~恋人じゃない(前編)~
さて「再会と再開」の物語をもう1つ。
広島を拠点に活動を展開している「恋人じゃない」から。
彼らも奇妙な縁で結ばれたお笑いコンビだ。元ホストを売りにしたしゃべくり漫才を披露するスタイルから一転、2人揃ってギャグのポーズをかますスタイルが話題を呼び、結成3年目の2度目の挑戦で準決勝進出。1度目の挑戦が1回戦敗退だと言うのだから驚きだ。
しかし「漫才王になろうGP」での躍動はすごかった。その1年で単独ライブでの客数を予選ごとに増やし、広島のローカル番組ではお馴染みのタレントに。決勝進出は叶わなかったものの、この大会が終わったら東京進出は約束もされていたと言われるほど。ボケの木下は人気ロックバンド「歌ウ蟲ケラ」の田中律と熱愛が報道されるなどしてスター街道まっしぐらだった。
そこであの悲劇が起きる。
敗者復活戦のステージで木下が転んだのだ。
お笑い芸人としての比喩ではない。物理的に。
この衝撃の場面に悲鳴をあげる人と下衆な笑い声をあげる人がいた。
敗者復活戦は会場にいる視聴者からの投票で決まるという漫才王GPの原点に還る方法で決勝進出者が決まった。
「決勝進出者は右往左往!!!」
大泣きが止まらない木下に祐木が軽くタックルをかまして、左が直後さすって励ますシーンが一瞬映し出された事も話題になる。何故なら彼らは敗者復活戦の2位だったからだ。
票を投じた者に悪意があったじゃないか論と酷く滑るのも一芸じゃないか論とある。が、この大会が終わって間もなく恋人じゃないは活動休止を発表した。厳密には木下の活動休止といったほうがいいだろうが。野藻田はその後も広島の情報番組などに出演を続けていたから。
木下は家から一歩もしばらく出なかったという。
「もう、僕、芸人やめる……」
「何言っているの! みっくんが芸人でなくなったら只のニートじゃない!」
「りっちゃん、その言葉は今の僕にはきつすぎるよ……そっとしてくれよ……」
こんな一幕が律との間であったと噂される。
恋人じゃないは吉原興行東広島支部所属のコンビ。ホストを2人揃って辞めてからは農業ヨウチューバーとしての活動も始めた。養成所あがりの野藻田と素人から彼と組んで芸人となった木下。彼らが東京進出まで約束されるまでなるとは誰も想像していなかった。本人たちも含めて。だから、そのまま農家として素人芸人を続ける覚悟ですらいた。
それでも何の運命か彼らは大スターの階段をあがれそうになった。
しかし、その序盤で転んでしまったのだ。
野藻田は黙っていられなかった。
突然「恋人じゃない緊急会議」という動画をコンビのチャンネルで投稿。
内容は椅子に座った野藻田と律が木下の復帰が可能かどうか語り合うものだ。
「それで状況はどう?」
「厳しいね。生きる屍みたいな。あ、いや、最近過食で太ってきたから違うか」
「大丈夫そうじゃん!」
「でも、芸人は辞めたいって口癖みたいに言っている」
野藻田は顎に手を当てて「う~ん」と唸るように考える。
この動画投稿は生中継で行われた。律がときどきスーパーチャットで届く提案チャットを読みながらも打開策を野藻田と考える。1時間経って思わぬ存在からチャットが届いた。
『木下さんと野藻田さんとそれぞれコンビを組んだ事がある者です。私になにか手伝える事があるなら力になります。あ、でも、モザイクはかけて。Mですから』
「どういうこと?」
「いや、まさか」
「Mな人だからモザイクかけて欲しいって事?」
「いや、そういう大喜利じゃなくって」
「このひと、1万円も入れてくれているよ? 何者?」
さらに野藻田の元カノを名乗る2名の女性視聴者から同様のスーパーチャットが。いずれも1万円をくだらない高額のものだった。
「いや、まさか」
「もっくん、そればっかり。何か心あたりでもあるの?」
「プライバシーに関わるから言えない。でも、もし本当にご本人なら……」
その翌週に野藻田は木下を個室の店に呼んだ――
【恋人じゃない】Xmasデート【漫才】
https://ncode.syosetu.com/n2533io/
「恋人じゃない結成。」
https://ncode.syosetu.com/n8226im/
∀・)恋人じゃないのおはなし。上記作品を読んでいたらより楽しめます。読まなくても楽しめますが。今晩後半があがります。おたのしみに☆☆☆彡