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とあるお姫様の心の日記★

3月1日byL

 ついに、王宮に上がる日が来てしまった。

 ぶっちゃけコニと離れるのも、城下町を離れるのも厭だ。

 でも、私が王宮に必要だというのならば、私は王宮に行かなくてはいけない。

 ただの宿屋の娘だった私が、王に乞われて城に上がるなんて、すごい幸運だ。

 でもそれだけでは物足りない。

 私はもっと必要とされる人間になるのだ!たとえ、それが茨の道でも私は進んで行きたい。むしろ進む道以外こそが、私にとっては茨の生い茂る荒野でなくてはいけない。

 嗚呼。

 ただの幸せに満足できない私には、嘆く権利などない。

 だからこそ、ただの幸せを求めるコニが眩しい。私にはない、幸せに満ち足りた人生を持っているコニを何度羨んだことだろう。

 理不尽なのは分かってたのに、今までコニの優しさに甘え続けてしまった。でも、それも今日で終わりにしなくてはいけない。

 明日から、コニの居ない日々が始まる。


* * *


3月15日byL

 悲愴な決意をしたと酔っていた一年前を、今なら鼻で笑うことができる。

 同時に、常に傍らにコニの居ない生活に意気込んでいたのだから仕方ないだろうとも思う。たとえ一緒に王宮に上がるといっても、側仕えの侍女ではないのはかなり辛かったのだ。

 まぁ、今日みたいにのんびりお茶会ができるのを知っていれば、あそこまで悲愴な気分にはならなかっただろうけど。

 我ながら、秘密の花園を作ったことを褒め称えたいものだ。

 今日も紅茶が美味しい。


3月21日byL

 何ということだろう!

 シェリア殿下にコニのことがばれてしまった。

 しかも、変な誤解を避けるためとはいえ、コニの匂い袋まで奪われた。不覚だ。

 コニは匂い袋が殿下にとられたことを知らないけど、何があるか分からない。次に会ったときにでも教えなくては。

 さすがに殿下とコニを結びつける人は居ないだろうけど、やたらとあの匂い袋を気に入った様子の殿下はちょっと危ない気がする。

 それにしても、花園の入り口の侍女は何をやっていたのか。

 事と次第によっては、解雇しよう。


4月30日byL

 酷い勘違いだ。

 期待を裏切られたとは思わないし、きっと何かの行き違いがあったのだろう。

 それでも、なぜコニが殿下の愛人だなどと思われなければならないのか。そんな勘違いの基でされた提案など、悪い結果しか生まないのは疑うべくもない。

 今回はアレク様が無理に侍女を突破してきたようだ。警戒の鈴も鳴っていたが、殿下に拘束されたコニは気づかなかったようだ。こう何度も乱入されると、これからも少々不安になる。

 少し、お茶会のやりかたを考えるべきかもしれない。


5月6日byL

 最近、アレク様に想い人がいるという噂がある。

 コニも居ないし、憂鬱だ。


5月15日byL

 今日は殿下に頼まれてお茶会を主催した。

 珍しいこととはいえ、別にそんなことはどうでもいいのだ。貴族の繋がりを学ぶ上では重要な場であることだし、殿下にはこういう機会を存分に利用していただきたい。

 問題は、そこにコニが招待されていることだ。

 しかも無理矢理ともいえる体裁で連れてこられたコニの表情は、お世辞にも困っていないとは言えないものだった。何より、貴族のごたごたに巻き込んでしまったら合わせる顔がない。

 ついつい嬉しくて笑顔になってしまったのだから、もはや弁解の余地はないが。

 もっとも、私に内緒でサーベルト家で会ったことは許しがたい。

 コニの困った顔が目に浮かぶ。

 …羨ましいとかずるいとか、それだけが理由ではないのだ。

 それにしても、殿下のコニの気に入りようは警戒に値する。


6月8日byL

 アレク様の恋のお相手が、コニ!

