第一小節 - 逃避
翌日、相部屋だったスピカさんに起こされた。
昨日は帰ってきた後、疲れからかぐっすり寝てしまったようだ。帰ってきた時スピカさんはいなかったので相部屋と気付かなかった。
「エヒトくん、このあと舞台前の打ち合わせがあるけど来るかい?」
「良いんですか?」
「団長には許可を貰ってるから大丈夫だよ」
「じゃあ折角なので…」
「それじゃ一階でご飯食べたら竜車に向かって。僕は準備して行くから。あ、竜車は宿のすぐ裏手に停めてあるからね」
宿の朝食を頂いたあと裏手に向かうと、その広い庭には竜車が十数台停まっていた。
結構宿泊している人が多いんだな、と思っているとローゼンが声を掛けてくる。
「やぁエヒトくんおはよう、良い朝だね」
「おはよう。結構早い時間からミーティングをするんだな」
「そりゃそうさ。みんなを食べさせて行くために私は日々頑張っているんだよ。なのに昨日君は私を見捨てて…うぅ…」
嘘泣きをしながらこっちをチラチラ見てローゼンはそう言う。本当に剽軽なやつだな、そう思いながら口には出さず話を続けた。
「そういえばアニマは大丈夫だったのか?」
「なんとかね。今度同じお菓子を用意することで納得してくれたよ。昨日は美味しい甘味を食べてきたみたいで嬉しそうだったし…助かったよ」
「そりゃ良かったな。俺にはどうしようもないことだから見捨てたことは忘れてくれ。あと感謝はレジェロにな」
「まぁそうだね。ところで昨日は両手に花で楽しめたかい?」
「そんな関係じゃないことはよく知ってるだろ…」
「まぁそうなんだけど。アニマも良い年なのにいつまでも男嫌いで浮わついた事も一切無くてねえ。心配になるよ」
「まるで親みたいな口ぶりだな」
「そりゃそうさ!あの子が10歳のときから一緒にいるんだから。親心も芽生えちゃうよね」
「団長」
「あ、アニマちゃん。おはよう」
「皆さん揃ったようですので打ち合わせを始めましょう」
「すぐ行くよ、さ、エヒトくんも行こうか」
「それと。あまり余計な事は言わないようにお願いしますね」
笑っていない笑顔でアニマはローゼンに釘を刺す。
はは、と自嘲気味に小さく笑ってローゼンはアニマの後を着いていった。
親子か…。俺の親はどんな人だったんだろう。そう思いながら俺も2人に着いていった。
「さて、それじゃ今日の予定と演出をまずは決めていこうか」
2つの荷台が連結された竜車に乗り込んだローゼンは団員たちに向けて声を掛ける。
しかし脇から不意に団員の声が飛ぶ。
「なぁ、部外者がいてもいいのか?」
そちらを向くと苛立った様子の青年が俺の方を見ていた。まだ話したことの無い人物だ。
「彼は良いんだよ。実際昨日、一昨日と戦闘面で活躍して貰ったしその日に食べたご飯も彼が獲ったものだ。余ったベアズリーの素材も売れたし、彼も今はうちの団員と同じ扱いさ」
「気に入らねぇな。そんなんはアニマ1人でも片付けられた仕事だろ。そいつが役に立った理由にはならねぇな」
「君は私の考えを否定するのかい?」
若干の魔力放出、その威圧に男性は少し怯んだようで舌打ちをして押し黙った。
「…できれば私もこういった脅しの手段に魔力を使いたくないんだ。みんなの意見を聴くことも私の仕事だからね。その辺りの事はまた別で話そう」
しんと静まり返った竜車の中。すぐに口を開いたのはアニマだった。
「ではミーティングを進めます。まずは午前中のうちに…」
その後会議は滞りなく進んでいった。
各々の配置、準備するもの、楽曲や使用する楽器、演出などの最終確認だ。年単位で同じ町に来ているそうだが、毎回飽きさせないように演出を変えて実施していると聞いた。
裏側を見るとより凄いと思える。
団員たちは会議後すぐに竜車を出て町の人たちに宣伝しにいくようだ。
顔をばれないようにしているのにどうするのか?と思ったらローゼンが答えてくれた。
なんでも噂話として一気に流すそうで買い物しながら世間話として店の主に伝えたり、一般人に扮して少し大きめの声で話したりといった感じだそうだ。
毎回それでうまくいっているのだとか。
団員とローゼンが居なくなった竜車には俺とアニマだけが残っていた。
「エヒトさん、先ほどはすみませんでした」
