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第三小節 - 再会

 夕飯の時間は鼻をすする音がたまに聞こえる中、マルカート父がアニマに質問してはマルカートに窘められる、という流れを繰り返しながら進んでいった。

 レイニンさんも話したい様子ではあったがマルカート父の勢いがすごすぎて控えている。するとお酒もあってか次第に質問もエスカレートしていく。


「アニマちゃんも結婚して幸せそうだし、よかったよかった!」

「結婚してないですよ」

「え?夫婦で聖域の巡礼をしてるんだろ?俺と母さんもしたなぁ、懐かしい!」

「そういえばさっき、ユースさんとレイヤーさんではないって言ってたわね。ユースさんも偽名ってこと?」

「そういえば詳細に言ってなかったわね!彼も事情があってそうしているのよ!」

「ははは!犯罪者でもあるまいし、そんな必要があるのか?」


 じろりと視線が俺に集まる。これは居たたまれない…。しかし隠し続けるのも不自然極まるか…。


「隠していてすみません…自分もアニマと同じ特級犯罪者です…」


 ぶーっと勢いよく酒を吹くマルカート父。それは運良く誰にもかからず床を濡らしただけで済んだ。


「ま、ま、まさか!そんなわけがないだろ!」

「本当よ!彼は…」

「ルカ!今すぐこいつの隣から離れろ!犯罪者が何のためにやってきた!」


 机の下に置いていた剣を抜きレイニンさんが構える。が、すぐにマルカート母に注意された。


「落ち着きなさい!二人とも品がないですよ。ルカも説明が本当に下手くそなんだから…で、君はどういった理由なのかしら?」

「はい、自分は外海からの侵略嫌疑で捕まり、特級犯罪者となっています」

「嫌疑…ということはそうではないということ?」

「いえ…外海から、というのは正しいのですが侵略を企てたわけではなく…」

「エヒトも説明が下手ね!」

「エヒト…?最近手配されたばかりの特級犯罪者か!外海からの侵略に脱獄、手錠の破壊、医療所の無銭利用、紛れもない犯罪者じゃないか!」

「…あなたそんなことしてたの?」


 睨むようにマルカートが俺を見てくる。これを言われては弱い。


「1つ1つ事情はちゃんとあるんです…」

「事情があったとしても犯罪には変わりないだろ!」

「レイちゃん、落ち着いてまずは聞く、そう言ったわよね?」

「うっ」


 マルカート母には弱いらしいレイニンさんは、そう言われて口を閉じる。


「どんな事情かも教えてくれ!気になる!」

「あ、はい。ではまず…」


 そうして俺は語り始めた。妹を追ってアルマに来たこと、このままでは打ち首になると知り手錠を壊して脱獄したこと、好意で無償の治療をしてもらったことだ。


「そういう感じでして…全てやむを得ない事情があったと言いますか…」

「ううむ。なぜそうまでして逃げているのか、なぜ危険を冒してまで聖域を回るのか、得心いかんなぁ」

「それは…」


 ちらりとアニマ、マルカートと顔を見る。二人は仕方ないでしょう、と言いたげに頷いている。


「はぁ…すみません。ちゃんと最初に名前を明かしておけば良かったです」

「名前?」

「はい、自分の名前はエヒト・エーデル。今代アクラルネであるネル・エーデルの兄であり自分も今代アクラルネの継承者、らしいです」


 しんと席は静かになる。次の瞬間にはアニマとマルカートを除いた三人は席から離れ膝をつき。


「あ、あ、あ、アクラルネ様とは露知らず。大変なご無礼を!」

「申し訳ございません!」


 口々に謝罪の弁を述べてくる。こうなることは分かっていた、分かっていたから明かしたくなかったのだが…。


「三人とも畏まることないわ!エヒトはそれを望まない、普通に接してくれることが彼の望みよ!」

「そう、は言っても…」


 頭を上げることなく会話をするマルカート父。

 するとアニマがパンと手を叩き。


「とりあえず席には座りましょう。同じ目線で話をすることが大切です」

「そうです、普通に接して頂ける方が自分もありがたいので…お願いします」

「エヒト様がそう仰るのでしたら…」


 そう言いながら三人は元の席に戻る。


「ルカ、なんでこんな大事なことを言ってなかったんだ?お父さんたちの心臓を止める気か!?」

「言えるわけないじゃない!それにそんなこと言ったら頭がイカれてるって思われるわよ!」

「まぁそれは確かに…というか、え、エヒト様はなぜこちらへ?」

「エヒト、で大丈夫ですよ。聖域の巡礼をしているのはご存知かと思いますが、現在その旅をアニマと娘さんのマルカートさんと三人でしております。危険な場面もこれまでに何度かあり、そんな目に娘さんを合わせてしまっている。それを伝えることなく同行してもらうことは失礼だと思いました」

