第10話 恥ずかしがる天塚さん
あまりにも予測不能な展開だった。
というか何も知らない人からすればワケが分からん展開だったかもしれない。
けれどそのワケは、俺には大体分かった。
前にも言ったかもしれないが、俺が知る神様の中には自身の並行同位体に憑依し下界を満喫する者がいる。そしてそんな神様の内の一柱が憑依する対象である並行同位体が、俺に警告をしたクラスメイトだったのだと。
そしてそいつに憑依した神様が、神々の監察官?
しかも、異世界への転生・転移に関わる監察官?
その辺はこの俺にも読めなくて驚愕だわ。
全然神気を、あの警告をしたクラスメイトから感じなかったし。
というか、まさか本気の神様とはそういうモノなのか。
え、それじゃあなんで、天塚さんからは俺が知る女神様の神気が出てて?
「さてまずは、天塚さんについて話しましょうか。
渉くん、天塚さんは確かにあなたとあの子を導いた女神的な存在なのですが……彼女は、百パーセント人間です」
????
え、矛盾してないか??
いやまさか、彼女は半神半人な存在!?
「全然違います」
再び俺の心を読んだのか、クラスメイトに憑依した監察官な神様は即答した。
「天塚さんはですね、彼女の並行同位体である女神から、女神としての能力の一部――眠る事で仕事場に、精神のみが転移できる能力や、気配遮断系の結界などと、自身の仕事――迷える存在を異世界へと導くそれを託され、その女神の代理として不法な仕事をやらされていた被害者なのです」
不法!?
え、どういう事だ!?
というか天塚さん……まさか寝ている時に、精神だけがあの異世界転生や転移のための空間に行っていたというのか!?
やけに長時間寝るなと思ったけど。
この惑星の年間の死者数や、俺やあの子のように生と死の狭間を彷徨う人の数を考えると、あの長時間睡眠も納得かもしれない。
「天塚さん、あなたはお金に困っていたある日、あなたと同じような声の女神に、呼びかけられましたね?」
監察官な神様が、今度は天塚さんに話しかける。
すると、彼女がいるであろう方向から『肯定』の念が出たのを感じた。
「そして、その女神から……ああいや、あなたを責めてはいません。確かにこれはあなたの基準で言えば闇バイトかもしれませんが、あなたもまた被害者ですから、天罰などは下しませんよ」
続いて、天塚さんがいる方向から『戸惑い』の念が出たのを感じた。
時間を止められた上で、こうして質問をされているんだ……そりゃ不安だよな。
できる事ならば、彼女のそばに行って元気づけたいけれど。
この時間停止はこの俺でさえもどうにもできないレヴェルの恐ろしい術だ。
弱い自分が悔しいッ。
いやそれはそれとして。
天塚さんが闇バイトな感じで女神様の代理を?
え、じゃあまさか……俺とあの子が対面したのが天塚さんである可能性もあるというのか!?
「とにかく」
監察官な神様の話は再開した。
「天塚さん、あなたは女神の代理にされた。そしてそのワケが『女神が鬱になったから』とかではありませんか? …………ありがとうございます。まさにその通りでしたね。いやまさか、彼女もまた堕ちてしまうとは」
???? 堕ちた? 女神様が??
いやちょっと待て、まさか俺の知る女神様は、邪神とか悪神とか呼ばれる存在に変貌して……いやでも、俺とあの子と会った時はそんな気配は一切なかったハズ。
え、という事は。
まさか俺とあの子が会ったのは天塚さんなのか!?
「その通りです」
監察官な神様がまたしても俺の心を読んだ。
「あなたとあの子が臨死体験をしたあの時、天塚さんの並行同位体である女神は、天塚さんに自分の能力と仕事をすでに与えていました。いや、正確には……あなたが先ほどまで戦っていた異世界転生者共が天塚さんと対面した時からもう、彼女は邪神や悪神と呼ばれる存在に堕ちていました」
な、なんだって!?
じゃ、じゃあ天塚さんは……女神様じゃなかったけど、俺とあの子を救った存在である事には間違いなくて…………じゃあ、彼女の並行同位体の女神様はいったいどこに…………いやまさか!?
「そのまさかです」
またしても心を読まれた。
「天塚さんに能力と仕事を託した後、女神は……あなたの予想通り、その時点から後の時系列の異世界転生者共の運命を捻じ曲げるべく、自ら彼らが送られた異世界に行き、暗躍していたのです」
ッッッッ!?!?!?
