第2話 作り笑顔の女神様
次の日の朝。
登校すると、天塚さんは自分の席で寝ていた。
「…………あんなに寝て、大丈夫なのかなホント」
転校初日の昨日は、まず天塚さんがどれだけ寝ているのかを調べた。
すると……休み時間はトイレの時以外は寝ていて、昼休みは食事の時以外は寝ていて、そしてHR中と授業中は起きて寝るをほぼ五分おきに繰り返しているというまさかの事実が明らかになった。
ちなみに体育の授業中は分からん。
男女で授業をする場所が違うからだ。
もしかすると、場合によっては休んでいるのかもしれないが……それをわざわざ同じクラスの女子に訊くのはなんだか恥ずかしい。
それに、下手をすれば。
俺と天塚さんの関係を誤解するだけならまだいいけれど、俺が不審者認定されてしまうからなッ。
とにかく天塚さんは明らかに寝すぎだ。
昨日の放課後から朝にかけて、いったい何をすればここまで睡眠時間が長くなるのかと凄い疑問に思う。
いや、もしや彼女は働きすぎとかじゃなくて、ナルコレプシーのような睡眠障害である可能性はないだろうか。
だが俺が見た限り、そうには見えなかった。
いや、素人目がどうとかじゃなくてホントにそうは見えない。
「それになぁ」
気になる事はいくつかある。
彼女があまりにも俺の知る女神様とそっくりなのもそうだけど……いや、これについては心当たりがあるから置いといて。
昨日、出会えたのは何かの運命かもしれないんだ。
たとえ人違いだとしても……俺の知っている女神様と同じ顔をした存在と、こうして出会える確率的に、絶対に何者かが関与した巡り合わせだ。
恋愛的なそれとは限らないけど……とにかく彼女の近くにいた方がいい、というのはなんとなく分かる。
悪い存在の関与じゃなきゃいいけど。
とにかく俺は彼女をこれからも守ろうと決めた。
というか俺の知る女神様には大恩がある。
そしてその女神様と同じ顔をした女の子の困った顔は見たくないんだ。
なのでとりあえず、彼女の機嫌を損ねないよう生活せねば。
※
「お~い、席に着けよ~」
目が覚めるのは、目覚めなきゃいけない時。
それは私の感覚でなんとなく分かり、今日もまた良いタイミングで起きる。
だけど、そこで寝ぼけたりするかどうかは別の話。
スッキリ目覚める事もあるけど、そうじゃない時も多々ある。
でもこれは、私が選んだ事。
だからいつかは慣れていかなきゃいけない。
「おはよ、天塚さん♪」
「ッ!?」
次の瞬間。
私の中に衝撃が走った。
昨日、遅れて入学し。
それで私の隣の席になった男子生徒が声をかけてきたからだ。
「…………おはよ……」
私はそう返す事しかできなかった。
なにせあまりにも予想外の事だったから。
でもそのおかげかスッキリ目覚めた。
代わりにちょっと精神的に疲れたけど。
※
なんだか警戒されるようになってしまった。
人として当然のようにおはようの挨拶をしただけなのに……ちょっと、なれなれしかったかなぁ?
でも、こういう言葉のキャッチボールの積み重ねは、人付き合いの中では大切な事だよね。
さすがに悪意だらけの人は除くけど。
「にしても……大丈夫かな、天塚さん」
俺の知る女神様に似た寝顔を見つつ呟く。
見たところ健康とかに問題はなさそうだけど。
それでもハタから見ると異常すぎる事に違いはない。
いや、もしかして。
こんな寝すぎな彼女をどうにかしてほしくて、何者かが俺と彼女を出会わせたのか……そうだったら良いけど。
いや、そうじゃなくても俺は寝すぎな彼女をどうにかしたい。
いつまでもこのままじゃ、今は大丈夫でも、寝る癖がついてしまったら社会人になった時に大変な事になりそうだ。
「いやその前に、その原因をまず突き止めないと」
だがそのためにはどうしたらいいんだろうか。
四六時中、天塚さんを観察とかすれば分かるだろうか。
いや、それはできなくないけれど……そんなストーカーじみた手段だけは、個人的に使いたくない。
失敗して警察でも呼ばれたら俺の人生が終わるし。
「あー、何か方法はないかなぁ」
思わず呟く。
でも答えは出ない。
苦悩の末、また天塚さんを見る。
彼女は真顔で眠っている……いやかすかに口角を上げている。
でもそれは作られた笑みに見えた。
どっちにしろ可愛い寝顔だけど。
作られた笑みという事は……逆に言えば、笑みを見せなければいけない状況に、彼女は現在置かれているという事だ。
どんな状況かは想像できないけど。
なんにせよ彼女を助けなければいけない状況には変わりない。