「…なるほど。大変光栄なことですし本人もそれを望んでいる様子ですので、その点を引け目に感じる必要はありません!しかしとんでもないことになっているのですね」

「はい。詳細は明かせないのですがどうしても聖域を回る必要があり…」

「…僕は反対です。ルカはこれまでも盗賊狩りで危険を冒してきました。もうこれ以上危険な目にあってほしくはない」

「ご家族にそう言われることも覚悟していました」

「ちょっと!私の話を私抜きに進めないで!なんと言われても同行するわよ!」

「お父さんもルカのやりたいように応援したいがなぁ」

「私もよ。ルカは自分の道を自分で選んで、やりたいことを目一杯してほしいわ」

「パパ、ママ…ありがとう…」

「なんだよ、これじゃ俺だけ悪者じゃないか」

「レイニンさんの考えも普通ですよ。私を探すためにこれまで危険なことをしていたので、私がこんなことを言うのもおかしな話ですが…」

「味方はアーちゃんだけか…」

「でもルカには"お役目"があるのだし…」

「ママ!その話はしないで!!」

「…分かったわ。ヒミツなのね」

「なんのことでしょうか?」

「気にしなくて良いわ!家庭の事情ってやつよ!」

「レイニンは反対でも俺たち両親が良いって言ってるんだ。今はルカの好きに選択して生きてほしいからな!そこを汲んでくれないかね?」

「…父さんと母さんがそう言うなら自分に出す口はないよ」


 そう言ってレイニンさんも納得したようだ。なんとかマルカートの同行も許可をもらえた。


「ありがとうございます」

「良いってことよ!あ、この後ちょっと時間もらえるか?」

「自分ですか?」

「おう!エヒト…くんと少し話したい」

「わかりました、大丈夫です」


 その後は特に荒波も立たず食事の席は楽しく進んでいった。次第にみんなの緊張も溶け自然に話すことができている。レイニンさんからの視線は気になったが…。


---

 

 夜、既に外は日が完全に落ち空には双子星が輝いている。俺はマルカートの父、アレグロさんに連れられて港に来ていた。レイニンさんも一緒だ。


「さて、ここらでいいか。ここは俺の仕事場兼心の癒しスポットだ!釣りをしてたら嫌なことも忘れられるからな!」

「マルカートさんに聞いていました、漁師をされているんですよね?」

「お、もう知ってたか!自分の船で漁をするってのは大変だが最高だ!そこでしか見れない景色も、出会いも、たくさんの出来事があるからな!」

「父さん、本題は?」

「おっと、すまねえ。ついつい熱くなっちまって」


 がははと大声で笑い、アレグロさんはすっと表情を落とす。


「じゃあ早速だが…エヒトくん。君はどれだけの覚悟がある?」

「覚悟、ですか?」

「こんなこと言えた立場じゃねえことは分かってる、分かっているが娘の、アルマの未来に関わることだ」

「相変わらず説明が簡潔すぎだよ…で、エヒトくんは"巫"って知ってるよね?」

「巫…」


 そこでハッとなる。アニマのことをマルカートは何と呼んでいた?


「"炎霊の巫"という言葉を耳にしたことはあります」

「…炎霊か」

「それとルカになにか関係があるんですか?」

「巫というのはね」

「待て、レイニン。言葉を耳にしたことがある、ということは巫に関する話をエヒトくんは多分知らない。そうだよな?」

「はい、詳しくは何も」

「なんで隠してるんだ…」

「言ってなくてもおかしくはない、それだけルカにとってもきつい話だろ?それにまだ知り合って日も浅いらしいからな」

「でもこれは二人にとってとても大切な問題だよ?」

「そうは言うが…」


 アレグロさんたちは話し込み始めてしまった。"巫"という存在はなんなのか。"二人にとって"とはアニマと俺か、マルカートと俺か、もしくはアニマとマルカートのことだろうか。疑問は尽きないしそれを全て教えてくれる気もなさそうだ。


「遮ってすみません。それで巫とはなんのことですか?」

「すまん、エヒトくん。今の話は忘れてくれ」

「忘れてくれって…」

「いずれ、アニマちゃんかルカか、どちらかが教えてくれるはずだ。これはエヒトくんにも大事な内容だからな」

「お二人からは教えてもらえないってことですね?」

「伝えることはできる。が、そんなことを勝手にしたんじゃルカに嫌われちまうからな」


 そう言ってアレグロさんは肩を竦め、となりのレイニンさんもうんうんと頷いている。


「分かりました。内容は分かりませんが…ひとまず二人から話してくれるのを待ちます」

「おう!すまねえな、呼び出したのに大したことじゃなくてよ」

「いえ、お二人とはゆっくりお話をしたいと思っていたので」

「なんかあるのか?」

「自分が言うのも変ですが…マルカートさんのこともアニマのことも信じてくれてありがとうございます。あなたたちご家族がいたからマルカートさんは踏ん張れた、アニマも受け入れてもらえた。本当に感謝しています」