「女神の代理……しかも、能力の一部が託された並行同位体が存在していたため、我々も気づくのが遅れました。申し訳ありません。とにかく天塚さん……あなたが自身の並行同位体の仕事をキチンと全うしていた一方で、その並行同位体な女神の暗躍により、あなたが送り出した者達が不幸になっていたのです。そしてそれ故にこうして……あなたは多くの異世界転生者共から恨まれる羽目になったのです」
ま、まさかそんな裏事情が!?
正直、時間停止以前に……驚きで言葉が出ない。
「それから、補足として……本来なら越権行為に当たるんですが、天塚さんの並行同位体の女神が全部悪いかのように勘違いしてもらっては、同僚として大変不快になるので説明させていただきますが」
監察官な神様が、苦々しい顔をしながら改めて言った。
俺と天塚さんに、というか……むしろ異世界転生者共に向けて。
「そもそも彼女が鬱となり、邪神や悪神と呼ばれる存在になってしまった原因は、あなた方――異世界転生もしくは転移を望む者達の欲望のせいです」
まさかの、事実を。
「というか、みなさんの中には知らない方がいらっしゃると思いますから言わせていただきますが、そもそも神社などでする願い事という行為は、本来、他力本願な意味合いのものではありません。これこれこういう事を目指して頑張りますので、どうか見守っていてくださいという、我々神へと向けた、一種の決意表明なんですよ。なのに人間の大半は我々神に自身の欲望を叶えてもらわんとしている。こちらとしては堪ったものではありません。そしてそれは、異世界転生・転移にも、もちろん言えます。反則的な能力を得て、異世界で爽快感を感じたり性欲を満たしたいだなんてあまりにも……いやそれが人間なのかもしれませんけどね、それでも我々からすれば、聞いてるだけで鬱になるような……いや、正確に言えば少々違いますかね。そんな欲望まみれな願い事というのは、穢れを含んでいるんですよ。そしてそれは我々神にも伝染し、その神を邪神や悪神と呼ばれる存在に変貌させてしまう可能性があるんです。そしてそれは、この宇宙に我々以外の知的生命体が生まれてからずっと……百三十億年前から続いています。そりゃあ堕ちる神も出てきます」
監察官な神様は、何度か息継ぎを挟んだものの一気にそう言った。
それだけ、彼らは鬱憤を溜め込んでいるのか……というか百三十億年前?
ちょっと待て。
ホモ・サピエンス誕生が四十七万年くらい前だろ?
計算が合わな……いや待て。
まさか異星人が存在するとでも!?
もしくは存在した、とでも!?
というか、宇宙誕生から約八億年後に知的生命体が生まれたのか……いやこれもまたちょっと待て?
確か、近年生まれた仮説『疲れた光仮説』によれば宇宙の年齢は二百六十七億年だったか……いやどっちにしろ途方もないわッ。
いや、それはそれとして。
そんなに鬱になるなら異世界に人間を送らなくてもいいんじゃないか?
最近の異世界ものの中には、神や天使の類の力を借りずに異世界に行くパターンも存在するんだし?
「それは私も考えましたよ。ですがそれは現在の人間の在り様的にダメなんです」
再び俺の思考を読みながら、監察官な神様は言った。
「そもそも、あなた方は異世界を何だと思います?」
?? 並行世界のようなモノじゃないのか?
