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~シン・スクールカースト(後編)~

 山田は東京へ。鈴村から弘前公園で花見デートをするようにとまで罰ゲームで頼まれたというLINEを受けたが返事は返さなかった。それはその侮辱に対し反感があったことでもあり、鈴村を思うが為だったとも言う。



 彼の芸人としての歩みは最初から苦難があったワケでない。養成所では仲良くできる芸人見習いの仲間に恵まれた。彼らと一緒に始めたバイトでも評判は良いとされた。




 しかし、それは1年ももたなかった。



 一緒にトリオでユニットを組んでいた2人は半年ぐらいで養成所を退学。同じ東北から来た友人もあっさり地元へ帰った。



 その理由は簡単だった。



「おい、何かいい合図ないか」

「う~ん、思い浮かばねぇな」

「テポド~ン!」

「それがいい!」



『おもしろくない』



 彼らが地下ライブで芸をみせるたびに感じさせられた言葉。その現実の厳しさたるもの、若者の夢を奪うには充分だった。



 いつしか山田は暗い男に戻っていた。一緒にコンビを組もうという同僚なんかほぼいない。それでも養成所でのカリキュラムには臨み続けた。頑張れば頑張るほど厳しい事を言われ続ける。それはバイトでやっている仕事ですらそうなった。




 遂に我慢の限界が来て彼も養成所をやめることに。



 そのとき仕方なく組んでいた相方と地下ライブなどに臨んでいたが、そこから何かが変わる事なんてなかった。漫才王GPに臨むも1回戦敗退。



 養成所をやめたフリーターの山田はもう過食でしか生き甲斐がなくなる。その為に金欠となる事もあり、遂に友人知人から「お金を借りよう」と躍起になる。ますます嫌われはじめた彼は懐かしい高校時代のクラスメイトにLINEを送る。



 鈴村香蓮。



 彼からの「お金借りていい?」のLINEは既読になるも、1週間は返事なし。山田はそれでいいと思っていたが、彼女から返信が。



『電話で話せる?』



 思いもよらない返事。彼は手を震わしながらも電話を彼女へ入れた。




 鈴村香蓮も挫折を味わった。案の定、自衛隊に入隊するも過酷な訓練に耐える事などできなかった。元々運動神経が良い女子でもない。当たりまえだと言えば当たりまえだ。それでもその電話で受けた言葉は山田に衝撃をもたらした。



「私も東京にいっていい? 私もお前とお笑いをやってみたい」



 鈴村は実家で嫌いな家族と生活を共にしながらも引き籠りになったようだ。




 これからお笑いをやめようという自分に何を期待しているのだ?



 この時に地下ライブで出演を共にした事がある二宮に電話した。



 そう、初代漫才王になろうGPチャンピオン「もふもふ王国」の二宮だ。



「相談?」

「ああ、俺とお笑いがしたいって」

「お笑いがしたいって太一さん、お笑いやめているじゃないですか」

「だからスゲェ戸惑っていて。俺、女子から絡まれたことなんてないし……」

「ああ、それで神埼と組んでいる俺に」

「そう、お金はいいよ。この相談にのってくれたら」

「やってみたらいいんじゃないですか? それで駄目なら2人揃って辞めれば。あの、俺、忙しいからこれで」



 二宮はこの時、適当に済ますつもりだったらしい。



 まさかコレがあのシン・スクールカーストを生む事になるとは思う筈もなく。




 鈴村が東京にやってきた。山田は有名人でもないのに濃いサングラスに帽子を深々と被ってマスクまでしていた。彼はありもしないが警戒をしていたのだ。



 もしかしてこれも罰ゲームなのかもしれないと。



 しかし、そんな山田に構わず彼女は開口一番尋ねた。



「それで? どうやったら芸人になれるの?」



 それはまさに山田にとって分からないテーマだった。



 彼は居酒屋とコンビニに掛け持ちで働くフリーターだ。養成所を退学した彼が何を始めても、それはアマチュアのおままごとにしかならないからだ。だけども、わざわざ青森から東京までやってきた彼女を追い返す訳にもいかない。ひとまず何か仕事をして欲しいと要望をだす事にした。



 鈴村は本屋の仕事を始める事に。元々ミリタリーマニアな彼女はそこでそんな本を入手する趣味も増やして意外と社会人としてやっていけた。問題は芸人っていうものにどうなっていくかだ。