「え?あ、部外者って言われた話?気にしてないよ」
「それでもうちの団員が大変失礼な物言いをしました。代わってお詫び致します」
「全然大丈夫だよ。俺は実際ちゃんとした仲間ではないし、仕方ないさ」
「実は…エヒトさんが騎士団から大陸民の疑惑をかけられて捕縛され、それを団長が救出したことは全員知ってるんです。一部の団員には記憶を失っていることも伝えられています」
「そうだったのか」
「はい。勝手で申し訳ないのですが理解を得るために止むを得ずそのようにしました。みんな思うことは有ってもあのような事を言うとは…」
「人それぞれ考え方は異なるから。彼には彼なりの考えがあるんだよ、きっと」
「そう言っていただけると助かります」
そうやってアニマと話しているとローゼンが戻ってきた。先ほどの彼も一緒のようだ。
俺の姿を見た彼は怒気を孕んだ目で睨み付けてきた。
「フェアくん、まずは謝りなさい。今まで団員が増える時もこうやって突然だったし、君は反発したことなんてなかっただろう?」
「…さっきは悪かったな」
短くそう言って俺が返事をする前にフェア、と呼ばれた青年は去っていった。
「全く…。ごめんね、エヒトくん。普段は物静かであんなことを言う子ではないんだけど」
「大丈夫、何か癪に障ることをしてしまったのかもしれない。俺にも悪いところがあったんだと思うし」
「私からも謝罪をしておきました。…今日の彼は少し様子が変でしたね」
「そうだねぇ。まぁ理由はちょっと理解してるつもりだけど」
「そうなんですか?」
「私は団長だからね。団員のことはちゃんとわかっているつもりだよ」
「普段からそうであれば頼もしいのですが」
「はは。ま、エヒトくんも気にしてないようだしこの話はここまでにしよう。アニマちゃんとエヒトくんも2人で宣伝に行ってきてくれないかい?」
「承知しました。ではエヒトさん、行きましょうか」
そうして俺達は2人で町に繰り出した。
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「さっきのフェア?って人はどんな人なんだ?」
「フェアさんはさっき言ったように比較的大人しく物静かな方ですね。入団されたのも1年ほど前で腰が低く…あまり感情を表に出すことは無いので驚きました」
「そうか…俺が何かしてしまったんだろうな」
「その可能性もありますがなんとも言えないです。団長は何か知ってるご様子でしたが、あの感じですと教えてはくれないかと」
「あまり深く考えない方がいいんだろうな。とりあえず今は宣伝していくか」
「はい、そうしましょう」
そう言ってアニマは突然、俺の左腕に腕を絡ませてぴったりと引っ付いてきた。
「えっ?」
「この方が自然かと。それに私たちの舞台は家族や恋人と見に来る方も多いので、そう言った層に広めるためにもこういった演技は必要です」
「そ、そっか。わかった」
「では行きましょう」
アニマは当たり前のように、それが自然であるように振る舞い、雑談のようにタクトゥスの舞台がもうすぐ催されることを話しながら進んでいく。
町の中央通りまでくるとちらほらと他の団員の姿が見えた。
俺たちと同じように男女のペアでカップルのように振る舞っている人もいる。
最初は少しどぎまぎしてしまったが、普段からこのようにしているんだろうなと受け入れた。
そのまま進んでいき何度か中央通りを往復した所でアニマはパッと手を離した。
「そろそろ大丈夫でしょう。団員以外の方がタクトゥスの舞台があると話している姿も見受けられましたので、自然と町中の人に広まっていくと思います」
「毎回こんな感じなのか?」
「男女ペアの時はそうですね。気恥ずかしいですか?」
「少しな。まぁでも頑張ってる姿を見たらそんなこと言ってられないし、少しでも力に成れればって思ってたよ」
「お優しいですね。…ふふ、ではそれとは関係なしにこうしたらどうしますか?」
アニマはまた唐突に、今度は俺の左手を握ってきた。
「お、おい。もう宣伝は終わったんだろ?」
「ええ。ですが貴方への疑惑はまだ終わっていません」
そう言ってアニマは少しだけ手の力を強める。
「…こうしても貴方の鼓動は変わらないのですね。多少は動揺を誘えるかと思いましたが…」