少なくとも俺はそう思っt「はぁ」溜め息をつかれた。
どうやらお気に召さない回答だったらしい。
「確かに並行世界は存在しますが、それはイコール異世界ではありません。中にはこの世界とは独立した始まりを持つ異世界もありますから」
並行世界自体はあるんだ。
というか……確かに異世界の中には、俺達がいるこの世界とは似ても似つかない法則や常識を持ったのもあったな。そういう世界を回った事があるから分かる。
「並行世界はあくまでも、別の可能性の宇宙です。同じ宇宙の中の別の位相に存在する宇宙です。そして異世界についてですが、我々は二種類に分けています。
この惑星がある宇宙を含めた、多くの、それぞれが自然に誕生し、独立している宇宙――原初世界。そして原初世界に存在する要素を多く含んではいるけど、原初世界とは異なる誕生経緯を持つ宇宙――隣接世界。この二種類に。
原初世界は私を含めた……それぞれの宇宙で誕生した神や天使が制御している宇宙です。ですが一方で隣接世界は違います。隣接世界は原初世界に存在する人間の想像力により創造された制御不能の宇宙なんです。
想像力で宇宙が生まれるハズがない……そう考える方がいるかもしれませんが、そもそも人間はミクロ単位で見れば量子的な存在であり、そしてそんな人間は細胞同士で観測し合う事で進化を続けてきました。
おや? その辺をご存じない? 量子進化学とかいう授業で習う内容ですねこれは。ちなみに、結構面白いので学んでみてください。
と、それはともかく。人間は自身を観測し、その在り様をも左右するレヴェルにまで進化しているんですが、それが群体ともなると、一つの宇宙を創造してしまうほどの量子的な刺激を宇宙の外側に与えてしまうのです。
そして、それによって誕生した隣接世界は、我々が大きさなどを制御をしている原初世界とは違い、その大きさをまったく制御できないのです。一度誕生すれば、どこまでもどこまでも膨らみます。
下手をすれば、別の宇宙と接触して、その影響でビッグバンを起こし周囲の宇宙もろとも破滅させてしまうほど大きく。
ある程度の広さを持つ空間に、いくつかの、互いに適度に距離をとる存在がいるとしましょう。それもどちらかが触れたらお互いが爆発する何かが。そしてそんな存在と存在の間に、無理やり、どこまでも際限なく大きくなる存在が割り込んだら果たしてどうなるでしょうか。
現在の宇宙の外側は、まさしくそんなムリゲーな空間です。
そしてここまで聞けば察しがついているかもしれませんが、そんな隣接世界こそ人間達が創造をした宇宙にして、彼らの転生、もしくは転移先の宇宙なのです。
なぜ異世界の言語がこっちの世界に存在する言語なんですか。なぜこちらの宇宙に伝わってるモンスターなどが存在するんですか。なぜ転生者や転移者が力を貸さなければいけないほどの文明レヴェルなんですか。なぜ転生者や転移者が力を使うだけで美男美女が集まるんですか。なぜ転生者および転移者の、どんな言動も肯定する人間が多いのですか。なぜここまで都合が良い世界なんですか……あなたがた人間が、そんな都合の良い異世界を想像し、創造したからですよ。
そしてそんな宇宙が、元々自然に誕生した宇宙を破壊しようとしている。
我々の生まれ故郷を破壊しようとしている……それを防ぐために、やむなく私や私の同僚を始めとする、原初世界で生まれた神の一部は、その隣接世界を制御するためその異世界の神となりました。もはや人柱ならぬ神柱です。
ちなみに、その時点で我々は異世界の存在となってしまったがために、この宇宙を始めとする原初世界は我々という存在の空白を埋めるため、我々の代わりとなる存在……並行同位体の一種と言うべき存在である天塚さんなどを生み出しました。
けれど制御に成功したからといって、根本的な問題――人間が際限なく、新たな異世界を創造するそれは解決していない。そして、それについては、果たしてどうするべきか……特に欲望が強い人間を選別して、その欲望を発散させるため、相手が望む世界観の宇宙に送り込むしかありませんでした。
ええ、神様はなにもあなた方のために異世界に導いているワケじゃありません。
自分達がかつて生まれた宇宙を、制御不能な宇宙を誕生させる人間の想像力から救うために導いているのです。
ノアの方舟の時のように人間を一掃できればどれだけ楽かと、私を含む多くの神は思ってはいるのですが……人間というモノは、それぞれの惑星に必要な存在ですからね。そう簡単に一掃させる事はできません。
そして私の同僚は、そんな人間の欲望の念を浴び続けたが故に狂ってしまい……異世界転生者共を不幸にするべく動き出したのでしょう。
堕ちてしまった私の同僚ももちろん悪いのですが、あなた方もまた悪いのだと、自覚してほしいですよ、いい加減」
長い長い、独白だった。
ところどころに怒りが含まれている独白だった。
というか、それは俺にも同情できる裏事情だった。
ついでに言えば、天塚さんの方からも同情の念が出ているのを感じた。
彼女もまた、その欲望を受け続けただろうから。
というかそうだとすると、俺とあの子を異世界転生させた件は……負担になったかもしれない。
そう思うと、罪悪感が湧いた。
「ああ、そうそう。勘違いのないようこれも言わせていただきます。
自分の欲望のためじゃなく、誰かのために異世界に行こうとするような人間は、有害ではありません。と言っても、毒にも薬にもならない存在ですがね。伊瀬くんとあの子のような存在を始めとする人達は」
すると、またしても思考を読まれた。
まるで、俺の罪悪感を消そうとするかのように。
言い方はアレだが。
と同時に、俺はあの時の事を思い返した。
確かあの時は、あの子が異世界に対して不安を覚えてたから……あの子を必死で励まそうと「君のためにも戦う」みたいな恥ずかしい事を言ったような気が……?
