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男が泣くとするなら

作者: 狂いうし

父親が死んだ。


数多の人が経験することだろう。私にもその番が回ってきただけで、なんてことは無い。


ただ、私の人生において悲哀というものをここまで感じたことがなかった。


父親が死んでしまったという事実は、目の前の冷たくなっていく目を開いたまま父が教えてくれる。


前々から感じていたことだろう、苦しそうに細くなっていく体を見て、言葉を交わしながら心細そうにしている父親を見れば何となく感じていたことだ。


ほんの数時間前も言葉を交わしたばかりだった。


病院からの電話を母が受け、何となく嫌な予感がして、みんな黙りながら病院に向かった。


出迎える看護師はどことなく悲しげな表情をしていて、会うのを焦らす。


御託はいいから父と会わせろという言葉が出てきそうになるが、ちゃんと話を聞いて平静を装うのに務めた。


会えばいつも通り怒った声で説教をするものだと考えていた。


早く会いたいという考えと、もしもの事実が怖くて走るのではなく駆け足で病室に向かった。


出迎えた現実を前に母と姉は、父に縋り泣いてしまった。


私は、涙をこらえようとしたが、そんな痩せ我慢は一瞬も持たなかった。


数ヶ月たった今でも父のその時を思えば泣いてしまう、他にもできることがあったんじゃないか。


父は、何か後悔を残して逝ってしまったのだろうか、苦しかったのだろうか、寂しかったのだろうか。


私は、出来た息子ではなかったので、親孝行というものをまともに出来た試しはなかった。


私の人生を振り返れば、私は父から多くの愛を貰っていた、それに一切報いることが出来なかった。


私はその悔しさに、涙が止まらない。己の不出来を呪い続けてしまう。


これは後悔の吐露であり、決意の表明である。


私にはまだ、生きている母がいる。


私は同じ過ちを2度犯したくない。


私を誇れる子だとそう思わせるような人になる。


傲慢かもしれないが、そうなりたい。


もし、私が母を看取るとき父と同じ事を繰り返すなら、愚かにもまた己を呪いながら泣き続けてしまうだろう。

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