「なんだ、そんなことか!娘を信じねえ親はいない。アニマちゃんのことも事情を知らなかったらどうかはわからねぇ、が、知っている以上彼女は悪くない。俺たちはそう思ってるからな」

「姉さんは違うけどね…」

「デリカートは堅物だから仕方ない!規則と信仰に縛られて、あいつも本当は息苦しさを感じてるはずだ」

「デリカートさんにもお会いしましたよ」

「なに!?よく生きていられたな!」

「姉さんに殺されなかったんですか!?二人目の、しかも男性のアクラルネ様なのに、まさかそんな」

 

 二人は驚いて絶句している。


「自分がアクラルネです、なんて話はしなかったので…やはりデリカートさんは一神教の信仰が深い方なんですかね」

「そうだな、間違いなく明かしていたら殺されてる。そもそもアクラルネ様の名を騙る時点で死罪だ。エヒトくんは本物だとルカが言うんだから間違いないと思うし、夕飯の席でも詳しい話は聞いた。最初は半信半疑だったがな…しかし二神ともなればデリカートはだめだな」

「ご家族でも止められないのでしょうか?できれば敵対はしたくないのですが」

「無理だと断言できる。アクラルネ教徒は、いやこれは教徒に関わらずか…一枚岩じゃないんだ。みんなそれぞれの考えと信仰を持っているしそれを否定することも曲げることもできない。たとえ家族であってもだ」

「分かりました。デリカートさんを含め敵対しうる方には一層注意を払いたいと思います」

「そうしてくれ!…ルカのこと、頼んだ」


 話はここで終わり俺たちはまたアマービレ邸へ戻る。

 巫、それが俺になんの関係があるのか。そしてそれはアニマとマルカートに関係があるのか、それはそうだろうが本筋は読めない。自分の中で整理しようと考えても答えは出ず、すぐに家に着いた。

 中に入るとアニマとマルカートはマルカートの母、クアルさんとお茶を飲みながら話をしていたようだ。


「あら、おかえりなさい。話はできたの?」

「おう!バッチリだ」

「そう…分かったわ」

「そろそろお暇しましょうか?」

「そうね!私たちは宿に帰るわ!」

「昨日も言ったようにお部屋はあるのだから泊まっていけば良いのに…」

「二人は落ち着かないじゃない!私たちは仲間なんだから一緒にいないとだめなのよ!」

「ははは!ルカの言う通りだな!またここに顔を出してくれるだろ?」

「勿論!不変の霊樹から戻ったら次の町へ発つけど、その前に一度寄らせてもらうわ!」

「僕は仕事かな…またしばらく会えないかもしれないね」

「兄さんが寂しがり屋に!?」

「そんなんじゃないよ!でもまた元気に帰ってきてね」

「ええ、約束するわ!その時はまたアニマも連れてくるんだから!」


 そうして俺たちはアマービレ邸を後にした。


「パパたちとどんな話をしてたの?」

「なんてことない話だよ。ルカのことを頼む、みたいなね」

「ふぅん…まぁいいけど!明日は聖域に行かないといけないんだから早く帰って休むわよ!」

「はいはい、転ぶなよ」


 マルカートは笑顔で前を小走りに進んでいく。その後ろをアニマがまったくもう、と呟きながら追っていった。

 三人でここまで来た。まだまだ先は長いが進むしかない。俺も二人に置いていかれないよう後を追うのだった。


---

Side アマービレ邸


「それで?エヒトさんはどうだったの?」

「ああ、俺は任せようと思ったよ。後の事はルカが決めて自分でどうにかするはずだ」

「私もあなたのことを言えないけど、本当に甘いわね」

「仕方ないだろ?ルカが"巫となった"時点でこうなる未来もあり得た。まさかこの時代になってアクラルネ様がご帰還されるだなんて誰が思ったか…」

「あの子は辛い思いをすることになるわ。エヒトさんもアニマちゃんも、みんなが幸せになれたら良いのに」

「巫である以上、彼がアクラルネ様である以上それは難しいだろうな…俺たちにできることは行く末を見守るだけだ。ルカも分かっていて一緒にいるはずだからな」

「…でもルカを見た?とても楽しそうにしていた。本当にあの二人の事が気に入っていると、顔にそう書いてあったもの。必ず辛い思いをすることになるわ…」

「ルカももう大人だ。それも承知の上で一緒にいるんだろうさ。それに結末は1つじゃないかもしれないだろ?あの子たちが別の道を探し選ぶ可能性もある」

「そうね…なんてったって私たちの娘だもの!きっと明るい未来を切り開いてくれるわよね」

「ふん、やっぱり俺たちは甘いな」

「それが取り柄だもの」


 そうやって俺たちは笑い合った。ルカの、あの子たちの未来が幸せであることを祈って。

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