思い出しただけで顔が熱いッ。
ん? でもちょっと待て?
もし監察官な神様の言う通りだとすると……あの子もあの子で、俺に対して似たような事を思っていたって事か?
だとすると……心が少しだけ温かくなった。
何度も何度も、異世界で共闘して、ある程度は仲良くなったと思ってはいたものの……心の中ではどう思っているのか、不安な部分があったりしたけど。
あの子とは、想いは一つだったんだって知って……安心したから。
「みなさんにも、是非ともこの伊瀬渉くんのような存在になってほしいものです。自分のためじゃなく、誰かのために異世界に行くような……そんな存在に。それはそうと、あなた方はさすがにやりすぎました。今はもうこの世にはいない、異世界転生者共の怨念の集合体を中心とした、下手をすれば宇宙を壊しかねないスペックを持つ集団を作り、狙いの女神と同じ気配を持つ天塚さんを殺そうとするなんて。おかげさまでこちらの宇宙の神だけでなく、向こうの宇宙の神になった者も数柱、この宇宙に来て歪みを矯正しなくてはいけなくなりました。まったく。宇宙の外側に存在してるのはあなた方が知るような神の類だけではないというのに。その歪みから侵入して宇宙を破滅させようとする存在だっているというのに。もしも我々が生まれた宇宙が破滅するような事になったら全面的にあなた方のせいですからね。今はまだその段階ではないですが、世界を壊しかねない大罪人だという事は間違いありません。なので怨念の集合体な存在はともかく、他の者は一度、天界において裁判にかけさせていただきますので覚悟してください。では渉くん、そろそろ君の相棒のあの子も心配するでしょうから、ここらで異世界転生者共を引き取って天界に戻らせていただきますね。それから、こちらの対応が遅いせいでご迷惑をおかけして、大変申し訳ございませんでした」
そして監察官な神様は、続けて……またしても、息継ぎをしつつ一気にいろんな事を話して…………ってちょっと待て!?
まさか、あの俺のスキルでも過去が覗けなかった勇者風のヤツ、異世界転生者の怨念の集合体だったりしたのか…………なんて事を思ったが、その質問を頭の中でイメージしきる前に、あのクラスメイトと天塚さんの中から神気が完全に消えて、同時に校庭にいた多くの異世界転生者共も消え去って、さらには元の空間へと俺と神気の消えた天塚さん、そして監察官な神様の並行同位体こと、天塚さんと同じく神気の消えたクラスメイトは戻っていた!?
いろいろと謎は解明されたけど。
それでもなんだかやりきれない気持ちになった。
※
異世界人達が襲撃してきて、伊瀬くんが立ち向かって、監察官な神様が現れて、いろんな事実が明らかになった。
私の並行同位体であるという女神が私に、自分の代理でしてほしいと言われた、アルバイト――選ばれた、亡くなったりした者達を異世界へと導くアルバイト……もはや闇バイトと言ってもいいレヴェルで不快だったそれが、実は私を身代わりとするためのものだったなんて。
そしてその女神は、今もどこかで誰かを不幸に……自分の並行同位体が、よそで迷惑をかけていると考えただけで、自分自身の事じゃないのに申し訳ない気持ちになったけど、あのクラスメイトの……名前なんて言ったっけ? とにかくその人の並行同位体だという神様――私が女神から託された能力を剥奪して消え去った存在を始めとする神様が、いつか捕まえてくれると思うけど。
それでも……少し不安だ。
でも、同時に……少しだけ安心して。
そして、そのおかげで救われた事もある。
私が導いた、多くの者達の中の……初期の、異世界転生者・もしくは転移者の中の一組。欲望ばかりを向けてくる人達とは違い、誰かのために異世界に行くような素晴らしい精神性を持つ人達。
その中の一人が、もしかすると、伊瀬くんかもしれないと思えるようになって。
異世界に導くべき存在の中にも、こんな、素晴らしい精神性を持つ人もいるんだって、希望を持てて。そのおかげで今までも、そのアルバイトを続けてこれて……欲望を向けてくる人の方が圧倒的に多かったけれど、それでも希望を持てて。
しかもその人が、この世界に戻ってきてからも。
私の事を気にかけてくれていて……感謝の想いでいっぱいだった。
「あ、あの……伊瀬くん」
「ん? 何? 天塚さん」
全てが終わり、そして時間は過ぎて放課後。
私は改めて、伊瀬くんに……感謝の想いを告げたくて呼び止めた。
まだ教室に残っていたクラスメイトは、ギョッとしていた。
何を話しているかは、私が小声だから聞こえてはいないだろうけど……それでも私が誰かを呼び止めるのが、珍しいから当然かもしれない。
少し恥ずかしいけど。
でもそれ以上に……彼には感謝を伝えたい。
「あ、あの……助けてくれて――」
「渉にーちゃん!! 昼間のあの時間停止、あれってまさか!?」
しかし、私の言葉は途中で遮られた。
突然窓が割れて、私達の近くに小学生くらいの男の子が着地して……ってなんて危険な登場!?