 まさかの事態に、笑わずにはいられない。

 何かの勘違いに決まっている。まぁ、たとえ本当だとしても怒りなど生まれるはずがない。

 コニがアレク様を好きになるはずはないけれど、アレク様がコニに好意を持つことは有りうるだろうし。むしろ、コニの魅力に気づいたのなら、さすが私が好きになった方だと誇るだろう。

 ああ、こんなに愉快な噂ばかりなら、王宮生活ももっと楽しめるのに。


7月1日byL

 今日は噂のユネ家の双子に遭遇した。

 期待以上の人材の予感。

 何より、コニに目をつけるなんてなかなか有望だ。


7月17日byL

 今日はコニの十七歳の誕生日だ。

 シュミット家に贈り物と手紙を届けなくては。


7月28日byL

 お義兄さまの捻じれ拗れな愛情表現にも困ったものである。

 それでも最近は少しばかり素直になった、というか本音がぽろぽろ出ることがあるようだ。そろそろいい年になるのだから、もし本当にコニをモノにしたいなら本気になるべきだろう。

 シシィではないけれど、案外コニは人気が高いのだ。

 本人がいくら鈍くてお子様だからといって、油断していてはいつまでたっても苦手にされたままだろう。反りが合わないとはいえ、頼れるお義兄さまならコニを任せても良いとはほんの少しだけなら思わなくもないのだ。

 まぁ、素直な義兄上というのも気持ち悪いけれど。


8月7日byL

 本当に、王族の方々の我ままにはうんざりさせられる!

 殿下や王妃様だけならまだしも、昨日は陛下まで無茶を言い出すのだから困り者だ。

 諌めるつもりが、ついついコニの自慢をしてしまった私も本当に困ったものだが。

 コニ、ごめん。


9月25日byL

 最近、ガーランド様と良くお会いする。

 コニから聞いた噂を確かめてみようと、窓の曇りについて話を振ってみたら想像以上に熱く語られてしまった。王族にも関わらず、本当に愉快で可愛らしい方である。

 コニには変だと言われるが、私は身分という縛りに捉われない価値観を持つ人が好きなだけなのだ。

 アレク様は、そういった意味でとても魅力的だ。

 ガーランド様も、そんなところをお持ちで素敵だと思うのだ。


10月26日byL

 今日、また殿下がお茶会に乱入された。

 といっても、殿下がそろそろ現れるだろうことは予想していたから、もし殿下に押し切られそうな場合は通すように侍女には言付けておいたから全くの不意打ちというわけでもなかった。

 コニには黙っていただけで。

 それにしても、コニが王族の方々の間でこれほどまでに重要視されているとは思わなかった。せいぜい、私を動かす駒のひとつだと考えているかと思ったが、甘かったということだろう。 

 なにより、やけに楽しそうなシェリア殿下の様子が予想外だった。


12月4日byL

 困った。

 本当に困った。

 まさか、王妃様があれほどコニを気に入るとは。義兄上に相談してみようか。


12月22日byL

 お義母さまとお義兄さまが、ずいぶんと楽しそうにコニのドレスを持ってきた。

 たしかにコニに似合いそうなドレスだった。

 王妃様の件については、静観しろとだけ言われた。私だけでも動くべきだろうか、迷う。


12月24日byL

 コニの大切さを、改めて実感した。

 一旦は引き下がっていらっしゃったけれど、コニにとって王妃様は危険だ。どうにかしなくては。

 陛下に謁見を申し込もう。


12月31日byL

 お義兄さまからの知らせで、コニが下女を解雇されたのを知った。

 王妃様にはしてやられた。まぁ、結局はお義兄さまの独り勝ちになったのだけれど。

 それにしても、まさか下女として働いていたとは、少し驚いた。コニらしいといえばらしいけれど。

 明日からの、お義兄さまの楽しそうな顔が目に浮かぶ。


1月4日byL

 今日は、王族の晩餐会にお招きいただいた。

 そうだろうとは思っていたが、やはり王妃様はコニを諦めてはいないようで、シェリア殿下をせっつくようなことを仰っていた。逆に殿下から釘を刺されていたが、さらに嬉しそうであった。そんな二人を陛下や他の殿下は微笑ましそうにご覧になっていたが、私としては少し心配だ。

 しばらくはコニに会いに行くことは難しいし、手紙ではあまり込み入った事情は話せない。

 殿下は今月中にコニに会いに行く算段をつけたようだ。

 これからのコニの波乱を思うと、私も早くコニに会いに行きたくてしかたがない。


* * *


続く?

お姫様の口調は社交術のひとつなので、独白はそっけない話し方。

時期は第二部おわりあたりまで。

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