「まぁびっくりはしたけど…」
話を続けようとした時、背中から声をかけられた。
「おい!アニマ!」
「…フェアさん。お戻りですか?」
またパッと手を離してフェアさんとアニマは会話を始めた。
「その半端者と昨日も出掛けてたよな。どういうつもりだ」
「どういうつもりも何も、私は自分に与えられた仕事をしているだけですが?」
「宣伝が終わった後に手を繋いでイチャイチャすることがアニマの仕事なのか?」
「お言葉ですが私の行動の理由を逐一報告する義務はありません。ですがお答えするならこれも私の仕事です。…エヒトさん、行きましょう」
「大丈夫なのか?」
「ええ、すぐに舞台の準備を始めなければいけませんから」
そう言ってアニマは宿の方へ歩きだした。
残されたフェアの方を見るとぶつぶつと呟いている姿が見える。俺は不意に聴魔力を使用した。
許さない、裏切りは許さないぞアニマ…。
そんな言葉が耳に入ってくる。理由は分からないがアニマに恨みがあるのか?そんな疑念を抱きながらアニマに続いて宿に戻るのだった。
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宿の裏、会議のあった竜車付近には既に数名の団員が集まっていた。各々自分の担当する楽器を整えたりしている様子だ。
「宣伝お疲れさま、大丈夫だったかい?」
「ああ、特に何事もなかったよ。もう向かうのか?」
「この後昼食を食べてしばらくしたら中央通りの横にある公園に向かうよ。開催は夕方の予定だね」
「俺はどうしたらいい?」
「自由にして良いよ。見に来てもいいし記憶の手がかりを探すでも良いし」
「昨日も言ったように初日は見ようかなって思ってるから観客として楽しませてもらうよ」
「了解!気合い入れなきゃね」
その後はスピリさんが用意した昼食を各々取り、しばらくして用意していた楽器などを持って公演へ向けて移動が始まった。
この移動中も空間系の魔法を使用しているようで団員達の姿は認識できない。楽器なんて持って歩いたら目立つことこの上無いと思っていたが、そんな考えは杞憂だったようだ。
そうして辿り着いた公園では既に相当な数の観客が今か今かと待っている姿が見える。
すごいな、と思わず声が漏れる。
するとパカタメンテと同様に真っ白な衣装に身を包んだ男性がスッと噴水の前に出てくる。そこを中心にぐるりと人が囲むように場所が出来、男、ローゼンは大きな声で話し始めた。
「皆さん!大変お待たせしました。それでは技団タクトゥスの舞台を開始します」
その言葉にワーッと会場は騒がしくなり、ローゼンの指先には魔力が集まっていく。
「それでは、開演」
指先から放たれた魔法は宙を舞い弾ける。
皆が上を向いているその時、四方から4人の踊り子が観客を飛び越え男の元へ駆けるのが見えた。
体魔術を脚に使用し素早く移動した四人は、今回は剣では無くヒラヒラと舞う衣装に身を包み躍りを披露する。
音楽もパカタメンテで聞いたものとは異なっていた。
これが場所に合わせて変えるという話の事かと感心する。正に花が咲き散るような美しい舞い、見とれている観客が非常に多かったようだ。
しばらくすると四人はフッと消え、その代わりに群衆の中から唄を歌いながらレジェロが現れる。
ローゼンは魔法を使い綺麗で幻想的な空間を作り出し、音楽もそれに合わせた落ち着きのある曲だった。
そのまま数曲歌いきるとアクラルネの唄が始まった。
歌詞は理解できていないがなぜか知っている。不思議な感覚に襲われる曲だ。
歌声は温度を上げ観客のボルテージも高まっていく。
歓声が上がり盛り上がる中、再度四人の踊り子が現れ先ほどとは異なる衣装で躍りを披露する。
本当に美しい。そう思わず口から溢れるように呟くほど、俺の目は釘付けだった。
そうしてこの日の舞台は終了した。パカタメンテと同様、明日もこの場所で今度は夕方に催されることが告げられる。
夕焼けの中で行うとまた一味違うのだろうな。明日は町を見て回る予定だが、時間が合えばまた見に来よう。そう思いながら俺は宿へと戻る道を歩き始めた。
宿に近付いた時だった。
不意に後ろから声をかけられる。
今日の舞台はどうだったかな?
