心させられるとは思えないから。むしろ余計に混乱させ、こちらにとってはイレギュラーな行動をしそう。
だけど、天塚さんのために戦わないワケにはいかない。
だからすぐ、相手のいる校庭へと行こうとした時だった。
天塚さんが震えてた。
そして頭を抱え何かをブツブツと呟いていた。
そしてその言葉を、俺はすぐに聞き取った。
もはや地獄耳と言えるレヴェルまで俺の聴力は凄いから。
「あ、あの人達……まさか、異世界の人なの? な、なんで……? なんでこんな所にいるの? 異世界から戻ってきた? でもなんで……なんで私に対して敵意を向けているの? なんで? なんで? なんでなんでなんでなんでなんで――」
「天塚さんッ!?」
彼女は両目を見開き、顔を歪ませ、混乱していた。
状況次第では発狂してしまうんじゃないかと思うほど危うい。
そしてその原因の一つは、間違いなく俺だ。
俺が彼女に『女神様かどうか』を問うたせいもあってこうなった。
なんでそう問うただけで彼女がこうなったのかは分からないけど……少なくとも彼女は異世界人に会いたくないと思われる。
「…………天塚さん、ゴメン」
そんな俺は、これから彼女とどう接すればいい。
というか彼女の気持ちを考えず、無理やり距離を詰めようとしたこんな俺に……これからも彼女と一緒にいる資格があるのだろうか。
俺はこれからも、天塚さんと一緒にいたいと思う。
けれど、そんな俺の存在もまた彼女を苦しめるのならば。
「少し眠ってて」
そう言いつつ、俺は天塚さんに睡眠魔術を使った。
少し前にある異世界で夢魔に教えてもらい習得したモノ。
女神のような上位存在への効果が薄い魔術だ。
すると、すぐに彼女は眠り……続けて俺は守護魔術もかけた。
すぐに眠ってしまったのは、受肉した影響か、それともそもそも俺の知る女神様ではなかったのか……ならばなんで異世界人について知っているのかの疑問があるが、それよりも先に邪魔者を排除しなければ。
彼女がこれから先も、安心できるように。
贖罪とかは考えない。
ただただ彼女のために俺は戦う。
たとえ、最終的には俺がこの高校から去る事になろうとも。
※
校庭へは窓から飛び降りすぐに移動した。
かつて異世界を巡ったためこれくらい朝飯前だ。
そして改めて校庭を見ると…………どこの不良漫画だよ。
俺はそういう漫画を読んだ事……というか異世界を巡っていたため読む暇が全然なかったんだが、実写版のCMくらいはTVで見た事がある。
とにかく……その不良漫画の実写版の、不良軍団同士の抗争のシーンで登場した不良くらいの数の相手――俺の同類であろう連中が校庭に集結していた。
マジかよ。
「ギャガギャガ。なんだテメェ?」
一番前にいる同類――服装からして、チート系勇者と思われるヤツが俺にガンを飛ばしてくる。
「ミョッホッホッ。立ち塞がったのならば敵であろう」
その右隣にいる、マスクをつけたレスラーみたいな同類が言う。
「ルフォフォフォ。数ターンで事足りるな」
その後ろの、なんだかどっかで見たようなディスク的なヤツを腕につけたヤツが言う。
「ラキラキラキ。一撃で吹き飛ばしてあげるわ」
一番前にいるヤツの左隣の、魔法少女っぽいヤツが言う。
「ユララララ。とっとと終わらせよう」
その後ろの、常人に見えるヤツがそう言った……次の瞬間。
なんとそいつが一瞬で俺に肉薄。
しかし俺は咄嗟にそいつの攻撃を受け止め――校舎に激突した。
全力で防御したがちょっと痛い。
相手もまた歴戦の猛者レヴェルかもしれないなオイ。
「ラファファファ! 抜け駆けは許さないぞ!」
その声が聞こえた直後。
校内全体が暗くなり……俺は慌てて校舎自体にも守護魔術をかけた。
なぜならば、全長数十メートルほどの巨大ロボが。
それも主砲と思われる腹の砲身に、エネルギーをチャージしているそれが見えたからだッ。
次の瞬間。
破滅の極光が放たれた。
この、俺が干渉した結界をも破壊しかねん威力の極光が。