 2人でコンビを組んでも事務所所属でなければ地下ライブですら参入しづらい。そこでヨウチューブの動画投稿から活動を始める事にした。



 ミリタリーJKキャレンというチャンネルを開設。鈴村がその知識を得意げに語り尽くすというものだったが、その手が好きなリスナーたちが集まった。結果、それだけでまぁまぁ収益を得られるチャンネルとなった。たまに登場する山田が扮するキ〇・ジョ〇プゥ~もウケた。



「でも、これは私がしたいことじゃない」

「どういうことだ?」

「お前とコンビを組んで漫才がしたいの」

「それは……」



 失敗することを恐れた。また臨む事で屈辱を味わうのでないか。一戦友として愛着が湧く鈴村という相方にそれを与えたくはない。



 彼は言葉を濁すしかなかった。



 しかしキャレンの活動が評価を受けて某事務所からスカウトが。



 何の運命かあの「もふもふ王国」が所属している事務所だ。



 勿論当時のもふもふ王国は無名でしかなかった。神埼はそれなりに有名な動画投稿者だったが、二宮のほうは知られていない。また最初の契約はキャレンとのものでしかなかった。それでも彼女は言い切った。



「コイツと組ませて。じゃないと契約しないわ」



 驚いた。そして嬉しかった。



 気がつけば山田の瞳からポロポロと零れ落ちるものがあった――




「コンビ名どうする?」

「どういう芸をするかによるな」

「漫才? コント?」

「罰ゲームをさせられた俺たち」

「そういうコンビ名?」

「いや、違う。スクールカーストみたいな」

「新しい感じの?」

「シン・スクールカーストとか」

「じゃあ、そうしよう。決まりよ」

「ええっ!? 即決!?」




 そのコンビ結成の年に「漫才王GP」は無くなった。



 翌年はGPの顏と謳われた松薔薇が亡くなった。



 それでも芸名は山田金太郎と鈴木花子。



 シン・スクールカーストは活動を続ける。



 同事務所にお笑いで所属するのはもふもふ王国とシン・スクールカースト含む4組のみ。所属タレントのほとんどがインフルエンサーとして活動する者ばかり。それでも漫才王GP挑戦で初年度から準決勝まで駒を進めたもふもふ王国という存在があったから心強かったと山田も鈴村も。




 そして「漫才王GP」は「漫才王になろうGP」として還ってきた。




挿絵(By みてみん)



 もふもふ王国が優勝した――



挿絵(By みてみん)



 シン・スクールカーストは1回戦敗退。



 ――悔しいというのは在りましたか?



「いえ、全く」

「むしろ励みになったわよ」



 ――今年は決勝に来られると?



「いえ、それも全く」

「いけるところまでいければ満足って感じよ?」

「意気込みはあったけど。自惚れないように。でも、1回戦突破した時から何か今年は違う感じがしましたね。やっと『おもしろい』に達したというか」

「なんかね。やっとハマったって感じがあったわ」



 ――決勝の審査員には同事務所所属のもふもふ王国の2人がいますが。



「いや、最近になって我々と同じ事務所にいる事を知ったらしくて」

「そう、同じ事務所だからって騒いでくれているけど。お門違いよ」

「こういう相方なので知ってもらわなくて幸いでした。敬語使わなくて」



 楽しそうに話すこの2人はまさに「やりたいことをやっているのだ!」という「もふもふ王国」に通じる何かがあると感じられた。



 このインタビューは準決勝進出の際にしたもの。



 彼らの決勝進出はこの時から確信されていたものかもしれない――


∀・)シン・スクールカーストのおはなしでした。現在彼らのイラストをつくっておりまして。完成次第にこちらに掲載予定です。もふもふ王国と同じ事務所って設定なのですけども、一応そら・そらら様に許可をとっております。


∀・)来週は「恋人じゃない」のおはなしになります。

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― 新着の感想 ―
シン・スクールカースト。 そのワードに惹かれて読みましたが、 作者ならではのエッジの利いたエピソードですね。 罰ゲームから始まる交流。 そして漫才コンビを組むという流れが個人的にツボに来ました。
『さいかい』と聞いた時、『再開』はあまり頭をよぎらなかったので、なるほどと思いながら読ませて頂きました。 芸人さんとしてやっていくって本当に大変なことですよね。 私たちが目にすら人たちは本当に一握りで…
人の挫折と再生(この企画の場合は『再開』が正しいですかね)の物語って、本当に心に響きますね……(*´Д`*) すっと心に入り込んでくるいでっちさんの文章が、登場人物の感情を過不足なく響かせてくれて、読…
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