「ローゼンか、すごくよかったよ。あんなに変わるもんなんだな」
そうだね、場所によって変えているからね
「明日も時間が合えば見させてもらうよ」
みんな知り合いが見ていると思うと一層気合いも入るからね、そうしてほしいところではあるけど…
「あぁ。そういえば今日この後だけど…あれ?ローゼン?」
そういって後ろを振り返るとそこには誰もいなかった。
どこかに行ってしまったのか?そう考えているとまたローゼンの声が聞こえる。
あぁ、私はそこにはいないよ。聴魔力を使っているようだったから割り込ませてもらったんだ
「そんなことできるのか」
愚問だね。私に出来ないことはあまりないのさ!
「それは言い切っても良かったんじゃ…」
実際出来ないことはあるよ。例えば今、レジェロが騎士団に連行されたのを黙って見ているしか出来なかった事とかね
「は!?」
人の往来も気にせずつい大きな声が漏れる。レジェロが連行?一体何の話だ…?そう尋ねると言いにくそうにローゼンは伝えてきた。
エヒトくんには言いにくいんだけど、昨日君と一緒に歩いている所を見られていた可能性がある。その関係で連れていかれたみたいだね
「…俺のせいってことだよな…どこに行けばいい?」
いや、君が動くのは得策じゃない。更に君とレジェロの関係を知らしめるだけに終わってしまうだろうから
「わかった。あと昨日はアニマも一緒だったんだ。アニマは無事なのか?」
一応ね。彼女には隠れて貰っているけど、私たちも今は派手に動くことが出来ないでいる。君は見つからないように慎重に動いてほしい。一度滝のある丘の上まで来れるかい?
「わかった、今からで良いのか?」
いや、日が暮れてからにしよう。それまでは隠れていてくれ
そこで話は終わった。
まさか俺のせいでこんなことになるなんて…。決して犯罪者扱いされ投獄されたことを忘れていたわけではない。しかしたかが2日でも楽しい旅に浮かれてしまっていたのも事実だ。動揺する心を鎮めながら俺は夜になるのを暗い路地裏で待った。不思議とお腹がすくことはなく、聴魔力で周囲を探っているうちに日は暮れていった。
そうして時間が経ち、暗くなった後俺は滝の上に向かった。着いたそこには数人の団員の姿があった。
「お、来たね。無事で何よりだよ」
「迷惑をかけて本当にすまない。レジェロは?」
「うちはここにおるから大丈夫やで」
スッと後ろからレジェロが現れ無事を知らせてくる。
「良かった、解放されたんだな」
「何とか団長さんが頑張ってくれてなぁ。ま、こんな経験滅多にせんから楽しめたわ」
カラカラと笑いながら何事もなかったかのようにレジェロは言いきった。
「やっぱりこいつはタクトゥスに置いておくべきじゃない。とんだ疫病神だ」
フェアから冷たい言葉が飛ばされる。それは心に突き刺さった。確かに俺のように犯罪者として手配されている者を匿っておくことは良くないだろう。それはわかる。
「姿を隠さないと表に出れない団員は彼だけではないことは分かっているはずだよ。特にエヒトくんにはまだ私の空間魔法が馴染んでいないんだから」
「…俺、もうここから離れようと思ってるんだ。実際パカタメンテで捕まって僅か2日でこの事態だ。これからも迷惑をかけることは間違いない」
「私としてはまだ一緒に旅をしたかったんだがね…今回ばかりはどうしようもなくて、急に追い出すような形になってしまって本当にすまない」
ローゼンは俺に頭を下げて謝ってきた。
「そんな…謝られる事じゃない!むしろ感謝してるんだ。ここまで連れてきてくれてありがとう。今後もタクトゥスを見かけた時は観覧させて貰うよ、楽しみにしてる」
「もちろんさ!この後だけど、このまま滝の水流を遡っていけば街道に出られる。騎士が見張ってると思うから出来るだけ眼魔力と聴魔力を使用しながら慎重に進んでほしい。街道に出たら右の方へ行ってくれたら大丈夫だよ」