ていうかこの子……え、伊瀬くんをにーちゃんと呼んでて、それでここは一階というワケじゃないのに、窓を割って侵入だなんて……え、まさかだけどその顔……伊瀬くんと一緒に異世界に行く事になった、私が導いた子!?
「おお、竜真くんじゃないか!」
すると伊瀬くんは、窓を割って入ってくるという非常識な事をした相手に笑顔を向けて……ってちょっと!?
さすがにそこは怒らない!?
ていうかあの子、竜真くんっていうんだね!?
選別された死者などが行くあの白い空間に、眠る事で行っていた関係上、名前を覚えていなかったけど!
「ちょうどいい、紹介しよう! ちょっと複雑な事情が裏にあったりするんだが、こちらは俺達を異世界に導いてくれた女神様こと天塚さんだ!」
ってちょっとォォォォッッッッ!?!?!?
なんで教室の真ん中で躊躇なく、人によっては痛々しい事実を堂々と言うのォォォォッッッッ!?!?!?
「ッ!? い、言われてみれば……まさか人間としてこの世に下天なさったんですか女神様!?」
ていうか竜真くん!?
なんで両手を組んで跪いて私にキラキラした目を向けて……ていうかよく見れば伊瀬くんも同じ事してた!?
「いや、ちょっと違うが、俺達の女神様である事は間違いない!」
キリッとした顔で伊瀬くんは言う。
ていうかなぜこの場でそんな事をするかな!?
まさか仲間と再会した事で盛り上がって周りが見えなくなった!?
「や、やめてぇぇぇぇーーーーッッッッ!!!!」
とにかく、私はとても恥ずかしくなった。
穴があったら入りたいとも思った……というか、もしかして伊瀬くんどころか、竜真くんも……私に対する過剰なくらいの信仰心を持っているんじゃなかろうか。
そういう関係になるかどうかはともかく。
ていうか、そう考える時点で……私は相当、二人に心を救われて感謝の念とかを抱いているんだけど、とにかくこれから先、二人とどんな関係になるとしても……この信仰心がきっと障害になるんだろうな、と……私はふと思った。
※
ちなみにあの後。
私に『女神様』というあだ名がつけられた。
伊瀬くんと竜真くんは気にしていないけど……私はすっごい気にした。
というかそのせいで、私の静かな高校生活は台無しになった。
いや、二人から敬われたりするのは正直、悪い気分じゃないけど……それでも、とても恥ずかしい事には変わらないから、個人的にそろそろやめてほしい……いやマジでお願いしますやめてください。
※
ちなみに竜真くんは、あの後。
当然だけど、担任の先生や親に怒られていた。
自業自得だと思う。
・天塚さんには睡眠魔術が効いて
・その一方で異世界転生者共の運命を捻じ曲げる女神がいて
・天界の監察官が動いている
労働基準法とかに引っかかりうる事象が起きているとしか思えませんね。
というワケで、天塚さんは人間であり、彼女がしてたのはアルバイト……それも闇バイト寄りなアルバイトであり、しかも本物の女神の身代わりとなるためのものだったワケです。
いやぁ怖いですねぇ。
我々もそういうのには気をつけないといけませんねぇ。




