~恋人じゃない(後編)~
「久しぶり」
「ああ。ごめん。なかなか電話にでてあげられなくて」
「今日さ、お前に会わせたい人がいる」
「え?」
「でも、お前はそれを拒否することもできる。どうする?」
「急にどういうこと? 吉原の社長でも呼んだの?」
「違う。違う。お前に会いたいって話してきたのよ」
「誰だよ?」
「3人いる。1人ずつ名前を言うぞ?」
瀬戸花歌恋。木下の初恋の相手。野藻田の元恋人。
「すごいね! お笑い芸人になるなんて! あの木下君がってビックリ!」
「ははは……瀬戸花さんは政治家になられたのかな?」
「えっ!? 何でそんな事を知っているの!?」
「宮内さんに教えて貰ったから」
宮内。木下と漫才コンビ「ウル虎きのこ」を結成した元相方。野藻田の元相方でもある。
「ウハハハッ! アレ! ウケたよ! ステージで転ぶの! 決勝惜しかった!」
「相変わらずデリカシーのない女子で安心した。そっちもプロでやっているの?」
「私は結婚して辞めたよ。3回戦までいけたけど、もう満足できた。でも、あの木下に超えられたから悔しいなぁ。でも認めるしかないなぁ。普通にすごい漫才をやっているもん」
「………………」
篠山楓。超一時的な木下の元カノ。野藻田の元嫁。
「先輩、相変わらずダサくて安心しました。むしろ感動しましたよ」
「ハッキリ言うようになったな。君のおかげで僕もものすごい人生をおくっているよ」
「でも、服の方はすごくオシャレじゃないですか! 太っているのが気になるけども……」
「…………」
店からでると野藻田とマネージャーの磯村が待っていた。
「嫌な気持ちにさせたら悪かったな」
「全然。懐かしかったから良かった」
「一言いいか?」
「どうぞ」
「お前が辞めたいなら止めない。でも、お前と出会って憧れていたステージまであっという間に飛ぶことができた」
「……」
「なぁ」
「うん」
「これって運命って言ってもいいか?」
「ちょっと考えさせて欲しい」
「あの、2人とも、そろそろ車をだしましょうか?」
「いい。今日はコイツと歩いて帰る」
「ええっ!? 今からあそこまで!? 朝になるよ!?」
「ドーンタウンが駆け出しの時、缶コーヒー片手に歩いて家まで帰ったって話があるだろう? やってみたいのさ。コイツと。ネタで三日三晩歩くデートだってやったものだし」
木下と野藻田はそれから朝まで歩いて語り合った。
目的は帰宅じゃない。
ただ散歩しながら語り合いたい気分だったから。
この翌週、動きがあった。
恋人じゃないチャンネルに動画があがったのだ。
動画に登場したのは木下と律、さらに人気アイドルグループRiser☆Sの壱星だ。律というか彼女の所属するバンドの歌ウ蟲ケラはメテオシャワーフェス出演より様々なアーティストと交流するようになった。同フェスの仕掛け人だと世間で言われている壱星だったが、彼はある事で有名なタレントでもあった。
「というワケで今から2人に3つのドキュメンタリー番組を観てもらいます」
「えぇ~僕って芸人じゃないからリアクションに期待するのとかやめてよぉ」
「あの、僕は病み上がりなのだけど……」
「フッフッフ、アナタたちはまるで気づいてないね。まずは1本目から!!」
「えっ!? もう始まるの!?」
それはトラの子供が厳しい野生の世界を生き抜くドキュメンタリー。1本目の最後のシーンでそれは証明された。
「うっ……ぐすっ……ぐっ……ぐっ……」
「ウオオオオオオオオオオオオオッ……」
泣き虫な男。それが律の見いだした木下の新しい売り方だった。
最初は泣く演技ができる俳優を呼ぼうかと思ったが、それよりも元祖そっち系の逸材を呼んだほうがいいと思えた。
「木下さん、泣きすぎだ!」
「貴方が言うんじゃない!」
2人とも目を真っ赤にしていた。
翌日、エントリー受付最終日に恋人じゃないは「漫才王になろうGP」に参戦表明。前年度王者のもふもふ王国・神埼が「私はこのマッシュルーム君が大好きです! ハッハー! 1回戦からステージ上でこけてください!」とⅩで彼を弄るポスト。瞬く間にそのコンビ名がトレンド入りした。
そして2025年の12月、彼らは遂に決勝の舞台にあがる――
漫才王になろうGPを巡る再会と再開の物語。
ここに「さいかい」を最下位と掛けて紹介したい者がいる。
「いやぁ~悔しかったですよ。悔しくない訳ないでしょう。最下位、最下位って弄られて仕事を貰っても嬉しくないものですって。あんな全国のお笑いファンの視聴者がみているなかで『おもしろくない』ってハッキリ言われて腹がたちますって。だからあの田口クソ野郎と再会しますよ。そして打ち切りになった私達の深夜番組を再開させます。みていてくださいよ。あの野郎が腹を抱えて笑っている姿を。それをさせる事ができる漫才を。誰がやるって? ぽちゃらっびゅ~ってコンビですよ!!!」
親指をたてた杏子が変顔をみせる。
その魂が突き抜けた者こそ漫才王になろうGPの決勝の舞台にあがれる。
ここに何度もあがって再会と再開を果たすコンビはそうそういない筈だが……
決勝10組中5組は「また」やってきた。
その彼らが披露する漫才に期待を抱かない訳がないだろう。
俺は今年、観客席からみようと決めている。
どんなドラマがみられるのか、見ものだ――
∀・)読了ありがとうございました♪♪♪
∀・)なんとまりんあくあさんのあのコと藤原柚月さんのあのコたちを登場させました(笑)
∀・)まこと勝手ながらの「さいかい物語企画」と「漫才王になろうGP+」のコラボでした。こんなに素敵な企画を頂けた武頼庵さまに感謝を。なろう作家同志で少しでも素敵な交流が広がるように――