「何から何までありがとう。短い間だったけど世話になった」
「あと先日の借りは"この件"でチャラにしておくね。さ、急いで。気をつけていってらっしゃい。君の未来が幸多い事を祈っているよ」
そうして少し謎めいたことを言うローゼンと握手を交わし、その場にいた顔見知りの団員に声をかけた後、俺はフローラルから離れる事になった。
ただ、気にかかっていたのはローゼンの言う"借り"。作った覚えはあれ返した覚えがないことだった。
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Side フェア
やった、俺は成功した。あの厄介者を追い出すことが出来たんだ。
最初は何て事無い平凡な男だと思っていた。それなのにアイツは記憶がないと言いながらアニマと二人で…。
俺だって本当ならアニマと並んで戦いたい。でもそれはできない、仕方がないと押さえていたのに。
これまで魔物狩りは4姉妹の仕事だった。だからなんとも思わなかった。なのにあの邪魔物は…。
何より町中での振る舞いだ。到底看過できなかった。
騎士に密告したのは失敗だったかもしれないが、まさか見ていたやつがいてアニマとレジェロに疑惑がかかるとは思わなかった。
しかし、もうこれで邪魔物は消えた。もうこれ以上抑えておくことはできない。
後は…。ついつい笑みが溢れてしまう。いけない、隠さなくては。そう言い聞かせ、やつが森へと消えていくのを見送った。
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薄暗い森を川の流れを辿るように登っていき、ある程度進むと聞いていた街道に出る。脇の木々から覗くとそこには数人の騎士、兵士がいたため、少し迂回して街道の右方向へ向かうように抜けた。
なんとかバレなかったとホッと胸を撫で下ろしていると、後ろから声がかかる。
「エヒトさん、遅かったですね。では行きましょうか」
止まるのではないかと思うほどに心臓が跳ねたが振り返ってもっと驚愕した。
「あ、アニマ?ここで何をしてるんだ?」
「団長から聞いていないのですか?私は団を抜けて行く当てもないので、エヒトさんに着いていこうかと思いまして」
「タクトゥスを抜けた!?」
「静かに!大きな声を出したら気付かれますよ」
「ご、ごめん。で、抜けたって何の話だよ」
話は歩きながら、と言いながらアニマは歩き出した。
「私も姿を見られています。それに私が捕まってしまうとタクトゥス全員に大きな迷惑がかかりますので…ほとぼりが冷めるまでですが宜しくお願いします」
「…何かあるんだな。分かった。むしろこちらから頼みたいくらいだ。ありがとう」
「いえ。ではこのまま次の町へ移動しましょう。その途中で事情はお話しますので」
こうして予想だにしない展開で、唐突に二人旅が始まったのだった。
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Side フェア
ふ、ふざけるな!アニマがタクトゥスを抜けた!?
団員全員をいきなり召集したローゼンは事もなさげにそんなことを言ってきた。
ありえない!アニマは副団長のはずだ。その抜けた穴はでかすぎる、認めるはずがない、認められるわけがない。
しかしどれだけ待ってもアニマは戻ってこない。
「アニマさんは大丈夫でしょうか?」
「あぁ、大丈夫だよ。彼が一緒だからね」
「エヒトくんですね。礼儀正しい良い子でしたからきっと大丈夫ですよね!」
ローゼンとドルチェのそんなやり取りを聞いて頭が真っ白になった。
最悪の展開だ。そんな、まさか…。
その後は覚えていない。どうやって戻ったのか宿に帰り、気が付いた時には外は明るくなり始めていた。